1934年
「うん。改革は順調だな。」
大高は挙がってきた報告に目を通して呟く
「物流用の高速道路が開通。これに並走する形の鉄道網の構築も順調か」
五ヵ年計画の発動と同時に実施した交通インフラの整備。その第一段階が完成した。
経済の発展において安定した物流は必須条件である。
限られた期限と現在の自動車普及率を
一部は安全柵で仕切って地面を固めただけの場所もあるが、日本全国の物流をつなげる事を最優先とし、舗装を後回しにすることで短期間での開通を実現した。
これは車を利用する一般人がまだ少ないからこそできた事である。
鉄道敷設は高速道路と同じ理由である。なお、物流用高速道路と並走させているのは双方の連携と防衛を意識した結果こうなった。
一纏めにすることで防衛しやすくなり、どちらかが破壊されて途中から使用不能になっても無事な方に移し替えて最低限物流を維持できるようにする為である。これにより鉄道A地点が破壊されても破壊地点の手前にある駅から高速道路輸送に移し替えるといったことが可能になるのだ。
因みに、完全に物流専用にしたのは自動車が普及した際に発生するであろう渋滞への対策の為であり、後に建設予定の一般用高速道路の土地も隣に確保されている。
「おかげで失業者を大幅に減少できた。給料はしっかり払っているから再就職の元手にはなるだろう。」
このプロジェクトは元々ヒトラーが実施したアウトバーン建設をさらに発展させたものであり、完成後はこの高速道路と鉄道を中心に都市開発が行われる予定である。
また、これらの主要都市は人間でいう臓器の様な立ち位置であり、それぞれから小規模な都市が枝分かれする事でさらに発展していくことになる。
「次は農地改革か。…これはまだまだ改善の余地があるな。今後の経過を見て改善していこう」
農地改革で実施したのは農地を全て国の管理下に置くという事だった。これにより、国からの支援を受けられるようになった農家は収入増加が見込まれるというものだ。
農地の個人所有が事実上できなくなったというデメリットはあるが、申請すれば子や孫に制限無しで引き継ぐことができる為、ほとんど問題になっていない。
よほど不味い事でもしない限り農地運営に国が口出しする事は無く、農作物に対する税金免除や農機具の購入などの必要経費の一部を国が負担できるほか、現代日本で発生している耕作放棄地の発生対策になるというメリットが有る。
今回の報告書は、旧地主の方々に農地の管理を任せていたが地主時代の癖が残っている方がおり、改革の成果に少しばかり影響が出ているという内容だった。
因みに、なぜ旧地主が管理しているのかというと彼らの不満を抑える為であり、段階的に地主を廃して専門部署に引き継ぐ事になっている。
「こればっかりは始めてすぐだから仕方ない。注意は行っているから後は時間が解決してくれるだろう。」
「やっぱり工業はもう少し時間がかかるか」
チートを使って日本のあらゆる工業・製造業にテコ入れをしてきたが、こればかりは直ぐに結果が出るものではないので致し方ない。中にはすでに結果を出しているヤバい…凄い企業も存在するが、結果が出るにはもう少し時間がかかりそうだ。
因みに、各国から歴史に名を残す学者達を引き抜いており、彼らが大きく貢献してくれている。ヒントを与えると此方の想像以上の成果を挙げてくれるのだからやはり天才は凄い。
「新しい生産ラインが完成すれば一気に成長するだろうからそれまでの辛抱だな」
「軍の改革も順調そうだな」
軍における改革は、既存の精神論からの脱却、アメリカ式階級システムの導入、洗n…未来の戦術・戦略の伝授、未来の兵器・技術の再現、規格の統一、性能・生産性・整備性を重視した兵器の開発など多岐にわたる。
元々、日本帝国軍には問題が多かったこともあり、刷新のつもりがほとんど一新することになってしまっていたが、改革自体は順調に進んでいた。
「とはいえ、やっぱり反発する奴も出てくるか」
報告の中には、これらの急な改革に反感を持つ者に関する報告があった。特に青年将校に多かった。
まぁ、当然だろう。アメリカ式の階級のシステムは言うなれば実力主義、
「この感じだとやりそうだな、クーデター」
日本最後のクーデター、二・二六事件の予兆を感じとる大高。
多少の不安要素を懸念しつつも順調に進む改革に満足していた。
赤坂某所の料亭
「いやぁ、例の五ヵ年計画。あれは凄まじいな。まだ初めてから二年しか経っていないのにこの成果だ。知っているかね?我が国の国力は既に2倍になったそうだ」
「えぇ、知ってますとも。元々この国にはそれだけのポテンシャルが有りましたから当然です。しかし、問題もあります」
「問題?」
「はい。シンプルに限界値が有るという事です。主に人口と資源が足を引っ張ってくるでしょう」
「満州の石油開発は順調と聞いているが」
「何も資源は石油だけではありません。各種金属類や綿花など多岐にわたります」
「それもそうか。だが、人口は致し方ないとしても資源の方は何か策が有るんじゃないか?」
「えぇ、もちろんです。後、人口問題も一応解決策が有ります」
「ほう、さすがだな。で、それはどんな策なんだね」
「それは…今後のお楽しみです」
「言わんのかね…」
「期待させて失敗したら恥ずかしいですから。一応、準備は念入りに行っているので大丈夫だとは思いますが」
「何か悪いことを考えてそうな顔だな。 まぁ、君の事だから大丈夫だろう。期待しているよ」
「善処します。とはいえ、ここからはより慎重な立ち回りが要求されるので大変になりますよ」
「どういう事かね」
「アメリカですよ。今はまだ落ち着いていますがあの国は日本を仮想敵国としています。加速度的な成長は彼らを無駄に刺激することになります」
「そういえばそうだったな…。という事はどこかで成長を敢えて止める必要があるな」
「はい。それがまさに先程述べた限界値です。そこに到達したら開発を止めて研究に重点を置く予定です」
「なるほど、我々の成長が打ち止めになったとアメリカに思わせるのだな」
「えぇ。彼らとの対決はまだ時期尚早です。
「そうだな。それが良い。その方針で行こう」
「あぁ、そうだ。一応、身の回りには気を付けてくださいね」
「何だね急に、怖い事を言わんでくれよ」
「報告では青年将校を中心に反感が募っています。近いうちにまた爆発する可能性が有るでしょう」
「はぁ…、またかね。」
「またです。アメリカ式階級システムを導入しましたから軍の人事は大幅に変更されました。中には審査に落ちて将官から佐官まで降格した人も居たとか」
「そいつらが
「えぇ。もっとも、鉄砲玉として雑に使い潰されて終わりでしょうがね」
「時代の変化を受け入れられん馬鹿どもめ。まったく、…いつ頃になるかわかるか?」
「1936年のどこかになると思います。五ヵ年計画のおおよその成果が出る頃を狙って横取りでもするつもりなのでしょう。1937年だと横取りするための大義名分が無くなります。」
「ハリボテの大義名分だがな。 しばらくは放置か?」
「えぇ。一応スパイを紛れ込ませて探りは入れておきます」
「そうしてくれ。ハチの巣にされたくはない」
そうして二人は今後の方針を更に煮詰めつつ、料理に舌鼓を打つのであった。
「こちら、お会計になります」
「「割り勘で」」