直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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書き写し

直毘人との対話から数日。

七直は自身の右腕に包帯を巻き直すと、直哉の部屋へと足を運んだ。

あの日、雪原で見た直哉の絶望と、京子の流した血が、七直の背中を突き動かしていた。

部屋に入ると、直哉は一人俯いていた。

かつての傲慢な光は鳴りを潜め、どこか所在なげな少年の顔をしていた。

 

「……何や。父ちゃんと話し終わったんか」

 

「ええ。話してきたわ、私たちのこれからのこと」

 

七直は直哉の正面に座ると、静かに畳に両手をつき、額を擦りつけた。

 

「直哉。お願いがあるの。あなたの投射呪法を、私に預けてほしい。式神の核として、私に書き写させて」

 

「……っ!?」

 

直哉は息を呑み、跳ねるように顔を上げた。

 

「な、何言うてんねん! 姉貴、あの日あんな化け物みたいな力見せといて……今更、俺の術式なんか欲しがって、どうするつもりや!」

 

「今の私じゃ、誰も守れない。あの日、お母様が傷つく前に私が動けていればよかった。……私には、あなたのような速さが必要なの。お願い、直哉」

 

直哉の喉が震えた。

姉に頭を下げられているという事実に、屈辱よりも先に自分を必要としているという奇妙な熱が胸を焦がした。

 

「でも、投射呪法なら父ちゃんからでも、ええやろ」

 

「ええ。実際お父様からも言われたわ。それでも私は直哉からもらいたい。ずっと近くで見てきた、あなたの投射呪法じゃないと駄目なの」

 

恥ずかしげもなく真っすぐ直哉を見つめる七直。

直哉は耳まで赤くし、ぷいと顔を背けた。

 

「……勝手にせぇ。姉貴がそこまで言うんなら、断る理由もないわ」

 

「ありがとう!直哉!」

 

直哉は、かつて自分が女の限界だと侮っていた姉が、今は自分にはない深淵を見せ、その上で自分の力を求めているという事実に、複雑な、けれど悪い気はしない高揚感を感じていた。

 

 

数日後。

直毘人が見守る中、道場の静寂を破り、七直は直哉に向き合っていた。

 

「……いよいよやんな」

 

直哉は少し顔を強張らせながらも、目の前に浮遊する核を見つめた。

これから泰山府君祭の応用による術式の書き写しが行われる。

 

「じゃあこれから、術式の書き写しを行うわ」

 

この書き移しは多大な縛りによって成される。

一つ、この書き写しは両者の承諾がなければならない。

一つ、術式を貰う側は己の術式の全情報を開示しなければならない。

一つ、一個の核につき、術式は一つまで。

一つ、核の許容量を超える術式の場合、性能を廉価させること。

一つ、書き写しの際は核に触れること。

このような儀式めいた縛りを結んで初めて、書き写しが成される。

 

「……わかったわ。ほれ、好きにせぇ」

 

 

直哉が少し乱暴に手を差し出し、七直の指先がその手の甲に触れる。

その瞬間、空気が震えた。七直の脳内に、直哉がこれまで培ってきた、1秒を24フレームに分割する、というあまりに精緻な術式が流れ込んでくる。

 

「っ……あ……!」

 

七直の脳を、針で刺されたような鋭い痛みが襲う。

直哉の術式は、禪院家相伝の中でも最高峰の処理能力を要するもの。

七直の器であっても、そのすべてを受け止めることは不可能だ。

 

(……削って。半分……いいえ、三分の二以上削るわ。私の脳が耐えられる『12フレーム』まで……!)

 

七直は歯を食いしばり、式神の核へと情報を流し込んでいく。

しばらくして、道場を包んでいた呪力の渦が静かに収束した。

 

「……ハァ、ハァ……。一つ目、完了ね……」

 

「……うげぇ。なんか変な気分やわ。自分の体の中、無理やり覗き込まれたような……。姉貴、顔真っ青やぞ。もう終わりか?」

 

直哉が不快そうに首筋を擦りながら尋ねる。

だが、七直は冷や汗を拭いながら、不敵に笑った。

 

「何言ってるのよ。……あと、これ四回やるのよ」

 

「は? ……四回って、まさか五行全部にか!? 冗談やろ! あと四回もこれやるんか!?

