直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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嫉妬

特訓を始めてから、半年が経ち七直は七歳を迎えていた。

週に二、三回の寂れた道場の逢瀬によって、鍛えられた彼女は一定の成果を出していた。

術指同士の指導や訓練でも、七直は大人についていけるくらい体力と忍耐、そして技術があった。

甚爾の無限掌底地獄に比べたら、昼間の指導はまだ優しかった。

決まった型で受け流すのではなく、常に相手の出方を伺いつつ、最小限に攻撃を受け流し、這いつくばってでも、喰らいつく。

甚爾から教わったことは、着実に七直の力となっていった。

 

七直の変化に一番敏感だったのは直哉だった。

 

(なんやあの動き。師範でも教えんような、見たことないやつや…)

 

直哉は以前の勝負試合から術式が発現したあと、父であり当主の直毘人に師事していた。

いまだ十全に扱えてはいないが、極めれば当主になれるほどの可能性をもった術式だ。

この家で一番になる存在は自分だと、信じて疑わなかった。

だが、それを覆される出来事が二つあった。

 

一つ目は、姉の七直の存在。

父、直毘人に紹介された異母姉で、禪院とは違う血筋の術式をもっていた。

妙に慣れ慣れしく、なんやコイツは、姉を名乗るよそ者かと思った。

いちいち口を挟んで、うざったいから勝負でわからせようとしたが、結果惨敗。

術式に目覚めたものの、七直を姉貴として敬わなくてはならなくなった。

 

(くそ…いまに見とれよ…絶対追い越してやるかんな…!)

 

二つ目は、従兄弟の甚爾の存在。

きっかけはささいな事だった。

噂で、呪力の全くない落ちこぼれがこの家にいるんだと知った直哉は、本人に会いに向かう。

一体どんなしょぼくれた顔をしているのかと期待したが、会ってみてその考えは吹き飛んでしまった。

圧倒的なまでの威圧感。

一目見ただけで強者だと直哉は直感した。

 

(なんや…コレ…天地がひっくり返っても、勝てる気がせぇへん…!)

 

直哉は甚爾の強さに憧れた。

それと同時に、その甚爾を見下す他の家の者に疑問を持つようになった。

 

(何で皆は甚爾くんを認めへんのや。あんなに強くてかっこええのに)

 

だが、その考えは次第に歪んでいく。

 

(甚爾くんより弱いくせに何でかい顔しとんねん)

 

直哉は甚爾を認めない弱者が嫌いになっていった。

 

(甚爾くんは、たぶんこの家でいっちゃん強い)

 

彼は意識を訓練に向け、七直の体術を見て、思う。

 

(なんで…!姉貴が甚爾くんと重なんねん!)

 

姉の姿が自分の憧れの存在と、時々重なって見えるような気がしていた。

ここ最近、七直の型が崩れてきたかと思えば、それはより実践に近く、キレを増していた。

勝負の時には捉えられなかった、直哉の動きを確実に捉えており、式神の切り替えの弱点を体捌きだけで対処していた。

 

(…きいてみるか)

 

「姉貴、その動き誰に教わったん?」

 

直哉は苛立ちを隠さず、七直に詰め寄った。

 

「特に誰に教わったわけでもないわ。最近、呪力に頼りすぎないように、無駄を削ぎ落としているだけよ」

 

「言葉で言うのは簡単やけど、それやるんには相当ムズイと思うで?」

 

「知ってるかもしれないけど、私、以前あの懲罰房で死にかけたことあるのよ」

 

直哉はその出来事を知っていた。

非術師を庇い、単独で懲罰房へ乗り込んだ愚行を。

そして直毘人に厳重注意を受けたと聞いている。

 

「そんなん、姉貴の自業自得やろ」

 

「…そう、結果的には私の過ちよ。だから考えたの。呪力だけじゃない戦い方を」

 

「…んで、あの動きができるようになった?と」

 

「そうよ」

 

直哉は、嘘はついてないが、本当の事も言ってないと感じていた。

裏に何かあるに違いない。

 

「ふーん、さよか」

 

疑問は晴れなかったが、これ以上は無駄だと思い会話を切り上げる。

 

(絶対、暴いたる…)

 

直哉の心には燻った火が灯っていた。

 

数日間の夜、直哉は眠りについた七直の部屋を監視し続けた。

そしてその日は来た。

深夜一時を過ぎた頃 、音もなく七直が部屋を出た。

彼女は周囲を細心の注意を払って警戒しながら、裏手へ向かう。

直哉は影のように彼女の後を追った。

彼は七直の術式「五行想術」による式神の監視を警戒したが、七直はそれを展開していなかった。

七直が向かった先は、禪院家の屋敷の敷地の隅にある、寂れて誰も寄り付かなくなった裏納屋道場だった。

七直は道場の扉を開け、中に消えていく。直哉は息を殺し、道場の窓の隙間に張り付いた。

埃と静寂 に包まれた道場の薄暗闇の中、七直は既に道着姿だった。そして、その前に立っていたのは…

 

「甚爾くん…!」

 

直哉は、喉の奥でその名を無意識に呟いた。

そこに立っていたのは、直哉がこの家で最も強者と認め、最も憧れる存在、甚爾だった。

 

七直と甚爾はいつものように金を渡し、特訓を始めようとする。

 

「今日もよろしくお願いします。甚爾さん」

 

「……」

 

甚爾は七直を通り越して、後ろの扉を見つめる。

 

「あの?どうかしましたか?」

 

「…付けられたな、七直」

 

甚爾の声は静かだったが、その一言で道場内の空気は氷点下に落ちた。

 

「出てこい。いるのは分かってんだよ」

 

直哉は観念したかのように、道場の戸を開けて入ってくるが、その表情は怒りと嫉妬で歪んでいた。

 

「直哉!?」

 

「…なんで…なんで姉貴が、甚爾くんに師事しとんねん!」

 

直哉の叫びは、この道場の静寂を引き裂いたのだった。

 




まぁ、こうなりますよね…

質問コーナー

Q.甚爾と七直の取引に「縛り」はあったの?

A.ありません。この取引では縛りは結んでいません。完全に口約束だけで成り立ってます。
たまたま、二人の欲しいものを持っていたために釣り合っていた、少々危ない取引でした。
また、小話になりますが、七直は直毘人から、「縛りを結ぶこと」を固く禁じています。家同士の契約で生まれた子供なので、術式発現もその影響を被っているのでないかと、考えており、直毘人はそこらへんを危惧してます。七直が十三歳になるまでは基本的に禁止。そこから高専卒業まで「己の術式に関する縛り」なら大丈夫。けど「他者との縛り」は直毘人の確認と許可が必要になります。卒業後成人したら、完全解禁という流れです。

12/14 修正しました。
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