それは乙骨たちの合宿から一か月ほど遡った頃の出来事。
2017年、8月。
京都の夏は、盆地特有の逃げ場のない熱気で満ちていた。
だが、山間部にある薄暗い廃トンネルの中だけは、ひんやりとした不気味な冷気が淀んでいる。
「はい、終わりっ!雑魚すぎて退屈だわー」
制服のスカートをはためかせ、菜々子が自身のスマートフォンを無造作にポケットへ突っ込んだ。
足元では、トンネルに巣食っていた三級呪霊が、美々子の操る縄によって無残に絞め殺され、黒い霧となって消えていくところだった。
「お疲れ様、菜々子。……ねぇ、それ本当に大丈夫?」
美々子がぬいぐるみを抱きしめながら、少し不安そうに菜々子の手元を覗き込む。
菜々子は使い慣れた画面を器用にスワイプしながら、邪気の無い、年相応の笑みを浮かべていた。
その画面には、さきほど祓った呪霊の様子が鮮明に映り込んでいる。
「大丈夫だって!ほら見てよ、さっきの呪霊が消える瞬間の動画。普通のカメラじゃ絶対に映らないのに、私のスマホだとバッチリ顔まで映ってるじゃん。超リアルなCGってことにしとけば誰も本物だなんて思わないって」
彼女の術式によって長年呪力を通され続けたその端末は、すでに持ち主の意思に関わらず、世界の輪郭を歪めて写し出す二級呪具へと変質しつつあった。
「でも……」
「いいじゃん、ちょっとだけ。誰も私たちの頑張りなんて見てくれないんだもん。ちょっとくらい自慢したってバチは当たらないよ」
その夜、菜々子が軽い気持ちで動画共有アプリに投稿した15秒のショート動画。
それは#心霊スポット#ガチのやつ、というありふれたタグと共に、広大なネットの海へと放流された。
それが、すべての始まりだった。
◆
翌朝、事態は美々子の悪い予感を遥かに超えた速度で膨れ上がっていた。
「……ねぇ、菜々子。これ、大変なことになってない?」
ベッドの上で、美々子はスマートフォンの画面に表示される数字を見て、背筋が凍るのを感じた。
昨日投稿した動画の再生数が、万単位どころか、数十万、数百万へと跳ね上がっていたのだ。
コメント欄は、文字通り狂乱の様相を呈していた。
『うわ、何これ映像のクオリティ高すぎ!』
『嘘だろ、一瞬映った女の子が持ってるスマホ、画面が歪んでないか?』
『CGじゃないだろこれ、光の反射がおかしい。本物の変死体(?)映ってね?』
菜々子は通知の嵐に目を輝かせ、初めて味わう世界からの承認に頬を紅潮させていた。
「すごーい!コメント止まんないんだけど!私たちの動画、今ネットで一番バズってるよ、美々子!」
顔も見えない無数の人間が、自分たちの戦いを絶賛している。
それが堪らなく誇らしかった。
だが、美々子の額からは、冷たい汗が伝い落ちていた。
動画はすでに他のまとめサイトやTwitterに無断転載され、削除不可能なレベルで拡散の網を広げている。
「菜々子、もう消そう。これ、傑様に見つかったら……」
「えー?なんでよ、誰も本物の呪霊だなんて気付いてないよ?大丈夫だってば――」
その時だった。
二人の部屋の障子が、音もなく、けれど絶対的な威圧感を持って外から引き開けられた。
そこに立っていたのは、いつもなら二人を娘のように温かく迎えるはずの、夏油傑の側近の門下生だった。
その顔には、一切の血の気が引いている。
「美々子様、菜々子様。……至急、大広間へ。当主代理、および傑様がお呼びです」
門下生の声は、聞いたこともないほどに硬く、震えていた。
その背後、廊下の奥から漂ってくるのは、禪院家の総力を挙げた火消しの結界術が軋みを上げるような、重苦しく、ひりつくような沈黙だった。
菜々子の手の中で、なおも新着の通知を告げるバイブレーションが、虚しく震え続けていた。
◆
重厚な木造の回廊を進むにつれ、夏のうだるような暑さは消え失せ、代わりに肌を刺すような、冷徹で硬質な呪力の圧が二人を包み込んでいった。
「ねぇ、菜々子……本当に大丈夫かな」
