ただし、その努力が超一流の領域へと届く事は絶対に無いです。
器用万能ではあるが決して全能足り得ない。それがカイカと言う存在であり、他ならぬ本人がその事を誰よりも理解しています。
裏を返せば、個々の分野に限ればカイカを超える能力の持ち主がこの世界線のキヴォトスには何十人と存在しているって訳で…。
先生からある程度の状況を聞いたウタハは、少し待っていてくれ、と言ってエンジニア部の部室を出て行った。
その数分後、彼女は手乗りサイズの金庫を片手に戻ってきた。
「2日前、だったかな。カイカが私の元を訪ねてきてね、これを渡してきたんだ。
『その時が来るまで、これを持っている事すら悟らせないで下さい』
…ってね」
それはまた随分と仰々しい話だ。一体中には何が入っていると言うのか。
モモイ達は、ウタハが金庫のロックを解除する様子をじっと眺めていた。そして、ガチャリ、と音を立てて扉が開かれる。
中に入っていたのは、
「…USBメモリ?」
「ってことは、これが仕込みの正体?」
「ふむ。そういえば、カイカは少し前から何かを調べている様子だった。まあともかく、その辺の話はこれの内容を確認してからでもいいだろう」
ウタハは念のため、オフライン状態の端末を用意した。
中を見ないで、では無く、
用心するに超した事は無い。
だが、それを見た彼女達は、予想を遙かに超える驚愕を覚える事になる。
「……これは」
「要塞都市…エリドゥ…?」
そう銘打たれていた一つ目のフォルダーに入っていたのは大量の図面。それも一枚一枚にびっしりと書き込みが為されている。見ているだけで頭がおかしくなりそうだ。
「…概ね、理解できたと思う。どうやらこれは、リオ会長が秘密裏に建設していた『終焉に備えるための要塞都市』らしい」
「秘密裏に建設!?都市を?!」
”なんというか、スケールが違うね…”
「それで、この図面についてだが…。まずこの一枚目に書かれているのは『エリドゥ』全体の地図と座標、それと資材を搬入するために使われたと考えられる直通の輸送列車の路線…。正直、これ一枚で潜入するだけならどうとでもなりそうな情報量だ」
「…こっちも桁が違う」
「まだ何十枚もあるんですけど…」
「二枚目以降は…、どうやら防衛システムについてのようだ。区画ごとに一枚一枚事細かに記されているね。具体的には、この矢印が示しているのは警備ドローンの巡回ルート。この凡例は仕掛けられているセンサーの種類を表していて、図面上にそれらの探知範囲と合わせて書かれている。あと、AMASの製造設備の位置とかその他諸々の要素から、仮にその区画で侵入に気付かれた場合に防衛戦力が集結するまでの時間なんかも概算されている」
「…よくわかんないけど、とりあえずすごいってことだけはわかった!」
「お姉ちゃん…。いやまあ私も似たようなもんだけどさ…」
「…驚くのはまだ早いみたいだよ。どうやら『エリドゥ』には自己改造機能があるらしい」
「…都市そのものを造り替えられる、ってのか?」
「そうらしい、んだけど…。この、最後の方の数枚の図面にね?その構造変化パターンの予測図が何十通りと書かれていて…」
絶句。
「…マジで用意周到ってレベルじゃねえぞ…」
「ホントにどうやって調べたのこれ…」
「…ウタハ先輩にしか伝えてなかったのも納得だね」
「ですね…。好奇心に負けて中を見てしまったが最後、これを知った上で普段通りに過ごすのは無理でしょうから」
ここまで来ると最早驚きを通り越し、呆れすらも置き去りにして、ある種の恐怖を抱くのも宜なるかな。
「……」
だがそんな中、何かを考え込むような仕草を見せる者が一人。
”ウタハ、何か気になることでもあるの?”
