直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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試合再び

古文書の解読は順調だった。

半分読み進めるのに、七直と京子、二人掛かりで二年かかり、その間に、七直は九歳になった。

ちなみに弟の直哉は八歳になったが最近、生意気さに拍車がかかり、ますます口が悪くなっていた。

 

書庫から一歩出れば、そこは古臭い静寂に支配された禪院の屋敷だ。

解読に没頭していた七直の耳に、廊下の向こうから聞き慣れた、そして最高に神経を逆撫でする声が近づいてきた。

 

「なんや、またその薄暗い部屋に引きこもっとったんか、姉貴」

 

角から姿を現したのは、直哉だ。

以前よりも背が伸び、七直との背の差が縮まりつつあった。

顔つきには禪院の男特有の傲慢さが色濃く出始めている。

 

「九歳にもなって、まだお母はんの後ろで紙遊びか? 健気なこっちゃね」

 

「……そういう直哉こそ、八歳になったのに口の利き方をまだ知らないのね。その様子だと、お父様にまた絞られたのかしら?」

 

七直が冷ややかに視線を向けると、直哉は「ちっ」と小さく舌打ちし、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。

 

「絞られた? ハッ、笑わせんといて。俺はもう父上の動きに、一コマ……いや、二コマは付いていけるようになってるんや。姉貴みたいに、埃臭い部屋で字ぃ追っかけるのとは訳が違う」

 

直哉は七直の持つ資料を、汚い物でも見るかのように顎で指した。

 

「そないなもん必死に読んだところで、戦場じゃ何の役にも立たんわ。術師は『速さ』が全てやろ。……それとも何? もしかして、その紙に『おにぎりの作り方』でも書いてあるんか? お母はん、最近ますます顔色悪いもんな」

 

「……っ」

 

七直の眉間に、わずかな怒りが走る。

自分のことはともかく、京子の容態を馬鹿にされることだけは許せなかった。

 

「おにぎり握ったことないくせに何言ってんのよ。そもそも、作り方を知る前に、あなたは自分の術式の仕組みを理解し直すべきよ。この前の稽古、最後は自分の速度に振り回されて、無様に転んでたじゃない。あれ、何コマ目かしら? 無理に加速しようとして、全く私に攻撃が当たらなかったじゃない……お母さまに見せてあげたかったわ」

 

「そ、れは……ただの調整ミスや! 次は絶対にやってのける。それより姉貴こそ、いつになったらその式神とやらを拝ませてくれるんや? もしかして、まだおままごとの道具すら揃っとらんのとちゃうか?」

 

直哉は七直に一歩詰め寄り、その幼い顔を覗き込んだ。

 

「女に術師は向いとらん。それは真実や。姉貴はせいぜい、将来俺が当主になった時に、三歩下がって俺の影でも踏んどればええ。それなら、この資料を俺が代わりに読んで、無駄にならんように使ってやってもええで?」

 

「……言ってくれるわね。八歳のガキに将来の当主だなんて言葉を使われると、可笑しくて涙が出そう。あなたが私の影を踏むどころか、私の影さえ見失う日が来るのを、楽しみにしているわ」

 

七直は手に持った資料を強く抱え直し、直哉を突き飛ばすようにして横を通り過ぎた。

 

「おい、待てや! 逃げるんか姉貴!」

 

「逃げる? 違うわ。これ以上付き合うと、あなたの低脳がうつりそうだから、避難するだけよ」

 

背後で「誰が低脳や!」と喚き散らす直哉の声を無視し、七直は心の中で誓う。

この古文書の残りの半分を、何としても、誰よりも早く解読してやる。

直哉が見ている速度の、そのさらに先の景色を、彼から最も馬鹿にされているこの資料で見せつけてやるために。

 

 

そう意気込んでみたが、現実はそうはいかなかった。

古文書解読の、その最後に控える陰陽の勾玉が描かれた一冊に触れようとした瞬間、七直の指先を鋭い拒絶の呪力が弾いた。

それは物理的な壁のような高密度の圧を体現した呪力だった。

今の七直の呪力出力や術理の理解度では、その真髄に触れることさえ許されない。

まるで、お前はまだこの理を受け止める器ではない、と古文書そのものに拒絶されたようだった。

 

