好き好き大好き~
コユキに手を引かれ部室に入るとそこには、
「あの、モモイ……デイリークエストしないのですか?いつも、『デイリークエストより大事なものなんてない』と言っていたのに…」
「アリス……私のHPはもうゼロだよ…」
「えっと…。ミドリ…?」
「ごめんね、アリスちゃん……知ってたけど、現実って元々こういうものなの……そう、つまりこれがトゥルーエンド……ハッピーエンドとはまた別の到達点…」
「……。ゆ、ユズは……ユズはどこに?」
「多分、またロッカーの中に引きこもってるんだと思う。よく見て、ロッカーがたまにプルプルしてるでしょ?」
「これは、酷いな」
”あっ、カイカ…”
「わ、私は何もしてないんですよ!ただパスワードを開けただけで…」
”うん。それでG.Bible自体は問題なく作動したんだ。だけど、その内容が…”
「『ゲームを愛せよ』、そんな所か?」
私の言葉に驚いたように目を見開く二人。
そんな驚くような事でも無いだろうに。そもそも本当にそんな物が存在するならば、この世に駄作が生まれる筈が無いのだから。
「それでこんな情けない姿を晒している、と?…ハッ、下らぬ」
”カイカ?!それはさすがに…”
モモイが勢い良く顔を上げる。
「うぅっ…。仕方ないじゃん、最後の手段だったのに!それが、あんな誰でも知ってる文章が一つ入ってるだけだなんて!釣りにもほどがある!」
泣き言は尚も続く。
「知ってた!世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手く行くような、便利な方法なんか無いって!でも期待ぐらいしたっていいじゃん!うああぁぁぁんっ!」
分かるよ、私にも。
私だって、似たような事を考えたのは一度や二度では無い。
「ならば聞くが、仮にG.Bibleの中身が具体的なゲームの作り方だったとして、その通りに作ったゲームがミレニアムプライスで受賞したとしよう」
成程、確かにハッピーエンドだ。疑う余地も無い。
だがな、
「貴様等は、それで納得出来たと思うか?」
「それ、は…」
出来る筈無いよな?
「貴様等の作ったゲーム、TSCを遊ばせて貰った」
故に確信したのだ。
「ネットの前評判通り、クソゲーと呼ぶべき代物なのだろう」
「うぅっ…」
「だが、それは決して
だからこそ、彼女達が作ったゲームには
常識的に考えて見ろ。インディーゲームのプロトタイプ、それも無名の作者の処女作に、四桁を軽く突破する低評価コメントが為されたのだ。普通に有り得ないだろう?
…本人達からすれば不名誉だろうが、最早偉業とすら呼べるだろう。
「肯定します」
そして、機械の少女に
「アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは、面白いです」
「え?」
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……。このゲームを、どれだけ愛しているのかを」
アリスは語る。一言一言、吟味するように。
「そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……胸が、高鳴ります」
辿々しくも、はっきりと告げられるその言葉は、
「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……。夢を見るというのがどういうことなのか…その感覚を、アリスに教えてくれました」
どこまでも真っ直ぐで。
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです…」
「この夢が、覚めなければいいのに……と」
「アリスは、そう思うのです」
その想いは、どこまでも青く、そして眩い。
私が、疾うの昔に失ったもの。
…嗚呼、正に勇者と呼ぶに相応しい。
さて、アリスは道を示した。後は彼女次第だが…
ーーバァン!ーー
「作ろう!」
ロッカーが勢い良く開かれた。
「えぇっ、ユズ?!」
「うわっ、ユズちゃん!?」
普段らしからぬ行動に面食らう二人を余所に、ユズは語り出す。
「わたしの夢は…わたしが作ったゲームを、みんなに面白いと言ってもらうこと…
…だった」
「でもあの時、二人が訪ねてきてくれた。わたしが作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを、面白いって言ってくれた」
「それで、一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させて…今年のクソゲーランキング1位になっちゃったそれを、アリスちゃんは面白いって言ってくれた」
「…わたしの夢は、とっくの昔に叶ってたんだ」
…無粋だとは分かっている。だが敢えて口を挟ませて貰おう。
「ならば何故?夢が叶ったのならば、それで十分ではないのか?」
「十分じゃない!」
「わたしは、まだ夢から覚めたくない」
「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白って言ってもらう…ずっと一人で思い描いてるだけだった、そんな
「わたしは、終わらせたくない」
それは、小さな欲望。
「それに…、ここで投げ出したら、きっとわたしは自分自身を許せなくなる」
「だってわたしは、ゲーム開発部の部長だから」
それは、小さな誇り。
「カイカさん」
ユズが私に手を差し出す。
「わたしたちに、力を貸してくれますか?」
しっかりと顔を見合わせる。未だ消えぬ怯えと、それを覆い隠す程の確かな決意。
「当然だ。遠慮無く使い潰せ」
私は手を握り返し、そう答えるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
”やるじゃん、カイカ”
慌ただしく動き始めたゲーム開発部の面々を見ながら、茶化すように先生が言った。
「…私は、背中を押しただけです」
…私に出来るのは、煽る事だけ。導く事なぞ出来やしない。
私が征く道が正しい等とは、口が裂けても言えないのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コユキ「あれ?ひょっとしてこれ、私も手伝うんですか?」
カイカ(無言で肩ポン)
冏<ウアァアアアアーナンデー
はい。こいつミレニアムに来た初日の夜にTSCクリアしてます。ゲ開部のことを知る一環としてプレイしたんですね。