美々子がいつものぬいぐるみの首元をぎゅっと握りしめる。
その声は、恐怖で微かに震えていた。
「大丈夫っしょ……多分。ちょっと動画がバズっただけだし、見た人が勝手に騒いでるだけだしさ……」
菜々子は強がってみせたが、その足取りはいつになく重い。
やがて、広間の前にたどり着くと、門下生が震える手で襖を引き開ける。
「失礼いたします。美々子様、菜々子様をお連れいたしました」
「……入りなさい」
奥から響いたのは、いつもの優雅さを完全に削ぎ落とした、地を這うような七直の氷の声だった。
一歩、広間へと足を踏み入れた瞬間、双子は本能的な恐怖で心臓が跳ね上がった。
(あっ、コレやっば……)
冷や汗が背中をダラダラと伝い落ちる。
広間の奥には当主の禪院直毘人、その左右には直哉、七直、そして夏油が並んでいた。
この空間を支配する静寂は、双子にとって途方もない永遠の時間に感じられた。
「菜々子、美々子。そこに座りなさい」
七直の冷たい声が、広い空間にぴしゃりと響き渡る。
逆らうことなど到底できない絶対的な命に、二人は崩れ落ちるようにして、その場に固く正座した。
沈黙が肉体をじりじりと押し潰しそうになったその時、七直が手元の報告書へと視線を落とし、静かに口を開いた。
「今日、なぜあなたたちがここに呼ばれたのか、分かっているわね?」
「ど、動画の事ですよね!ごめんなさい!すぐ消しますから!だから――っ」
極限の恐怖から逃れるように、菜々子が縋るような声を上げて弁明した。
だが、その言葉を遮るように、左前の直哉が鼻で笑い、冷酷な現実を突きつける。
「ハッ、今更消したところで、意味ないで」
「え……?」
「お前らが面白半分でネットの海に放流したあの動画な、すでに別の動画サイトやらSNSに何万件って無断転載されて拡散しとるわ。元を断ったところで一生残り続ける。今の時代は怖いなぁ、全く」
直哉の容赦のない言葉に、菜々子は息を呑み、美々子はぬいぐるみを握る手にさらに力を込めて俯いた。
七直が手元の分厚い報告書を、パシィンと冷たい音を立てて畳の上に放り出す。
「術師の秘匿は呪術界の鉄則よ。あなたのスマートフォンは、長年術式を通したことで呪具に近い性質を帯びていた。そのせいで、本来一般人には見えない呪霊まで、映像として記録してしまった」
畳の上に広がった報告書を見下ろしながら、夏油が口を開く。
「……撮れてしまっただけなら、まだ取り返しはついた。でも、菜々子。君はそれを世界中へ公開した。その結果、どうなるかを考えたのかい?」
「そ、それは……」
理路整然とした事実に言葉を詰まらせる菜々子だが、あの優しい夏油が静かに、けれども確実に怒っていることが衝撃だった。
「何百万人もの人間が、あの映像を見た。怖い、呪われている、その負の感情が、ネットを通じて一つの場所へ集中した。ただの廃トンネルだった場所は、今では呪霊が次々と生まれる温床になっているわ」
七直は一度言葉を切り、青ざめていく双子を冷徹に見据えると、さらに追い詰めるようにその淡々とした告発を続けた。
「新たな呪霊の発生、ネットを通じて押し寄せる数百万人の認知の歪み、そして面白半分で引き起こされる心霊スポットの拡散……。二人とも、もし一般人が興味本位であの場所へ行って、命を落とすようなことがあったら、その命の責任を取れるの?」
七直の言葉は、感情的に声を荒らげるものではなかった。
だからこそ、逃げ場のない刃となって、正座する双子の心臓を的確に抉り抜いた。
「ひっ……、あ、う……」
菜々子の喉から、引き攣ったような悲鳴が漏れる。
「そして美々子。その場に一緒にいたのなら全力で止めるべきだったわ。少しでも嫌な予感を感じてもなお止めなかった時点で、菜々子と同罪よ」
美々子はすでに大粒の涙を浮かべ、肩を激しく震わせていた。
ただの若気の至りだった。
ちょっと褒められたくて、認めてほしくてやったこと。