「……今は、まだ届かないのね」

 

七直は、直毘人にこのことを伝え、しばらくは術式の研鑽をすることになった。

己の未熟さを受け入れ、術師としての格を上げなければ、この古文書は開けない。

自分をさらに磨き上げることに、一生懸命になった。

 

しばらくの間、道場に籠っては術式を使った訓練をしていたある日のこと。

廊下を歩く七直の背中に、ドタドタと騒がしい足音が追いすがってきた。

振り返るまでもない。

この、地面を叩きつけるような落ち着きのない歩法は一人しかいない。

 

「…直哉、もっと静かに歩きなさい、はしたないわよ」

 

「うるさいわ! それより姉貴、父ちゃんから言伝や。……試合やってさ。三日後、うちらの成長を確認するちゅうな!姉貴次は負けへんで!」

 

直哉は肩を怒らせ、勝ち誇ったように七直の顔を指差した。

その瞳には、敗北の悔しさをバネにした子供らしい執念と、早く自分の成長を見せつけたくてたまらないという、隠しきれない期待が混じっている。

 

「姉貴がその薄暗い部屋で紙と睨めっこしとる間に、俺がどれだけ速くなったか……腰抜かさんといてや?」

 

「……お父様が直々に? 珍しいこともあるものね。わかったわ三日後ね」

 

「おう!言ったかんな!別に逃げてええで!そん時は『弱虫姉貴』って投射呪法で家中に言い触らしたるわ!」

 

「くっだらない…」

 

「はぁ!なんやと!」

 

「だってそうでしょう? 術式の凄さを言い触らすならともかく、わざわざ速さを使ってまで悪口を広めるなんて。宝の持ち腐れにも程があるわ」

 

直哉は顔を真っ赤にして、七直を威圧するように一歩踏み出した。

 

「はっ!三日後、泣いて謝っても許さへんからな! 姉貴が地面に這いつくばって、俺の背中を拝む姿……お母はんにも特等席で見せたるわ!」

 

「……お母様を、あなたの幼稚な遊びに巻き込まないで」

 

七直の温度が、スッと下がった。

冷たい呪力の波動が微かに漏れ出し、廊下の空気が重く沈む。

 

「いいわ、三日後。どちらの術式が優れているか、はっきりさせましょう」

 

「望むところや! その余裕、三日後まで持てばええな!」

 

直哉は吐き捨てるように言い残し、またドタドタと騒がしい足音を立てて、来た道を疾走していった。

嵐のような去り際を見送り、七直は静かに自分の右手を握りしめた。

 

(三日後…見てなさいよ…直哉!)

 

かくして再び、姉弟の勝負が始まろうとしていた。

 




年相応の姉弟喧嘩って難しい…。

質問コーナー

Q.五行想術って結局何なの!?

A.ややこしくてすみません!(土下座)この術式は、「属性を司る式神を使役する」のではなく、「使役した式神や物に属性を与える」の解釈の方がわかりやすいかも。「属性の核」が術式に備わっており、破壊されても術者の呪力で自然回復します。ですが、依り代は破壊されたらもう一度別の物に核を埋め込まないといけません。属性の出力を上げるため、核またはその依り代は一体しか展開できず、他の属性を使用するためには切り替えなくてはいけません。また一つの核に、依り代は一つまでで、属性の数だけ式神を持てます。核の依り代が式神に収まらず、動物や呪霊、さらには道具と幅が広いゆえに、歴代の五行想術使いはそれぞれ戦闘スタイルが違ったというわけです。
後は何だろ…四獣とか?四獣はこの五行想術における、ある意味到達点です。極の番的な感じかも。それだけ強い式神です。摩虎羅のような理不尽適応はないですが、同じくらい硬いし、強いし、大規模な属性攻撃をしてきます。一体しか調伏できないのは、めっちゃ呪力を持ってかれるからで、現実的に考えて複数体の四獣を持つのは不可能です。
呼び方は「四神相応〇方位神獣○○」って感じ。白虎だったら「四神相応西方位神獣白虎」になる。かっこいいね。

いろいろごちゃつてるから、いつかまとめられるといいな。今回はこれでごめん!



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