Snake.memory──不滅の蛇の日記帳   作:カピバラバラ

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壊れたる神の器──名前負けしてて草

 

「────はぁ」

 

「…新エリー都は奇跡の都市であり、ホロウ災害の時代にあって、ただひとつの拠り所となれる場所だ」

 

男は語りを始める、堂々と芝居をするように。

眉をひそめ、顔をしかめ、嫌気が差したような顔をしながらも原稿を読み続ける。

読み進むにつれ、苛立ちを隠せないのか原稿を強く握り、しわを広がらせて後ろ頭を掻いた。

 

「あー、私がまだ小さいころ、生き残りたちのリーダーが言っていたことです。ホロウを避けて荒野を流浪する、辛く厳しい日々の中にあってその言葉は私の希望でした。やがて幸運にも、我々はここへたどり着いた。この街は私たちを受け入れ、あの言葉が示していた通りのものを我々に与えてくれたのです」

 

「その時、私は決心したのであります。自らの全てを捧げて、この伝説を、奇跡を、みなさんの拠り所を、守り抜こうと!」

 

「………」

 

そんな男の、必死な練習を眺めている少女が一人。

 

「………──にやけた面を隠さないのなら、今ここで撃ち殺すぞ裁定者ぁ!!」

 

「えー、いいじゃん、私ブリンガーちゃんの演説好きだよ?」

 

──ジャスティン・ブリンガーには嫌いなものがあった。

それはこの癪に障る演説練習と、中身のない予算案、そしてクソガキの相手。特にあらゆるイライラを摂取させてくる最後の項目は、最近になって精神への影響を強めている。

 

そこに加わるのは、次々と失敗する入念に準備してきた計画の失敗だ。

讃頌会は長年、人を人為的にエーテリアスへと変化させ、尚且つ人の意識は保たれたままにする秘薬、サクリファイスと呼ばれる代物の実験成果を求めていた。

 

「隠してきたものも、やろうとしてる事もどんどんバレていっちゃうね〜?」

 

「き…さ…ま……!!」

 

「相手があのパエトーンだもん、仕方ないよ。君はちゃぁんと…最善を尽くしてると包ちゃんは思うな〜」

 

第一に、『ヴィジョン』というTOPSに足を掛けた企業を隠れ蓑とし、一度実験、そして封印を行ったサクリファイス被検体を手に収める計画は頓挫。

第二に、新エリー都の外、郊外の流通を支配する組織『トライアンフ』から権力を奪うことを阻止された。

第三に、自身の裏の顔を知っているヴィジョン社長のパールマンという人物の排除の失敗。

それらは全て、裏で活躍するパエトーンの影響によるもの。

 

「千面相も役に立たぬ、H.A.N.Dの活動も止められぬ、サンプルを手に入れる道の影すら見えない!!そんな状況で貴様はヘラヘラと…!」

 

「世の中悪が栄えた試し無し!やっぱりあくどい事しようとすると、みんなこぞって手を取りあうんだからさ。ブリンガーちゃんはちょっと人間の底力舐めすぎ」

 

「…………」

 

「分かってるでしょ?ブリンガーちゃん。君自身が『人間』という存在の輝きを証明した事がある」

 

「同時に醜さもな」

 

「君を導いた英雄が、救ってきた人間達の手によって無惨に見捨てられた…。うんうん、それも人間の本質だよ」

 

「────……あぁ」

 

冷めた目で、ブリンガーは自分の手を見つめる。

脳裏に写っているのは全て、人間の醜さと愚かさだ。幾ら救っても、幾ら施しても、人が持つ『悪性』は満足しない。

 

怒りは無い、憎しみも怨念も無い。あるのはただひたすらに虚しいだけの追求、『人間とはそういうもの』という本質。

抱える苛立ちも、ストレスも、この冷めた心の前では無色透明に映る。

 

「長いこと君と話し合ってきたけど…やっぱり気持ちは変わんない?」

 

「変わる先すら無いのに変われるものか」

 

「サラちゃんも司教ちゃんもみーんなそんな感じなんだから、辛い事があれば辛いって言える人生じゃなかったのが……──君たちの不幸かも」

 

