Snake.memory──不滅の蛇の日記帳   作:カピバラバラ

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アキラくんさぁ…そういう所あるよねぇ…

 

 

『おや……ここは…──あれ、目のメイン機能が回復している?それになんだか、高級ホテルで熟睡したかのような満足感が…』

 

手を二、三度開いては閉じ開いては閉じ、肉体の不調が元に戻っていることを確認するアキラ。鈍い頭痛は何処へやら、十時間程の熟睡を高級ベッドの上で過ごしたような快感を覚え、辺りを見渡す。

 

『お兄ちゃんっ!!!』

 

『漸く目が覚めたわね、アキラ』

 

『リン…!それにニコも居る…ということは、僕らは無事ホロウから出られたんだね。けれどあの後何が…?』

 

『私が説明します、マスター。私の独断により車両へ潜入させたイアスを通して、貴方様の眼部知能インプラントを調整しました。対ホロウ六課責任者、星見雅があなたをホロウから連れ出したのは約三十分前のことです』

 

『貴方様は一度、致死量寸前のエーテルエネルギーに晒されましたが、包様の施術により危機から脱し、現在に至ります』

 

『良くやったフェアリー、イアスを僕たちに無断で…という所は叱るべきかもしれないけれどね』

 

『ンナ!!』

 

『マスターが危険な目に遭った事以上の、叱るべき事案は存在しないと判断します』

 

『それは……済まなかった。状況が状況…──そういえば雅さんは?』

 

アキラの記憶は刀の納刀を節目に閉ざされている。幾ら彼女でも手負いの人間二人を抱えながら脱出は厳しいと思い、首を傾げ質問する。

刀などうなったのか、脱出はどうやったのか、よく無事に帰れたものだ、色々と思考を巡らせる中、こちらへ向かってくる星見雅の表情は優れなかった。

 

『──プロキシ』

 

『雅さん!良かった、君も無事…なんだね』

 

『流石ですねぇ、課長!侵食でぶっ倒れた三人を抱えて大立ち回り、それで自分は侵食のしの字もないって』

 

『……待ってくれ、三人?もしかすると僕は、何か一話分見逃してしまったのかい?』

 

『あーその……課長?』

 

『ああ、私が説明しよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「包さん」

 

「…んっ……」

 

重く、湿ったい空気が辺りに満ちる。

名前を呼ぶ主はアキラ、エーテル侵食による影響を完全に脱し、健康な状態へと戻りながらも声の音色は落ち込んでいた。

まるで重石を背負い込んでいるかのような気迫と、目の前の光景に打ちひしがれる彼はため息を飲み込む。

包───『ネメシス』CEO:ネクタールは今現在、見るも無惨な出血多量を隠して立ち去ろうとし、再び気絶してしまったのだから。

 

星見雅がホロウを脱出し対ホロウ六課と合流したすぐ後に目を覚まし、危篤状態にある包もまた目を覚まして、パエトーンに見つかる前に立ち去ろうとして……倒れ込んだ。

 

「───…」

 

雅、彼女が言うにはホロウの中、エーテリアスと反乱軍の大群を突っ切って助けに来てくれた。本人もエーテル侵食のアオリを受けて内臓に甚大なダメージを受けている様子。

どうやら彼女が持っているアタッシュケースに入っていたものが、彼女をホロウ内で活動させる為の機構……らしいのだが、それをホロウ内での施術によって使用した事で、エーテル侵食が発生してしまったらしく、

 

「…………んー…?」

 

「───!!」

 

「アキラくん……おはよぉ〜」

 

「…まだ喋らない方がいい、包さん」

 

「大丈夫大丈夫、人より脆いけど、包ちゃんは人より治りが早いのです」

 

『肉体がひび割れる』なんて、見た事もないエーテル侵食による症状が発生した。内臓を負傷し、元から肉体が傷ついていた為か、出血は成人男性一人分の血液が流出していた。

致死の怪我、彼女が再生の早い特異な体質を持っていなければ本当に死んでいたんだ、明るい顔をして「ありがとう」等と言えるはずもない。

 

「どこにも怪我は無い?目のインプラントは無事かな、それにリンちゃんも後遺症とか無かった?」

 

「っ───先に君の身体を心配させて欲しい。僕たちは君のお陰で何ともない、それより…──どうしてあんな無茶をしたんだ…!」

 

「そりゃぁ…心配だからだよ。長年の商売相手がせっかく頼ってくれたのに、その依頼先で不慮の襲撃!なんてさ、心配しない方が無理じゃない?」

 

「……ああ、心配するだろう。けれどそれは僕も同じだ、僕からすれば包さんも大切な商売相手で、長年の恩人。だから例え包さんがどんな力を持っていたとしても、君が一人の女性である事には変わりないんだ」

 

薄い身体に細い腕、身体のあちこちが細く儚いサイズしかない包。

手を握ってもアキラの手の平に丸ごと包まれてしまうほど、彼女の肉体的な要素は『子供』に近い。

 

