ドライバー ~ 運転手 異世界で道を創る ~ 作:アンクルソー
『道』
日本に敷設されている道、いわゆる一般的な道路としての総距離は約128万km。
地球の1週が約4万kmとすれば、約32周も廻れてしまう。
比較的狭い島国である日本には縦横無尽、人の血管のごとく道が整備されている。
その男は、日本の道路総距離を超える約200万㎞を、30年間の勤務で走破し。
車で訪れていない都道府県は47都道府県の内、沖縄県のみであった。
この物語は、そんな永年勤続、優良運転手。
トラックドライバーを生業としている男が、時代の流れに逆らえずにいるところから始まる。
……
2036年3月某日(金曜日)、18:30 〇〇運輸北千葉営業所 事務所
俺は、ドライバーから配車係への転籍を言い渡された。
「シシバ君!ちょっといい?」
「はい!所長どうしました?」
「実は本社からの指示で君の移動が決まった!」
「---------え?」
「選択は2つ、いや3つか・・・・この北千葉で配車係を、キミ(配車歴20年)さんとやるか・・・・湾岸の物流倉庫の保守をやるか・・・・のどちらかだ。」
「ドライバーは年々リストラ対象だけど、君は優良社員だし、本社も対象とは考えていないみたいだよ?よかったね!」
「ああ!あと一つは・・・・自分から会社辞めるか、だね!」
辞めるか、だね!・・・・って、俺がキミさんと配車係って事は、多分・・・・。
いや、間違いないキミさんリストラ対象かよ。
しかも湾岸倉庫って・・・・・ココから下道で1時間半。
混んでいる時間だと2時間はかかるぞ・・・・。
「ちょ・・・・あの・・・・・いつまでお返事すればいいでしょうか?所長・・・。」
「そうだなぁ~今週中・・・・遅くとも週明けの月曜日には本社に連絡したいな。」
「・・・・・わかりました。月曜日の朝にはお返事しますので・・・・。」
確かに俺はもう若くないし、昨今の大手運送業界は人減らしが急速に進んでいる。
高卒から今年で勤続30年、入社5年目頃の給料と今の給料が同じって・・・・ありえないけど・・・・これが今の日本の現実か・・・。
昨今の運送業界は、技術革新が日々進んでいる。
宅配などの個配送は試験的と言いながら、既に中型ドローンが空を飛び廻っているし、路線便の大型トラックはリモート運転が一般的になりつつある。
ドライバーは減少の一途をたどり、今回、俺にその役目が回ってきたという事だ。
幸い2人の子供も既に嫁ぎ、カミさんとの2人暮らしも一昨年終了した。
いわゆる熟年離婚だが、俺自身の身も軽い。
現在は、小さな持ち家に柴犬のモモと2人暮らしだ。
カミさんが家を出ていく際、車と家具家電は、ほとんど持ち持ち去って行った。
モモも連れ去ろうとしたが、それだけは死守した。
「いやぁ~・・・・これからは一人暮らしを理由に、長距離出張の時にはモモも同乗させるかな!!」
なーんて、考えていたら・・・・ドライバー首かよ。
しかし・・・・どうすんだ?
俺に内勤なんてできるのかねぇ~。
ーーーーーーーーーーどうしよう。
まじめに働いて、この会社で30年。辞め時なのだろうか。
この歳で辞めて、次なんてあるのだろうか。
俺は運転が好きだし、俺にはこれぐらいしかないと思っている。
というかクルマと運転が、趣味であり、好きなことが仕事になっていると言ったほうが正しい。
勤務時間も不規則で、休みも少ないが、今日までなんとか家族を養えれたのは、運転手という天職を、地道に続けて来れたから、に他ならない。
会社を後にして、ぼんやりと運転しながら帰宅すると、モモが玄関まで走って出迎えてくれた。
「なぁモモ・・・・俺、運転手辞めないとかもしれない・・・・どうしよう?」
「くうーん?」
「そうだよな!モモに相談しても・・・・わからんよなぁ。」
風呂に入り、食事の支度をし、明日の土曜早朝便の予定を再確認して、床に就いた。
すると・・・・モモが駆け寄ってきた。
「一緒に寝るのか?モモ?」
一緒に寝たいらしい。
・・・・というか俺の異変に気づいてくれたのかな?
モモにまで心配かけて申し訳ない・・・・・。
ふと天井を見上げると・・・・何故か涙が出てきた。
離婚のこと・・・・仕事のこと・・・・。
俺は何のために30年間、働いてきたのか・・・・。
車が好きで、高校の時からクルマいじりが趣味だった。
あらゆる乗り物にもチャレンジした。
家族の為に長年働いてきた俺にとって・・・・今の状況って・・・・。
――――――――――――結局のところ・・・・俺には何も残って無いんじゃないか。
年甲斐もなく涙を流していると・・・・。
モモが涙をぬぐってくれた・・・・。
あー!モモ!ごめん!ありがとう!なんでもないよ!寝よう!!
