直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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守れなかったもの

七直は甚爾から圧倒的強者の風格を感じていた。

だが、それと同時に違和感を覚える。

 

(この人、呪力が全く感じられない…!)

 

どんな人間にも、呪力は必ず存在する。

無意識のうちに誰しもが持っているもののはず。

目の前にいる男にはそれが全くなかった。

七直は圧倒的な存在に気を取られていたが、本来の目的を思い出す。

 

「そうだ!あなたが、扇叔父様に放り込まれた人…?」

 

「扇? ああ、あの陰湿な野郎か。……見ての通りだ。別に助けなんていらねえよ」

 

「でも、怪我とか血が出ているわ。急いで手当してあげなくちゃ」

 

「全部、返り血だ。俺は大事ないからさっさといけよ」

 

「まって。私は七直。扇叔父様の非道に異議を唱えに来たの。あなたはもう自由よ。私が保証する」

 

甚爾は七直を見下し鼻で笑った。

 

「『自由』ね。……その言葉、いつまで吐いていられるか見ものだな、七直様?」

 

「何を言って…」

 

 

『…あああ…そそぼあ……あそぼ…』

 

完全な不意打ち。

七直が甚爾の異質な存在に気を取られていた一瞬の隙を突き、二級レベルの呪霊が背後から彼女の喉元めがけて襲い掛かってきた。

 

(まずい…!(ともり)では火の呪力でこの人も巻き込んでしまう!)

 

七直はまだ呪霊との実戦経験が乏しい。

反射的に式神「(ともり)」を展開しようとするが、火の呪力は周囲を広範囲に焼くため、すぐ目の前にいる呪力ゼロの甚爾を巻き込んでしまうことを恐れ、一瞬対応が遅れてしまった。

 

その刹那、七直の視界が一気に歪んだ。

 

ドォン!

 

七直の肩を抱き寄せ、自らの体ごと横へ弾き飛ばす圧倒的な衝撃。

七直は受け身も取れずに床に叩きつけられた。

激しい痛みに顔を上げると、先ほどまで彼女の喉元に迫っていたはずの呪霊が、甚爾の蹴り一発で壁にめり込んでいるのが見えた。

彼は七直を庇うように一歩前に出て、手に持っていた木材をかまえる。

呪具ではなく、本当にただの木材だ。

 

甚爾は壁にめり込んだ呪霊に無関心に近づくと、その醜悪な頭部を何の躊躇もなく、滅多打ちにしていく。

 

ドゴン!ドゴン!!ドゴン!!!

 

おおよそ人の力では出せないような音が室内に響く。

しばらくその様子が続き、呪霊はデコボコになり静かになった。

呪いは呪いでしか祓えない。

だから呪力の無い甚爾は、おそらくこうやって呪霊を無理やり黙らせ、やりすごしていたのだろう。

 

「ほら見ろ。お前の『異議』も『保証』も、この薄汚え空間じゃ、呪霊一匹すら止められねぇんだよ」

 

甚爾は七直を救った直後だというのに、一切の温かさを持たない言葉を吐き出した。

その冷酷な真実は、呪霊の殺意よりも七直の心に突き刺さる。

彼の目には、七直の理想に対する憐憫と、この世の全てを嘲笑するような、冷酷な虚無が宿っていた。

 

「……っ」

 

七直は立ち上がり、膝についた土埃を払った。

彼女の顔には恐怖よりも、屈辱と渇望が浮かんでいた。

自分の力量が、甚爾の言う通り、この家の闇の前で無力だったことを思い知らされたのだ。

 

「待って。何を言ってくれたっていい。ただ、教えて」

 

七直は息を整え、甚爾に正面から向き合った。

 

「あなたのその体、どうなっているの? 呪力が全くない。にもかかわらず、なぜあなたは呪霊を目視できるの。そして、なぜあんなことができるの?」

 

七直は甚爾が、呪霊を蹴り飛ばし、ただの木材での殴打という、純粋な行為を指差した。

 

甚爾は面倒くさそうに首を鳴らした。

 

「しつけえガキだな。体術ってのは、見りゃ分かんだろ。力がねぇ奴は、呪力以外の力で動くしかないんだよ。簡単な理屈だ」

 

「簡単な理屈なんかじゃない! 私は直哉との勝負で、体術と呪具の重要性を痛感した。五行想術は、術式そのものは強くても、呪力の操作に一手間かかる。あの呪霊のように不意打ちされれば、私の式神は間に合わない」

 

七直は、自身の術式の弱点を率直に認めた。

そして、甚爾の強さこそが、その弱点を埋める唯一の鍵だと直感した。

 

「あなたの強さは、呪力に頼らない純粋な身体操作でしょう? 私は、その速度、その暴力を身につけたい」

 

彼女は深く頭を下げた。禪院家の神童として、落ちこぼれとされる呪力ゼロの青年に頭を下げる行為は、家訓に反する最大の恥辱だった。

 

「お願いです。私に、その体術を指導してください!」

 

甚爾は、屈辱に耐えながら頭を下げる七直を見下ろした。その小さな背中と、そこから放たれる凄まじい覚悟の重さに、面白みを感じた。

 

「指導だと? 面白い。禪院の神童様が、ゴミ扱いされてる落ちこぼれに頭を下げた。だがな、お嬢様。俺は、お前が必死こいて守りたがってるようなクソみてえな正義に興味はねぇよ。もちろん、タダで教える義理もな」

 

彼はニヤリと笑った。それは、この世の全てを嘲るような、酷く歪んだ笑みだった。

 

「いまちょいと入用でな、金が必要なんだ。お前がその禪院家の金で、俺の望む額を払えるなら……考えてやるぜ」

 

甚爾は七直が持つ権力と財力を要求した。それは、彼がこの家で唯一手に入れられない、そしてこの家から逃げ出すために必要なものだった。

 




禪院家を舞台にしたならこの男は外せませんよね。


質問コーナー

Q.五行想術で七直が得意な属性は何ですか?また苦手な属性は何ですか?

A.現時点で得意なのは、木です。相手をあまり傷つけることがないので拘束、足止めなどでよく使います。また、木の呪力は植物の成長を促進させる効果が最近分かったので、直毘人が呪力操作の訓練と称して、盆栽を育てさせたりしてます。
逆に苦手なのは、水、土です。性質上、広い土地や訓練場が必要なのであんまり大々的にできないのが理由です。近いうちに七直用の訓練場ができるとかなんとか。
まぁ七直の事なので、まんべんなく属性を極めようと努力はします。
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