あと今回視点が何度か変わるので注意。
リンちゃんの案内でシャーレの部室付近に到着した私たちだけど、そこにはそれはもう酷い光景が広がっていた。辺り一面瓦礫の山。それに今もなお被害は拡大しているみたい。
「想像してたより被害が甚大ですね…」
「まさかここまでとは…」
ハスミとリンちゃんも苦い顔をしている。
この騒ぎを起こしてるのは矯正局に捕まってた子たちって話だったけど、連邦生徒会への恨みというだけでここまでやるのかと驚いてしまった。
「…なんで私がこんな目に…私、これでもうちの学校では生徒会に所属しててそれなりの扱いなんだけど!」
「口を動かしているだけでは事態が好転することはありませんよ、ユウカ先輩。…ッ!」
ーーキィンキィン!ーー
甲高い金属音がしたかと思ったら目の前にいたカイカの足下に切断された銃弾が転がっていた。どうやらこちらに気付いた不良の1人が発砲したみたいだ。それを刀で切り落としたってことなんだろうけど、目を向けたときにはすでに納刀していたので全く見えなかった。カイカがおもむろに銃弾を拾い上げる。
「この形状、ホローポイント弾ですね。先生に当たれば一発で致命傷になりかねません」
「はあ!あいつら違法JHP弾を使ってるっていうの!」
「ユウカ、ホローポイント弾は違法指定されていませんよ」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」
さっきこちらを撃ってきた生徒はハスミが無力化していた。けどそれによって向こうもこちらに気づき始めた。
「私がここから大きめの一撃を奴等に当てます。皆様はその混乱に乗じて、攻撃を」
カイカのその言葉に、チナツ以外の全員が疑問符を浮かべた。当然だろう。カイカは刀しか持っておらず、遠距離攻撃の手段を持ち合わせているようには見えない。でもカイカは本気で言っているみたいだ。
”私が指揮を執るよ、任せて”
なら生徒を信じ、その後押しをするのも大人である私の役目だろう。
私の言葉にみんなは少し驚きつつもすぐに受け入れてくれた。各々の武器を確認して即席の陣形を組む。それが済んだら、早速カイカが動いた。
「では」
そう短くつぶやくと、近くにあった乗用車ほどの大きさの瓦礫を掴み、
軽々と、ぶん投げた。
ーードォォン!ーー
「「「うわぁぁ!!」」」
飛んでいった瓦礫はきれいに敵の密集地に落ち、目論見通り敵陣は随分と浮き足立っている。でもこちらはこちらで、あまりの出来事に開いた口がふさがらなくなっていた。
「先生?」
”…ハッ!みんな、攻撃開始!”
カイカが声をかけてきてようやく正気に戻った私たちは、慌てて戦闘を開始した。
結論から言えば、さほど苦戦もせずその場を鎮圧することができた。
むこうは数こそ多いものの個々の戦闘力はこちらが上回っていた。その上突然飛んできた瓦礫によってパニックに陥っており、まともに迎え撃つこともできなかったみたいだ。私のほうに流れ弾が飛んでくることも何度かあったけど、カイカは宣言通りその全てを切り落としていた。
また不良たちが集まってきても面倒なので、今のうちにシャーレの部室に向けて移動する。するとリンちゃんの端末に今回の一件の首謀者についての情報が入ったみたいだ。
「皆さん、歩きながらでいいので聞いてください。今この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました」
「ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前例がいくつもある危険な人物なので気をつけて下さい」
その瞬間、目の前を歩くカイカの雰囲気が剣呑なものになったような気がした。みんなはそれに気付いていない…いや、どうやらチナツだけがそのことに気付いたみたい。なにやら心配するような、焦るような、そんな視線をカイカに向けていた。
「ッ!新手です。先生!」
”みんな、戦闘準備!”
