1週間後の夜。
総太郎「白哉様!!届いてましたよ、雄英高校から!!」
白哉が自室で大量の重りを着けたトレーニングを行っていると、総太郎の上ずった声に動きを止めた。
白哉「…慌てんなよ、爺さん。腰死ぬぞ。」
タオルで汗を拭いながら立ち上がり、総太郎へ向かっていく白哉。
白哉「持ってきてくれて助かる。…ちょいとだけ1人にしてくれないか。」
総太郎「…承知致しました。」
総太郎は白哉のその言葉を聞くと、落ち着きを取り戻し部屋を出て行く。
だが、その口角は上がったままだった。
白哉「さてと…。」
白哉は着用した重りを外すと、服を着て、机の上に置いた封筒と睨めっこする。
白哉「合格はできているだろうが…*1やりすぎとかで怒られねぇかな…。」
白哉はゆっくりと椅子に腰かけ、指先で封筒をつまむ。
白哉「まあ、死なないだけいいか。」
そう呟き、彼は一気に封を切るのではなく、丁寧に封筒を開けた。
中に入っていたのは、紙切れ一枚とホログラム装置。
白哉「ホログラムか…懐かしいな。これでクソッタレ共と良くブリーフィングをしたもんだ。」
白哉はそれを机の上に丁寧に置くと、次の瞬間。
オールマイト「私が投映された!!」
白哉「………???」
白哉の思考が止まった。
平和の象徴と評されるプロヒーロー、オールマイトが投映されたからだ。
戦場に長年居て、俗世から隔離されてたとはいえ、流石の白哉もオールマイトの事だけは知っていた。
オールマイト「彼岸少年。君は筆記が総合3位、そして実技が156ポイントと、超がつくほどの好成績で入試を終えた。当然…首席合格だ!!」
白哉「…ああ。」
白哉はほっと一息つくと、オールマイトはコホンと咳払いする。
オールマイト「それだけに留まらず!!君は個性で数々の受験生を助け出し、その上瓦礫に押し潰されそうになっていたたった1人の受験生を、見捨てることもなく救出した!」
白哉「まあ…目の前の人間を見捨てるなんてこと、出来ないからな。」
オールマイト「正しい行いをした者だけに与えられるポイント…レスキューポイント!我々雄英が見ていたもうひとつの基礎能力…!彼岸 白哉…91ポイント!!!
…文句無しの圧倒的合格だ!!!」
白哉「…もう何でもあり…だな。」
白哉の頭にあった不安が消えていく。
自分の力で人を傷つけていないか、アレクセイの言葉を完遂できたか。
オールマイトは手を差し伸べ、こう言った。
オールマイト「ここが君の…ヒーローアカデミアだ…!!」
白哉「…ああ…!」
ホログラムは消え、白哉は余韻に浸る。
が、間髪入れずにアレクセイが白哉から出てきた。
アレクセイ「うおおおおおおおおおおおおお!!!絶対合格すると思っていたが、まさか平和の象徴様様からお褒めの言葉をいただくなんてな!!
やるじゃねぇか、白哉!!!」
白哉「うるせぇなお前。少しは静かにしてくれ。」
アレクセイ「静かに???無理に決まってんだろうが!!弟分、それも相棒の合格を祝わないなんて…うおおおおおおおおおお!!」
アレクセイは号泣し、白哉はそれを見て口角を上げる。
彼の喜びは留まるところを知らず、飛び跳ねながら部屋を一周した。
白哉「落ち着けって。ガキかお前は。」
アレクセイ「ガキで悪かったな!!あやばい、泣きすぎて気持ち悪くなってきた。」
白哉「吐くなよ。」
アレクセイ「吐かねぇよ!!!」
白哉「冗談だよ。…ありがとな。」
アレクセイ「んあ?何がだよ。」
白哉「お前が騒いでくれたおかげで……なんというか…実感湧いたわ。」
アレクセイ「…へっ!お前が元気になってくれたりするんなら、何時でも何処でも、幾らでも騒いでやるよ!!」
そう言ってアレクセイは笑い、白哉も小さく笑い返す。
白哉(姉貴、親父、お袋。俺、ようやく前に進めるわ。)
白哉は部屋から見える夜空を見て、そう呟いた。
そうして月日は流れ、4月。
玄関には緑色のズボンに灰色のブレザーを着た白哉の姿と、それを見送る総太郎の姿があった。
総太郎「白哉様、ハンカチは持ちましたか?」
白哉「ああ。」
総太郎「ティッシュは?」
白哉「持った。」
総太郎「お弁当は…?」