浅はかな指先一つの操作が、巡り巡って、見知らぬ一般人の命の危機に直結している。
その事実のあまりの重さに、二人は呼吸の仕方を忘れたように青ざめるしかなかった。
「ほんま、お前らのおかげで、家が総出で数日出ずっぱりやわ」
直哉は不機嫌を一切隠そうともせず、座布団の上で胡坐をかき、義手をギチリと鳴らし、忌々しげに吐き捨てた。
「動画本体は消してもどうにもならんからな。ネット上の情報を埋もれさせるため、偽動画まで大量に流して火消ししとるわ」
直哉の容赦のない言葉が、双子の細い肩をさらに縮こまらせる。
だが、大人たちの追及はそれだけで終わらない。
「それだけじゃないぞ、小娘」
どしりと構えた上座から、禪院直毘人が不敵な笑みを浮かべて続けた。
その手は瓢箪を掴んでいるが、一瞥するその瞳の奥には、御三家の当主としての底知れない冷徹さが宿っている。
「映像に写ったあのトンネルは、一般人が立ち入らんように、周辺の土地一帯を禪院が丸ごと買い叩いて私有地として管轄に置いたわ。……億は下らん金が動いたぞ」
直毘人はガハハと豪快に笑ってみせたが、その目は一切笑っていなかった。
何百万もの認知がもたらす呪いの温床化という前代未聞の事態。
それを力技で封殺するために、禪院家という巨大な組織の財力と政治力が、裏でどれほど血を流すように消費されたか。
その現実的な数字を突きつけられ、菜々子は頭が真っ白になり、美々子は声を殺して涙を流すことしかできなかった。
「……そして、傑」
七直が静かに視線を向けた先で夏油が、ゆっくりと身動ぎした。
「今回の重大な呪術規定違反を、総監部は非常に重く見ているわ。本来なら、秘匿を破った術師として、あなたたち二人が直接、呪術総監部へ連行され、厳罰に処されるべき事案よ。それを……傑がすべて、自分の監督不行届として身代わりに泥を被ってくれたの」
七直のその言葉が、広間に落とされた。その瞬間、菜々子と美々子の心臓が、恐怖とは全く違う痛烈な衝撃で跳ね上がった。
「傑、様が……?」
菜々子が消え入りそうな声で呟き、夏油の顔を見上げる。
だが、夏油はただ静かに目を伏せたまま、何も語らない。
総監部。
それは呪術界の最上層部であり、夏油が苦々しく思い、軽蔑している保身と権力に塗れた老人たちの巣窟。
自分たちをあの村から救い出してくれた大好きな人が、自分たちの軽率な行動のせいで、あの忌々しい老人たちの前へ呼び出され、頭を下げ、冷言を浴びせられる屈辱を味わったのだ。
自分たちが叱責されることよりも、罰せられることよりも、何倍も、何十倍も辛い現実。
大好きな夏油の尊厳を、自分たちの浅はかな承認欲求が踏みにじったのだという事実が、刃となって双子の胸に深く突き刺さった。
「傑様……っ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
菜々子は畳に額を擦り付け、声を上げて泣き崩れた。
美々子もぬいぐるみを抱きしめたまま、嗚咽を堪えきれずに激しく肩を震わせる。
「わたしも……わたしも、菜々子が嬉しそうだからって、止めなかった……っ。ごめんなさい……っ、ごめんなさい!」
涙ながらの謝罪が、静まり返った広間に小さく響き渡る。
大人たちの厳しい追及にもどこか現実感を持てずにいた二人が、今、初めて己の犯した罪の本当の重さを理解し、心から猛省していた。
沈黙ののち、夏油は静かに立ち上がり、二人の前まで歩を進めた。
そして、その場に膝をついて双子の目線に合わせると、二人の小さな頭に、ぽんと大きな手を置いた。
「家族のためなら私はいくらでも泥を被るつもりだ。二人が無事で、一般人にもまだ犠牲者が出ていない。それが、今回の唯一の救いだ」
夏油の声は、いつもの穏やかさを少しだけ取り戻していた。
だが、その手の温もりが、逆に二人の罪悪感をこれ以上ないほどに刺激する。
