あなたの一生の後悔(トラウマ)として添い遂げるよ
Q.大切なものって、なあに?
A.今失くしたそれ(信頼)
…欠片も笑えねぇ。
目の前で急にバラバラ死体になられればこうなる。
目を覚ます。
ベッドから体を起き上がらせる。見覚えの無い場所だった。
「…此処は?」
「病院だ。アビドス近郊のな」
聞き覚えのある声に振り向く。
「マコト議長?何故此処に?」
「お前が倒れたと聞いて駆け付けたに、決まってるだろう」
「それは…、とんだ御足労を」
「そんなことを気にするんじゃない。…全く、心配かけさせおって」
マコト議長は心底安堵したように、そう言葉を零す。
…迫撃砲が直撃した事を黙っていたのは事態が大きくなるのを避ける為であったが、こうなってしまっては寧ろ逆効果である。
後悔するつもりは毛頭無いが、心配を掛けさせる結果となった。それは事実である。ならば伝えるべきは、謝罪では無く感謝であろう。
「有難う御座います。マコト議長」
「…フン。お前も、我が万魔殿の一員だからな」
…愛されている自覚はあった。だがどうやらそれは、私の想像以上であったようだ。
その後、病室に飛び込んで来た万魔殿の四人に泣きながら抱き付かれた。
私は、彼女達に想像以上の心労を掛けさせてしまった事に、反省の感情を抱くのだった。
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それから少し話をした後、マコト議長達は帰って行った。どうやら仕事の途中で抜け出して来たらしく、あまり長居出来ないそうだ。
そしてそれと入れ替わるように、今度は先生が見舞いに来た。
”カイカ、大丈夫?”
「ええ、腕も脚も元通りです。何も問題ありません」
”そっか…”
沈黙。恐らく話す内容を吟味しているのであろう。私はそれを静かに待つ。
”ごめんね”
「何故?」
本当に意味が分からなかった。
”私は、何もできなかったから…”
ああ成程、そういう事か。
「それは、私が倒れた事とは関係ありませんよ」
”そんなことない!”
諭すようにそう告げたが、どうやら先生にとっては違うらしい。
”だってカイカ言ってたでしょ!柴関ラーメンが襲われたのは私のせいだって!”
”それに、私が何もできなかったのは本当のことだよ…。結局、君が全て解決してしまった”
”私は…、私は、何もしてない。先生なのに…。君に、全て、責任を押し付けて…”
「それは違います」
そう、それだけは、違うのだ。
「先生、貴女はアビドスを訪れた事を後悔しているのですか?」
”それはない!助けを求める生徒がいるなら、そこに駆け付けるのは先生として当然のことだからね”
「ええ、そうでしょう。そうでしょうとも」
そんな貴女だから。
「だから、私はあの場に居たのです」
私は、力になりたいと思ったのですよ?
「貴女が、要らぬ責任を負う必要が無いように」
”…え?”
「今回の件、私は事前にある程度の予測が出来ていました。故に、素早く駆け付ける事が出来るよう、アビドスに居たのです」
これは、唯のお節介に過ぎなかった。
「実際、口先だけで丸め込む自身はありました。…例えそれが失敗しても、ヒナ委員長が居なければ風紀委員会全員を相手にしても制圧出来ますし」
そうすれば、本当の意味で内輪揉めとして処理出来た。
だが現実は、
「まさか、警告無しで迫撃砲を撃ち込んでくるとは想定外でした」
貴女を巻き込む結果となった。
「…先生、気が立っていたとは言え、恰も貴女に責任を押し付けるような発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」
だから、謝るべきなのは私の方だ。
”ちょ、ちょっと、なんでカイカが謝るの!?むしろカイカは被害者でしょ?!”
「…マコト議長がヒナ委員長に連絡した時、ヒナ委員長は既に風紀委員会の詰め所に帰って来ていたそうです」
「私があの場に居なくても、然程間を置かずヒナ委員長は駆け付けていたでしょう」
「つまり、私が勝手に気を回した結果、勝手に傷付いただけなのです」
だから本当に、先生が責任を感じる必要など無いのだ。
”…それでも、カイカが傷付いたのは事実で…”
「いいですか、先生」
尚も自身を責め続ける先生の言葉を遮る。
「私は、己が責任を、誰かに譲るつもりなどありません」
「何故ならそれは、己の選択を否定する事に等しいからです」
「先生は、私の行動を否定するのですか?」
目の前にはポカンとした顔の先生が。そして自嘲するように笑った。
”君、結構メチャクチャなこと言ってない?”
