「ミレニアムプライス、始まったね」
遂に、その日が訪れた。
「これで、もし受賞できなかったら…」
「うん…。すぐに、荷造りしないとね」
その声には、不安と緊張が多分に含まれていた。
「私たちはさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは…」
「……」
「……」
ミレニアムプライスに向けて今日まで努力はしてきた。だがそれでも、無事に受賞できる保証など何処にも無いのだ。
最悪の、と言うと大袈裟かもしれないが、そんな未来を想像して悲痛な面持ちになるのも、無理らしからぬ事であった。
そんなゲーム開発部の四人に対して、
「まあ何とかなるだろ」
”わあ、楽観的!”
「所詮私たちは部外者ですからねぇ…」
この三人は割と気楽であった。
「もし
”うん。そうなったら任せてほしい”
「案外、その方が安全やもしれぬしな」
そんな余裕のある態度を見ている内に、モモイ達も幾分か落ち着いてきた。丁度タイミング良く、テレビから声が流れ出す。
『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会および進行を担当するのは私、コトリです!』
『今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。おそらくは生徒会の方針変更により、部活動維持のために「成果」が必要になった影響かと思われます!』
(…皆、考える事は同じなのだな)
呆れながら心の中で呟くカイカ。
いや気持ちは分かるのだ。だが『普段からコンスタントに実績を積んでいればこんな博打染みた手段に頼る必要も無いのでは?』と、思っているだけである。
まあ思いはしたが、その筆頭のような者達に手を貸している時点で今更なので、口には出さない。
「史上最多の応募…」
「それはちょっと困るなぁ…」
対して此方は僅かに解れていた緊張も戻ってきてしまう始末。
温度差が酷い。
『昨年の優勝作品であるノアさんの「思い出の詩集」は、本来の意図とは少し違ったようですが…その形而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました』
「いや読めよ」
流石にツッコむカイカ。
ゴリゴリの理系脳共がよ。
「読んだんです?」
「結構
”へえ、今度読んでみようかな?”*1
そんな事を話している内に、
『今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品!』
いよいよ、受賞作品が発表される。
『7位はエンジニア部、ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です!これは身に付けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが、露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を…
その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね!』
「変態高い評価だろ」
再びツッコむカイカ。
これもうイグノーベル賞の親戚だろ。
「個人の性癖を否定したい訳では無いが…」
「バカと天才はなんとやら…、ですかねぇ」
”あはは…”
対する一方、
「ふぅー…」
「大丈夫…。私たちのゲームには、7位なんてふさわしくない…」
本当に温度差が酷い。
『そして6位!この製品は…』
尚も発表は続く。
だが、ゲーム開発部の名は呼ばれない。
『5位は…!』
『次です、4位…!』
『さあ、ここからはベスト3です!3位は…!』
呼ばれない。呼ばれない。呼ばれない。
「……」
「そろそろ呼ばれて…!」
「し、心臓が…」
「お願い…お願い…」
徐々に焦りが募っていく。
『僅差で2位を受賞したのは…!』
「……。お願いします、私たちの名前を…!」
「2位でもない…。ってことは…!」
「…!」
『最後に!今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』
そして…
『待望の1位は……新素材開発部──』
ーーガシャアァン!!ーー
それを聞いた瞬間モモイは、
脇に置いていた愛銃を、
…テレビに、突き刺した。
「お姉ちゃん!なにして…」
言葉が止まる。
その顔を、見てしまったから。
…モモイは、泣いていた。
悔しさを堪えるように歯を食い縛り、
怒りを抑えるように肩を震わせ、
…溢れ出す感情を代弁するかのように、
ぽろぽろと、涙を零していた。
「…んで」
「モモイ?」
「なんで…、
なんで!
