新・日本戦記   作:アオトル

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第3話:同盟

 

1935年

 

イギリス・首相官邸

 

 

大高はイギリスにて時の首相、ラムゼイ・マクドナルドと対面していた。

 

「マクドナルド閣下、本日は会談の場を設けていただきありがとうございます」

 

「いえ、此方こそ。お会いできて光栄です。今日はどのような要件でいらしたのでしょうか?」

 

「第二次日英同盟の締結の為、こうして自らやってきた次第です」

 

「日英同盟ですか。となると、相手はソ連ですかな?」

 

「はい。ソ連の最近の動きはかなり危険だという事を申し上げておきたい」

 

「それはつまり、ソ連が膨張主義に傾倒する可能性がある、 という事ですかな?」

 

「ある意味ではその通りです」

 

(いささ)か信じられませんな」

 

マクドナルドから帰ってきたのは疑念の声だった。

 

「確かに、ソ連がスターリンによる事実上の独裁国家となっているのは事実です。しかし、そのスターリンが掲げる一国社会主義論は膨張主義に傾倒するような内容とは思えないのですよ。何を()ってソ連が膨張主義に傾倒するのか、その根拠を明示して頂きたい」

 

「問題はそのスターリンにあるのです」

 

「スターリンが?」

 

「はい。彼は病的なまでの猜疑心を有しています。他人はもちろん、自分自身ですら信じられないほどです。」

 

「そんな人間、本当にいるのでしょうか」

 

「えぇ、スターリンはそうなのです。現在ソ連で行われている大粛清は正に、この病的なまでの猜疑心によるモノなのです」

 

「なるほど。つまりは他国を信用できないから先手を打って侵略する、という事ですかな?」

 

「その通りです。特にポーランドを挟んだ隣には共産主義を目の敵にしているナチスドイツがいます。行動を起こすのは必然かと」

 

「確かに、間にポーランドしかいないというのは事実上、壁が無い様なモノですからな」

 

「それについてはノーコメントです。とまぁ、この様にソ連が危険という事は理解していただけたでしょうか」

 

「えぇ、ですが、なぜ日本なのでしょうか?今の話を聞く限りではそちら側は大丈夫そうですが」

 

「我が国は立地的な問題でソ連を仮想敵国と想定しています。コレを知るスターリンが我々に警戒しない訳がありません」

 

「それは確かにそうですな。では、同盟を結ぶメリットは有りますかな」

 

「何もしなければヨーロッパはおろか、ユーラシア大陸全てがソヴィエトのものになってしまうでしょう。そうなってはもう、誰にも止められません。ソ連にはもう既にアメリカを超えうるだけの条件は揃っています。実際にそうなっていないのはスターリンが足を引っ張っているからというだけの事なのです」

 

「それは流石に看過できませんな」

 

「まったくです。そして、そうなればイギリスが飲み込まれるのも時間の問題であり、これに敗北した場合に王族や政治家の皆様がどうなるかは想像がつくでしょう」

 

「…分かりました。貴方がそこまで言うのであればそうなのでしょう。同盟の条件はどうしますか?」

 

「それについてはこちらで既に用意しているのですが、ここにいくつかの要望を加えても良いでしょうか?」

 

「なんでしょう?」

 

「そちらの植民地を購入するという事です」

 

「理由をお聞かせ頂いても?」

 

「ソ連は現在、工業力の強化に力を注いでいます。畑から兵士が採れると言っても過言ではないソ連が安定した工業力を手に入れれば状況はさらに悪化するでしょう。これに対抗するにはこちらも国力を増強する必要があります」

 

「なるほど、植民地の原住民を労働力として国力に変換するという訳ですな」

 

「その通りです。彼らの助力を得られればソ連の国力にも十分に対抗できるでしょう。そのために最低でもアジア地域にある貴国の植民地を是非、我が国に売却していただきたいのです」

 

「うぅむ」

 

マクドナルドの脳内は様々な計算が飛び交う

 

(植民地を手放すのは惜しい。 だが今のイギリスに広大な植民地を維持するだけの力は無い。 購入という事は金を払ってくれるという事だからそれを元手に新たな経済政策が採れるかもしれない。 だが、日本が強くなるのは問題ないのか? こちらに牙を向けてこないだろうか。 いや、だからアジアの植民地と言ったのか。 それならイギリスからは遠いから万が一が有っても問題ない。 シーレーンも友好国であれば問題ないし、むしろ日本がアジア圏のシーレーン防衛を負担してくれる事になるのか。 であれば、日本が強くなるのはソ連に対する牽制になる事を考えれば悪くないかもしれない。 いっその事、これを機に広げすぎた植民地の整理もするべきか。)

