彼岸より、愛を込めて。   作:インビジブルです男

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悪夢のような現実


帰国

あの任務から2ヶ月が経過した。

任務を終え、たった一人の生き残りとなった白哉は、作戦区域のあった国の南、南アフリカ共和国のとある空港にて日本行きの飛行機を待っていた。

 

白哉「もう…あれから2ヶ月…か。」

 

2ヶ月経っても、アレクセイ達の死に際が脳にこびり付いて離れない。

彼らとの楽しかった毎日は簡単に砕け散り、心には大きな穴が残った。

 

この2ヶ月で、生き残った事を上層部に報告した白哉は、国連から多額の資金を得たが、その翌日にはUNFFPは解散。

仲間を救えなかった罪悪感、そして戦地へのトラウマが残った。

その結果、彼は笑顔を見せることは無くなり、PTSDを発症。

多くの死体を見たりするとパニックになるようになってしまったのだ。

 

白哉「なあ、アレクセイ。…俺、これからどうすればいいんだろうな…。」

 

白哉がふと右を見ると、そこには誰も居ないし、勿論返事も無い。

 

白哉「そうか…、アイツも死んじまったんだった。」

 

彼の首にはアレクセイの物だったドッグタグが掛けられており、改めて相棒が死んでしまったという事実が彼にのしかかる。

 

白哉「静かに…なっちまったな…。」

 

白哉は自身の乗る便を静かに待つ。

ベンチにもたれかかり、ぼんやりと滑走路を見つめていた。

爆風も悲鳴も無い。ただ、飛行機のエンジン音と時折吹く冷たい風が白哉の耳を通り抜ける。

 

それなのに、未だに頭の奥から悲鳴と銃声が鳴り止まない。

 

白哉「早く…日本に帰らなきゃな。」

 

ひとまず帰国だけは決めた。

死に際に相棒(アレクセイ)が言い残した言葉に従うために。

だが、その先を考えるとどうしても胸がざわつく。

 

UNPPFという“居場所”を失った自分が、どこへ向かえばいいのか。

答えはどこにもない。

 

搭乗開始のアナウンスが聞こえ、白哉は立ち上がった。

その瞬間、背中の奥にズキリと痛みが走る。

 

無意識に振り返る。

けれど、もちろん誰もいない。

 

白哉「あーあ、本当に静かになっちまったなぁ…。」

 

いつもであれば、アレクセイが「辛気臭ぇ顔してんじゃねえよ!」と肩を叩きながら笑ってくれていたのに。

だが、その声はもう聞こえない。

 

白哉「…俺、絶対酷い顔してるよな…。怪しまれたりしてないといいが。」

 

搭乗口へ向かう足取りは重い。

それでも彼はゆっくり、1歩ずつ進む。

 

日本に帰れば、もしかしたら何か変われるかもしれないという淡い期待を胸に、彼は静かに搭乗口へと歩いていった。

 


 

離陸から24時間後。

白哉は南アフリカを去り、アラブ首長国連邦で乗り継いで羽田空港に到着した。

 

白哉「賑やかだな…。」

 

空港には数多くの親子や観光客が滞在しており、数多くの笑い声が聞こえる。

 

白哉「みんなは帰る家があるのか…羨ましいな。」

 

白哉は孤独感に打ちのめされ、天井を見つめた。

彼にはもう家族と呼べる存在も、帰るべき家も無い。

強いて言うなら、最後の最後にゴミカス上層部が用意した静岡県の豪邸くらいだろうか。

 

白哉「行かなきゃな…。」

 

彼は重い足取りで出口を目指す。

子供の出す大きな声、スーツケースが倒れる音にさえも白哉は反応してしまう。

その度に彼の目には焼け野原となった戦場、そしてアレクセイ達の顔が映し出される。

 

白哉「なんで思い出すんだろうな…。もう2ヶ月も経ってるってのに。」

 

この2ヶ月、彼はまともな睡眠を取れていない。

寝ればまた戦場に立つ夢を見て、パニックになり起きる。

そのため、彼の目の下には真っ黒なクマが形成され、コンディションも最悪。

 

アレクセイ「しっかりしろよ…、男だろ?」

 

白哉「アレクセイ…?俺疲れてんだな…。」

 

寝不足のせいか、白哉の目に自身を励ますアレクセイの姿が見えた。

白哉は額を押さえ、小さく息を吐いた。

 

白哉「寝ろって事かよ…、寝れるわけねえってのに…。」

 

アレクセイの姿は次第に霧のように薄れ、消えていく。

だが完全に消える直前、確かにその唇が動いた。

 

アレクセイ「言ったろ?お前の傍にいるって。」

 

白哉「…っ!」

 

思わず立ち止まってしまった。

背筋に冷たい汗が流れる。

 

白哉「幻覚だ…、これは俺の脳みそが勝手に…!!」

 

言い聞かせるように独り言を発するが、胸の奥がざわついて仕方がない。

幻覚にしては生々しすぎるのだ。

白哉は空港のガラス壁に映る自分の姿を見ると、顔色は死人みたいで、目の下のクマは酷かった。

 