「ああ、いや…」
何やら煮え切らない態度で目を逸らす。
彼女が視線を向けていたのは自身の作業台、正確に言えばそこに立て掛けていた分厚い金属板である。
(あれをカイカが持ち込んだのが一週間前。だからてっきりその頃から調べ始めていたのかと思っていたが、どう考えてもこれは一週間やそこらで集められる情報量ではない。つまりカイカはもっと早い段階、それこそミレニアムに来てすぐにエリドゥの存在を知った、としか考えられない。いやまあこの際どうやって調べたのかは置いておくとしても、入手した情報をUSBメモリに記録する作業はどこでしたんだ?リオ会長は私に対して何もアクションを起こしてこなかった、つまりリオ会長はこのUSBメモリのことを知らなかった。だが、このミレニアムに彼女の監視が及ばない場所など存在するのか?これだけの情報を書き込もうとすればそれなりの時間を掛けた筈だ。だがその間ずっとリオ会長の目が届かない場所にいたとすれば流石に怪しまれたと思うのだが…)
疑問は幾つも浮かぶ。
(…だが、まあ今考えるような事ではない、か)
ウタハは気持ちを切り替える。
確かに気になる事は多い。が、この情報が今の自分達にとって何よりありがたい物であるのもまた事実。
ならば後は優先順位の問題だ。全て終わってから本人に聞けば良い。
「そんなことより次だ。フォルダー名は『名もなき神々の王女 AL-1S』……、恐らくこれが本命だろう」
「たしか、リオ会長がアリスちゃんのことをそう呼んでました」
先程と同様にずらりと並んだファイルを順番に一つずつ確認していく。その内容は非常に難解で、全てを把握出来たとは御世辞にも言えないが、それでも理解出来る情報を断片的にでも拾っていくにつれ、彼女達の顔は徐々に険しくなっていった。
「…天童アリスという少女の正体が、世界を滅ぼす
「なんだってわざわざ…。黙っときゃなにも考えずに戦えただろ…」
”…それが嫌だったからじゃないかな”
「うぐ…」
その言葉にネルは押し黙る。彼女にとっては耳が痛い話だった。
命じられたから、個人的な因縁を晴らすのに都合が良かったから、そんな軽い考えで竜胆カイカを襲撃した。その結果、程度の差こそあれC&C全員に深いトラウマが刻み込まれた。
”なんとなく、だけどさ。似てるって思ったんだ、あの2人”
今だからこそ分かる。
あれは、あの戦いとすらも呼べない蹂躙劇は、
”きっとカイカもそう思ってて、だからこそ”
”一方的に悪として断じられることが許せなかった…んだと、思う”
果たして、あの一夜のためだけにどれ程の前準備を為し、意味を込めたのか。
ネルは改めて、その計り知れなさに戦慄を覚える。
『破壊する事しか能の無い、ミレニアム屈指の金食い虫集団でしょう?』
そしてそれ以上に、
(全く以てその通りじゃねえか…)
己自身の浅ましさを、痛感した。
「今回の一件が明るみになれば、リオ会長は今の立場を失うことになるだろう。それを承知した上で行動を起こした。…誰よりも、ミレニアムのことを想っていたからこそ」
「だから、カイカはこれを私たちに残した」
「…覚悟を、問うているのだろうね。その友情には、世界を
それきり、暫く誰も口を開かなかった。
何も言えなかった。
動けなかった。
……
そんな中で最初に動いたのは、
やはりと言うべきか、モモイだった。
彼女は徐に端末を操作すると、フォルダーの一番下にひっそりと残されていた無題のテキストファイルを開いた。
記されていたのは、たったの一文。
『元を言えばモモイ、お前が原因だからな?』
それだけだった。
「…手厳しいなぁ、ほんとに」
それを見たモモイは苦笑交じりにそう呟くと、顔を引き締めて宣言する。
「うん。やっぱり私、アリスを助けに行くよ」
その言葉に、迷いは無かった。
「正直さ、覚悟とか言われてもピンとこないし、なにが正しいのかもわかんない」
難しい事を考えるのは苦手だ。一時の感情に身を任せるのは楽だ。
「だけどさ」
きっとそれでは駄目なのだ。悩み抜いた果ての結論を、軽々しく扱って良い筈が無い。
「ひとつだけ、私にもわかることがあるよ」
だからこそ考えて、考えて、考え抜いた末に出した答えは、決して特別なんかじゃ無いけれど、
「行動しなきゃ、
何よりも、心理を突いていた。
「…うん、そうだね。最後まで足掻いて、できることは全部試して…。諦めるのは、それからでいい」
「お姉ちゃんもたまにはいいこと言うじゃん」
「へっへーん!そうでしょ!……たまには?」
少女達は前を向く。
後悔しないために。
「アッハッハ!確かに、君の言う通りだ!」
「…ったく、うじうじ悩んでたのがバカらしくなるぜ…」
”これだけお膳立てされて何もできませんでした、なんてことになったら、とても顔向けできないもんね”
そうして彼女達は動き出した。
最善を掴むために。
竜胆カイカのミレニアムでの暗躍
コユキと会う。
↓
横領額に違和感を覚える。
↓
夜中にセミナーに忍び込んで調べる。
↓
案の定コユキの横領を隠れ蓑に、都市一つ造れそうな金額がどっかいってるのを突き止める。
↓
ほなどっかに都市一つ造られとるんやろ。
↓
エリドゥ発見。「物理的に立地は限られる故、簡単に見付かった」
↓
↓
(ミレニアムプライス)
↓
調査終了。
↓
(失踪一週間前)
↓
エンジニア部に■■■■■の装甲板を持ち込む。
↓
調査内容を書き込んだUSBメモリを用意。
↓
(失踪2日前)
↓
USBメモリをウタハに預け、同時に■■■■■の装甲板を加工した銃弾を受け取る。
↓
(失踪前日)
↓
エリドゥ内でリオに
↓
ゲーム開発部の部室で先生と会話。
↓
C&Cと戦闘。わざと敗北。連行先は当然エリドゥ。
ざっとこんな感じ。