直哉のお姉ちゃんになっちゃった…。   作:ザボン漬け

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異議

七直の口出し権は遺憾なく発揮された。

主に女中や非術師の理不尽な体罰、虐待が次々に指摘され、彼女に臆した輩は鳴りを潜めていく。

だが、一部ではそうもいかなかった。

七直よりも強い術師たちは態度を変えなかったのだ。

 

特に、七直の叔父にあたる禪院扇は、彼女の異議申し立てに反発した。

「自分の娘だからと甘やかしすぎではないか」と。

さらに七直に対しても、「あくまで異議申し立ての権利を得ただけであり、我々がそれを聞く必要はない」と屁理屈をこねていた。

禪院の悪いところを詰めて、煮詰めたような、前時代的な保守派だ。

また、「子供に恵まれただけで当主になることができた」などと言い、兄である直毘人にも憎しみや妬みの感情を持っており、非常に鬱屈とした性格をしていた。

七直に直接手を下さないのは、彼女本人ではなく兄の直毘人を恐れているためであり、故に遠回しに、使用人や女中、無理難題を強いて七直を孤立させようともしていた。

 

いつも機嫌が悪そうで不愛想、そして陰湿な嫌がらせをしてくる扇の事が、七直は大嫌いであった。

 

そんな中、彼女の耳に信じられない出来事が耳に入って来た。

 

 

非術師が呪霊の蔓延る懲罰房へ連れていかれた、と。

 

 

七直は足早に、屋敷地下の懲罰房へと向かっていた。

背後には、扇の身勝手な振る舞いに怯える数人の女中たちが続いている 。

そこには、抜刀こそしていないものの、不愉快そうに腕を組み、冷笑を浮かべて立ちふさがる当主の弟、禪院扇の姿があった 。

 

「扇叔父様!非術師の者を呪霊のいる懲罰房へ放り込んだというのは本当ですか!?」

 

七直の声は怒りで震えていた。

これは単なる規律の執行ではなく、明らかな殺意に近い虐待である。

 

「ほう、随分と騒がしい姪だ。これは家の規律に従った正当な処置。呪具の管理を怠った者への、相応の報いだ」

 

扇は目を細め、陰湿な光を宿した瞳で七直を睨み据える。

兄である直毘人への劣等感を抱え、その娘である七直を孤立させようとする彼の悪意が滲み出ていた 。

 

「呪具の紛失など、あなたの自作自演でしょう!今すぐ扉を開けてください!」

 

「断る。呪具の責任者としてしかるべき処罰、もとい教育なのだ。異議申し立ての権利はあるだろうが、私が今すぐ聞き入れる義務はない」

 

「責任者? 叔父様、あなたがしているのは責任ある管理ではなく、ただの鬱憤晴らしです! 非術師を、身を守る手段もない者を、呪霊の群れに放り込んで、その人の『罪』とやらが消えるのですか?」

 

七直の指摘に、扇の顔が屈辱で歪んだ。

 

「黙れ、小娘が。直毘人に似て人を見下すことは一人前だな。強者こそが禪院、弱者は土くれ、それがこの家の理だ。その男が死ぬか生きるかは、奴自身の『価値』が決めること。術師であるお前が首を突っ込む道理はないわ!」

 

「その理がこの家を腐らせていることに、なぜ気づかないのですか!」

 

七直は吠えるように反論する。

 

「扇叔父様、あなたは強い術師かもしれないけれど、心は誰よりも貧しい。当主として選ばれなかった悔しさを、抵抗できない、下の者にぶつけるなんて……」

 

七直は、子に恵まれただけで当主になったと兄を妬み、その鬱屈とした感情を弱い者へぶつける扇に対し、深い軽蔑を覚えた 。

 

「……あなたには、人としての心も、禪院としての矜持もないのですか!恥を知りなさい!」

 

「貴様ぁ…!」

 

扇の呪力が一気に膨れ上がり、周囲の空気が重く澱んだ。

だが、七直は瞬き一つせず、真っ直ぐに叔父を見据えた。

彼が自分を殺せないことを、そしてここで引けば二度と誰も守れないことを理解していたからだ。

 

「……今すぐそこを退いてください。さもなければ、この件をそのままお父様に報告します。 『扇叔父様が、当主の直轄権限を妨害した』と」

 

「…チッ」

 

直毘人の名を出され、扇は忌々しげに顔を背けた。

その隙を逃さず、七直は鉄格子の重い扉を強引に引き開け懲罰房へ入っていく。

彼女を止めることはできず、扇の舌打ちが虚空に響くだけであった。

 

 

懲罰房。

禪院家の地下にあり、多くの呪霊がひしめく魔窟。

懲罰の他に、術師の訓練に使用され、いろんな意味で世話になった人は多いだろう。

換気があまりできていない沈んだ空気と、呪霊特有の不快な気配に満ちていた。

 

七直は式神・灯を展開し、光源を確保すると、周りを見渡し放り込まれた人を探し始める。

 

(早く助けないと…!)

 

その時、奥から鈍い衝撃音が響いた。

何かが粉砕されるような、圧倒的な物理の音。

曲がり角の先、わずかな明かりを背負って立っていたのは、一人の青年だった。

20歳前後の、逞しい体躯を持ち、手には呪霊の血に濡れた木材を握っている。

 

この男が、扇が「非術師」として死地に放り込んだ人物だ。

だが七直は、彼から放たれる圧倒的な「生存本能」のような「絶対的強者」の気配に言葉を失った。

 

「……何しに来た、お嬢様。ここはあんたみたいな『才能ある子供』が来るところじゃないぜ」

 

この非術師とは、禪院甚爾だったのだ。

 





七直は絶対に扇と相容れないと思ってました。


質問コーナー

Q.七直の趣味は何ですか?

A.手芸です。七直は手先が器用なので、手芸全般いけます。母と一緒に折り紙やお手玉を作る瞬間が何よりも大切な時間になってます。


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