白哉「爺さん。心配してくれんのはありがてぇが、俺は遠足に行くガキじゃねえんだ。」
総太郎「…失礼しました。しかし、白夜様がこうして制服を着て学校に行く日が来るとは…ううっ…!!」
白哉「泣くなって。2ヶ月前のアレクセイじゃねえんだから。*2」
総太郎はハンカチで目頭を押さえながら、それでも誇らしげに背筋を伸ばした。
総太郎「…どうか、お気を付けて。」
白哉「ああ。」
白哉は肩を竦めながらも、ほんの少し照れくさそうに笑った。
その顔は、総太郎にとって“ようやく普通の人生を歩き出す少年”そのものに見えた。
白哉「行ってくる。帰りは多分夕方くらいになるわ。」
総太郎「くれぐれも、お怪我のないように…あ、それと!!」
白哉「ん?」
総太郎は胸を張って言った。
総太郎「ご友人、しっかりと作ってきてくださいませ!!」
白哉「…それが一番難しいんだよなぁ。」
溜息交じりに呟きながら、白哉は家を出た。
朝の空気は冷たく澄んでいて、制服の布越しでも春の気配を感じられる。
白哉「(さて……ヒーロー科1年A組、か。)」
小さく息を吐き、白哉は雄英高校へ向けて走り出した。
白哉の馬鹿げた膂力で、彼はあっという間に雄英へ到着した。
窓越しに見ても1年A組の教室には結構人が居て、白哉はその雰囲気に押し潰されそうになっていた。
白哉「(…1対1なら普通に行けるんだが…初対面の奴ら、それも20人近くとどうやって話せばいいんだ…?)」
白哉は11年間、複数人と接するという行為をしたことがなかった為、大勢いるクラスという場に少し怖気付く。
困り果てていたその時、白哉の身体からアレクセイが出現する。
アレクセイ「どうした白哉!!!お前はこんな所で怖気付くような人間じゃn…」
白哉「助けてくれ、アレクセイ。11年もの間ろくにお前ら以外と話してねぇせいでこういう時どうすればいいのかまっっっったくわからん。」
アレクセイ「あー…えー…俺もわかんねえんだよなぁ…。ノリだけで生きてきたし…。*3まあ、取り敢えず席に着いたらどうだ?」
白哉「わかった。」
白哉はアレクセイを連れて自分の席を確認して席に向かおうとするが、後ろに気配を感じて振り返る。
「あっ…ごめんなさい!」
白哉「…?」
そこにたっていたのは髪がもじゃもじゃの地味目の少年、緑谷 出久だった。
白哉「…謝られる事をされた覚えはないぞ。俺は彼岸 白哉。んで、こいつが俺の個性で出してる…」
アレクセイ「アレクセイ・スミルノフ!よろしくな、イズクくん!!」
緑谷「僕、緑谷出久!よろしくね、彼岸くん、アレクセイくん!」
白哉「ああ、よろしくな。出久。」
アレクセイ「良かったじゃねえか、白哉!これでぼっち回避だな!」
白哉「黙れ。」
そうして、白哉はアレクセイ、緑谷と共に教室のドアを開ける。
「机に足をかけるな!!」
爆豪「あ〜??」
アレクセイ「うわ出た!!常時ブチ切れ系思春期男子!!!」
爆豪「んだとテメェ!!ぶっ殺すぞ!!!」
アレクセイが爆豪を見てそう言うと、爆豪はすぐに反応してキレ散らかす。
白哉「…出久。ヒーローってあんな性格の奴もいるのか?」
緑谷「いや、あれはかっちゃんがちょっと特殊ってだけで…。」
爆豪「聞こえてんぞ、デク!!!!」
白哉と緑谷がそう話していると、爆豪にお説教(?)をしていたメガネの少年が近づいてくる。
飯田「おはよう!!俺は私立聡明中学の飯田 天哉だ!!」
白哉「俺は彼岸 白哉。よろしく。」
緑谷「あ…僕、緑谷。よろしく、飯田くん。」
飯田「そちらの金髪の方は?見たところ教諭の方かな?」
アレクセイ「あ、ごめんな!俺はアレクセイ・スミルノフ。年齢22歳!別に教師じゃなくて、白哉の個性で復活した言わば幽霊ってやつだな!まあ、うちの白哉をよろしく頼むよ、テンヤ!!」
白哉「天哉。年上を敬うのは大事だが、こいつだけは絶対に敬わなくていい。」
飯田「え?ああ…わかっ…た?」
白哉が強引にアレクセイを引っ込めると、今度は足元に気配を感じた。
彼は振り返って足元を見ると、そこには芋虫のように寝袋を被って移動している男性が一人。
「お友達ごっこなら他所へいけ…ここはヒーロー科だぞ…。」.
