上鳴「さん……さんきろ……?キロメートルの…きろ???」
緑谷「彼岸くん、とても人間が出していい数値じゃないよ…。」
白哉が投げたボールは砲弾のように飛んで行き、そのボールは白哉の体感3000メートル程飛んだ。
相澤「…まず自分の最大限を知る…それがヒーローの素地を形成する合理的手段。お前らも彼岸みたく、全力の個性を使って挑め。」
瀬呂「個性を思いっ切り使えんだ!流石ヒーロー科!」
芦戸「楽しそう!!」
相澤のその言葉に、固まっていたクラスが再び賑やかさを取り戻す。
しかし、その平穏も相澤によって破壊されることとなる。
相澤「…面白そう…か。ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごすつもりでいるのかい?」.
白哉「???」
白哉がその言葉に困惑していると、相澤はニヤリと笑った。
相澤「よし…8種目トータル成績最下位の者は“見込みなし”と判断し、除籍処分としよう…!」
「「「はぁぁぁぁあ!?」」」
白哉「(軍でもここまでする奴はいなかったなぁ…。罵詈雑言吐き散らすバカはいたが…。)」
彼はそう頭の中で呟くと、ヤバい人を上官に持ったなぁと頭を抱える。
UNPPFでも、訓練について来れなければ放置したり、罵詈雑言を吐いたりする者もいたが、勝手に除籍にしたりする者はいなかった。
白哉がふと緑谷の方に視線を移すと、そこには絶望した顔の緑谷がいた。
白哉「(出久…大丈夫だろうか。)」
相澤「生徒の移管は俺達の自由…!ようこそ…これが雄英高校ヒーロー科だ…!!」
麗日「最下位除籍って…入学初日ですよ!?…いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!!」
麗日が相澤にそう言うが、相澤は流れるように返事をする。
相澤「自然災害、大事故…そして、身勝手なヴィラン達。何時どこから来るか分からない厄災…。日本は理不尽に塗れている。
…そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。更に向こうへ…Plus Ultraさ。…全力で乗り越えてこい。」
白哉は赤黒い渦と共に何時もの姿に戻ると、生徒の方へと戻っていく。
その顔に緊張や不安はなく、表情に変化はない。
相澤のこの言葉と共に、個性把握テストがスタートした。
【第1種目:50m走】
計測マシンの合図と共に、白哉はクラウチングスタートをすることなく、多重加速で高速移動を行うと、計測マシンは0.02秒という記録を出した。
多重加速は使用者の反応速度、移動速度、思考速度を極限まで上昇させるという性質上、使用者の白哉からしてみれば周りの動きが止まって見える。
代償として、負荷が高いという物がある。
戦場に11年間いた白夜でも、15回連続で使用し、全力疾走すれば脳への負荷がオーバーフローし、鼻血が出る他、最悪血涙を流したりする。
耳郎「白哉速すぎでしょ…どうしたら0.02なんて出るの…。」
白哉「11年に及ぶクソみたいな連中主導の地獄の訓練。あと個性。」
耳郎「ええ…。」
ちなみに、緑谷は7.02秒。
個性を使っている様子が無かったので、まあ妥当だろう。
【第2種目:握力測定不能】
白哉「握力か。懐かしいな…拾われたての時に1度計って以降初めてだろうか。」
彼は久しく見ていなかった握力計測器をみて、そう呟く。
幼い頃に見たそれは、今の彼にとって繊細なものであり、100%でやるにはどうにも壊してしまいそうという恐怖がのしかかっていた。
白哉「ならまあ、控えめで。」
彼の身体は再び赤黒い渦に包まれると、今度は75%の黒甲冑と鉄仮面の姿に変化する。
白哉「ふんっ。」
白哉が力を入れると、握力測定機は645kgの数値を表示する。
白哉「これが75%の握力か。」
上鳴「彼岸、お前…化け物過ぎない???」
白哉「100%と比べればまだ可愛い方さ。」
耳郎「あんたって、普段からそういう変身みたいなことして生活してんの?」
白哉「…普段は違うな。非常時になればもちろん100%、75%、45%と切り替えるが、そもそも俺の個性は完全に戦闘向け。
言ってしまえば歩く殺戮兵器だ。普通に生活するにあたって、多重加速以外は使う機会がない。」
白哉は戦地で敵を殺して回った“国連の悪魔”と呼ばれていた時期を思い出しながらそう語る。
