新・日本戦記   作:アオトル

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第4話:もう一つの同盟

 

「改めて、この会談の場を設けていただき感謝します」

 

「今日の要件は同盟の件でしたな」

 

「えぇ。ソ連に対抗するための日独英による三国同盟。この同盟締結の為に今日はこの場にやってきました」

 

「日本とドイツ、そしてイギリスの同盟ですか。イギリス側はこれを承認しているのか」

 

「無論です。内容は事前にお渡しした通り。後はそちらが承認するだけです」

 

「なるほど。では、これを締結する事による我が国に対するメリットを教えていただきたい」

 

「それは事前に…」

 

「マクドナルド閣下。信頼第一ですよ。 さて、それについては私から説明しましょう」

 

「まず、前提として、この同盟は危険度が増大しているソ連に対抗するための物です。この認識に相違はありませんか?」

 

「問題ない。私はその認識でこの場に(のぞ)んでいる」

 

「では続けます。この同盟は経済や軍事、情報交換などあらゆる面で連携するための物ですが、その本質は別にあります」

 

「というと?」

 

「この同盟はソ連との戦争を前提とした条約なのです」

 

「戦争が前提、ですか。牽制が目的ではなく」

 

「えぇ、そうです。残念ながらスターリンがソ連を支配している限り、必ずどこかで侵略を開始するでしょう。その時に迅速な連携を取る為にはあらかじめ連携内容を定めておく必要がります」

 

「ドイツは閣下の一声で動けるでしょうが我が国は無論、日本ですらも簡単には動けません。一度議会に提案を通す必要がありますが、そうなると承認されてから動き出すまでにかなりの時間を要します」

 

「難儀なものですな。民主主義というのは」

 

「ヒトラー閣下。余りそういうことは言わない方が良いですよ。一応、貴方はその民主主義のおかげで今の地位を得る事ができたのですから」

 

「失礼。 それで続きをどうぞ」

 

「では続けます。ソ連はその国家方針からも対決は避けられません。では先手を打つ必要があります」

 

「先手という事はこちらから仕掛けるという事ですかな」

 

「はい。今でこそスターリンの政策が足を引っ張っていますが、ソ連はアメリカを超える超大国になるポテンシャルが有ります。これを放置すればスターリンの方針が修正されていき、手が付けられない怪物になってしまう可能性が有ります。」

 

「奴らにそれほどのポテンシャルがあったとは」

 

「私も初耳です」

 

「気付かないのも仕方がないでしょう。スターリンがとことん足を引っ張っているせいでポテンシャルが完全に死んでいますから。」

 

「実に厄介な相手ですな」

 

「しかも、戦争が起こって戦局の不利が続けばスターリンも方針を変え、国家方針がおおよそ正常化されてしまうでしょう。 つまり、どうせ戦争が避けられないのであれば此方から先手を打ち、ソ連が立ち直る隙を与えないようにする事が肝要なのです」

 

「随分と積極的ですな」

 

「それについては私も同感です。そこまでする必要があるのでしょうか?」

 

「無論です。無ければ胸の内にしまって墓まで持っていきますよ」

 

戦争によって急成長したソ連がドイツや日本などの近場の強大な仮想敵国の脅威から解放された結果どうなったか。

戦後のソ連を知る大高にとって、第二次世界大戦はソヴィエトが世界へ悪影響を与える前に潰す最後のチャンスでもあった。

ゆえに、ソ連を確実に潰せるよう根回しをする必要があるのだ。

 

 

「皆さん。現在の技術の発展速度は過去に類を見ないほどに加速しています。」

 

「数十年前まで人類が空を飛ぶなど夢のまた夢でした。しかし、今では空を飛ぶのは当たり前になりつつあります」

 

会談の場にいる全員の顔を見て大高は口にする

 

「私は断言しましょう。次に大きな国家間の戦争が起きた場合、何の対策もしていなければ先の大戦とは比べ物にならない多くの犠牲が出ることになります。少なくとも先の戦後ドイツの惨状ですらぬるいと思わせるほどの被害が出る事になるでしょう。負けた時は言葉に出来ない凄惨な結果になるでしょう」

 

「ソ連との戦争は避けられず、確実に大規模な戦闘になり、多くの犠牲が生まれることになる。であればどうするべきか。答えは簡単です」

 

「備えるのです。防御を固め、連携を取り、ソ連が侵略の意図を見せれば打撃を与え、その思惑を打ち砕く。この同盟はその為の物なのです。」

 

「…なるほど、そのような意図があったとは…、流石の先見の明ですな。実に壮大でかつ現実的な話です」

 

「うぅむ。私もそこまでは考えていませんでしたな」

 

「これが私がこの同盟に積極的になる理由です。既にスターリンはドイツを筆頭とした諸外国に対する不信感を募らせています。行動に移すまで時間が無いでしょう」

 

「…貴方の考えは深く理解できました。我がドイツはこの同盟を受け入れましょう」

 

「では、我々イギリスもより前向きに同盟を履行する事を約束しましょう」

 

「ありがとうございます。では今後ともよろしくお願いします」

 

 

こうして、日独英三国同盟は無事に締結され、日本・ドイツ・イギリスは同盟国となるのであった。

 

 

 

 

後日、大高とヒトラーは二人で対面していた

 

「さて、こうして対談するのは初めてですね。ヒトラー閣下。 改めて自己紹介を、私は大日本帝国首相、大高勇弥です。よろしくお願いします」

 