年齢は成人していると言っていたが、それでもトラックの荷台の中で寝転がる彼女は、血塗れの幼女。

鱗と肌に張り付いて、乾ききった血はどす黒く擦ればポロリと剥がれ落ち、美しい天弓の様な瞳は命の揺らぎを表すかのように震えている。

 

「事実、君はこうして深手を負い倒れてしまった。……僕が不甲斐ないばかりに、君の鱗に血を浮かばせてしまって……」

 

「気にしないで、包ちゃんは冷酷非道の嫌われ者。貸し借りだけで生きてるシリオンだから、別に何ともないさ」

 

──そんなに悲しい顔をしないで欲しい、心の底からそう思う。

私の行動理由そのものに関わるパエトーン、そんな君たちが悲しそうな顔をしている事が私には耐えられない。

 

必要な事だったとはいえ、リンちゃんにもアキラくんにも……悲しそうな顔をしないで欲しかった、と言うには矛盾が過ぎるかぁ……。

 

「──包さん」

 

「包ちゃんって呼んでよ」

 

「包ちゃん、貸し借りが君の絶対とする所なら…今僕たちは、君に返しきれない『貸し』を作った事になる」

 

「……仕事上の行動に過ぎないけどね、貸しとか借りとか、包ちゃんはただパールマンを市街地まで連れていく仕事をしてるだけ」

 

「ふふっ、でも君は…きっと、必ず…仕事に関係なくとも、僕たちを助けに来てくれただろう?」

 

「────…」

 

「むぅ、その言い方はズルいなぁ…」

 

「ああ。だから今回のは『私的』な『恩』なんだ。君が僕たちと最初に関わったあの時と同じ…つまり、個人的に返したい借りという事でいいかい」

 

「……うん」

 

まぁ〜ったく、この女たらしめ。本編でもそろそろ君の居場所が無くなってきてたんだよ?あっちこっち手を出して、ご令嬢や警察官や防衛軍やら、しまいには虚狩り二名を手篭めにしちゃって。

女たらしというには、男もたらし込んでるから……最早人たらし極、リンちゃんもアキラくんも魔性だよねほんと〜。

 

「…私の事はいいからさー、パールマンちゃん見つけに行っていいよ、アキラくん。誘拐されちゃったんでしょ?唯一の手がかりが」

 

「──!何故それを………いや、いいんだ。今すぐ見つけだすのは難しい、それよりも君の看病をさせて欲しいよ」

 

「今すぐ見つけ出せる、って言ったら?」

 

「─────」

 

「はいコレ、パールマンちゃんに取り付けて置いた追跡装置の位置情報。あの場で敵の狙いが分からない包ちゃんでは無いのです」

 

「包ちゃんにとって最優先はアキラくんリンちゃんとの依頼内容、ほら、行ってきていいよ」

 

──アキラの顔にずいっと近づけられる冷たい機械。

目を見開きソレを見つめ、驚きのあまり表情を固める。あの乱戦が始まってからか、それ以前か、どちらにしても星見雅が見ている中でその細工を行えた事は衝撃の事実。

 

一度その機械を手に取ろうとして───ぐっと歯噛みをし、首を横に振った。

 

「……?」

 

「ダメだ、君をこのまま放って行けない」

 

「えっ゛」

 

「そうだろう?それとも包さんは、僕たちが僕たちのせいで怪我をした人を置いて…目的を優先する、そんな冷たい人間だと思ってた……訳では無いよね」

 

「えぁ、その、包ちゃんは本当に大丈夫だからさ〜。これは二人を貶してる訳じゃなくて、自分の身体に自信があるというか」

 

「そう言うならせめて、君のひび割れた身体から流れる血が止まってからにしてくれ。……包さん、幾ら再生出来ると言っても、失われたものを元に戻すには時間がかかる」

 

「──というのは、僕たちがこの新エリー都に生きる以上、身に染みて理解している筈だ」

 

「ほ、本当に大丈夫なのっ!包ちゃんそこまで心配されると逆に───」

 

「逆に?」

 

「────」

 

「…………」

 

「………………」

 

「そ、それじゃ…包ちゃんの手、もっと握っていてくれる?」

 

「ああ、勿論だとも」

 

「全く、アキラくんは包ちゃんを困らせるのが上手いんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──非常に不味いです。

 

ひっっじょーに、不味い事態になっています。

 

「……」

 

「痛くは無い?包ちゃん」

 

「リンちゃんが傍に居てくれたら治癒力100倍だよ〜」

 

「おや…なら、僕が居ても包さんの体調は変わらない…と。手を握っていて欲しいと言ってくれたのに、寂しいな」

 

「も、勿論アキラくんが手を握ってくれてるから治りがもっっと早くなってるってば」

 

両手に花、ならぬ両手にパエトーン。

でへへ、怪我した理由なんかどうでも良くなるぐらい最高の空間だな〜って普段ならなっていた事でしょう。

 

でも今は事情が違ぁぁぁう!!ブリンガーちゃん生存ルートの為にも、二人には完全回復して貰って即パールマンを追って貰わなきゃいけないのに!!