「──その言葉を吐き出した所で、苦痛を取り去ってくれるのは始まりの主をおいて他ならない」

 

「そうかもね……。ちぇっ、包ちゃん悲し〜」

 

目の前の少女は口調は軽くとも、憂鬱げに目を細めブリンガーを見やる。

抱いているのは憐憫か、同情か。いや、そもそも『裁定者』にそのような機微があるものか。

 

腹が立っても手を出さない理由は、所詮この女も同じ穴の狢だからだ。等しく人間への望みを失っていて、どんな言葉も虚勢に過ぎない。

励ましも、嘲りも、泣いても笑っても怒っても、コイツは何も変わらない。ジャスティン・ブリンガーが期待に応えられなくとも、何も感じていない。

 

「駒になりきるのは良いけどさ、私は君たちの事を駒だとは思いたく無いんだ」

 

「散々傍観してきた貴様が何を言う、少しでも信心があるのならば手を貸せ!」

 

「手を貸した所で成功しなかったよ。パエトーンが歩む運命は強固で、それでいて輝かしい。私たちであの子達を曇らせられる?」

 

「っ、何故そうも全てを知っておきながら──!未来すら見通すその目があって、運命すら把握する権能を授かって、何故貴様は……──」

 

裁定者『包』。

それは讃頌会で最も恐れられる背信者の名前であり、讃頌会が讃頌会である為に必要なアンチテーゼ。

 

ブリンガーは目の前の少女の正体を何一つ知らない、始まりの主による再創、その奇跡を受けて入信しただけであり、どうしてこの様な存在の入信が許されているかは甚だ疑問だった。

だが数年、面倒な会話を無理矢理にさせられて、包の、その存在意義を理解する。

 

「貴様は………はぁ、もういい、無駄話だったな」

 

「無駄じゃないよ。死ぬまで覚えとく」

 

「…………」

 

──罪人から苦しみと罰を奪った後、そこに残るは人か罪か。

 

悪とあれと産まれてきた者はいない。善とあれと産まれてきた者はいない。誰かに望まれて、今こうして生きている訳では無い。

コイツは『メンタルケア』だと宣うが、言葉の数々は讃頌会を抜ける事を勧めている。

 

ただ単に脱退を促すのでは無い、我欲による入信を許していない。恨みが、憎しみが、喜びが原動力であることを許さない。

奪われた傷を癒そうとする、産まれから絶望の中に居た者を救いあげようとする。この世の不条理に、この世の理不尽に蹂躙された人間に少しでも手を差し伸べ、語り掛ける。

 

そうやって苦しみを取り除いた罪人に問いかけるのだ、『まだ始まりの主に従いたいか』と。

長年、教えに背く事で、純粋で絶対的な信仰を持つ者のみを裁定する。即ち───背信を以て、信仰を成す。

それは、この世で最も至純な崇拝であり信奉であり帰依であり信心であり、信仰だった。

 

「あ、そういえばサラちゃんがね〜、ブリンガーちゃんにコレ渡しといてって」

 

「なに?アイツが?」

 

「星見雅、元い星見家の極秘情報!私は知ってるから教えてあげようかって聞いたんだけど、自分で頑張るって返されてね。ホワイトノイズ本人が苦労して手に入れたんだって」

 

「あの負け犬が…──本人?…なるほど、それでこの情報の真偽は」

 

「それを確かめる為にブリンガーちゃん手伝って欲しい〜って言ってた、作戦はその封筒の中に同封済みだよー」

 

「ふん…。分かったと返事を返しておけ、パールマンの始末も忘れるなと付け加えてな」

 

「あ、それなんだけどね、私パエトーンっちからパールマンを護送して欲しいって頼まれてるから、襲う時は気をつけて下さい!」

 

「─────は?」

 

何?なんて言ったコイツは、今なんと──?

