直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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勝負試合②

直哉との間合いがとれたことで、余裕が出来た七直。

その間に、直哉の様子を冷静に分析していた。

 

(少し遠かったせいで、捕まえられなかった。でも距離は十分ある。)

 

突き飛ばし、水の呪力を撒き、木の呪力を繁茂させたことで、直哉と七直の距離はかなり開いていた。

式神使いは、本人がたたかれると不利に陥りやすい。

先ほどの直哉との格闘がそうだった。

 

「クソッ!クソッ!女のくせに、調子乗りおって!」

 

苛立ちのあまり直哉の怒りは頂点に達していた。

負の感情は呪力の源だが、あまりある怒りと共に、呪力も駄々洩れになっている。

しかし、一瞬、直哉の姿がブレた様に感じた。

次の瞬間、直哉の全身から溢れ出た呪力の形が、まるで小さなコマのように明確な像を結んだ。

 

「―――ッ!?」

 

直哉の体が、さきほどまでの「意外と速い」とは比べ物にならないレベルの異常な速さで、七直に向かってくる。

 

(速い!速すぎる...!これが術式!)

 

七直は息を飲んだ。

訓練中に想定していた加速を遥かに上回る速度で動く直哉を捉えられずにいた。

だが、そんな状況にも関わらず、直哉の攻撃は七直には届かなかった。

直哉は一瞬消えては、七直のすぐ横へ攻撃が空振りしていたり、または七直の背後にいたりと、ちぐはぐな動きをしていた。

 

(直哉…七直との戦いにあてられて術式が目覚めたか。)

 

直毘人は息子の術式が発現し、内容も自身と同じ投射呪法だと確認した。

 

(が、いかんせん、術式に振り回されているな。さて、どうする七直?)

 

直哉の才能の開花を満足しつつ、七直の対応力を見定めていた。

もとより、どちらに転んでもいい勝負。

だが、なかなかどうして子供ながらも、術師として魅せられる勝負だ。

他の観衆も固唾をのんで見ている。

 

(直哉の動きが見えない。けど、法則性はある。)

 

七直は前後左右から来る直哉の攻撃をなんとかかわしつつ、その動きに注視していた。

 

(たぶん、直線的な動きしかできないんだわ)

 

直哉は七直の左右前後の空間に出現と消失を繰り返すが、その攻撃は常に一直線でそして単調だ。

怒りによる術式の暴走が、かえって彼の動きに単純なパターンを与えていた。

術式発現直後の直哉は、加速した状態から急激な停止や、体勢を崩さぬ曲線を完全に失っていたのだ。

 

(だとすれば、行動の手は読みやすい。今の直哉は曲線的な動きは難しいから、次に来るとしたら…ここ!)

 

七直は大胆にも直哉の加速中の軌道上に身を出した。

そして瞬時に式神・(いわお)を展開し、土の呪力を前方へ集中するように纏う。

 

ドォン!

 

土の呪力は、衝突の勢いを受け止め、直哉の体はフリーズするかのように止まった。

 

投射呪法は、自身の視覚を画面として、行動を決め打ちし、その行動を一秒で後追いし再現するもの。

その行動がキャンセルされると一秒のフリーズがペナルティとして課される。

 

つまり、直哉の加速を強制的に止めたことで、一秒の隙ができたのだ。

 

七直はそのタイミングを逃さず、直哉に組み付き、足払いをし、床に組み伏せて見せた。

さらに振りほどかれないよう、金の式神・(くろがね)を展開し呪力に重さを与え、完全に動けなくした。

 

「おっも!どけや!このデブが!」

 

衝突したダメージは少なくないが、まだ直哉はやる気があったようだ。

苛立ちが口の悪さに拍車をかける。もちろん七直は太ってなどいない。

抜け出そうともがくが、完全に技が決まっており、おまけに金の呪力で荷重された状態では、不可能だった。

 

「降参しなさい直哉。」

 

直哉は地面に横たわりながら、歯ぎしりとともに叫ぶが、その体は一寸たりとも動かない。彼の術式の発現は、未熟な怒りによって封じられた。

直毘人は、扇子を閉じ、高らかに宣言した。

 

「勝者、七直!」

 

観客席は、水を打ったように静まり返っていた。

直毘人の声が響くが、道場を囲む数十人の術師たちは、誰もその声に反応できない。

彼らは、相伝の術式を持つとはいえ、たかが六歳の少女が、当主の息子であり、しかも相伝の術式を発現した直哉を組み伏せるという光景を、現実として認識できずにいた。

直毘人は扇子を叩きつけ、静寂を破った。

 

「五条の小僧と同じ、六眼と無下限に対抗しうる術式か…!七直、お前は勝ったぞ」

 

直毘人の眼は、七直の勝利を評価しつつも、それ以上に、直哉の体が呪力をまとい「コマ」のように歪んでいる様子を満足げに見ていた。

直哉の術式が「投射呪法」であることを再確認し、七直の知性と直哉の才能という、二つの価値を手に入れたことに、当主としての興奮を抑えきれずにいた。

そして、直哉は拘束されたまま、七直を睨みつける。

 

「……離せ!このクソ女がぁ!」

 

「もう終わりよ、直哉。あなたは降参か、戦闘不能。いずれにせよ、勝負はついた」

 

七直は冷静に言い放ち、直毘人に向かって深々と頭を下げた。

 

「お父様。約束通り、勝ちました。私に権限をください」

 

そして勝った報酬を直毘人に提示することになる。

 




質問コーナー

Q.七直の好きな食べ物は?

A.煮物。給仕の女中と一緒につまみ食いしてました。煮物なら何でも好きですが、母が作る筑前煮が一番好き。




五行想術のポテンシャルの高さがやばすぎて、作者に扱えるか不安な今日この頃です。

12/15 修正しました。
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