直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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高専編
高専入学


呪術高専。

日本で二校しか存在しない、呪術の専門学校で、七直達が門を叩いたのは、東京校。

正式名称は、東京都立呪術専門学校である。

姉妹校に京都校がもう一つあり、禪院家からはこっちの方が近かったが、二人は最強が在籍する東京校を望んだ。

東京郊外へ足を運ぶと、都会の喧騒が無くなってくる。

森林が多くなってきたところで、学校へ続く長い石段が続いていた。

高専の長い石段を登り切り、朱塗りの巨大な門をくぐった先で二人を待っていたのは、強面の大柄で威圧感のある男だった。

 

「……時間通りだな、禪院の。私が案内役であり、今年度の二年生担任を受け持つ夜蛾正道だ」

 

夜蛾の鋭い視線が二人を射抜く。

直哉は一瞬、父・直毘人のような重圧を感じて身構えたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。

 

「禪院直哉や。今日から一年生としてお世話になりますわ。……隣におるんは姉貴の七直。二年生への編入や。……しかし、えらい山奥やな。禪院の屋敷よりよっぽど不便やないか」

 

「直哉、口を慎みなさい。……初めまして、夜蛾先生。禪院七直です。本日から、よろしくお願いいたします」

 

七直は完璧な淑女の所作で、静かに頭を下げた。

夜蛾はその二人の対照的な態度をじっと観察しながら、校内の案内を開始した。

重厚な木造校舎が立ち並ぶ境内を歩きながら、夜蛾は前を見据えたまま、唐突に問いを投げかけた。

 

「禪院という御三家の嫡流でありながら、なぜ教育機関であるここに来た。……実力も、家柄もあるお前たちだ。わざわざ群れる必要もあるまい」

 

直哉が、鼻で笑って即座に答える。

 

「決まっとる。……うちの家、腐りきっとんねん。あんな狭い檻の中におったら、いつか自分も腐ってまう。……僕は、もっと広い世界を見て、あの家を根底からひっくり返す力が欲しいんや。最強への最短ルートがここやと聞いたからな」

 

直哉の言葉には、かつての傲慢さだけでなく、家族を守り抜くという強固な意志が混ざっていた。

夜蛾はわずかに口角を上げると、視線を七直へ移した。

 

「……お前はどうだ、七直。二年生への特別編入。お前の世代には、すでに二人の規格外がいる。その横に並ぶことは、想像以上に過酷だぞ」

 

七直は足を止め、風に舞う桜の花びらを見つめた。

 

「先生。私は強さを信じていません」

 

「……ほう?」

 

「力だけでは、守れないものがあることを知りました。どれほど術式が優れていても、心が腐ればすべてが壊れる。……私がここへ来たのは、盤面を読み解く目を養うためです」

 

夜蛾は二人の瞳の奥にある覚悟を読み取り、フッと鼻を鳴らした。

 

「……いいだろう。その言葉、忘れるな。呪術師に悔いのない死はない。だが、悔いのない道を選ぶことはできる」

 

案内が終わる頃、校舎の分岐点に差し掛かった。

 

「直哉、お前の一年生の教室はあちらだ。そこには七海と灰原がすでにいる。……七直、お前はこっちだ。二年生の連中は今、教室で暇を持て余しているはずだ」

 

「……ほなな、姉貴。あんまり五条の小僧に毒されんといてや」

 

「貴方もね、直哉。同級生と仲良くしなさいよ」

 

七直と直哉は、初めて別々の道を歩み始める。

 

 

七直が案内された教室の扉を開けると、そこには退屈そうに椅子にふんぞり返る白髪の青年と、その隣で本を捲る黒髪の青年、そしてけだるそうに机にうなだれている茶髪の少女がいた。

 

「へぇ……。君が噂の禪院家の異端児? 案外、おしとやかそうな顔してんね」

 

サングラスをずらし、青い瞳で七直を貫く五条悟。

夏油傑は穏やかな笑みを浮かべつつも、その呪力の厚みで部屋全体を威圧していた。

五条の隠そうともしない不遜な視線と、夏油の静かながらも重い呪力の圧。

初対面の相手を値踏みし、あわよくば屈服させようとする最強二人の洗礼に対し、七直は眉一つ動かさなかった。

彼女は夜蛾に一礼して入室すると、五条の視線を真っ向から受け止め、優雅に微笑んだ。

 