聞こえてはいけない、聞いてはいけない情報が脳を貫いて、

 

「きっ、きさ、貴様、奴らとは関係を持たないと……今になって干渉を…?」

 

「あ〜、その、昔の恩というか?まぁいいじゃん、讃頌会にはたっぷり未来を見る力を使ってあげてるんだし、向こうにも手を貸さないと不平等じゃないかな?」

 

「────」

 

「ブリンガーちゃん?えっとぉ、ゴメンね!」

 

「────」

 

「計画の邪魔にはならないようにするからさ、パールマンは殺せなくても別に雅ちゃんの刀の力さえ利用出来ればいいし、私の事はモブA的な感じで対応して欲しい。お願いねー!それじゃ!」

 

「────」

 

───その日。

次期総監と噂されるジャスティン・ブリンガーの選挙演説は、度重なるストレスへ放たれたこの致命的な一撃によって腹を下した事で、三十分の遅れをとる事になる。

 

そんな事は露知らず、軽々と胃痛のタネを吐き出した包は、ほんの少し眉を下げてブリンガーの顔を見つめる。

 

「……そうだ、ブリンガーちゃん」

 

名を呼ぶ声は、温かく、そして冷たく。

慈しむようでいて、今からでもすぐに崖から我が子を落とそうとする猛獣の様な、ある種『神託』地味た声。

気の抜けた顔を晒すブリンガーに、包は言葉を続けて、

 

「君を導いた英雄……いや、君自身だね。君の中にあった自分の英雄像が、愚かな民衆に裏切られ捨てられて───」

 

「君は、その英雄に失望してしまったかい?」

 

「…………」

 

「それは『裁定』か?」

 

「いいや、個人的な質問」

 

「……────」

 

「───」

 

「…」

 

「……零号ホロウ」

 

「零号ホロウの中で、その英雄は死んだ。代わりに産まれたのは、英雄の骸を被った亡者だ」

 

「だが、それでもその亡者は今も───」

 

「腐り果てた亡骸を、被ったまま歩いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零号ホロウ。ホロウネーム:リンボ。

新エリー都に住まう人間ならば、今尚その名に震え涙を流し、喪失の記憶を沸き上がらせる。

──『彼女』は、そんな零号ホロウに咲くはずだった無垢の花だった。

 

「……」

 

神に堕胎されし者、呪いと寵愛を受けし稚児。

その身には奇跡が宿る、その心には無垢が現れる。善悪を超越した愛し子が、始まりの主と我々を繋げる伝導者になる。

 

筈だった。

 

『うわっ!?思ったより実物美人ですね!?』

 

開口一番、『ソレ』は神秘性の欠けらも無い台詞を吐いた。

メタトロンの冠を被るはずだった花は、独りでに歩き出してしまったのだ。

けれど『ソレ』は奇怪な事に、勝手に動き出した事以外は正しく『器』であり、始まりの主に相応しい道標だった。

 

「……」

 

知識を得る筈が無い、知性を得る筈が無い、そう『望まれてきて』生み出された器は旧都崩壊の際、讃頌会の手を一度離れる。

その間に何が起きたのかは分からない、けれど、『ソレ』が自我を持つ事だけは有り得ないのに、

 

「────」

 

『名前?え、そんなゴテゴテした奴嫌です。私の名前は…えっと、ばおちゃん!包の一文字でばおちゃんって呼んで下さいね、サラさん!』

 

あらゆる疑問は、知れる訳が無い自身の名を初対面で呼ばれた時点で、些細なものとなったのである。

一言一句が神秘そのもの、理解不能であり、正しく神託。

 

「ただいまー、ブリンガーちゃんに伝えてきたよー」

 

「お疲れ様です、包ちゃん」

 

「サラちゃんもお疲れ様!本当は私なんかに頼みたくなかっただろうけど……忙しいもんね、ラマニアンホロウの方の根回しは済んでる?」

 

今もこうしてまた、何一つ知らせていない情報を口にする。

当初は裁定者の立場を与え、役目に縛ろうとしたが失敗。彼女を縛る為の努力は全て徒労になった。

 

「…ええ、勿論」

 

「失敗ばっかで辛いと思うけどガンバ!私はサラちゃんの事すっごく応援してるからね!」

 

「そう申される割には、パエトーンに天秤を傾けなさるのですね」

 

「そりゃぁそうだよ、私は二人のファンなんだ。言わば運命の相手?うーん、宿敵?」

 

「──宿敵」

 

「うん。そうなる予定、サラちゃんが心配するような未来にはならないから大丈夫!」

 