 

「分かりました。私の一存では決めきれないので議会で検討する必要がありますが、前向きに検討しましょう」

 

「ありがとうございます。ではこちらが第二次日英同盟の内容です。ご確認ください」

 

「では拝見させていただきます。 …ふむ、なるほど、面白いですね。それにこの部分はもしかすると(わざ)とですかな」

 

「えぇ、わざとです」

 

「貴方もなかなかの悪ですね」

 

「そちらに比べたらまだまだですよ」

 

要約するとこうである

 

 

:第二次日英同盟:

 

・第三国からの攻撃・攻撃の脅威を受けた場合、経済的支援などの間接的な支援を行う事を義務付け、敵が複数国の連合軍である場合は参戦を義務づける。

 

・平時から対ソ連に関する情報の交換・共有を行う

 

・ソ連に対抗するため、平時から経済・政治の分野での協力関係を構築する。

 

 

これが第二次日英同盟のおおまかな内容だった。

 

 

「面白いですね。いいでしょう。是非とも前向きに検討させていただきたい」

 

「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

 

「えぇ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。大事なことを忘れてました」

 

「?なんでしょう」

 

「此方の資料を読んで頂きたいのです」

 

「はぁ。では拝見させて頂きます」

 

マクドナルドは手渡された5枚の資料を受け取り目を通す

 

「…これは確かなのですか?」

 

「えぇ、間違いありません」

 

「まさか我が国に、それも政府機関に赤のスパイが潜伏していたとは」

 

手渡された資料。それはイギリスで活動するソ連のスパイに関する資料の一部だった。

 

「それは氷山の一角に過ぎません。実際のところは、それ以上にスパイがいます」

 

「それはマズイ。この資料が確かなら他の重要機関にも潜入されている可能性がある」

 

「我が国も同様の有様でして、密かに赤狩りを行なっている状況です」

 

「しかし、この情報をなぜ我々に?」

 

「理由は2つ。1つ目はこれからは共にソ連と戦う仲間になるのだから当然ということ。2つ目は外交に限らず、他者との関係において最も重要なのは信用と信頼であると理解しているからです」

 

「信用と信頼ですか」

 

「えぇ、お金と同じです。信用が無くなれば大暴落したドイツマルクの様に価値を失い、信頼が無ければどれだけ素晴らしく魅力的な企画であっても誰も付いて来なくなります。外交を含めた国家の運営もこれと同様、信用が無ければ他国に敵対視されて外交や貿易が上手くいかなくなり、信頼が無ければ国の政策に国民が納得してくれません。 ゆえに私は貴方にこの情報を提供したのです」

 

「なるほど、貴方の理念は理解できました。 では、私も貴方の信頼に応えるとしましょう」

 

「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

 

二人は固い握手を交わしてこの会談は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

「前向きな返答をいただけたのでもう一つ、お願いしても良いでしょうか?」

 

「お願い、ですか」

 

「えぇ、お願い、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

「先日の同盟の件。議会からの承認を得られました。これで我々は正式に共産主義者のソ連と戦う同志となったわけです」

 

「ありがとうございます。これでまた一歩、世界平和へ近づきました」

 

「いささか大袈裟ですな。それとお願いの件についてなのですが…」

 

「どうでしたか」

 

「反対意見が多くありましたが僅差で承認されました。後は向こうが応じてくれるのであればいつでも実行可能です。」

 

「そうですか!それは良かった。向こうもこちらの提案には乗ってくれるでしょうから特に問題ないでしょう」

 

「とはいえ僅差ですから、いつ覆されるか分かりません。やるなら早い方が良いでしょう」

 

「それでは早速向こうにアプローチを掛けましょう。鉄は熱いうちに打つに限ります」

 

「分かりました。こちらからもアプローチを掛けてみます」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

2週間後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ

 

 

「この会談の場を用意していただき感謝します。アドルフ・ヒトラー閣下」

 

「こちらこそ、こうして貴方とお会いできる機会が得られたことを光栄に思います」

 

「はっはっは。そうまで言っていただけると嬉しいですな」

 

「では、私がご案内しましょう。良い会談になると良いですな」

 

「同感です。良い話になることをお約束しましょう」

 

「私も居るのだがね」

 

 

こうして、大高とマクドナルドはヒトラーと挨拶を交わし、手応えを感じながら彼の案内で会談の場へと向かうのであった。

 





因みにこの世界における大高に対する各国代表達の評価は非常に高く、ルーズベルトを除くほとんどの方から尊敬の念で見られています。
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