なんでッ!!」
叫ぶ。その想いは慟哭となって吐き出された。
「がんばったじゃん!あんなにがんばったじゃん!!なのに…、なのになんでッ!!」
「お姉ちゃん…」
「わかってるよ!いくら努力したって叶わないこともあるって!でも、でもさあ!!」
「報われたっていいじゃん!少しくらい報われたっていいじゃん!!それともなに!叶わない努力なんてムダだって言いたいの?!」
「ッ…!私たちが問題児だから?!なんの実績も後ろ盾もないような弱小部活だから?!始めから諦めてたほうが賢かったって、そう言いたいのッ?!」
「モモイ…」
「…あんなに、あんなに協力してもらったのに……。カイカにも、コユキにも、先生にも……。なのに…それなのに……、このザマだよ!!……ぅ、…うぅ」
「うわあああぁん!!!」
モモイは泣き叫んだ。
悲しくて、
悔しくて、
腹立たしくて、
そして何より、
己自身が、不甲斐なくて。
その小さな背中は、とても、とても痛ましくて、
…嗚呼、だからこそ、
「…諦めるには、少し早過ぎるな」
彼女の力になりたいと、そう思わせるのかもしれない。
「…え?」
カイカはスマホを操作してミレニアムプライスのネット配信を呼び出す。
それは、未だ終わっていなかった。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、「実用性」を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています』
画面の中で、審査員が語り出す。
『しかし今回の作品の中には、新しい角度から「実用性」を感じさせてくれたものがありました。とある「ゲーム」が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです』
俯いていた少女達が思わず顔を上げる。
『よって私たちは今回、
『その受賞作品は……ゲーム開発部の「テイルズ・サガ・クロニクル2」です』
「嘘…!」
「何が起きてるの…?」
『正直に言いますと、最初は少し馬鹿にしていました。たかがゲームと、見くびっていたことは否定できません』
『ですが、そんな感情はすぐに消え去りました』
『王道なようでいて斬新。詰め込めるだけ詰め込んだかのような膨大な要素を抱えながらも、それら全てが高め合うように調和している…。登場人物たちも、よくある物語のような完璧な主人公などではありません。ですがそれ故に、そんな彼ら彼女らが絆を深めて旅を進める様は、画面の向こう側のキャラクターであることも忘れ、まるで本当にそこに存在しているかのような、人生そのものを追体験しているかのような、そんな気分を味わいました』
『そうしてプレイを続けていくうちに、思い出させてくれたのです。かつて、確かにあったはずの、純粋にゲームを楽しんでいたあの頃を…』
『…確かに、「実用性」という点において、ゲームとは何の価値も持たないのかも知れません。ですが、これ程までに心を動かされる経験を知ってしまった以上、我々は最早、この作品を「たかがゲーム」と切り捨てることなどできなくなっていました。ですので…』
『今回、この作品にミレニアムプライス「特別賞」を授与します』
それは彼女達にとって、最大級の賛辞だった。
「え……あ……」
現実を飲み込みきれてないような、言葉にならない声が誰からとも無く漏れる。
これは自分達にとって都合の良い夢で、ふとした瞬間に目が覚めて現実に叩き戻されてしまうのではないかと、そんな恐れを抱いていた。
そんな彼女達を余所に部室の扉が開かれる。そこには、
満面の笑みを浮かべた、早瀬ユウカがいた。
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!おめでとうっ!」
その声を聞いて漸く、再起動を果たしたように緩慢に動き出すモモイ達。
「え、何この反応?」
てっきり大はしゃぎしているもんだと思ってたから、予想外の空気に面食らうユウカ。
「夢じゃ…、ないんだよね…?ほんとに、廃部にはならないんだよね!?」
「え、ええ、そうよ。…ってちょっと、なんで泣いてるのよ!?」
「えっ、あ、その…。やっと理解が追い着いてきて…」
再び溢れ出す涙。
然れど、その涙の意味は真逆で──
「~~!みんな!」
四人は向かい合う。そして…
「「「「やったああぁぁぁっ!!!!」」」」
嬉し涙を流しながら、抱き合うのだった。
「…えっ、ちょっ…。ええ…?」
…約一名を置き去りにして。
そんなユウカに対してカイカは、しょうがないなぁ、と言わんばかりに助け船()を飛ばしたのだが…
「…テレビのライブ中継に対して、ネット配信には若干の遅れがある。結果が判明した瞬間に部屋を飛び出したと仮定し、その時間差を加味した上でセミナーの部屋からこの部室までの大凡の距離を考えると…」
(計算結果を紙に書き出す)
「にはっ!ほとんど全力疾走じゃないですか!」
”口ではなんのかんの言いながらも、モモイ達のことを誰よりも気にかけてたからね”
「「やーい、ツンデレー」」
「そこ!うるさいわよ!!」
…やはり、最後まで温度差が酷かった。
カイカが気に入るタイプ
・責任感が強い
・苦労を強いられながらも投げ出さない
・努力を以て才能に抗おうとする
・自己肯定感が低い
嫌悪するもの
正義。