強いて言うなら救助活動くらいだろうか。
10%だけでも敵からは“悪魔”、味方からは“最強”と呼ばれていたというのに、暴走で入試直前まで使えなかった45%から100%を日常で使ってしまえば、どれ程不便なのだろう。
耳郎「そっか…。(あれだけの力を持って“普通”に過ごしてるって…)」
上鳴「(…更衣室で見たあの身体の傷といい、こいつ今まで壮絶な人生を歩んできてそうなんだよなぁ…。)」
【第3種目:立ち幅跳び】
白哉「飛んでる奴もいたし、飛んでいいんだよな。」
白哉は75%の姿のままグラウンドに移動し、立ち幅跳びの準備をする。
彼は少し姿勢を低くし、脚にエネルギーを込めて飛ぼうとした。
そして次の瞬間。
白哉はグラウンドにクモの巣状のヒビを入れながら、一瞬で空高くまで飛び立ち、その体は中に浮き続けていた。
相澤「…彼岸、記録無限にしてやるから降りてこい。」
上鳴「もうあいつが何しても驚かねぇよ…。」
爆豪「クソが…!」
【第4種目:反復横跳び】
白哉「(あのブドウみたいな頭してる奴、凄い記録を出してたな。100%は言うまでもなく、75%、45%だとキツそうだし…0%でやってみるか。)」
白哉は元の姿に戻ると、軽く足首を回して用意をする。
上鳴「あれ?彼岸の奴、姿が元に戻って…。」
飯田「彼は何をするつもりなんだ…?」
『スタート!』
開始の合図と同時。
彼は素早く足を出し、高速で動き始める。
『記録:175回!』
白哉「やっぱり多重加速くらいは使った方が良かっただろうか…?」
瀬呂「彼岸…お前あの姿にならなくてもこの位の記録出せるのは化け物すぎるぞ…。」
峰田「でも、ようやく俺たちでも出せそうな記録を出したな!」
白哉は不満そうだが、世間一般的に見れば彼の記録はまだまだ化け物級だ。
元々、彼はその複数の個性を扱い、制御するため、UNPPF時代にアレクセイ達とは異なる地獄の訓練を受けていた。
そのため、彼の素の身体能力は既に人類の限界を超越した、言ってしまえば
人が個性を使って、ようやく出せるような記録を必ず取れる運命とも言えよう。
耳郎「にしても、あんなに軽くやってこの記録かぁ…。」
上鳴「そりゃあの筋肉だし…なぁ?」
【第5種目:ボール投げ】
白哉はデモンストレーションで1度やった為、2回目をやる必要は無いと自己判断して辞退した。
だが、白哉は友人の1人である、緑谷が気掛かりだった。
雄英高校に入学するにあたって、実技での高得点は必須級。入学した数少ない人物の1人だと言うのに、これまでの種目で一度もそれらしい記録を取っていないのだ。
白哉は懐疑的な目で彼を見ていると、緑谷の投げる番がやってきた。緑谷は円の中に入ると、個性を使ってボールを投げようとするが…相澤の髪が逆立ち、個性を抹消されてしまった。記録…46m。
緑谷「なっ…!今、確かに使おうって…!」
相澤「個性を消した。つくづくあの入試は、合理性に欠くよ…。お前のような奴も入学できてしまう。」
白哉「(制御ができなく、怪我するタイプの個性か。しかも出力の調整もできない…。だから先生に抹消されて止められた…。
確かに、戦地でも怪我した人員は衛生兵に運ばれるなりして、撤退させられたりするが、それが出来るのは国際法で衛生兵の攻撃を許可されていないから。ヒーローは国際法を無視して戦ってくるヴィランと殺り合わなければならないし、そういう点では怪我をする個性の持ち主は邪魔…か。)」
緑谷「個性を…消した…?はっ!あのゴーグル…そうか!見ただけで人の個性を抹消する個性…抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!」
緑谷は驚愕し、クラスメイトもざわめき出すが、白哉は最近まで俗世から隔離されたような生活を送っていたせいか、キョトンとした顔をしていた。
白哉がフリーズしている間に、相澤は緑谷にキツい言葉を投げかける。
相澤「お前の個性を戻した。ボール投げは2回だ、さっさと済ませな。」
白哉は無言で緑谷の行く末を見ていると、胸部から赤白いエネルギーが漏れ出て、それはアレクセイに変化する。
アレクセイ「イズク!!!お前はやれば出来る!!!」
アレクセイが突然出て来た上、おったまげ声量で叫んだせいで、付近のクラスメイト数人がビクッと肩を跳ねさせる。
相澤も、一瞬だけ眉が動いた。
