グリッチ有り
チート無し
MOD無し
Ver.1.0.1
「しゃおら!!区間新だ。ここまでロスなし、勝ち確ぅ!!」
「あの、青野くん。今授業中なんだけど」
「うるせぇ、集中力が鈍る」
「え?なんて?」
雲ひとつない快晴。
時計が時を刻む音と黒板に書かれるチョークの音。そして生徒たちの熱心に取り組む鉛筆の音。
一般的な高校の教室で俺はRTAをしていた。
家から持ってきたテレビとゲーム機、そしてそれらを稼働させるための発電機。あと、ノーパソ。
それが俺の机の周りに置いてある。
「青野さん。あなた頭だけはいいのだからちゃんと授業を受けてください」
「まって、後10分、5分だけ待って」
「はぁ」
国語の担当である合法ロリ先生が教卓で説教する。
俺の席は最前列の窓側。つまり、教師の目が1番届くところ。
それでも俺には今、RTAをしなければいけない理由があった。
「俺の世界記録を運ゲーだけで更新しやがって!!ぜってぇ、潰す」
俺はとあるゲームのRTAにおける世界記録を持っていた。
運ゲーに何度も悩まされ最終的にはできるだけ運ゲーを排除し、理論値最速で走り切ったはずなのだが…
それを俺の排除した運ゲー全てに勝って更新しやがった野郎がいる。
てか、日課のspeedrun.comを見ていたら発見した。
「くそくそくそくそ、そっちが運ゲーならこっちもやってやらぁ」
そう意気込み、俺は学校に諸々を持ってきた。
「よしよしよしよし、今んとこ最速。運ゲーも一発勝ち。ガバもない。グリッチ、バグも全成功。あとはラスボスの行動パターンさえ良ければ…」
コントローラーを動かす。ラスボスの行動は数パターンしかないので最速を引ければ勝ち確。
逆に最速を引けなければほぼ負けの状態。
「はぁ〜、きたきた。最速じゃい!!」
運良く最速のパターンを引き当て、それに沿ってミスらないように攻撃を喰らわせる。
背後に回り込み、背中を切り付ける。即座に反転してくるラスボスに背を向け横ステップ、バックステップからの切り込みでラスボスの挙動がバグり、ここからハメ殺しに移行する。
「ふぅ、ここまで来ればノーミスでハメ殺せる。では、完走の感想ですが、上振れが神がかってました」
誰に言うわけでもない言葉が自然と発せられる。
脳汁ブシャブシャで最高にハイってやつになっている俺は気付かなかった。
教室の床が淡く光っていることなど。
「これで、クリ……ア?」
最後の一撃を喰らわせる瞬間、目の前が真っ白になる。
目を突き刺すような光で俺は目を瞑ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を突き刺すような光が程よく消え、ようやく目を開くことができるようになった。
目を開いてみるとそこは中世ナーロッパやよくあるRPGゲームにありそうな荘厳とした建物内部。正面にはこれまたよくありそうな黄金の冠に赤いマントをつけたどう見ても王様にしか見えない人物が一際高い位置にある椅子に座っている。そして、その両隣には王妃であろう人物と王女であろう人物の姿が見える。
まぁ、なんだ。よくある異世界召喚withクラス単位だろう。
何故って?そりゃあ、うちのクラスメイトを囲むように魔術師みたいなローブをつけた人たちがいるんだもの。しかも、今いるところにどデカく紋章が書かれている。
「な、何なんですかこれは!?」
「ここは、何処!?」
「異世界召喚!?夢だったんだ!!!」
「何ここ!?国宝レベルの建物じゃねぇか!!うおー!!興奮してきた!!」
合法ロリ先生やこのクラスで一番可愛いと言われていた筈のクラスメイト、他のクラスメイトも何が起きたか分からず狼狽えている。
「な、なぁ青野。これってまさか……」
「ん。あぁ、友人A。十中八九異世界召喚だろう」
「いや、俺青山って名前が」
「それはそうと友人A。この景色に見覚えはないか?」
「俺は青山だって何回も」
「そうだ。この世界はまるで俺がさっきまでやっていた『リキッド・ピープル・ゴッデス』通称『RPG』の世界じゃないか!!」
「いや、しらねぇよ。そんなマイナーゲー」