「初めまして。禪院七直です。……おしとやか、ですか。五条様のような自由奔放な方にそう言っていただけると、半年間、歩き方から叩き直した甲斐がありましたわ」

 

「は、半年? 歩き方?」

 

「ええ。不作法な相手に、付け入る隙を与えないためです。……例えば、初対面の女性に対して机に足を乗せたまま声をかけるような、そんな無作法な相手にね」

 

七直の視線が、五条が机に乗せている足に落とされる。

五条は一瞬虚を突かれたように目を見開き、それから「ハッ!」と愉快そうに笑って足を下ろした。

 

「ハハッ、面白いこと言うね。マナー? 呪術師にそんなの必要あんの? 強い奴が正解だろ」

 

「強さを誇るのは結構ですけれど、それは周囲を納得させる知性があって初めて成立するもの。力だけの獣なら、動物園にだっていますわ。……五条様、貴方はどちらかしら?」

 

「……。ククッ、あははは! 言うねぇ、悟」

 

これまで黙っていた夏油傑が、堪えきれずに声をあげて笑い出した。

 

「初めまして、七直。私は夏油傑だ。君の言う通り、この学校には少し躾が必要な者が多くてね」

 

すると、夏油とは少し離れた席で気怠げに煙草の箱を弄んでいた少女、家入硝子が面白そうに七直を手招きする。

 

「硝子だよ。……あー、いいね、君。その調子でこいつの鼻へし折ってやって」

 

五条はサングラスを直し、不敵な口角を上げたまま七直を見据えた。

 

「……ふーん。まあいいや。とりあえず準一級なんだろ? つまんない任務で死ぬなよ、七直」

 

「お気遣いありがとうございます、五条様。……死ぬのは、盤面を読み違えた者だけですわ。私は、そんなに愚かではありません」

 

七直は完璧な所作で空いた席に鞄を置き、腰を下ろした。

 

「お前たち…喧嘩はほどほどにしろよ」

 

この四人を担当する夜蛾の心情やいかに。

 

 

午前の講義が終わり、高専の教室には穏やかな春の陽気が差し込んでいた。

五条は

 

「購買のパン、買い占めてくるわ」

 

と言い残して嵐のように去り、硝子も屋上で寝ると席を立った。

教室に残されたのは、七直と夏油傑の二人だけだった。

七直は背筋を伸ばしたまま、持参した昼食の包みを丁寧に解いていた。

その一挙手一投足は、相変わらず一分の隙もない。

 

「……七直」

 

不意に名を呼ばれ、七直は手を止めて視線を上げた。

夏油が隣の席に椅子を引き、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

「あまり、肩肘を張らなくていい。もっと気楽に行こうよ」

 

夏油は自分の弁当を広げながら、言葉を続けた。

 

「敬語も、その完璧な所作も、君を守るためのものだったんだろう? でも、私たちの前ではもっと気楽に話していい。……友達になろうとしている相手に、そんなに構えられると、少し寂しいからね」

 

「友達……。その言葉、貴方のような方が口にすると、なんだか不思議な響きですね」

 

七直は少しだけ目を伏せ、自嘲気味に口角を上げた。

 

「禪院の人間にとって、友達とは利用価値のある駒かいつか裏切る敵のどちらかでしたから」

 

「ここでは違うよ。少なくとも、私や悟にとってはね」

 

夏油は箸を動かしながら、まるで明日の天気を話すような軽やかさで言った。

 

「君の知性は、きっと私たちの助けになる。でも、それ以前に君が何を考え、何が好きか、そういう話がしたいんだ。……だから、まずはその鉄の仮面を少しだけ外してみないかい?」

 

「……お言葉に甘えて、と言いたいところですが。急に変えるのは、少し時間がかかりそうですわ」

 

七直はふっと息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。

 

「でも……そうね。夏油様」

 

「傑、でいいよ」

 

「……傑。そうね、それなら一つ。……実は、さっきからずっと気になっていたのですけれど」

 

七直は夏油の顔をじっと見つめ、人差し指を自分の前髪に当てた。

 

「その……額の横に一房だけ垂らしている、その髪。……それは、何かの術式的な縛りかしら? それとも、単なるこだわり?」

 

夏油は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、声をあげて笑い出した。

 

「ははは! 縛りじゃないよ、ただの癖だ。……そうか、君にはそんな風に見えていたんだね」

 