無理無理、死ぬわ俺!!」

 

「死なないわよ。はい、次。次は火の核に書き写すわ。手、出しなさい」

 

「うわぁぁぁ、もう勘弁してぇや……!!」

 

脇で酒を煽っていた直毘人が、その様子を見て喉を鳴らして笑う。

こうして、書き写しの儀式を経て、七直は史上初の属性・投射呪法を手にした。

 

 

道場では、七直がさっそく獲得した力を試していた。

七直版の投射呪法は、本来の半分、0.5秒12フレームの廉価版だ。

相手をフリーズさせる力はないが、代わりに触れた相手に自身と同じ呪力性質を付与できる特殊仕様。

 

「行くわよ、灯……投射開始!」

 

 

七直が意識を集中させると、自身の視界がガクンとコマ送りに変わった。

 

「――っ!?」

 

一瞬。

道場の端から端まで、まるで空間を飛び越えたような速さで移動する。

だが、着地した瞬間に七直は固まった。

 

「姉貴?」

 

「……う、げっ……」

 

 

七直は口元を押さえ、そのまま畳に倒れこんだ。

世界がぐるぐると高速回転し、胃の中のものが逆流しそうになる。

 

「……姉貴!、大丈夫か?」

 

心配そうに駆け寄ってきた直哉が、地面で這いつくばる姉を見て、困惑と少しの呆れを混ぜた顔をした。

 

「……目が、回る。……世界が、シェイクされてるみたい……」

 

「情っけないなぁ! たった12フレームやぞ? 俺なんて毎日24フレームの世界で動いとるんや。意外と三半規管弱いんやな」

 

「うるさい…わね。……あんなの、どうやって制御してるのよ。脳が追いつかないわ……」

 

七直は青白い顔で、這い上がることもできず呻いた。

直哉はそんな姉の隣に座り込み、どこか誇らしげに鼻を鳴らす。

 

「やっぱり、本物の速さは俺にしか扱えんってことやな。姉貴の式神は、俺のサポート専用ってことや」

「……悔しいけど、今は認めざるを得ないわ。属性を付与するタイミング以前に、真っ直ぐ歩くことさえままならないもの」

 

「ハハッ、無様やな。……まぁ、ええわ。姉貴が慣れるまで、俺が付き合ったるわ」

 

七直は目を回しながらも、不器用な直哉の言葉に小さく笑った。

獲得した力は、まだ荒削りで、自分をグロッキーにさせるほどの劇薬。

 

(……これを完璧に扱えるようになった時、私は……。でも今は、まずこの吐き気をどうにかしないと……)

 

七直は再び訪れた眩暈に、そっと目を閉じた。

当主への道、そして直哉を救う道は、予想以上に目が回るほど過酷なものになりそうだった。

 




予約投稿忘れて、一つだけおかしな時間に上げてしまった。気づいたの感想来てからだったからもういいや!正月用ストックが無くなったけど。

質問コーナー

Q.もし七直が普通に五行想術の運用してたら何を使役してた?呼ぶとしたら四獣は何?

A.金は「鹿」、水は「亀」、木は「蛇」、火は「烏」、土は「麒麟」です。以前、五行に詳しい方の話を聞ききまして、使役する式神は五行の五虫をベースにすると思います。
そして、最初は実在する動物から式神化し、徐々に強い依り代を入れ替えていくと思います。たぶんですが使役する年月が長いほど式神も強くなると思いますし、なんか術式も持ちそう。
麒麟は仁獣と呼ばれるほど高貴で四獣の中でも徳と格が高いです。また調伏には本人の戦闘能力よりも、資質が問われます。使役よりは対等な契約に近いかもしれません。また麒麟は殺生を嫌い、慈悲深い存在なので、他者を害さない縛りがありますが、能力は破格です。麒麟の周り一帯は常に濃い正の呪力で満たされており、術式攻撃は中和され、そこにいるだけでゆっくりとですが反転術式が付与され回復します。存在自体が閉じない領域をなしています。呼んだだけで、正の呪力領域で呪い払えるから、対呪霊には最強の式神かもしれません。逆に他者を害さない縛りから、対術師はやや厳しいかも。秩序を保つためのやむを得ない場合は流石に動くかも。それこそ両面宿儺や羂索レベルの悪意を持った人間じゃないと麒麟は攻撃できません。

…って設定だけ考えて使わない作者でした(白目)

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12/29 修正しました。
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