白哉「…アレクセイ、こういう真面目な場面に勝手に出てくんのは辞めてくれ。出久が余計に緊張するだろうが。」
麗日「やっぱ慣れへんなぁ、あの人の登場の仕方…。」
アレクセイの登場にクラスメイトが慣れるはずもなく、クラスが再びざわつき始める。
白哉「出久。このバカは放っておいて、とにかくやってみろ。集中だ。」
緑谷「…うん!」
アレクセイ「バカってなんだよ!!」
白哉「うるせえ引っ込んでろバカ。」
アレクセイ「あーん!酷いー!」
白哉が強引にアレクセイを引っ込めると、緑谷は集中する。
彼の力の調整はまだ出来ないが、その力を振るった入試で感覚は掴めただろう。
彼は構えると、思い切りボールをぶん投げた。しかし、先程の一投とは違い、指先にのみワン・フォー・オール…彼の個性を集中させた。人差し指は内側から小規模爆発を起こしたかのように腫れ上がっているものの、彼は動ける。
緑谷「先生…まだ…動けます!」
相澤「コイツ…!!」
白哉「ッ!!」
指が腫れた痛みに耐えながらガッツポーズを決めた緑谷。相澤もいい意味で期待を裏切られ、笑みを浮かべた。
上鳴「700メートルを超えた!?」
麗日「やっとヒーローらしい記録出たよ!!」
飯田「指が腫れ上がっているぞ…!」
青山「スマートじゃないね。」
クラスメイト達が色々なリアクションをしているが、爆豪だけは褒める訳でも、心配する訳でも、興味を持つのではなく、怒髪天をついていた。
爆豪「…どういうことだ…コラ!!」
爆豪の掌から爆発が生じ、彼は緑谷に向けて走り出す。
爆豪「訳を言え!!デクてめぇ!!!!」
爆豪が一直線に緑谷へ向かって突っ込んだ瞬間——
黒騎士の姿に変化した白哉が、視界に挟まった。
白哉「調子に乗るなよ…爆豪。」
爆豪「…!?」
空気が変わった。
白哉の雰囲気は静かなものから、兵士の冷酷なものに変化し、その目は悍ましい。
爆豪「テメェ…どけよ!!」
白哉は無言のまま、ただ緑谷の前に立つ。
そしてその瞬間、凶悪な圧がのしかかった。
首筋に刃を突きつけられたような、こめかみに銃を突きつけられたような、そんな空気が辺り一帯を覆う。
耳郎「…っ!?(なにこれ…動けない…!)」
上鳴「(これ…個性じゃない…もしかして…本物の殺気!?)」
白哉「ここが戦場じゃなくて良かったな…爆豪。」
白哉は処刑人の如く、冷たく、低い声で話し出す。
その声だけで、爆豪のみならず、殺気を向けられていないクラスメイト達も震え上がった。
白哉「俺はな、甘ったれてグレたお前とは違って、4歳の頃から死んだ方がマシだと思えるの地獄に放り込まれてきた。…ここでは俺はただの学生だから、そんなものは関係ない。お前らと同等の存在だ。」
爆豪「どういうことだよ…。」
爆豪は思わずそう呟くが、白哉の言葉は止まらない。
白哉「言わせて貰おう。お前は俺にも、出久にも勝てない。引き金の軽いだけのガキが、努力して来たやつに勝てると思うな。『訳を言え』?笑わせるな。お前がやっているのはヒーローらしからぬ、嫉妬の爆発だ。ヒーローになりたいなら、正義の心を持て。嫉妬、憤怒なんてものは捨てろ。はぁ…飛車角のクソ野郎を思い出す…。」
相澤「彼岸、それ以上は抑えろ。テストはまだまだ終わっていない。」
白哉「了解。」
白哉はピタリと殺気を止め、元の姿に戻ると、緑谷の方を向く。
白哉「怪我、平気か。」
緑谷「えっ!?あっ…うん!大丈夫…。ありがとう、助けてくれて。」
白哉「礼なんていらない。ビビらせてごめんな。」
白哉のその言葉と共に、クラス全体が一斉に息を吸い込んだ。
上鳴「っはぁぁぁぁあ!なんだアイツ!今まで感じたこともない圧力発してたぞ!!」
耳郎「足…まだ震えてるんだけど…。」
峰田「死ぬかと思ったぜ…。」
切島「マジで怖すぎてチビるかと思ったわ…。」
皆が白哉の圧力にビビりながらも、次の種目の準備を行った…。
【第6種目:持久走】
白哉は100%の姿に変化しようとするが、いつもより赤黒い渦は大きく、それが晴れると、八本足の黒馬に乗った黒騎士の姿になって登場した。
轟「なんだあの馬…。」
切島「かっけえ!!」
轟と切島が黒馬のスレイプニルに対して反応しつつ、白哉とスレイプニルは走る用意をする。
白哉「行くぞ、スレイプニル。」
『スタート!』
合図と共にスレイプニルは嘶きをあげると、彼らは凄まじい速度で駆け出す。ただ1500メートルを走るだけなので、白哉は時間を掛けずにグラウンドの直線を走り抜けた。