そんなことを考えていると再び不良たちが集まってきた。それも、先程よりずっと人数が多い。それでも押し潰されるような戦力差ではなく、少しずつ前線を押し上げることができていた。
ーーガキィィン!ーー
一際大きい音を立ててカイカが銃弾を切る。今の攻撃は他の不良たちのものよりも数段威力が上だったように思えた。銃弾が飛んできた方に目を向ける。そこには狐の面を被った女の子がいた。たぶんあの子がワカモなんだろう。そう考えていると突然風が吹き、さっきまで目の前にいたはずのカイカが消えていた。
”えっ…”
「待っ…」
チナツが手を伸ばし、叫ぶ。その先には、
宙を舞う不良たち、そしてワカモに刀を振り下ろすカイカの姿があった。
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予想はできていたことだった。けど、止められなかった。
私ー火宮チナツは目の前で不良たちの只中へ飛び込んでいった同級生の姿を眺めながら、己の無力さに歯噛みしていた。
普段のカイカさんはゲヘナ生としては珍しく、冷静に物事を判断する人です。そして誰が相手でも丁寧な対応をする。いっそ温厚といってもいい性格をしています。しかし、とある事態に遭遇した時に限り、まるで人が変わったかのように戦場に突撃する。
それは「破壊活動を行うテロリスト」に遭遇した時です。実際ゲヘナでも美食研究会や温泉開発部に遭遇した際、何度か似たような行動を取りました。そしてこうなってしまったカイカさんは、
そこからはもう一方的な戦い、いえ、蹂躙と呼ぶべきものでした。初太刀こそ防いだ狐坂ワカモでしたが、横殴りに振るわれた
目で追うこともやっとの速さで展開されるカイカさんの攻勢を前に、私はただ見ていることしかできません。もしも私にヒナ委員長ほどの力があれば、共に戦うこともできたのに…
ふと周囲に目を向ければ、どうやらそう思っていたのは私だけではなかったようです。ユウカさんも、スズミさんも、ハスミさんも、戦いに介入することもできず、ただ呆然と立ち尽くしていました。
「チッ!仕留め損ねた」
おそらく時間にして1分も経たずして戦闘は終わり、その場で動いているのはカイカさんだけになっていました。どうやらワカモは不利を悟った時点で逃げ出したようです。
”ちょっと、大丈夫なのカイカ!”
先生が慌てて駆け寄ります。無理もないでしょう。なにせ今のカイカさんは全身が自身の血で真っ赤に染まっているのですから。
「大丈夫です。御心配有難う御座います」
”いやっ、そんな血まみれで大丈夫だなんて言われても…”
「もう既に傷は塞がっていますから」
そう、そうなのだ。カイカさんはヘイローを有する者ならば当然備えているはずの防御力が皆無であり、その代わりとでも言わんばかりの異常なまでの再生能力を有している。
故にカイカさんは誰よりも傷つき、その全てを自力で治せてしまう。私たちはそれを、ただ見ていることしかできない。医療に携わる者として、そのことが何よりも、悔しかった。
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再び歩みを進めながらも、私ー羽川ハスミは先程の鮮烈な光景が頭から離れずにいました。
生意気な後輩だと思っていたゲヘナ生がたった1人で不良たちを蹂躙する様、一年生の身でありながらまるでツルギを彷彿とさせるその戦いぶりに、私は畏敬の念すら覚えていました。
そんなカイカさんは、先程までの変容ぶりが嘘であったかのように元の調子で先生の側に控えています。あれほどの動きをしておきながら一切疲れた様子を見せません。ツルギですら、あれと同等の戦闘をこなした後は多少の疲労を隠さないというのに。「一人でキヴォトスを滅ぼせる」という先の発言も、決して大言壮語の類いではなかったようです。
そんなことを考えているうちに、私たちはシャーレの部室の目前にまでたどり着きました。ですが、まあ予想していましたが、このまますんなりと入らせてはくれないようです。
ーードゴォォォン!!ーー
「気を付けてください、巡航戦車です!」
「クルセイダー1型…!私の学園の制式戦車と同じ型です」
一体どこから引っ張ってきたのか、奴らは戦車を持ち出してきました。
すぐさま戦闘が始まります。ですが相手は不法に入手されたものとはいえ戦車です。生半可な攻撃では装甲を抜くことができません。ふと先生のほうに目を向けると、今にも飛び出そうとするカイカさんを先生が必死に説得して押しとどめていました。おそらくカイカさんであれば、この状況も1人でなんとかできてしまうのでしょう。
ですが私は、正義実現委員会の副委員長です。他校の後輩1人に全てを押し付けるなど、そんなことは私の正義に反します。
(思い返せば、カイカさんはずっと、本当のことしか口にしていませんでしたね…)
先程の口論の際もそうでした。冷静になってみればあの時のカイカさんの発言は、トリニティのことを深く理解していなければ出てこないようなものばかりでした。多少穿った視点も含んでいたとはいえ、下手なトリニティ生よりもトリニティという学園の実情を把握しているのではないかと思うほどに…
ー戦場に身を置きながら考え事に耽るなど、普段の私であれば絶対にあり得ないことでした。
足下に手榴弾が投げ込まれる。その時には既に戦車の砲塔が私に向けられていました。
避けられない!そう判断した私は手榴弾を蹴り飛ばし、防御姿勢を取って身構える。
瞬間、誰かに横から突き飛ばされる。顔を向けると、そこには、
私を突き飛ばした姿勢のまま、顔の上半分が消し飛んだカイカさんがいました。
盛り上がってまいりましたァ!!