心を見透かされる、それは酷く心地の悪いものだ。

自分が他者に理解されるのに、欲するものは何も無い。理由は単純、理解するなと突き放すから。

 

思考を読まれても別にいい、耐えられないのは『思考を理解される』事。

どうしてその思考に至り、何を以て辿り着き、心の原動力である代物を暴かれる。

それは自身の神秘性が解き明かされたという事、神すら地に堕とされるその行為を当然の様に行う。

 

「あ〜、サラちゃんったらまた『気持ち悪い』って顔してる〜。包ちゃん傷ついちゃうなー」

 

「…………」

 

「大丈夫、大丈夫だよサラちゃん。讃頌会の祈りは私が覚えておく、死ぬまでね。だから徒労になんかなったりしない」

 

「いつまでも、私は『裁定者』としてじゃなくて…包ちゃんとして、みんなの事を覚えておくからさ」

 

──ああ、本当に気持ち悪い。

こんなモノが、始まりの主の寵愛を受けている事実が、脳裏を刺す痛みに替わっていく。

 

「…駄べりは終わり、サラちゃんコーヒー入れて〜。店長ちゃんの近くのコーヒー店に寄ってたらハマっちゃって、マイブーム到来中なんだよね。イゾルデちゃんも誘ってお茶会しない?」

 

「──司教と呼んでください、裁定者」

 

「ん!?おー、やっほー司教ちゃん。復讐の準備は順調?」

 

三者が会合するは、ラマニアンホロウ航空開発区跡地。

過去、この惑星を捨て月へと旅立とうとした者達の夢の跡にて、包の背後から声がかかる。

振り返れば、呼び寄せようと思っていた『司教』こと新エリー都防衛軍大佐のイゾルデが普段の装束を脱ぎ、可憐な花を胸に差した軍服で立っていた。

 

顔が良いのだから、あの妙な仮面を被らず晒しておいた方が信者が増えるのではないか?と以前提案した事があるのだが、その時は彼女の顔から優しさが抜け本気で怒られたのは記憶に新しい。

 

煮えたぎるような憎悪を元に復讐を誓う彼女にとって、包の戯言は少し刺激が強いのである。

 

「サラちゃんが呼んだの?」

 

「いえ…司教、今回は独断ですね」

 

「ああ、裁定者が寄ると聞いてな。丁度足を運ぶ時間もあった」

 

「ふーん。それで?よっぽどの事が無いと包ちゃんとは会いたくないと思ってたけど、何か用?」

 

「──特に」

 

「へぇ」

 

「余興だ、暇つぶしと言ってもいい。それに…君との会話は、学ぶことも多い」

 

それを聞くと、包は指を弾き何処からともなくテーブルと椅子を持ってくる。椅子もテーブルもボロボロで、そこかしこに苔が生えており寂れていて、

 

「エーテルを利用した短距離ワープ…易々と使うものだ。奇跡をそんな事の為に使うなど、軍が見れば泡を吹いて倒れるだろうな」

 

エーテル力学に通ずる者であれば絶句するであろう光景が、当然の様に繰り広げられる様に微笑を浮かべるイゾルテ。

包の手招きに従い、サラと共に着席するとまたもやワープによって手元へティーカップが配膳される。

 

傍にはインスタントコーヒーも置かれていて、熱を持ったケトルをサラへと手渡す包。呆れ呆れに受け取って、三人分の珈琲を淹れるのであった。

 

「うーん、美味しっ!」

 

「…………不味いな、まさか軍の備品よりも不味い珈琲があるとは」

 

「誰が馬鹿舌だってぇ!?」

 

「そうは言ってない。忌避の無い意見、と言う奴だ裁定者」

 

「サラちゃ〜ん、イゾルデちゃんが虐めてくる…」

 

「事実を述べられているだけでは?」

 

「─────ぉぉぉぉん…」

 

そこには、とても穏やかな時間が流れていた。

多くの悲劇を生み、自分の命すら消耗品のように扱い、流してきた血は街を埋めんとせん三者が、一つの茶会を開いている。

 

「ふぃ〜」

 

