いや、だからなんだという話なんですけどね。
それと先に言っておきます。これ、カイカはまだ2割くらいの力しか出してません。
その日も、いつものように廃校対策のための会議が始まるはずだった。
最初に気付いたのはアヤネだった。アビドス自治区が襲撃されたのだ。
それだけならまだ良い。いや良くはないが、キヴォトスではよくあることである。
異変は、皆の目にも明らかであった。
襲撃を受けたと思しき地点を中心として、局所的に分厚い雲で覆われ始めたのだ。遠目でもはっきりと視認できるほどに。
そこでセリカがようやく気付く。そこには柴関ラーメンがあることに。
一体何が起こっている?
対策委員会の皆と先生は、急いでその場所へ向かうのであった。
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”なに…この状況…”
異変の中心地に到着した私たちの目に飛び込んできたのは、
瓦礫の山と化した柴関ラーメンと、
黒焦げになった、恐らくゲヘナの風紀委員会の生徒たち、
そして、何故か便利屋のみんなに押さえ込まれているカイカだった。
「あっ先生!それにアビドスのみんなも?!」
アルがこちらに気付く。
「ごめんみんな。来て早々悪いけど、カイカを抑えるの手伝ってほしい。私たちだけじゃ、そろそろ限界」
カヨコがそう言ってくる。
”いや、抑えるって、一体カイカが何をしたって「この子が腕を振ると、雷が落ちる。これ以上はあの子たちが死にかねない」…は?”
「というかそれじゃなくてもカイカは素手で人を殴り殺せる程度の力がある。せめて一度冷静になって貰わないと危険すぎる」
にわかには信じられない話だった。
銃弾すらも生身で平然と受けられるキヴォトスの人間を、素手で殴り殺す?
確かにカイカの身体能力が他の生徒たちと比べても、異様に高いことには気付いていた。けど、それほどまでに強いというのか?
それに、腕を振るだけで雷を落とす?
そもそも、そんなことが起こり得るのか?だとしたらこの、今空を覆っている暗雲は、カイカが呼び出したとでも言うのか?
ー『一人で、キヴォトスを滅ぼせる程度には』
その時、カイカと初めて会った日のことを思い出した。
今、ようやくあの言葉を本当の意味で理解できた。確かにこれだけの力があれば、キヴォトスの全てを敵に回しても戦えてしまうだろう。
いや、だからなんだと言うのだ。カイカだって私の生徒の1人。生徒が間違った方向に進もうとしてるなら、それを止めるのが先生である私の役目だろう。
カイカを抑えながら、私は便利屋のみんなにここで何があったのかを聞き出していく。
「私たち、ここにラーメンを食べに来てたのよ。そしたら風紀委員会の奴らがいきなり迫撃砲を撃ち込んできて…」
「大将と私たちは無事だったよ、咄嗟にカイカが庇ってくれたからね~。でもそのせいでカイカ、さっきまで酷い怪我だったの。…もう、治っちゃってるけど」
「大将には既に安全な場所に避難してもらってるから安心して。…まあ、それで激怒したカイカが風紀委員会を一瞬で全滅させた。そんなとこだね」
”ど、どうして、そんなことに…”
さすがに、動揺を隠せなかった。アビドスのみんなも私と同じ気持ちのようだ。
「…大元を辿れば、貴女が原因ですよ、先生」
少し、冷静さを取り戻したらしいカイカが、開口一番そう吐き捨てた。
”どういう、こと…?”
理解できない。なんで?私のせい?これにはみんなも納得できない様子で、
いや、カヨコだけは、「やっぱり」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
「今回の風紀委員会による軍事行動、表向きは便利屋68の捕縛のため。だが恐らく、本当の目的は、」
尚も怒気を孕んだ声で、告げる。
「先生の身柄の拘束」
”嘘でしょ!?そんなことのためだけにこんなことをしでかしたって言うの?!”
「だからこそ、だよ。先生」
カヨコが口を挟む。
「カイカ、先に確認しておきたいんだけど、この風紀委員たちを率いてるのって、ヒナじゃないよね?」
「…ああ、恐らく間違い無い。今日ヒナ委員長は出張でゲヘナ郊外に居るはずだ」
「やっぱりね」
カヨコは嘆息し、自身の推論を語り始めた。
「そもそもおかしいんだ。確かに私たちはゲヘナで指名手配されてるけど、たかが4人ぽっちを捕縛するためにこれだけの人員を動かすなんて。おまけに他学園の自治区に迫撃砲を打ち込むなんていう宣戦布告も同然の行為に出てまで。どう考えてもリスクとリターンが釣り合ってない」
でも、と続ける。
「最初から他の集団との戦闘を想定していたのだとすれば説明がつく」
「とは言え、アビドスに在籍している生徒はたったの五名、やはりこれ程の人数を動員する意味は薄い」
そこまで説明されればさすがに気付く。気付いてしまう。
”つまり、シャーレの戦力を相手にすることを最初から想定していた…?”