モモは何も発せず・・・ただ俺の顔を覗き込んでいた。
‥‥‥‥‥
2036年3月某日(日曜)18:30
自宅から10kmほど離れたキャンプ場からの帰路。
その日はおかしな天気で、霧の中をのんびり法定速度で走っていた。
運転しながらも俺は、頭の中で決断したことを反復していた。
俺は運転が好きだ。
今の会社を辞めてもドライバーで居たい。
モモと2人の1泊キャンプで、決意を固め、明日所長に退職願を出そうと思う。
どこか運転手として雇ってもらうか、起業するか・・・・不安ではあるけど。
※※ (回想) ※※
ドライブとキャンプ・・・俺は、車の運転が本当に好きだった。
若いころ、高校3年間は、まさにバイト三昧だった。車が欲しくて‥‥だ。
大学進学も可能だったが、高3夏休みに普通免許を取り、中古の軽4WDを買った後も、卒
業前まで、汗だくでバイト代を稼いでいた。
高校卒業すると同時に、大手運送会社に就職でき、トラック運転手になった。
――――――――――念願だった。
それから約30年、子供の手がかからなくなってからは、趣味のドライブ+温泉+キャンプに、モモとよく出かけた。
モモとはもう10年くらいの付き合いだ。
キャンプには、家族も勿論誘った。
だけど・・・・家の女性陣は虫が嫌いで、一緒には来てくれなかった。
遠くは信州から、東北まで足を延ばしていた。何より遠出は温泉が楽しみだった。
※※※
しかし、やだなぁ・・・・この霧・・・・。
そんな中・・・・俺は地元なのに知らない道に入ってしまった。
ん?・・・・どこだここ?
霧の中、信号機が出てきた。赤だ。
暗い中、霧が濃くてよく前が見えない。
すると・・・・横断歩道に、杖を突きながらゆっくり歩く年配の女性が見えた。
ワンワン!!モモが吠え出した。
おい!・・・・モモ!どうした?
前を見ると、おばあさんが横断歩道に立ち止まっている。
あれ?(サーっと一瞬血の気が引いた)
・・・なんだ?オカルト的な何かか?
俺にはその時、なぜか引き寄せられるように、クルマから降りて、おばあさんに声を掛けた。
「どうしたんですか?」
すると・・・・。
霧の中、急におばあさんの後ろを光が包んだ・・・・。
なんだ!!!
大丈夫なのかな?あの人・・・・と思って、車を降りたが・・・・。
おばあさんの後光は光が増している・・・・・。
なんだ?対向車か?
しかし霧の中、横断歩道中に止まるなんて・・・・
「おばあさん!危ないですよ?大丈夫ですかー?」
俺は再び声を掛けた。
眩しい、目を瞑って、薄目を開けた。
すると・・・・
そこには・・・・おばあさんとは違う人が立っている!
ひっ!!!!
このヒト・・・あきらかに横断歩道で立ち止まってた、おばあさんじゃないよな?
若い女性だ。ニコニコしながら近づいて来る・・・。
なんだ?
『こんにちは』
え?--------こんばんわじゃなくて?
『おめでとうございます』
「は?」
『準備が整いました。・・・・私が貴方を現世から解放して差し上げましたよ?』
「え??」
『あちらでも、頑張って運転してください!応援してますから!』
「な・・・・何のことです?」
『車のヘッドライトは、つけたまま進んでください!では良い旅を!』
「だから、なんのこ、、、と?」
女性は光に戻った・・・と同時に霧も消えた。
おれは、立ちすくむのを止め、クルマに戻った。
あれ?
車内を見ると、乗ったままのはずのモモが居ない?
再び車を降りた俺は・・・・。
「おーい!モモ!どこだー?」
声を掛けた。
おかしいな?さっきまでモモ乗ってたのに・・・・。
クルマに戻って運転席に腰掛けドアを閉めようとすると・・・・
バタン!!
危な!!
勝手にドアが閉まった。
・・・・・・汗・・・・・おい!
今のイージークローザーってレベルじゃないよな。
前を見ると、さっきまでの霧が一切無かったように消えている・・・・。
しばらく固まっていると、うっすらと周りの景色が表れてくる。目が慣れてきたのだ。
辺りに明かりは無く、真っ暗でヘッドライトの先だけ照らされている。
あきらかに、さっきの道ではない。
と言うか・・・・道が無い。
すると・・・・頭の中で声がした
『ごめんなさい!モモちゃんは無理でした。だけどあなたの傍には、いつも居ますので安心してください!』
「何それ・・・・・モモどうしたのよ・・・・・。」
辺り一面真っ暗でヘッドライトの先は草原が広がっている。
―――――――――――なに!!どこココ!!
ヘッドライトの先は全て草原、ちらほら木々が立っている。
まるで、テレビで見るアフリカのサバンナのような風景。
今にもライオンとか襲って来たり・・・・とかないよな。
ふと、顔を上げるとムーンルーフには、見たことも無い星空が輝いている。
気は動転してるし、茫然自失・・・・ではある。
・・・・・が、何故かその瞬間、この後どうしよう・・・・って感覚より
―――――――――――明日の仕事どうしよう。
って頭に浮かんだ。