「私はドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーです。日本を不況から救った英雄である貴方にお会いできて光栄です。大高閣下」

 

「ありがとうございます。しかし、(いささ)か大袈裟では?」

 

「何を言いますか。貴方は世界恐慌の影響で不況に陥った日本を自力で立て直し、それどころか飛躍的な発展をもたらすという偉業を成したのです。これが世界から貴方に対する認識だという事を知っていただきたい」

 

「そうですか。そういう事にしておきましょう。それで、其方の要請でこの場を設けましたが、何かあるのでしょうか?」

 

「いえ、そこまで大それた話ではありません。ただ、貴方とこうして語り合いたく思ったのです。 実を言いますと、私は貴方のことを深く尊敬しているのです。貴方の政策はどれもが素晴らしい成果を挙げている。これは実に凄い事です。私も貴方の政策を参考にさせていただいています」

 

「嬉しい事です。因みに、貴方はどの様な政策を?」

 

「まずはアウトバーン。そちらで言うところの高速物流幹線道路を中心とした都市開発計画です。私の方はただの失業率改善の為の政策でしたが、そちらでの道路に付属する都市を建設する事でそれ自体に意味を持たせるその采配には脱帽しました。」

 

「そして工業力の発展です。アウトバーンに付属する都市、其方で言うところの幹線都市の建設でその重要性を再認識しました。工業力の発展に伴い、建設作業の速度や精度が向上したのです。これは私に新しい気付きをもたらしました。」

 

「他にも色々と参考にさせて頂いています。なので是非、貴方と語り合いたいと思ったのです」

 

「なるほど。では、是非語り合おうではありませんか」

 

「ありがとうございます。では、まずお聞きしたい。貴方にとって戦争とは何でしょうか?」

 

「そうですね。私にとって戦争とは、赤字しか出さない読んで字の如く"無益な争い“と考えています」

 

「ほう、驚きました。先程は随分と好戦的な発言をしておりましたが?」

 

「あれは必要だからですよ。いずれ確実に起こるなら、手が付けられなくなる前にやるしかありませんので。」

「話を戻しますと、現代の戦争に使われるリソースはかつての戦争とは比較になりません。砲弾だけでも数億発以上消費しますし、各種兵器も大量に用意する必要があります。これらを製造する為には膨大な数の資源と人材、時間と費用が必要になります。そして兵器の製造に圧迫され、それ以外の製品の製造が滞る事になるでしょう。そうなると国民は生活が苦しくなり生産性が低下する。 こうなってしまえば後は転落するだけしかないのです」

 

「なるほど。要するに現代の戦争はもはや割に合わないと言う事ですな」

 

「その通りです。それどころか最悪の場合、国家に致命的なダメージを与える可能性があります。ゆえに、私は現代の戦争を無益な争いと称しているのです」

 

「だが、必要であれば戦争をすると言う事ですな」

 

「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。と言いますが、それ以前に仕掛けてくると分かっているのであれば先手を打つ必要があります。現代の戦争はもう、金の為に行うものではないのです」

 

「なるほど、確かにそうですな。 では次に、我が国の政策方針について率直な意見を伺いたい」

 

「そうですね。政策そのものからはドイツの為という思いが伝わって来ます」

 

「そうですか!」

 

「ですが、国家としての態度がそれを台無しにしている。極めて残念な状態と言えるでしょう」

 

「と言うと?」

 

「今のご時世、強い支配者という看板は倒すべき悪というイメージが強くなっています。ドイツの現在の過激な姿勢は周辺国を徒に刺激する事になってしまっている。そして、戦争が起こればドイツを悪と定義し、アメリカなどが参戦の口実にしてくるでしょう。故に今のドイツは極めて危険な状態と言えます」

 

「そうですか…」

 

「今は大義名分を掲げる正義のヒーローがもてはやされる時代です。それを考えれば、必要以上に過激な人種差別政策は直ぐにでも撤回するべきでしょう。後、多少我慢しつつも周辺国との友好的な姿勢は貫く必要があります。周辺国と仲良くできない国は長続きしませんから」

 

「勉強になりますな。それが貴方の思想ですか」

 

「えぇ。世論を味方につければ多少の無理は押し通せます。逆に世論が敵になれば何をするにしても敵対視され孤立し、破滅へと向かう事になります」

 

史実現代における中国や第二次世界大戦時のアメリカの様なものだ。

アメリカは世論を味方につけた正義であったからこそ、原爆をはじめとした多数の戦争犯罪が許されたのだ。

中国は世界を敵にした結果完全に孤立し、史実大日本帝国もニッコリの破滅ルートを突き進んでいる。

人間誰しも、正義のヒーローでいたいのだ。いずれ倒される悪役など(もっ)ての外である。

 

 

「もしも貴方が今まで以上にドイツの未来を思うのであれば、今からでも方針を変えて世論を味方につける善良な正義のヒーローを演じるべきでしょう。最期の瞬間まで」

 

「なるほど。とても勉強になりました。やはり、貴方と語り合えて良かった」

 

「そう言っていただけると嬉しいです」

 

その後、他にも語り合いながらも和やかに対談を終える事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで画家を目指していたと聞きますが、私が手解きしましょうか?」

 

「できるのですか?」

 

「これでも絵の才能はありましてね。偶に友人の為に絵を描いたりするんですよ。如何でしょう?」

 

「では是非」

 

後日、ヒトラーは人物画が上手になった。

 





ヒトラーを含めた昔の人の普段の言葉遣いが分からないので、違いが有っても流していただけると幸いです。
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