「でしょうね」
だが、これが私の生き方だ。
”…ありがとう、助けに来てくれて”
「フフッ、此方こそ」
嗚呼。ようやく、笑ってくれた。
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その後は先生と他愛も無い話をしていた。すると今度は柴大将とセリカが病室に入ってきた。
先生は気を利かせて退出していった。
開口一番に礼を言われた。守ってくれてありがとう、と。
だが私はそれを素直に受け取る気にはなれなかった。結局、店は壊されてしまったのだから。
そう言ったのだが、守ろうとしてくれたこと、自分たちのために怒ってくれたことが嬉しいのだと返された。
それに、元々近い内に見せを畳む予定だったと告げられた。復興費用もいらない、とも。
大将のことだから、そんな気はしていた。それに、既にあの土地がカイザーの所有になっている事は知っていた。だから、そう遠く無い内に見せを畳まざるを得ない状況にはなるだろうとは思っていた。だが、こんな形で…
そう気落ちしていたのだが、しばらくは屋台で柴関ラーメンを続けるつもりだそうで、セリカも引き続きバイトとして働くそうだ。
「だから…、今度からは客としてラーメンを食いに来てくれよ?」
…分かっていた。何時までも無給で働き続けているのは不健全だという事は。これは、大将なりの気遣いなのだろう。
そんな柴大将に私は、親離れにも似た感情を抱くのであった。
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「委員長、その…これは、いつまで書けばよいのでしょうか…?」
「…今200枚くらいでしょう。自分で1000枚書くって言ってなかった?」
「それはその、それくらい反省してますという比喩でして…」
「口より手を動かしなさい」
「が、頑張ります…」
風紀委員会本部の執務室にて、天雨アコは地獄に直面していた。
とは言え事の発端は、自業自得とでも言うべき物であった。
倒れたその日の内に目覚め、そのまま退院していった竜胆カイカ。
翌日、当たり前のように登校してきたカイカに、風紀委員会総出で平謝り。
一悶着あると思いきや、割と普通に謝罪が受け入れられる。ホッとする一同。
「誠意は、行動で示して頂きましょうか」
…まあ、当然の事であった。
一度失われた信頼が、謝罪一つで取り戻せる筈も無く。
全員の視線が一斉に向けられる。その人物とは勿論…
『わかりました!反省文1000枚書きます!!』
…テンパりまくったアコは、とんでもねぇ事を口走った。
ならばやってもらいましょうか。となって、今に至る。
ちなみに、命令された立場とは言え騒動に加担した幹部であるイオリとチナツにも罰が下されていた。
そちらは反省文100枚。ただしこれは情状酌量と言うよりも、「さっさと終わらせて働け」という意味合いが強かったりする。
そしてその間、幹部連中が抜けた穴を誰が埋めているのかと言えば、
「早く終わらせなさいよ。私たちの代わりにカイカが動いてくれてるのだから」
「…元気すぎませんか、あの人」
カイカに、病み上がりという概念は無い。
「…ヒナ委員長が、あの人を欲しがる理由が分かりました。まさか、あれ程までの強さを持つとは思ってもいませんでした」
「多分、アコはまだカイカの価値を理解出来てないわ」
「それは、どういうことですか?」
アコの疑問に、ヒナは嘆息した。気付いてなかったのか、とでも言わんばかりに。
そして、衝撃の真実を告げる。
「カイカがゲヘナ学園に入学してから、自治区内における暴動発生件数が4割減少したのよ」
そんなバカな。アコは言葉すら出ない程に驚いた。
「それにね、あの子が戦うと周辺の建造物への被害がほとんど無いのよ。最早こだわりの域ね」
さらっととんでもない事実が追加された。
「ついでに貴女が反省文を書いてる間に溜まっていく書類仕事まで終わらせていったわ」
戦闘以外もこなせるのかよ。
「…私たちの存在意義ってあるんですかね?」
「そんなこと言わないの。カイカがマコトたちに取りなしてくれたおかげで風紀委員会の予算ゼロにされずに済んだのよ?」
そうなのである。今回の件で風紀委員会は、カイカに大怪我を負わされブチ切れたマコトの手によって危うく予算をゼロにされるところだったのである。
頭が上がらないとは、この事か。
ーーコンコンーー
部屋の扉がノックされる。
「ちょっと待ってなさい」
ヒナが部屋から出て行き、少し経つと手に何かを持って戻ってきた。
「カイカからの差し入れだそうよ。…それと、手紙」
渡されたのは、手作りのお菓子と一枚の紙。
『貴女が、ヒナ委員長のためを思って行動した事実。それだけは決して間違いでは無いと思いますよ』
そこに書かれていた言葉に、アコは少し涙ぐむ。
「私は、とんでもない過ちを、犯してしまったのですね…」
その様子を、ヒナは優しく見つめていた。
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「あれ?ところで、その本人は今どこに?」
「…食堂の一角を借りて、ちょっとしたパーティーを開いてるそうよ」
「パーティー!?何故?!」
「…風紀委員会が総出でアビドスに行ったせいでもぬけの殻になってる間、個人的な友人に頼み込んで代わりに治安維持のために働いてもらったそうよ。その労いだって」
「アッ、罪悪感がっ」
その日以来、アコは二学年下のカイカに対し、さん付けで呼ぶようになったそうな。
ゲヘナじゃなかったら、もっと大事になってたよ。
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没シーン
マコト「全く、心臓が止まるかと思ったぞ」
カイカ「まあ私の心臓は止まってましたけど」
カイカはこういうこと言う。