クソォっ、クソっ、弱い自分の意思が憎い!でも最高!でも突き放さないと!でも至福!!あーーーもーーー!!!!

 

ブリンガーちゃんの敗因は、よりにもよって『星見雅』を敵に回しちゃう事!しかもその場で処断出来てしまうサクリファイス化しちゃって、そのままズンバラリン!!

 

つまりは普通に犯罪者として捕まって貰って……今度こそ本人が言っていた純真潔白な市長とやらを目指してもらいたいのです。

叶えたい事があるなら、包ちゃんが叶えてあげるからね。

 

「………あ〜、なんだかもう身体治ってきたかも…」

 

「コラっ!嘘ついちゃダメだよ包ちゃん!」

 

「…………」

 

「…本当にパールマンちゃん追わなくていいの?」

 

「パールマンなら雅さんに…──対ホロウ六課に任せよう。元からニコ達もそのつもりで呼んでいた訳だしね」

 

「……………」

 

──どうしよう。

少なくとも、あの決戦の場に二人が行かないと、聞くべき真実や伏線やらを思いっきり逃しちゃうんです。私がそう仕組んでますから。

 

人生最大の危機がまさか推し活と計画の挟み込みだとは……!!この私の目を持ってしてもウンタラカンタラ。そもそも!再生しきるまで見守っておくなんて言い始めたアキラくんが悪いよね!?ほんとそういう所だよアキラくん…。

 

も、もう、もうやるしかねぇ!!やぁってやるよバカヤロウッ!!こんぐらいでラスボスが負けてたまるかァ!!──もう三時間ぐらい欲望に負けて看病してもらってるけどね!!

 

「このひび割れさ、包ちゃんが蛇のシリオンだから起きてるだけなんだよ。脱皮…って言ったらいいのかな、正直二人に見られながらはすっごく恥ずかしというか……」

 

「乙女の脱皮、マジマジと見られると……その、ネクタールとしての沽券に関わる……」

 

「──!そうだったのか…それは済まない、配慮が足りなかったね」

 

「それじゃ私達、トラックの外でパイパーと話してこよっか。レンタル延期料金の話もしておかないと!」

 

「ありがとね〜二人とも、包ちゃん大助かりです!」

 

二人がトラックの荷台から居なくなって、車の乗車席へ移動した音を聞いて『デウカリオーンの棺』を起動。

この傷を再生させながら逃げるにも、全力疾走すると身体がバラバラになっちゃうので無理矢理オペして復帰します。

 

私が作ったコレは殆どその場でオペ室を作るようなもの、それにパエトーンの二人から除去──元い吸収させたエーテルはそのまま。

この仕様のせいで雅ちゃんのお母さんは定期的な内部核の輝磁の交換が必要だけど、包ちゃんにとってはポーションみたいなもの!

 

「────」

 

鱗が割れちゃってるのはどうしようも無いので、生え変わりを待ちましょう。それよりも今は身体!適当に縫ってくっ付けて、パパっと縫合。

ホロウ内ならこんな傷、数秒あれば治せるけど…外じゃそうもいかない。本当に不老以外の要素無いんだよね。

 

「ぎっ…──ッ、よしっ!!」

 

後はエーテルエネルギーを身体に注入して終わりっ!後は脱出して二人がパールマンを追うようにしなきゃ────、

 

「え」

 

「ん?…あ」

 

「…その、なんだ。見なかった事にした方がいいって奴か?親分に言われて調子見に来ただけだからよ」

 

「……ビリーちゃんが黙っててくれると、すっっっっごく都合がいいかも。それとパエトーンの二人なら前でパイパーちゃんと話してるよ」

 

「あんがとよ!ちゃんと黙っておくから安心してくれよな!」

 

「…………」

 

「火力制圧用高知能戦術素体、ビリー・キッド。この恩は忘れない、ネクタールの名にかけて」

 

「は?おまっ…──それどこで…」

 

「技術者として一目見ておきたかったよ、流石は旧文明の遺産、私の作品のどれよりも洗練された『兵器』だね〜」

 

「…………テメェ…」

 

「本心さ、包ちゃん…美しいものには目が無いの。ニコちゃんとの生活が楽しそうで良かった!是非、君なりの幸せを追求して欲しいな」

 

「…………」

 

「それじゃこの事は内密に、バイバーイ」

 

ビリーの視界から、まるで迷彩の如く包の姿が掻き消える。自分の身体の性能を持ってしても捉えきれなかった動きに、自身の愛銃へと手を掛けるが…既に包の気配は何処にもなく、ため息を吐いて荷台を出た。

 

──のを、見送ってトラックから漸く離れられた包。

 

「────」

 

「───……」

 

「────……やっちゃっ…たぁ…。練習してきたせいで、勝手に口から出ちゃったよ……ラスボス仕草……」

 

少なくとも、やらなくて良い演技をしてしまった彼女に───運命が味方するとは思えない。

それを自覚しながら、仕方ないとブリンガーの元へ向かうのであった。

 

 

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