白哉「ダメだな…、このままだと本当に壊れる…。」

 

そう呟いた時だった。

 

カチャン

 

首に下げているアレクセイのドッグタグが、まるで誰かにつままれたみたいに揺れた。

 

白哉「…は?」

 

風もなく、誰かに触れられた訳でもなく、動いてすらいない。

それなのに、ドッグタグがまるで誰かにつままれたように揺れた。

 

アレクセイ「折角の帰国なんだ、落ち込んでねぇで楽しめ!!」

 

一瞬、白哉の呼吸が止まる。

確かに聞こえたのだ。

死んだはずの相棒の声が。

 

白哉「気のせい…と言うにははっきりしすぎてる…。幻聴が酷いな…。」

 

それは幻だったのか。

脳が作り上げた都合のいい亡霊だったのか。

 

答えはない。

けれど、不思議と胸のざわつきだけは一瞬やわらいだ。

 

白哉「でも…少しだけ心が楽になった。ありがとな、相棒。」

 

彼は自分でも驚くほど自然に言葉が出た。

まるで返事をしているかのように。

 

白哉は空港の自動ドアへ向かって歩き出す。

胸のざわつきが治まったとは言い難いし、悪寒も止まらない。

それでも…さっきまでよりも少しだけ軽い足取りで、白哉は外へ踏み出した。

 


 

荷物検査等を終え、空港の外にやってきた白哉を迎えたのは、1人の老人であった。

老人は背筋こそ年相応に丸まっているが、目の奥には鋭い光が宿っていた。

白髪は丁寧に撫でつけられ、紺色のスーツを着用している。

 

「お待ちしておりました。あなたが彼岸 白哉様ですね?」

 

白哉「ああ…あんたは?」

 

老人はゆっくり一礼し、穏やかな声で名乗った。

 

総太郎「私、彼岸 総太郎(ひがん そうたろう)と申します。あなたの…遠縁の祖父という形になっております。」

 

白哉「は?俺に家族なんてもう居ねえよ。親父もお袋も、どっちも俺の個性の暴走で死んじまったし、じいちゃんやばあちゃんがいるなんて聞いてねえ。」

 

総太郎「ええ、存じております。ですが、表向きは、そういう事になっております。」

 

白哉「表向き?」

 

総太郎は静かに頷いた。

老人には似つかわしくない鋭さが、その目の奥に灯っている。

 

総太郎「あなた方の戸籍、住民記録、生活の基盤に加え、生きていくための学歴。私を含む、あなた達を使い捨てにすることを良しとしなかった者共が、全て管理させてもらっております。最も、生き残ったのはあなただけのようですがね…。」

 

白哉「…何故そんなことをする必要がある。俺らみたいな兵隊なんざ、上層部の連中(クソッタレ共)からすりゃ使い捨てだろ。」

 

総太郎「その通り。上層部の多くは、あなた方を“道具”としか見ておりませんでした。」

 

白哉「…嫌という程わからされてるよ。」

 

総太郎はゆっくりと白哉に歩み寄り、その視線を真正面から受け止めた。

 

総太郎「ですが、中には違う者もいました。あなた方を“人”として扱い、“人生を奪った責任”を理解している者が。」

 

白哉「責任…?」

 

総太郎「国連が幼いあなたの人生を戦場に置き去りにしました。それゆえ、あなたを引き取る責任も国連にある…私は、その考えに基づき動いております。」

 

白哉「…っ!」

 

言葉に詰まる。

白哉の人生を置き去りにした…その言葉が、彼の胸に深く刺さったのだ。

 

総太郎「あなたが何を背負い、どれだけのものを失ってきたのか、私は全て把握しております。…ですから、国連を止めれなかった者、そしてあなたの仲間を死なせてしまった者の1人として、あなたの人生をお手伝いさせていただきますでしょうか…!」

 

数秒の沈黙。

それを打ち破ったのは、他の誰でもない白哉であった。

 

白哉「…まだ信用までは出来ない。だがな、今の俺に選べる道は多くねぇ。」

 

総太郎「ええ。ですが、私は何時でもあなたの味方です。それだけは覚えていてください。」

 

そう言って、総太郎は巨大なバスのようなトラックに向けて歩き始める。

 

白哉「爺さん、腰大丈夫なのかよ。」

 

総太郎「お気遣い感謝します。しかし、見た目ほど弱くはありませんよ。」

 

白哉「そうか。」

 

総太郎「今から静岡の御宅に向かいます。勿論、UNPPFの基地を参考にし、最大限あなたが落ち着いて暮らせるよう整えてあります。

寝室、食事、医療――PTSDへのケア体制も含め、必要な物は全て揃っております。」

 

白哉「…もうそんな準備してたのかよ。」

 

総太郎「…ええ、あなたを守ると決めましたので。…では、参りましょう。」

 

白哉は総太郎に案内されてトラックの居住空間に案内されると、総太郎は運転席に座り、彼らは静岡を目指して出発した。




ヒロインは誰になるのか…楽しみにしていてください。
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