寝袋を脱いだ彼は、長いぼさぼさな髪に、白いマフラーのようなものを首に巻いていた。
「はい、君たちが静かになるまで8秒かかりました。まったく、合理性に欠くねぇ。」
白哉は教師である事を察し、彼に視線を合わせる。
相澤「担任の相澤 消太だ。よろしくね。」
「「「えーっ!?」」」
緑谷「担任!?」
白哉は仁王立ちするものの、緑谷を含むクラス全員が驚いていた。
相澤は寝袋をがさがさと漁り始めると、おもむろに青いジャージを取り出す。
相澤「早速だが、これを着てグラウンドに出ろ。」
相澤がそう言うと、クラス全体が不安の声に包まれる。
その中で、白哉は緑谷と共に更衣室へ向かった。
更衣室で古傷だらけの身体を見た多くの男子から心配され、白哉は彼らを引き連れてグラウンドに到着した。
して、これから彼らが何をするのか。
それは…
「「「個性把握テストォ!!!??」」」
麗日「入学式は?ガイダンスは?」
クラスの女子である、麗日 お茶子がそう言うと、相澤は静かに答える。
相澤「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ。」
生徒たちのどよめきが聞こえるが、白哉だけは静かに頷いていた。
軍にいた時も、出動命令があれば飯を食っていようが、即座に戦場へ駆り出された。
ヒーローも軍隊も、何かあれば即座に駆けつけなければならない職業だ。
光と影である為に、そういう所は合致しているのかもしれない。
相澤「雄英は自由な校風が売り文句…。そしてそれは、先生側もまた然り。お前たちも、中学の頃からやってるだろ?」
相澤はそう言うと、ポケットからデバイスを取り出し、幾つかの項目が表示されたディスプレイを見せる。
相澤「個性使用禁止の体力テスト。国は、未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。…まあ、文部科学省の怠慢だな。」
白哉「(中学では体力テストなんてやってたのか。知らなかった。)」
白哉は顔を無にしたまま話を聞き、今までの人生でやってこなかった要素の知識をインプットした。
相澤「実技入試成績のトップは…彼岸だったな。」
白哉「?」
相澤「中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」
白哉はフリーズする。
そもそも体力テストの概念を先程知ったのに、ソフトボール投げ何メートル?と聞かれても答えようがないからだ。
書類ではそこら辺の私立中学の出身ということになっているし、答えなければ高校ライフが無くなる。
彼はそんな危機感に襲われていた。
相澤「どうした?答えられない事情でも?」
白哉「121メートル。」
クラスがフリーズする。
ソフトボール投げで121m…それは男子中学生にしてはあまりに大きすぎる数値であったからだ。
相澤「…個性未使用でも化け物だな。じゃあ、個性を使ってやってみろ。」
白哉「了解。」
彼はその返事と共にボール投げ用と思われる円の中に立つと、彼の体を赤黒い渦が覆い、その姿はあの二本角の黒騎士の姿へ変化する。
耳郎「あの姿は…!!」
耳郎は入試の時に見た
そりゃそうだ、入試の時にあんな一撃を見せられてしまっては記憶に刻み込まれる。
それはもう忘れられないものだろう。
相澤「円から出なければ何してもいい。はいよ。思い切りな。」
白哉はその言葉と共に、脳へ『これは武器だ』と強い暗示をかける。
すると彼の脳には、どうすればより長い距離をより速く飛ぶのか…というビジョンが浮かび、白哉は構えをとる。
白哉「ふんっ。」
白哉はそんな軽い気合いの声を発してボールをぶん投げると、それは星の輝きとなって空の彼方へ消えていった…。
相澤「…測定不能…か。」
上鳴「測定不能!?マジかよ、スゲぇぇえええ!」
相澤は生徒たちの視線が集中する中、淡々と白哉を見る。
相澤「彼岸。投げた感触は?」
白哉「…どうだろうな…対物ライフルの飛距離がざっと2kmだから…軽さと力、そして風力的に3kmくらいか…?」
白哉が淡々と言い放った瞬間、クラス全体が固まった。
上鳴「さん……さんきろ……?キロメートルの…きろ???」
緑谷「彼岸くん、とても人間が出していい数値じゃないよ…。」
ソフトボール投げという名の祝砲をもって、雄英高校1年A組としての白哉の人生が始まった。
次回から耳郎の出番増やします。
ヒロインなのにここまで出番ないのはあかんよ。