口をつけたカップの端を指でなぞり、テーブルに置いた後、細めた目でイゾルデを見つめ首を傾げる。

司教を冠する彼女は、たった一つの復讐の為に全てを燃やし尽くす憎悪の炎だ。本来の彼女なら、こんな無駄を過ごす人間では無かった。

 

「……はぁぁ─…」

 

「…ごめんね、イゾルデちゃん」

 

「何故謝る、君の普段の行いを考えれば唐突に謝られても不思議では無いが、また何かやらかしたのか」

 

「いいや、ちょーっと傷心ってだけ」

 

「裁定者が傷心……ふっ、ふははっ。冗談だろう?」

 

「冗談じゃないよ〜。私はサラちゃんもイゾルデちゃんも幸せになって欲しいのにさ、私じゃどうしようも無いから悲しんでるの」

 

──運命とは残酷なものだ。

ゼンレスゾーンゼロはとっても悲しい話が多い、それこそ読者が胸焼けするぐらいみんな苦しんでる。

 

不条理ってのはね、それが普通になっちゃいけないの。条理が否定されるのが当たり前だなんて悲しい話、ちっとも面白くない。

血を流し裏切られ、血を流させて裏切って、最期に虚しく命を散らす。彼女に待っているのはそんな結末。

 

「イゾルデちゃん、この前の話、覚えてる?」

 

「『始まりの主の再創が、復讐の果てよりも美しい楽園ならどうするか』だったな。彼女の前で背信にあたる言葉を綴りたくは無いのだが…」

 

「構いませんよ、司教。裁定者が望まれるのであれば……ご自由に」

 

「──……それでも私は、復讐を選ぶ」

 

「どうしてかな、君が支払わされた犠牲の全てが、元の形に戻るとしても?」

 

「ああ。それでも私は復讐を成し遂げる、憎悪の炎が消えても、冥府に残った魂達の願いは私にしか叶えられない。この旅路で失われてきたものは…戻らないんだよ、裁定者」

 

「…………」

 

「…そこまで分かってるのなら、イゾルデちゃん」

 

「……あー……。…はぁぁ…──私は君の旅路の、その果てに安堵の死がある事を祈っておくよ」

 

「いつものように言い切らないのだな、君の権能があれば既に結末等、君の手の平の上にあるだろう?」

 

「………………」

 

──生きていく上で、包ちゃんは沢山の命を奪ってきました。

善良な人間も、悪徳な人間も隔て無く、その人が心の内で覚悟していた結末を迎えさせてあげてる。

終わりを迎えようとする人間は、つまりは怠惰なんだ。私は『続き』を提示してくれたら誰でも見逃そうとしてたのに、誰も彼もそこで諦めちゃう。

 

答えは先送りにしていい、今すぐ結末を見据えなくていい、人間は求め続ける生き物なんだからさ。

 

でも、やっぱりイゾルデちゃんみたいな子も居る。終わりを見据えて、ただそこへ走っていくだけの蝶々みたいな子が。

 

「悲しくないし悲しめないし悲しまない、けど、私は君も『続き』を見て歩いて欲しかった」

 

「…どうして君が、私にそんな思索をする」

 

「うーん、どうしてかな。終わりが見える物語に口を出したくなったとしか言えないかも────…覚えてて、サラちゃんイゾルデちゃん」

 

「運命なんか世界で一番つまらないものです。つまらないものを見ていると自分までつまらなくなる、だから目に写すものは出来るだけ面白いものに、ね?」

 

「この先の未来で、コンマ一秒でも二人の肩の力が……私の適当〜な話で和らいでくれたら、私はそれでいいのさ」

 

そう言うと彼女はいつものように、適当で、無責任な戯言を吐いてニコニコと笑うだけ。

珈琲に口を付けて、今度は「にがまずっ!!」と声を上げ、またニコニコとほほ笑みかける。

──それから、わざとらしくカップを掲げ「始まりの主よ、再創を」と、心の何処にも無い言葉を吐くみたいに呟いた。

 

「………壊れた器、君も大概だよ…私からすればね」

 

「イゾルデちゃん、その呼び名辞めてよ〜」

 

「──名前負けしてて、笑っちゃうからさ」

 

 

 

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