『記録:5秒86!』
白哉「やはり多重加速に比べると遅いか…。だが負荷がかからない分使える場面は多いか。」
上鳴「バカなの??」
白哉「なんでだよ。アレクセイ程じゃないだろ。*1」
上鳴「アレクセイ可哀想すぎない?」
白哉「事実だからな。」
上鳴「俺だったら泣いてる。」
【第7種目:上体起こし】
白哉は45%の姿に変身すると、白い絹のような髪は伸び、赤白いオーラが身に纏われた。
轟「…あの鎧の姿じゃないんだな。」
白哉「鎧が干渉して、こういう動作がしにくいからな。」
『スタート!』
白哉は合図と共に凄まじい速度で腹筋を行った。
『記録:175回!』
上鳴「速すぎだろアイツ!!」
白哉、圧倒的1位。
【第8種目:長座体前屈】
白哉「これは対して点が取れなさそうだな。」
上鳴「お前の事だし、身体が伸びたって驚かないぜ!」
白哉「流石にそれはねえよ。」
白哉が100%の姿に変身するが、渦の大きさが異なる。
渦が消えると、その姿は2.5m程にまで大きくなっていた。
切島「でっか…!」
白哉は床に座り、台を引き伸ばす。
鎧が干渉して多少記録は落ちているが、問題は無い。
『記録:160cm!』
切島「アイツ、もしかして神様かなんかだったりする?」
長座体前屈は蛙吹が1位だったが、白哉も比較的いい成績で終えた。
相澤「んじゃ、パパっと結果発表。口頭で説明すんのは時間の無駄なんで、一括開示する。」
ついに全種目が終了した。
A組生徒21人の内、最下位である1人が除籍という事になるが、白哉はそんな事心配していなかった。
相澤が端末をポケットから取り出し、スイッチを入れた。
相澤「ちなみに除籍はウソな。君らの個性を最大限引き出す、合理的虚偽。」
「「「はぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」」
八百万「あんなの嘘に決まってるじゃない…。ちょっと考えれば分かりますわ。」
白哉「俺も最初はマジだと思ってたが、ボール投げの時に気付いた。」
耳郎「気付かなかった…。」
上鳴、峰田「「俺も…。」」
白夜を含む数名の者は気付いていたが、殆どは除籍を本当だと思っていたようだ。
ちなみに、白哉は圧倒的1位。当然の結果だろう。
相澤「緑谷。指、保健室で
こうして、白哉たちの個性把握テストは終わった。
一方その頃、スイス連邦某所。
「飛車角管理官。計画は失敗しました。」
報告官は硬い声でそう告げる。
その場の空気は冷たいが、椅子にふんぞり返る男だけは薄く笑っていた。
飛車角「やはり、お前は何処までも俺の期待を裏切ってくれるな…テオス。」
彼は指先で書類を弾く。
白哉の雄英入学データが映し出される。
飛車角「…テオスが4歳だったあの時から、他の者共とは違う過酷な訓練をさせ、仲間を作らせ、その仲間を15という人生のターニングポイントで殺し、心を砕く…はずだったんだがなぁ。」
「それが、彼岸 総太郎元大佐の介入で、結果的にPTSDは回復…。」
飛車角「ハハッ!あの英雄崩れが、また余計なことを。彼岸 総太郎め…
いつまでも我々の崇高な目的の邪魔をして…!」
飛車角は立ち上がり、長い外套を翻す。
目の奥は、薄い笑みの裏に暗い執念が燃えている。
飛車角「面白くなってきたじゃないか。“最強の駒”は、削れてこそ美しいものだ。そうだろう?凌牙・ヴェイス報告官。」
凌牙「…はい。」
飛車角「そうだろう。」
飛車角は黒いホログラムに指を滑らせると、そこには雄英高校1年A組の名簿があり、白哉の写真にだけ赤いバツ印が浮かび上がっていた。
飛車角「…凌牙。彼岸 遥華に連絡を取れ。彼女が動き始めるタイミングで、我々も動き出そうじゃないか。」
凌牙「し…しかし、飛車角管理官!いくらUNPPFの全権を握るとはいえ、我々が彼らに介入するなど…!」
飛車角「俺に逆らうのか?凌牙・ヴェイス。」
飛車角は手に太陽のようなものを出現させ、凌牙に近づける。
飛車角「俺に逆らうものは我々の秩序に不必要だ。抹消せねばならん。」
凌牙「…申し訳ございません、直ちに手配いたします。」
飛車角「それでいい。心配はするな、見つからんように動くさ。」
飛車角は太陽を引っ込め、小さく呟く。
飛車角「さぁ、テオス。11年前に家族を鏖殺し、悪魔と呼ばれた君が、真の英雄に…神になれるか、確かめさせてもらおうか。」