俺はこの世界を知っている。そう、さっきまでRTAをしていたゲームだ。あそこにいる夜になると王妃の尻に敷かれるドM王様も、娼館のドS妃だったのが王に見初められて本物の妃になった王妃も、その2人から生まれた結果両方の素質を併せ持つお姫様も、魔王軍の幹部でこの王国を内部から崩そうとしている宰相も。みんな、俺が知っているゲームなんだ。
「まって、今なんて?」
「ん?ドM王様とドS王妃様……」
「いや、その後」
「両方の素質を持ったお姫様?」
「もう一個後」
「魔王軍幹部で王国を内部から崩そうとしている宰相?」
「それだよそれ!!マジで!?」
「マジだぞ。……えっと、まず宰相の服を剥ぐところから始まる。こうやって『服を剥ぐ』コマンドがあるから、それを連打する。一回だけじゃ嫌がられるから何十回も同じ選択肢を選ぶと……ほら、バグで選択肢を貫通して剥げる。見てみろ、腹部分に悪魔みたいな顔がある」
「うげ、マジだ!!キモッ」
これはRPGで一番初めに見つかったバグだ。何故か『服を剥ぐ』コマンドがあった宰相を怪しんだプレイヤーが何十回も超高速コマンド連打をしていたらプログラムの隙をつくことができて発見された。これにより、王国崩壊イベントをスキップできることが判明した。別に魔王討伐TAじゃ王国が滅びようが関係ないので使われることはない。別カテゴリのANY%世界救済RTAではオープニングが終わった瞬間に使われるバグ。これをするかしないかでは10分もタイムが変わるので絶対やるだろう。
宰相は「こんなポッと出の勇者候補に見破られるとは!!」と叫ぶとメキメキと身体が変貌し、悪魔然とした姿に変わる。角が生え、肌の色は紫に変色し、体躯は倍以上に膨れ上がる。
「ど、どうするんだ!?宰相さん、お怒りだぞ!?」
「あぁ、大丈夫だ!!ひやぁ、本当にRPGに来たんだなぁ!!……こいつの倒し方は簡単。まずバックステップ。こいつの攻撃は単調で前に振り下ろす攻撃と薙ぎ払う攻撃しかない。まぁ、その2つの攻撃は本来破壊不可能なオブジェクトすらも破壊せしめるんだが」
「はぁ!?そんな強いのかこいつ!?」
「そうだったらよかったよ。友人Aにわかりやすく説明すると、この王宮って破壊不能オブジェクトなんだよ。宝箱とか、瓶とかは壊せるけど建物自体は壊せない。特に王宮は破壊不能な上にもし壊れたとしても再生する特徴がある」
「つまり?」
「こいつの前に振り下ろす攻撃によって王宮の床に穴を開け、その穴が急速に再生することによってバグって抜けなくなる。つまり、こいつは超簡単に嵌め殺せるんだ」
この通りに。宰相だった悪魔は今、自身の両腕を王宮の床に埋め込ませて抜くこともできずにもがいている。もう一つの攻撃は腕による薙ぎ払いのため、もうこいつはこちらに攻撃する手段が失われた。
「あと、もう一つ弱い点があって。一応こいつは章ボスみたいな立ち位置なせいで無駄に耐久が高い。それゆえに弱点を用意された。そう、股間だ」
「ということは?」
「あぁ、みんな!!!あの悪魔は股間が弱点だ!!誰が長く股間を蹴り続けれるか勝負だ!!!」
「仕方ねぇなぁ!!!」
「やってやらぁ!!!」
「野郎ぶっ殺してヤァ!!」
「股間なんて下品ですわ!!死に晒しやがりなさい!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約10分後。
股間を蹴り続けられた宰相だった悪魔は非常に気持ちの悪い表情を浮かべながら昇天するかのように灰になった。ちっ、レアドロ落とさねぇか。別に要らないし金策にしかならないが、少しばかり悲しい。使えねぇボスだぜ。
「対あり。勝因は開始1分でゲームの世界だと気づいた事ですね」
「疲れた。………!?なんだ!?体の底から力が湧き上がってくる!?」
「そりゃあ一応終盤のボスですしお寿司。因みにパーティー全員に経験値は入るので全員レベル上がってる筈。何故って?このゲームは50人までパーティーが組めることで有名だからさ!!まぁ、50人パーティーだったら連携がゴミになるから殆ど5,6人パーティーが基本だけどな!!」
ガハガハと笑っていたところで恐る恐ると声がかかる。それは王女様であった。顔を引き攣らせて猛獣を見るかのようにこちらを見ている。何があったのだろうか?悪魔でも登場したのか?