カイカとカヨコが揃って頷く。
「風紀委員会の本当の目的は先生の身柄の確保、まあでも実働部隊の彼女たちにはそのことは伝えられてないと思うけどね」
「奴らを率いている人物の独断でしょうね。そしてヒナ委員長はこのような過激な事を為出かすような方では無い。…まあ、後は本人の口から語って貰いましょうか」
そう言うとカイカは立ち上がり、倒れ伏す風紀委員の中で、まだ意識を保っていた1人の生徒の前でしゃがみ込むと、髪を掴み上げて無理矢理目線を合わせた。
「銀鏡イオリ副委員長。今すぐ天雨アコ行政官に繋げ」
「かい、か。な、んで」
「貴様等が破壊したあのラーメン屋は、私の恩人が経営している。そして、私は定期的にあの店の手伝いをしている」
一瞬でイオリの顔が真っ青になる。
「もう一度言う。今すぐ天雨アコ行政官に繋げ」
そこまで言ってカイカは手を離す。解放されたイオリは無言で端末を操作し、すぐに通信が繋がれホログラムが現れた。
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イオリの端末からの通信を受けホログラム越しに現れたアコだが、その内心は少なくない動揺を覚えていた。
(イオリ率いる部隊が全滅した?)
にわかには信じられない話だった。確かにイオリの戦闘能力はヒナ委員長には及ばないとはいえ、ゲヘナでも有数の実力者だ。おまけに今回の作戦には決して少なくない人数を動員しており、何より迫撃砲の用意まであった。
相手に目を向ける。そこにいたのは便利屋だけではなく、アビドスの生徒5名、そして何より先生と呼ばれている人物がいた。
なるほど、先生なる人物の能力はこちらの想定以上らしい、と納得する。だがこちらの本当の目的が向こうから出張ってくれたのであれば好都合だと、アコは先生に名乗る。
『はじめまして、シャーレの先生。私は…』
「御託は聞きたく無い。説明を求める」
思いもよらない人物から言葉を遮られた。倒れ伏すイオリの横に立っていたが故に逆に気付かなかったのである。
『…何故あなたがこんな場所にいるんですか。竜胆カイカ』
「聞こえなかったか?私は、説明を求める、と言ったんだ」
カイカが、アコに刀を向けながら告げた。
相変わらず、生意気な後輩だ。アコは心の中で舌打ちをする。
アコはカイカのことが気に入らなかった。そもそも万魔殿の所属である上に、よりにもよってあのマコトに忠誠を誓っている変人。それなのに他の風紀委員からの評判はむしろ良いほうで、なにより、ヒナ委員長から直接スカウトされるほどのお気に入り!もっと言えば1年の分際で「守護龍」なんていう二つ名を付けられるなど、とにかく気に入らなかった。
…あえて弁明をさせるならば、現場に出ることの少ないアコはカイカとの面識が少なく、その人となりを知る機会に恵まれなかったといえるだろう。
『…まあ、いいでしょう。そこまで言うなら説明してあげますよ』
故に彼女は過ちを犯した。
『私たちゲヘナ風紀委員会は、あくまで私たちの学園の校則違反を犯した方々を逮捕するために来ました』
もし仮に、形だけだったとしても、無関係の人間を巻き込んでしまったことに対する謝罪をしていれば、カイカは刀を収めていただろう。
『あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし…、
だが現実は、そうはならなかった。彼女は、
その場に居た全員が、まるで重力が強くなったかのような錯覚を覚えた。
それほどまでに、濃密な殺意。その出所は、もちろんー
ーーヒュン!ーー
『づっ、アアアアアアアアアアッ!!!』
突如、カイカの手で
「巫山戯るな」
敵も、味方も、言葉を失う。激情は未だ、収まらず。
「やむを得なかった、だと?」
天を覆う暗雲に、白き雷が迸る。
「貴様の下らぬ企みの前では、柴関ラーメンが、私の恩人の店が、瓦礫の山と化した事すら、正当化されると抜かすのか?」
アコは答えない。否、答えられないのだ。人生で一度も感じたことの無い、
「答えろ、天雨アコ行政官」
アコは答えない。痛みに喘ぎ、涙を浮かべるばかりである。
否、例え
次々と襲いかかる理解を拒む現実は、彼女の正常な思考力を奪うにはあまりにも十分すぎた。
その動揺が、そしてこの期に及んでも消えぬプライドが、彼女を最悪の方向に突き動かす。
のたうち回りながらアコは、無線で指示を出す。
四方から新たに風紀委員会の増援が現れる。潜ませておいた部隊を呼び出したのだ。
『…っ!所詮相手は1人です!押し潰してしまいなさい!』
…結論から言おう。それは、戦いにすらならなかった。
カイカがしたことは、
翼を展開し、全身を独楽のように回す。ただそれだけの動作で、竜巻が生み出されたのだ。
それを、計4回。
たったそれだけで、200を超える風紀委員会の部隊は、壊滅した。
『そんな、バカな…』
カイカは、最早アコの事など眼中になかった。信頼に値しない、という烙印を押したからだ。
故に、
「続きは、貴女と話しましょうか」
「ヒナ委員長」
カイカの戦闘力に対する評価
イオリ:少なくともヒナ委員長レベル
アコ:1年生にしては強いらしい(噂のみ)
ヒナ:ヤバい(強者故の勘)
だから、こんなことになった。
ちなみに、柴関ラーメンについては週刊万魔殿に掲載されたこともあるので、知ろうと思えば知ることができました。