直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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勝ち取ったもの

勝負を終えた後、すぐに七直は母・京子の部屋へ戻っていた。

病に倒れ、か細くなっても、京子のあふれんばかりの愛情が、七直の唯一の拠り所になっている。

今日は、弟・直哉との勝負に勝った。

父・直毘人と約束を取り付け、母の安全を保証し、使用人の理不尽な扱いに異議を申立てる権利をもらった。

七直はこの成果を母に聞いてもらいたくて、早足で戻っていた。

トットットットッ…と軽快な足音を立てて母の部屋の襖を勢いよく開ける。

 

「お母さま!やりました!」

 

部屋に入ると、布団から体を起こし薬を服用している京子の姿があった。

床に臥せってしまっていたが、七直の術式発現による待遇の改善により、適切な医療措置を受けられるようになった。

そのおかげで最近は、立ち上がって軽い作業くらいはできるようになるまで回復している。

興奮気味の七直を見て、京子は言う。

 

「こら、七直。屋敷で走るなんてはしたないです。もう少し落ち着きなさい」

 

と、京子は注意するが、その声色と表情はとても優しかった。

没落したとはいえ土御門家は格式高い名家。

京子からは、その教養と気品、優雅さがにじみ出ていた。

そしてそれは、娘の七直にも確実に受け継がれている。

 

「えへへ、ごめんなさい。でも、一早く伝えたいと思って…」

 

「慌てなくても、私はここにいますよ。ほらおいで。」

 

七直は興奮した面持ちを少し落ち着かせ、京子のそばへ駆け寄ると、そっと布団の脇に腰を下ろした。

 

「お母さま。聞いてください。私、直哉との勝負に勝ちました!」

 

七直は、直哉の術式発現 や、自身の五行想術の連鎖 については細かく話さず、ただ結果だけを簡潔に伝えた。

京子は優しく七直の頭を撫でる。

 

「ええ、聞こえていますよ。七直の頑張りは、お母さまが一番知っています」

 

「そしてね、お父様と約束した通り、二つの権限をもらいました!」

 

七直は身を乗り出し、京子の目を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「一つ目は、お母さまのこと。禪院家内の誰からも手出しができない、不可侵の領域として認めてもらいました。もう誰も、お母さまを理不尽に扱えません」

 

京子の表情が、一瞬で驚きと安堵に満たされた。

彼女は土御門の名家出身だが、直毘人の妾となってからは、禪院家でどれほどの冷遇と嫌がらせを受けてきたか。

七直の術式発現による待遇改善があったとはいえ、根本的な安全が保証されたわけではなかった。

 

「七直......!そんな、そこまでして……」

 

京子の目元に涙が滲んだ。

それは病の苦しみからではなく、娘の命がけの戦いが報われたことへの感動だった。

 

「これで、お母さまはもう安心してください」

 

七直は京子の手を握り、その温かさを感じながら、もう一つの権限についても伝えた。

 

「そして二つ目は、禪院家にいる非術師の方たちへの不当な扱いに、私が異議を唱える権利です」

 

京子は、目から零れ落ちそうになっていた涙を静かに拭い、娘の顔を覗き込んだ。

 

「七直は本当に優しい子ですね。自分のことだけでなく、他の人のことも考えて……」

 

七直は首を横に振った。

 

「違います、お母さま。私は、お母さまが不当に扱われるのを見てきたから、同じような苦しみを誰にも味わってほしくないだけです」

 

「七直…」

 

京子は静かに、言葉に耳を傾ける。

 

「この家は…強さだけを是として、弱者を踏みにじる。私は、それを少しでも変えたい。きっと、そのために私のこの力があるんだと。私の強さは、誰かを守るためにあるんです」

 

そう言い切った七直の目には、六歳の少女とは思えないほどの強い決意と光が宿っていた。

京子は、そんな娘の成長を誇らしく思いながら、深く頷いた。

 

「ええ。あなたは、私よりもずっと強い子になりました。七直、本当に頑張ったね。ありがとう」

 

京子は七直をそっと抱きしめた。この抱擁こそが、七直が禪院家で戦い続けるための、唯一の報いであり、次への活力になるのだった。

 

 

「今日はお祝いに、七直の好きなものを作りましょうか」

 

「やった!私、お母さまの作る煮物、大好き!」

 

「じゃあ、他の皆にも素材を分けてもらって一緒にお祝いしましょう」

 

「はい!」

 

 

そこからは、ささやかな催しになっていた。

禪院家で虐げられてきた女中や非術師などが集まり、七直の勝利を祝い分かち合った。

本来であればこんな事でさえも満足にできなかった。

いつも口出しして、下の者たちに理不尽を強いていた奴らは、いまや力を示した七直に怖気づき、黙認せざるを得なくなった。

七直は改めて、この光景を、守るべきものとして深く心に刻んだ。

今まで暗い顔をして俯くだけだった者たちが、今は少しだけ背筋を伸ばし、ささやかながらも笑顔を見せている。

母の京子も、久しぶりに心からの安らぎを得て、柔らかい表情で煮物を取り分けていた。

 

(力がなければ、この笑顔も守れない。力がなければ、理不尽に踏み躙られるだけ)

 

禪院家の「呪い」のような掟。

強さこそが正義という歪んだ価値観。

だが、皮肉にも七直はその「強さ」を行使することによってのみ、この小さな幸せの空間を勝ち取ることができたのだ。

 

(私は、もっと強くならなきゃいけない。直哉に勝っただけじゃ足りない。誰にも文句を

言わせないくらいの力と、権利を…それこそ…私が禪院家の当主にならなければ)

 

七直は、煮物の温かい湯気の向こうで微笑む母を見つめながら、膝の上で強く拳を握りしめた。

それは、彼女が「禪院家の異端児」として茨の道を歩み始める、本当の第一歩だった。

こうして、七直の運命を大きく変える一日が、静かに幕を閉じた。

 





七直めっちゃええ子なんですよ。

質問コーナー

Q.母親の京子の実家、土御門家ってどんな感じ?

A.陰陽師で有名な安倍晴明につながっている家系です。呪術的に強い権威があり、相伝の『五行想術』は使い手によってその戦闘スタイルが大きく違うことが特徴でした。故に、一定の対策を取ることが難しい術式だったのですが、200年~300年くらい前から、ぱったりと術師が現れなくなりました。そこからみるみる没落し、現在では形骸化したかたちで、今でも残っています。そこから苦肉の策として、禪院に支援を申し出たら、結果なんと禪院に五行想術を盗られてしまった、というわけです。

行間がおかしかったので、修正しました。
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