「あ、あの〜。そろそろ宜しいでしょうか?」
「それは俺なんかじゃなくてそこの合法ロリ先生に聞くべきでは?俺はこれからバグ検証をするので忙しいんで」
「誰が合法ロリ先生って!?」
「それでは、ゴホンッ。皆様、私共の召喚に応じていただきありがとうございます。今、この世界は魔王の手によって滅びの危機に立たされています」
魔王、世界滅亡、ちょっとかっこいいかもなどと口々に話すクラスメイトを背景に王女様はさらに話を続ける。
「何故か最近魔王軍は発展を遂げており、私共の兵ではどうしようもできなくなっているのです」
それは簡単。宰相の皮を被った魔王軍幹部がこの国の財宝やら金貨やらの9割を魔王軍に流していたからである。
「ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえましたが。そんなこともあって今この世界はやばいです。ですのでどうか私たちを助けてくれないでしょうか!?」
「え、えぇ……そんなこと急に言われても。私にはこの生徒たちを危険に晒すわけには」
「いいんじゃないかな?葵ちゃん先生」
「な!?ど、どうして!?」
「そりゃあ、ほら」
何故か合法ロリ先生とクラスメイトがこちらを見てくる。何見てんだ、見せもんじゃねぇぞ。
かくいうこちらは通常のバグが使用可能かの検証をしている。例えば、ジャンプをして地面に着地する瞬間にもう一度ジャンプをすることで空中に足場判定が生え空中浮遊が可能になるバグや、その状態のまま破壊不可能オブジェクトに挟まれることで壁にめり込み、壁内部は水判定なためそこで泳ぎモーションをしながら空中に出るとその判定が維持されたまま空中を異常なまでの速度で泳ぐことができるバグを使っている。慣れるまでは難しいが慣れれば簡単だ。現に、それを教えた友人Aやクラスメイトは真似をして空中を泳いでいる。
「負けるわけないよ。でしょ?」
「俺に聞いてるのか?それならイエスだ。俺が幾らこのゲームをやりこんでいると思っているんだ?魔王討伐RTAだろうとANY%世界救済RTAだろうと、完全制覇してやろう。因みに、魔王討伐RTAの自己べは1時間2分45秒34だ」
「タイムを完璧に覚えているところを見るとそれを誇りに思ってそう」
「誇りに思っているに決まっているだろ」
ANY%世界救済RTAは7時間前後だ。タイムが安定しないからな。特に運要素で。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「助けてくれるんですね!?ありがとうございます!!」
お姫様がここぞとばかりに頭を下げている。うーむ、ムービーでよく見た光景。これだけは何故かスキップ不可能なんだよな。何十回何百回も見たのだがいまだに感慨深いものがある。
「それでしたら!!この国の宝物庫に入っているものでしたらなんでも使って構わないので!!」
「いや、いいです。宝物庫の中身も全部宰相によって偽物になって本物は魔王城にあるので」
「なっ!?」
「なので、この王宮内部にある物をください」
「それくらいでしたらいいですけど……」
言質を取ったので早速お目当てのアイテムを探しに行く。
「ということで今回必要になってくるのはこの王宮にある取り回しが簡単な装飾品です」