「けれど、君たちのしたことは、多くの人々の平穏を脅かし、仲間たちに多大な負担をかけたことは変わらない。自分がどれほど強力な力を持っているのか、それを扱う責任がどれほどのものか、今回は身を以て学びなさい」
「……はい……っ」
二人が涙を拭いながら小さく頷くのを見届け、夏油が七直の方を振り返る。
七直は厳格な裁判官のように、手元の書類を指でトントンと叩き、最終的な処分の申し渡しを始めた。
「処分を申し渡します。……菜々子、あなたのスマートフォンは二級呪具として没収し、禪院家の忌庫へ厳重に保管します」
「わたしの、スマホ……」
「ええ。今後一ヶ月間、あなたには一切の通信端末の使用を禁止します。謹慎処分が解けた後、新しいスマートフォンを買い与えますが、それまでは電子機器に触れることも許しません」
七直の宣告が、広間に凛と響く。
「二人には、一ヶ月間、禪院家の全ての雑用を命じます。厨房の手伝いから廊下の雑巾掛け、庭の掃除まで、一切手を抜かずにこなしなさい。さらに、あなたたちが原因で呪いの温床となってしまったあのトンネルについては、定期的に湧き出る呪霊の祓除任務を義務付けます。自分たちの撒いた種は、自分たちの手で刈り取りなさい。もし、自分たちの手に負えない二級以上の呪霊が発生した場合は、直ちに炳に連絡すること。分かったわね」
「……わかりました……」
「肝に銘じます……」
二人は深く頭を下げた。
スマホを奪われ、雑用を命じられる罰など、夏油が受けてくれた屈辱に比べれば、いくらでも耐えられるものだった。
「……ま、これに懲りたら、二度とこんな阿呆な真似はすんなや」
直哉がふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
口調は相変わらず最悪だったが、その言葉にはこれ以上の追及はしないという、彼なりの不器用な落とし所の提示が含まれていた。
「よろしい。話は以上よ。頭を上げなさい」
七直の声から、それまでの冷徹な硬さが幾分か和らぎ、本来の静かな温かさが戻っていた。双子が恐る恐る涙で濡れた顔を上げると、七直は手元の書類を綺麗に整え、二人を諭すように見つめた。
「雑用は明日から。いい?菜々子、美々子。自分たちの不始末を、こうして今、家中の人が必死になって補おうと頑張っているわ。それに報いるためにも、明日からは一切の言い訳をせず、一生懸命に励みなさい。……もう行って良いわ」
「……っ、はい……!」
「がんばります、絶対、がんばりますから……っ!」
二人は何度も何度も畳に頭を擦り付け、声を詰まらせながら応えた。
広間に流れ出た涙の跡を拭う間もなく、お互いの冷え切った手を握りしめ合い、逃げるように、けれど深く深く反省の念を背中に背負いながら、大広間を後にした。
◆
襖が静かに閉まり、廊下を遠ざかっていく双子の小さな足音が完全に消え去ると、広間には再び重厚な沈黙が戻ってきた。
「――やれやれ。随分と手厳しいお裁きだったね、七直」
それまで完全に気配を消し、静観に徹していた夏油が、ふっと肩の力を抜いて息を吐き出した。
いつもの穏やかで、どこか浮世離れした微笑がその顔に戻っている。
「手緩いくらいよ、傑。本来なら総監部直轄の懲罰房に放り込まれても文句は言えないわ。それを、あなたの監督不行届として強引に処理したのだから、あれくらいは身に染みてもらわなければ教育にならないわ」
七直はふぅ、と小さく溜息をつき、自身の髪を軽く指先で整えた。
その表情には、裁判官としての冷酷さではなく、親代わりとして子供たちの未来を本気で案じる、深い慈愛の色が滲んでいる。
「ガハハ!あの小娘どもも、これで少しは道具の怖さが分かっただろうて。ネットだ何だと、今の若いモンのやることは、儂には到底理解しきれんわ」
上座の禪院直毘人が、ようやく手元に置いていた瓢箪を掴み、中身の酒を美味そうに喉へと流し込んだ。
