直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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勝負の準備

七直は弟の直哉との勝負に向けて、自身の術式の理解を深めていた。

術式を発現してから約一年の間、屋敷内にある道場で術師としての指南を受けてきている。

五行想術は五つの属性を持つ式神を展開し、その呪力性質を得ながら戦う。

だが、この術式では式神は一体しか展開できない仕様になっている。

恐らく、先祖代々に渡り無意識のうちに科せられた縛りなのだろう。

故に式神を展開している間の呪力出力はかなりのものだった。

今は誰もいない道場で、七直一人だけがそこにいた。

火の式神・(ともり)を展開し、拳一つくらいの大きさの呪力弾を飛ばす。

道場に用意された的に当たったそれは大きく爆ぜて焼け焦げた。

 

(火は高火力で爆発力がある。式神の中でも単純に扱いやすく強い方だ。)

 

次に水の式神・(ひたら)を展開し、呪力を纏うも水の性質を得るため、下へと流れてしまう。

 

(水は流体性を持つ。故に扱いが難しい。ある程度、粘性を持たせられても、流れを完全に止めることはできないか…)

 

液体として流れた呪力は、式神を切り替えたとしてもしばらく残り続けるのが水の式神の特徴であった。

またこの水の呪力は地面に浸透し、地面を泥に変化させることもできた。

 

(これは足場を崩すのに役立ちそうね)

 

続いて木の式神・(いつき)を展開する。

 

(木はしなやかさと拡散性、伸縮性が強み。そして他の呪力を取り込んで成長する。細く長い蔓のようなイメージで…!)

 

木の呪力を細長く練り上げ、鞭の要領でスナップを効かせて振るう。

音速に至った鞭先は、スパァン!と大きな音を立て、的を粉砕した。

木の呪力には、他者の呪力を吸収し成長、拡大する性質があった。

また、吸収できる量は七直が込めた呪力と同じだけ。

これは形態を解除するまで続き、吸収した他者の呪力は自分には還元されず霧散する。

 

(拘束に使えば、相手の呪力でより強く動きを封じられる…と)

 

さらに属性を切り替え、金の式神・(くろがね)を展開する。

 

(金は、刃のような鋭い切れ味と硬度がある。けど…)

 

金の呪力を飛ばして的に当てると、バツン!と乱雑に切り傷が入り、ズタズタになった。

が、的は完全には壊れなかった。

 

(もっと刀の太刀筋の様に一つに集約できれば必殺技になる…まだまだね)

 

金の式神・(くろがね)は使い方によっては、式神の中で最も殺傷力のある性質だった。

極めれば、最も効率的に呪霊を祓うことができそうな優秀なもの。

 

(でも、それは同時に簡単に人の命を奪ってしまうもの…扱いに気をつけなくちゃ)

 

纏えば、鎧になるかもと全身に呪力を覆う。が、それは失敗に終わった。

 

(重い…これじゃまともに動けない。直哉との試合になったらまず速さが重要になってくる。)

 

金の呪力は、呪力でありながら、一定の質量があった。

この質量があって、斬撃の切れ味や威力が増しているのだが全身に纏うとなるとかなりの重さになった。

 

(やっぱり防御ならこっちか…)

 

七直は土の式神・(いわお)を展開する。

 

(巌は不動性、鉄ほど重くはないけど、そこそこ頑丈。媒介する地面や土があれば、呪力を流して隆起や沈下させることもできるか。地形操作できるのが強みだけど、直哉の速さに対応できるかというと難しいわね)

 

五行は万物を構成する元素として考えられてきた思想だ。

その本質は互いに影響し合いながらも、循環するもの。

相性と相克、この相性を上手く使いこなさなければならない。

 

(まずは…(ひたら)を展開し、辺りに水の呪力を撒く。)

 

七直を中心に、水たまりのような呪力が広がっていく。

道場は木の床なので、染み込まずにすぐ水浸しのようになった。

 

(ここで、(いつき)に切り替える…!)

 

すぐさま水の式神を解除し、木の式神・(いつき)を展開する。

木の呪力が水の呪力を取り込み、一瞬で地面から蔦のようなものが幾重にも繁茂した。

七直は、五行相生・相克の組み合わせこそ、この術式の真髄だと再認識した。

単体の力では直哉のスピードに対応できずとも、属性を切り替える速度で地形を操り、相手の動きを先読みすれば対抗できる。

 

(いまはこれが精一杯ね)

 

一息ついているところで、道場の入口から、冷ややかな声が聞こえてくる。

 

「ほーん、水遊びなんかして、余裕そうやん。七直ちゃん」

 

振り返ると、そこには弟の直哉が、皮肉な笑みを浮かべて立っていた。

 

「直哉、『お姉ちゃん』でしょう。実際に姉なんだから呼び方くらいちゃんとしなさい」

 

「嫌やわ。まだ勝負にも勝ってへんのに敬うのはおかしいやろ。まぁ、勝負のあとも、呼び方は変わらんと思うけどな。なぁ、七直ちゃん?」

 

「…まだ、術式は出てないんでしょう?直哉。何、様子見?」

 

「そんなんちゃうで。あんたが言うたんやろ。勝負や勝負。パパが、もうええやろって。明日の朝一や。」

 

「もう?術式がないのはフェアじゃないわ。お父様は何を考えてるの?」

 

「そらもう、僕の勝ちを確信しとるからやろ。術式なしでも勝てるっちゅうな。」

 

七直は困惑した。

もしかしたら、これはブラフであり本当は術式が発現したことを隠しているのではないかと思った。

そうに違いない。

それを前提で臨んだ方が良いと考えた。

 

「そう、分かったわ。明日の朝一ね。」

 

「おう。伝えたで。逃げんなよ。まぁ別にええけどな。」

 

七直は身が引き締まるのを感じた。

直哉は、七直の術式訓練をわざと見に来て、嘲笑しに来たのか。

 

(いよいよ、ね…。)

 

彼女の眼には、静かだが確固たる炎が宿っていた。

 

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式神はそれぞれ、灯《ともり》、氾《ひたら》、樹《いつき》、鉄《くろがね》、巌《いわお》と呼びます。ルビの振り方がわからなくてすみません。

12/5 ルビを追加編集しました!

12/19 誤字修正しました!ご報告ありがとうございます!
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