逆鱗ぶち抜いたせいで逆に殺されかけたけど。
その声を聞いた瞬間、カイカは射線を遮らぬよう勢い良く飛び上がった。そのまま空中で姿勢を整え、声の主の元に着地する。
「…何故、戻ってきた」
正面を向いたまま問いかける。今の、激情に染まった顔を彼女達に見せたくは無かったから。
「アリスは、勇者だからです!」
返ってきたのは、何とも彼女らしい答えだった。
「『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『トールズ・オブ・フェイト』、『竜騎伝統』、『英雄神話』、『アイズエターナル』…そして、『テイルズ・サガ・クロニクル』…」
「どんなゲームの中でも、主人公たちは……決して、仲間のことを諦めたりしませんでした」
「なので、アリスもそうします」
「…試練は、共に突破しなくては!」
その言葉通り、駆け付けてきたのはアリスだけでは無かった。
モモイとミドリがアリスの横に並ぶ。
コユキとユズが俯くカイカの元に駆け寄る。
「わがままだってことはわかってます。それでも!」
「…『誰かの犠牲の下に成り立つ平和』なんて、アリスは認めたくないんです」
…
無邪気で、世間知らずで、盲目的で、
それ故に。
彼女は、どうしようも無く、勇者だった。
「カイカさん…」
無言になってしまったカイカに酷く心配そうな声がかけられる。
…切り替えろ。冷静になれ。
ちらり、とマフラーの端に目を向ける。
穿たれた穴は既に塞がっていた。自己修復が正しく機能したのだ。
元通りになると分かっているのに、情動に身を任せてしまった。
…嗚呼、本当に、
己が未熟さが、嫌になる。
だが、もう落ち着いた。表情を取り繕い、顔を上げる。
アリス、モモイ、ミドリの三人は、既に戦い始めている。善戦はしているようだが、これ以上時間をかけるのも余り宜しく無い。そもそも締め切りが近いのだから、本来であればこんな事している暇は無いのだ。
思考を回す。各々の所持する武器を鑑みて、最速で勝利する為の最適解を導き出す。
「…よし」
近くに居てくれたコユキとユズに合図を伝える。この二人が作戦の要となる。
「
その言葉に二人は、力強く頷き返すのだった。
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さて、その間三人はネルを相手取っていた。
今のネルのコンディションは最悪と言っても過言では無い。
直撃は避けたとは言えレールガンに被弾し、その後カイカの蹴りをもろに受けている。そして何より、普段は二挺使いしているツイン・ドラゴンの片割れ、それも利き手である右手側が完全に使い物にならなくなっている。
総合的に見て普段の半分、否、四割すら発揮出来ているか怪しいだろう。
それでも尚、その実力は未だ三人を上回っていた。それに関しては流石と言う他無い。
だが、
(こいつら…、こんなに強かったか?)
苦戦を強いられているのは、ネルの方だった。
特筆すべきは双子のコンビネーション。モモイが派手な弾幕で注意を引き、それに気を取られた瞬間に死角からミドリの狙撃が飛んでくる。かと言って其方に目を向ければ今度はモモイの格好の的となる。
更にその二人を厄介にしているのがアリスだ。彼女は最初からスーパーノヴァを盾として用いており、その後ろに隠れ、飛び出しを繰り返す事により、的確に射線を通さないようにしているのだ。
ならば、と強引に距離を詰めようとすればモモイとミドリがそれぞれ左右へと同時に飛び出し、その直後に盾役に徹していた筈のアリスがスーパーノヴァを持ち上げ、引き金を引いた。
双子の行動に意識を逸らされ、それにより生じた一瞬の隙を突いた一撃。最小の溜めで放たれたそれをネルは辛うじて避けるが、左右に分かれた二人からの攻撃を甘んじて受け入れる事になる。
何とか反撃しようと銃弾をばら撒くも、その時には既にアリスはスーパーノヴァを盾として構え直しており、モモイとミドリの二人もその後ろに引っ込んでいた。
「チッ、面倒だな!」
本当にやりづらい。言うなれば、その場その場で一番されたくない事を的確に押し付けられているような、そんな感覚。最近まで碌な戦闘経験など無かった筈の彼女達に熟せるとはとてもじゃないが思えなかった。
状況に応じて常に最善手を選び続けるというその戦術は、一手でもミスをすれば途端に瓦解する綱渡りにも等しき戦い方だ。
だと言うのに、彼女達は戦闘が始まってから全ての択を正解し続けている。例え
その答えは非常にシンプル。
(ホントどうなってんのこの人。ぜんっぜん倒れないんだけど。でも…)
(たぶん私たちじゃ勝てない。本調子とはほど遠いはずなのに。だけど…)
(きっとこれは、本来なら負けイベントだったんだと思います。ですが…)
(((あの時のカイカ(さん)と比べれば、怖くない(です)!!)))
目に見えるような劇的な変化が起きた訳でも無い。
ほんの少し。ほんの少しだけ心持ちが変わっただけ。
だが、そのほんの少しの変化が、格上だろうと臆する事無く深く踏み込む勇気を、然れど慢心する事無く引き際を見定める冷静さを、三人に与えていたのだ。
そして、その瞬間が訪れる。
ーーカチッーー
(ッ!弾切れ…!)