「ええ。とても数学的な角度で垂れているから、何か高度な術式の発動条件かとばかり」

 

七直の口調から、先ほどまでの硬さが消え、少しだけ年相応の少女らしい毒と好奇心が混ざり始める。

 

「……ふふ。少しだけ、気が楽になりましたわ。最強と謳われる方々も、案外、普通の男の子なのですね」

 

「お互い様だよ。君も、ただの美しい少女だ」

 

二人の間に、ようやく本物の同級生としての空気が流れ始めた。

 

「あー! ずるい、傑! 俺のいない間に七直とイチャついてんじゃねーよ!」

 

すると、騒がしい声と共に、教室の扉が勢いよく開いた。

両手に抱えきれないほどの購買パンと、自販機の炭酸飲料をぶら下げた五条悟の帰還だ。

五条はドカドカと足音を立てて二人の席まで歩み寄ると、戦利品を机の上にドサリと積み上げた。

 

「ほら七直、これやるよ。購買の新作の激辛明太焼きそばパンとお嬢様に似合いそうな高級メロンパン。好きな方選べよ、特別だぜ?」

 

五条は得意げに笑い、パンを七直の目の前へ突き出した。

だが、七直の視線は一瞬、そのパンの袋に落ち、それからすぐに穏やかな微笑みへと戻った。

 

「……お気遣い、ありがとうございます。悟様」

 

「いいよ様付けなんて気持ち悪りぃ。もっと親しげに呼ぼーぜ。で、どっちにする?」

 

「ええ、とても美味しそうですわ。……けれど、せっかくの好意ですけれど、お気持ちだけ頂戴いたします」

 

七直は優雅に手を添えて、パンをそっと押し返した。

 

「今はまだ、自分の持ってきたものでお腹がいっぱいなので。あまり欲張ると、午後の講義で眠くなってしまいますわ」

 

「えー? 遠慮すんなって。一個くらい余裕だろ?」

 

「ふふ、また別の機会に。……悟が選んでくださったものですもの、きっと美味しいのでしょうね」

 

七直の言葉は丁寧で、拒絶の棘は一切ない。

だが、その瞳の奥には、誰にも見せない深い防壁が横たわっていた。

過去に、母が口にした美しい菓子。

そこに盛られていた猛毒。

以来、七直にとって他人が差し出す食べ物は、たとえ善意に見えても、その安全性が証明されない限り、喉を通らない不確定要素でしかなかった。

隣で見ていた夏油は、七直の拒み方の自然すぎる完璧さに、微かな違和感を覚える。

 

「……悟、あまり無理強いするな。食が細い人だっているんだ」

 

「チェッ、つまんねーの。せっかく選んでやったのにさ」

 

五条は不満げに口を尖らせたが、すぐに自分のメロンパンを破いて口に放り込んだ。

 

「あ、戻った」

 

そこへ、煙草の残り香を微かに纏わせた家入硝子が、気怠げに教室へ戻ってきた。

 

「何、悟がまた嫌がらせ? 七直、警察呼ぶなら今だよ」

 

「いいえ、とても素敵なパンをお勧めいただいたところですわ。……硝子、屋上は快適でした?」

 

「快適。……でも、こっちの方がもっと面白そうかな」

 

硝子は七直の隣に腰掛け、最強二人に挟まれても平然としている彼女をじっと見つめた。 七直は、自分の弁当箱にある卵焼きを一つ口に運ぶ。

自分で用意したもの、あるいは信頼できる手の者が用意したもの。

それだけが、この中で彼女が許された唯一の安全圏。

 

(……ごめんなさいね。いつか、何も疑わずに貴方たちの好意を受け取れる日が、来るのかしら)

 

そんな内心を微塵も悟らせず、七直は優雅に同級生たちとの会話に花を咲かせるのだった。

彼女の凝り固まった猜疑心は、春の陽気に当てられた氷のように、少しずつ、けれど確実に溶け始めていた。

 




ついに高専編だ!

質問コーナー

Q.七直と直哉の学生服ってどんな見た目?

A.七直は和服ベースの制服です。BLEACHみたいな感じの制服に左胸辺りに高専のボタンをつけています。直哉は原作にあった書生服を黒くした感じで、やはり和服よりです。少々手間な着こなしですが、禪院を背負っているのでこれくらい着飾らないと、と思っています。


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