「どういうことだってばよ」
「いい質問だね。クラスメイトC」
「俺の名前は坂崎」
「そんなことはどうでもいい。さっきも言ったけどこの王宮は破壊不可能オブジェクトなんだ。それは宝箱や壺といった特殊な中にアイテムの入る物以外全部破壊不可能なんだよ。どういうことかわかるかい?」
「えっとぉ、例えばこの王様の椅子とかで敵を殴っても壊れないってこと?」
「Exactly!!何故かそういったアイテムは持ち出せるし装備もできる。火力も申し分ない。つまり、使わない理由がないというわけだ。ということでこれからは各自この王宮内で使えそうなアイテムを見つけてくる!!よし、頑張って目標タイムを出してさっさと帰ろう!!魔王倒したら帰れるからね!!!」
「よっしゃぁ!!!」
「やってやります!!」
「頑張るぜ!!!」
クラスメイトは全員空中を泳ぎながら王宮内部を探索しに行く。うん、もうみんなプロだ。
しかし、まだまだだな。このバグにはもう一つ発展がある。この空中で泳ぐ姿勢のまま無理に体を回そうとすると身体が弾丸のように直線的にすっ飛ぶ。これを『弾丸ブースト』と呼ぶ。一応、ここは地上なため地上で可能な動きである体をその場で回転させると、泳ぎモーションがバグって正面に飛ぶというわけだ。
これにより、基本的な移動中の時間を約10%短縮できる。問題点は空中を泳ぐバグ『air swimming』略して『AS』がこういった破壊不能オブジェクトでしか使用できないため、マップ移動に向かないところだ。まぁ、それならそれで他のバグを使えばいいだけなので問題はない。
そうこうしているうちに目当てのアイテムを発見する。そう、燭台である。これはそんじょそこらの燭台とは違い三又なのだ。普通の燭台と比べてDPSは脅威の3倍。さらに燭台についている燃えた蝋燭は炎属性ダメージを与えるためマジで強い。
なんてこった!!さらにはランダムポップする出刃包丁までもが同じところに落ちているではないか!!ゲームならならここで武器が2個以上出るまでリセマラをする。だが、ここは現実であるためどうしようかと悩んでいたがとても運がいい。出刃包丁も最初から最後まで使われる武器だ。
最高だ!!
槍枠と片手剣枠を手に入れたので、あとは適当に大剣枠の絵画と盾枠の扉を手に入れれば完璧だ。
最高のRTAになると思いながら一番初めの部屋で他のクラスメイトを待っているとゾロゾロと武器を持ったクラスメイトが戻ってくる。
「見つけたぜ!!これが俺の武器兼装備!!廊下に飾ってあった全身鎧だ!!」
「私はこの食器セット!!」
「シャンデリアなんかどうだ!?」
「俺はこのロングカーペットで全てを巻き取るぜ!!」
各々素晴らしい選択をしていた。初めてとは到底思えない選択の仕方だ。全身鎧は炎に巻かれたら蒸し焼きになるがそれ以外では最強の防御力を誇る。何故って?そうだよ。破壊不能オブジェクトだからだよ。
食器セットは暗器にピッタリ。シャンデリアはそもそも取れるのを初めて知った。要検証だな。ロングカーペットも使えるだなんて知らなかった。
「なんてこった!!みんな、本当に最高のクラスメイトだぜ!!」
俺のRTAのモチベをさらにぶち上げてくれるなんてなぁ!!!
「よっしゃあ!!さっさと魔王ぶっ倒して帰ろうぜ!!!RTAの時間だ!!」