「
突然のカイカの大声での指示に身構えるネル。そして姿勢を低くしたアリスの背後にいたのは、
マリ・ガンを構えたコユキだった。
「は?」
可能性として最も
人は、自身の想定外の事態に直面した時、思考に空隙が生じる。
その一瞬が、命取り。
ーードゴォォッ!!ーー
「ウッ!」
ハートフル・エゴの強烈な一撃が、ネルの喉に直撃する。
ダメージ自体は微々たる物であっても、衝撃までも失われる訳では無い。当然ながら無反応では居られず、ネルは喉を押さえてふらついてしまう。
「モモイ、ミドリ、左手を狙え!」
そこに下される容赦の無い追撃。
リロードする暇を与えぬよう降り注がれ続ける弾丸の雨。弾切れとなった銃では碌な対処も出来ず唯々耐え続ける事しか出来無い。
「コユキ」
それでも、と現状を打破するために前へと踏み出そうとした、その一歩目、
振り下ろされる足と地面の隙間に、
爆弾が、転がり込む。
ーードオォン!ーー
「うおっ!」
「ユズ!」
体勢を崩したネルの顔面に、間髪入れずにグレネードが飛来する。
「くっ!」
それをネルは、咄嗟に両手の銃を顔の前に交差させて防御する。
否、
「フンッ!」
「なあっ!」
銃を振り上げた事により、宙に投げ出された鎖。
カイカはそこに尻尾を引っ掛けて思いっ切り引っ張ったのだ。
「ガハッ!」
そのまま流れるように無防備な腹を蹴り上げられ、小柄な体躯は軽々と空へ放り出される。
…その時点で、雌雄は決していた。
「魔力充填…100パーセント…」
(しまっ…)
「光よ!」
その言葉を最後に、ネルの意識は暗転した。
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「逃げるぞ」
最後の一撃が放たれた直後、その余韻に浸る間も無く彼女達は走り出す。
当然だ。こんな所で戦う事など、本来は予定には無かった事なのだ。
まだ余裕はあるとは言え、締め切りだって近づいている。何度も言うが、こんな事に時間をかけている暇など、彼女達には無いのだ。
その道中にて、
「アリス」
そう言って差し出されたのは、幾つかの商品が詰まったレジ袋。
「あっそれはアリスのお使いの…」
「え、いつの間に回収したの!?」
アリスがそれを受け取るとカイカは、
「…有難う」
そう言って、アリスの頭を撫でた。
アリスは始めこそ驚いたように目を丸めていたが、直ぐに気持ちよさそうに目を細めていた。
「…!ねえ、今いいシナリオ思い付いたんだけど、新しい分岐ルートとして組み込まない?」
「今から?!」
「まぁ…、まだ時間はあるし、できなくはないとは思うけど…」
「にはは…。これはまた、徹夜コースですかねぇ…」
「フッ、構わぬよ。駄目で元々。納得するまで付き合ってやるよ」
「ダメで元々ってなにさ!」
激闘を通じて距離が縮まった少女達。
楽しそうな声は尽きる事無く、月明りの下を駆けていくのだった。
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目を覚ます。
「あ、起きた?」
「…アスナか。……いやなんで膝枕してんだ?」
「ん~?なんとなく?」
なんじゃそりゃ、と思いながらもネルは体を起こそうとして、うまく起き上がれない事に気付く。
どうやら、思っていた以上にダメージは深刻なようだ。
「見たか?」
「ううん?私が来たときにはもうリーダーが倒れてたから」
「そうか…」
アスナは勘が異常に鋭い。その上、ミレニアムではネルに次ぐ実力の持ち主だ。
そんな彼女が何もかも終わった後に現れた。それ即ち、彼女の勘が「竜胆カイカとは戦わない方が良い」と判断したからに他ならない。
「…クソッ!」
「荒れてるねー。そんなに下級生に負けたのが悔しかったの?」
「そうじゃねぇよ!…いやまあ、それもあるけどよ」
実際、完全にしてやられた、と言う悔しさもある。だが、ネルが本当に苛立ちを覚えているのは、そこでは無いのだ。
「あいつ、完全に手ェ抜いてやがった」
あの時、空中に投げ出され、真面に回避行動も取れぬままフルチャージのレールガンに被弾する直前、横から飛んできた
レールガンだけであれば、まあ暫くは動けなくはなっていただろうが、それでもここまで長く気絶する事は無かった筈だ。だが、顎に強い衝撃を受けた事により脳震盪を起こし、ヘイローによる防御が弱まった。だからこそ、想定以上のダメージを負う羽目になったのだ。
そして、あの場に居た中でそんな事が出来る人物など、一人しか存在しない。
右手に視線を向ける。そこには今も、スクラップと化したツイン・ドラゴンの片割れが握られていた。
認めたくない。だが、認めざるを得ない。
『竜胆カイカにとって、美甘ネルは「その気になればどうとでも倒せる程度の相手」としか思われていなかった』
(このあたしの…、ミレニアムの勝利の象徴たるあたしに対する評価か?!これが!?)
それが、何よりも悔しかった。
カイカのマフラー
透明な糸のように見える物の正体はカイカの髪の毛。これを織り込む事により肉体の一部と定義され、不死性を付与する事に成功した。
どれだけ傷付き、洗い流されようと、あの日の記憶が薄れる事は無い。