その豪快な呑みっぷりとは裏腹に、その鋭い眼光はすでに次の呪術界の動向を見据えている。
「しかしなぁ、親父。今回の件、笑い事では済まされんのは事実や。ネットから呪いが波及するやなんて、前代未聞や。今回は何とかなったが、もしこれが大都会のど真ん中で起きたり、もっと拡散力の強いインフルエンサーとやらに目ぇつけられたりしたら、敵わへんで」
直哉がふん、と鼻を鳴らしながら、嫌悪感を露わにして髪をかきあげた。
ここ数日の激務で彼の疲労は、限界に達していた。
だがその言葉には、呪術界の未来に対する極めて冷静で的確な危機感が含まれている。
「直哉の言う通りね」
七直が静かに頷き、空になった書類の束を見つめた。
「今回分かったのは一つ。ネットは、人の認知を一瞬で共有させる。呪術界はその前提で成り立っていない」
「あぁ、そうだね」
夏油が細い瞳をさらに細め、窓の外の照りつける夏の太陽を見据えた。
「総監部の老人たちも完全に対応できていなかったよ。だからこそ新しい規定が必要だ」
夏油は視線を七直、そして直毘人へと戻した。
「私たちが先頭に立って、新しいルールを作らなければならない。総監部が示す規定と、現代のネットリテラシーを絡めた、術師のためのマニュアルをね。禪院家と私たちが協力してそれを作れば、上層部も文句は言えまい?」
「ふむ……。呪術界の古い皮を一枚剥ぐ、良い機会かもしれんな。総監部へ出すリテラシーマニュアルの主導権は、こちらで握らせてもらうとするか」
「後日、また傑の総監部への召喚があるわ。それまでに草案をまとめて提出できる形にしておけば、向こうも下手には出れないでしょう」
「助かるよ、七直。……それに直哉と、直毘人殿も。私の連れ子とはいえ、ここまでの多大なご支援、真に感謝に堪えません。禪院の財力と名門の威光がなければ、今頃あの二人を守り切ることは不可能だった」
夏油が上座の二人へ向けて、いつになく真摯に、深く頭を下げた。
「ガハハハ!何を水臭いことを言うか!」
直毘人は瓢箪の酒をグイと煽ると、割れんばかりの大声で喉を鳴らして笑った。
「お前が七直の婿として禪院に入ってからというもの、お前も、あの小娘共も立派な身内よ!身内の不始末に首を突っ込んで守り抜くなんぞ、御三家の当主としちゃあ当然の役目。まぁ、あの跳ね返りどもが、よもや我が禪院の懐に億単位の穴をあけるほどの大物を仕出かすとは思わなんだがな!」
「全くや。あのガキどものおかげで、俺の今月の小遣いまで削られたら堪ったもんやないで」
直哉がふん、と横を向いたが、その耳の後ろは相変わらず微かに赤い。
口ではどれだけ最悪な文句を並べようとも、彼が誰よりも現場を駆け回り、双子の未来を守るための盾の一枚になってくれたのは紛れもない事実だった。
「ふふ、これからも頼りにしてるわよ、直哉」
七直がくすくすと悪戯っぽく笑い、張り詰めていた広間に、ようやく穏やかで涼しい風が吹き抜けた。
現代の歪みが生み出した、誰も完全な悪人のいない、けれど一歩間違えれば未曾有の大災害となっていた不慮の事故。
大人たちの泥臭くも圧倒的な火消しによって、少女たちの未来は、そして呪術界の新たなルールは、この激動の夏を通じて確かに形作られようとしていた。
時系列がばらついてすみません。でも菜々子の術式を考えたら居ても立っても居られませんでした。
質問コーナー
Q.菜々子のスマホについて。
A.長年、術師が使った道具が呪具になるなら、菜々子のスマホも呪具化するだろうな、と思って書いた次第です。あくまでスマホを通して呪霊が見えるようになるだけ。ですが、このスマホなら写真にも写るし、動画にも映ります。
でも被写体の干渉は菜々子の術式を載せないと、発動しません。
7月7日は七直の誕生日。特別に二話分お届けします。
(もうストックないなった)
これからもよろしくお願いします。
誤字脱字報告ありがとうございます。皆様のおかげでまた一歩、この作品が良くなりました。