守護龍はシアワセを望む   作:五行天元

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セミナー襲撃が丸々カットされてる上にカイカとコユキが参加してるから、原作よりも余裕があるのじゃ。時間的にも人手的にもね。


独り善がりな選択

狭い部室の中で、キーボードを叩く音が響き渡る。

 

「…漸く完成が見えて来たな」

「長かったですねぇ…」

 

お互いパソコンに視線を向けたまま、カイカはコユキに言葉を零す。その後ろではアリスが現時点で完成した地点までのデバッグ作業に勤しんでおり、またその反対側にはモモイ、ミドリ、ユズの三人が積み重なるように眠っていた。

 

「大変でしたけど、終わりが見えてくると少し寂しいものがありますねぇ…」

「そうか」

 

コユキは、プログラマーであるユズと共にプログラミングをする仕事を割り振られた。最初こそ泣き言やら文句やらと五月蠅かった彼女だったが、

 

「…あ、ここたぶんバグりますね」

「助かる」

 

彼女の異能が思わぬ方向で役に立った。セキュリティの脆弱性を即座に見抜く力は、プログラムのバグを見つけ出すと言う形で応用されたのだ。

誰かの役に立ち、感謝されると言う経験は、コユキの自己肯定感を高めた。そして「もっと褒められたい」と思うようになった彼女は、目に見えて成長していった。泣き言を漏らす回数は徐々に減り、始めは辿々しかったタイピングも今や一端の者となっていた。

 

今の彼女であれば、セミナーに戻ったとしても問題無く活躍出来るだろう。

 

「カイカさんは休憩しなくて大丈夫だったんですか?間違いなく一番負担が大きいですよね?」

「問題無い」

 

カイカの役割の一つは声優だ。登場キャラクター全員の声を担当している。モモイの提案でイベントスチル時はフルボイスとなったので、結構な文字数となっていた。

 

だがそれだけでは無い。カイカはヘルプとしての役割も担っていた。

ユズやコユキが仮眠を取ればその作業を引き継ぎ、モモイがシナリオ作りに行き詰まればその間に添削を済ませ、ミドリが手を休めれば彼女が描いたイラストを元にアニメーションを作成する。

 

カイカは、本当に自分自身を使い潰す勢いで働いていたのである。

ただし、それは他者から見たら、の話であった。カイカからすれば、忙しさだけならば普段、即ち万魔殿での業務と然程違いは無い。それが数日間ぶっ続けだったというだけの話だ。

()()()()()()()()()カイカからすれば然したる問題では無かった。

 

「それに、私自身をモデルにしたキャラクターが採用されているのだ。身命を賭すに値する」

「でもそれ、途中退場のスポットキャラじゃないですか」

 

TSC2の主人公達はゲーム開発部の面々がモデルとなっている。それに加えて、カイカとコユキをモデルにしたキャラクターも物語の途中で仲間になるのだ。

ゲームの序盤で主人公達は伝説の勇者の聖剣が安置された洞窟へと向かうのだが、そこで番人として対峙するのが例のカイカをモデルにしたキャラクターなのだ。戦闘前に提示される試練と称した条件をクリアする事で聖剣を譲ってもらえるのだが、それに加えて幾つかの隠し条件をクリアしていた場合に限り、仲間として同行してくれるようになる。

そのキャラクター、便宜上カイカと呼ぶ(TSC2の操作可能キャラクターはプレイヤーが自由に名前を付ける事が可能)は、加入時点でレベルが高く、また同レベル時のステータスも他キャラクターと比較して倍近いものとなっており、明確に優遇されている事が分かる。

仲間にするかしないかでゲームの難易度が大きく変わる。良くも悪くも、だが。

 

「しかも、確定で死亡退場なんですよ?」

 

カイカを仲間にした場合、ゲームの中盤で魔王自ら主人公達を襲撃するイベントが追加される。これは確定で負けイベントであり、最終的に他の仲間を逃がす為にカイカが一人で魔王の足止めをして死亡する。おまけにその死体は回収され、アンデッドとして魔王に使役された状態で再会する事になる。一応、その際に特定のアイテムを使用する事で生前の自我を取り戻し、再び共闘してラストバトルに挑めると言う救済措置こそあるものの、死ぬ未来だけは変えられないのである。

 

「納得していないのか?」

「まあ…、はい。なんでカイカさんはOKしたんですか?」

 

このシナリオを実装するとなった時、割と揉めた。

幾ら何でもやりすぎ、流石に話として重すぎる、等の真っ当な意見が出たが、結局は採用されるに至った。

その理由として、ストーリーとしては非常に良く出来ていた事、そして何より

 

カイカ本人が許可した事が決め手となった。

 

「それは…」

「デバッグ、終了しました!」

「…御苦労。此方は未だ少し時間が掛かる故、その間に買い出しを頼む」

カイカは、モモイ達が眠る前に聞き出しておいた買い出しメモをアリスに渡す。

 

「了解しました。行ってきます!」

 

メモを受け取ったアリスは直ぐに部室を飛び出して行った。それを見送ると、カイカは作業に戻ってしまった。

コユキもまた、話が中断してしまった事に不満を覚えながらも、自分のパソコンに向き合う。

 

「…先程の話の続きだが」

 

少しして、カイカが独り言のように呟く。

 

「少数の犠牲と引き換えに、大勢を救う。私も、そう言う思想は好まない」

 

作業を続けながら、コユキは耳を傾ける。

 

「だが、もし私自身が同じ状況に陥ったとするならば、

 

 

 

──私も、確実に同じ選択をするだろうから」

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アリスは悩んでいた。

 

(アリスは、みんなの足を引っ張ってはいないでしょうか?)

 

アリスは、自分がまだ見習い勇者である事を自覚している。そんな自分でも、ゲーム開発部のみんなは受け入れてくれていると理解している。

 

だけど、

 

(カイカはすごいです。とっても強くて、とっても賢くて、おいしいお菓子もプレゼントしてくれました)

 

(コユキもすごいです。誰にも開けなかったG.Bibleのパスワードを、あっさりと解いてみせました)

 

それに比べて、自分はどうだろう。

 

ゲーム開発に関しては同じ素人である筈なのに、アリスに出来る事はデバッグ作業や買い出しなどの誰にでも出来る事だけ。あの二人は今も、休んでいる三人に代わってゲームを作っている。

 

(アリスは、本当に必要とされているのでしょうか)

 

独りになってしまったが故に思い浮かんだ考えに、慌てて首を振る。

 

「…ハッ、弱気になってはいけません!こんなことでは、勇者失格です!」

 

そうだ。今は自分に出来る事を精一杯やらなくては。

 

そう思い直したアリスは直ぐに買い出しを済ませる。

レジ袋を片手に、部室に戻ろうと足を速め、

 

「──よぉ、そこのバカデケぇ武器持ってるあんた」

 

背後から呼び止められる。

咄嗟に振り返ると、そこにはメイド服の上にスカジャンを羽織った少女がいた。

 

(この人…、強いです)

 

アリスは一目で理解する。目の前の人物が、明確に格上の存在であると。

 

「ちょいと、面貸せや」

 

()()()()()()()()()最強の生徒。

美甘ネルがそこにいた。




鬱シナリオライター モモイ概念…
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