Snake.memory──不滅の蛇の日記帳 作:カピバラバラ
「間に合え間に合え間に合え間に合え〜……間に合うかなぁ、間に合うよねぇ、間に合うと言って欲しいな〜…!イテテテテ…」
横になって三時間、パールマンちゃんを誘拐して遠ざけても雅ちゃん達ならそれぐらいの時間があれば見つけられる。特にマサマサがまだ動く元気があるのなら、確保はもっと早いだろう。
私にとって最も嫌な事は、事態が予測不可能な方向へ転がり続けてしまうこと。少しの脚本の変化ならまだ許せる、けれど他の誰かに監督の立ち位置を取って代わられるのは御免だ。
特にサラちゃんはずっとソレを狙ってる、私を始まりの主への供物にする為に色々根回しをしてたんだけど……最近はちょい大人しいかな。
「…《もしもしー!ブリンガーちゃん!》」
《なんだ、今は忙しい。用事があるなら後で──》
「《パールマンちゃんを取り返しに、全力で対ホロウ六課が向かってるから気をつけてって部下に言っといて〜》」
《なんだと!?貴様が居ながら何故そんな事態になっている!!》
「《言い訳は後にさせて欲しいな、とりあえず私はワープで向かうのとシャングリラを起動させとくから、逮捕の為にもブリンガーちゃん早めに移動しといてね!》」
《───チッ、分かった、お前も急げよ》
さて、私の特技にしてインチキ、エーテルの完全操作は細かいところでインチキにインチキを重ねられます。
それの代表が『ワープ』。ホロウ内であれば何処でも移動出来るこの力ですが……郊外から一気に新エリー都までどうやって跳ぶのか。
簡単な話、ホロウっていう空間は潜在的に同一の代物です。旧文明の戦争がきっかけで産まれたホロウですが、たった一つのホロウから派生して共生ホロウが生み、その後独立しまた共生ホロウを生み出す。そのループで世界に広がってる訳なので、
「こっから垂直落下かぁ〜」
「失敗したら死ぬ、成功しても身体バラバラ」
「うん───レッツゴー!」
──ホロウからホロウへ、その間の『ホロウ外』の距離は問わず、ホロウ内自体を繋げるトンネルワープで移動出来ちゃうんだよ〜。
位相転移、通常では起きえないソレも私がエーテルエネルギーをちゃぁんと管理してあげれば普通に出来ちゃう、元が全部同じだからね。
行き先は〜、勿論パールマンちゃんが監禁されてるバレエツインズ!あそこの幽霊ビルはみんな馴染み深いんじゃないかな。
「発動しきる前に身体が壊れませんように!」
郊外ホロウの中へ身を投げる、何処かで誰かが見ていたら投身自殺に見えただろうけど、そんな事より頭の中は物語の進行でいっぱい。
パエトーンが使ってた生体信号による追跡を真似て、パールマンちゃんがホロウ内の何処で何をしているか分かる代物を渡すつもりだったせいで、対ホロウ六課の探索速度は倍増。
流れに流れて今頃柳ちゃんが追跡装置を手にしちゃってるから、どうにかして破壊して時間稼ぎを…───。
「────」
「おー…綺麗……」
「…やっぱ、退廃した世界を一人で旅するのも良いかもな〜…」
ポツポツと、人の手から離れた建築物が吹く風に混じった砂で削られて風化を果たしている。一度創造者の手から離れた創造物は、勝手に歩きださない限りはああやって時間と共に消えていく。
頑丈そうに見える鉄筋鉄骨も、保って高々四十年程度だ。いや……人の手を離れているのだからもっと早い。
そうだ、基本『造られる側』は『造る側』の手から離れない様に作られる、手元から離れては生きていけないように。
ホロウに飲み込まれた建築物が崩壊するまで何年掛かるのか、それとも何ヶ月、何日?ああ、どれだけ頑丈でも一度離れれば、いつ崩壊するかなんて分からない。
「─────」
急いでいる途中なのに、そういった思考を止められないのは悪い癖。やっぱり包ちゃんに焦りは似合わないのかな。
長く、永く続くこの世界に対し、創造された生き物の寿命は余りにも短い、短すぎる。枯れ木についている葉っぱより、舞っている時間は短い。
旧文明もあっという間だった、見慣れた風景はいつの間にか遺跡に変わってた。野草に埋まって月を眺めていたら、気づけば月は建物で遮られて、それからまた見えるようになった。
「……ドタバタするのは性にあわないねー、のらりくらり、頑張るか〜」
太陽が地球と月を飲み込むまで、後五十億年。
地球が再創を迎えて新しい星になるまで、後十億年。
人類にとっては長すぎて、私にとってはすぐそこにあるもの。人類不老計画の果てにあるものは、惑星と共に集団自殺。
ホロウは外的環境から一切を遮断するシェルターで、ホロウはホロウを生み出す無限ループで保たれる。足りないのは人間の適応と寿命だけ。
「我ながら酷い計画だなぁ、まぁ負けることを前提にしようとしてるから、多分心の底だと叶わないって思ってるのかも」
「……ホロウは揺り籠だ、作り出した存在がどう想定してたのかは知らないけど、もう手元から離れてる。なら私が貰っても構わないよね」
「被造物は、創造者から離れては生きていけない。見捨てられたのが彼ら彼女らじゃなくて、この世界であるのなら───」
「求めたのは一つ、求められたのも、たった一つ」
■
「─────」
「…ビリー、本当の事を話してくれないか」
「ビリー…!お願い!」
「ビリー!アンタ何を隠してんのよ!」
「ビリー、貴方がそれ以上黙秘を貫くなら、このハンバーガーは没収よ」
「ビリ〜…黙ってても良い事ないと思うんにゃけど…」
「───………」
邪兎屋の戦闘員にして、スターライトナイトに憧れる一般知能構造体は、ひょんなことから仲間だと思っていた面々に鬼の顔を向けられていた。
荷台から失踪した包、その最後の目撃者であるとパエトーンによって推測されたビリーは、問い詰められても口を閉ざすことしかできず、
「店長に親分…やむを得ない事情ってのが俺にもあるんだぜ…?」
「この状況よりもやむを得ないって何よ、言ってみなさい」
「言ったらダメだろ!?……親分達の為でもあるんだ、アイツとは関わらねぇ方がいい」
「そんなの最初から分かってるわよ、分かった上で呑み込んで…手を取ってる。だからビリー、私にも話せないのならアンタだけじゃ抱えきれない」
「───」
その言葉で漸く堪忍し、包が消えた理由を話し出す。
この場所から逃げれるように身体を手術していたこと、恐らくは逃げ出して向かった先はパールマンの元へかもしれないということ。
アキラは口元に手を置き、包が放った台詞を思い出す。
『包ちゃんにとって最優先はアキラくんリンちゃんとの依頼内容』と、彼女自身が話した事に認識の違いが無いのならば────その達成の為、抜け出した可能性が大きい。
「リン」
「───うん、バレエツインズだよね」
渡された追跡装置は対ホロウ六課へ渡したが、そのデータのコピーはFairyを通じて行っていた。パールマンを捕まえることを目的とするのなら、この情報を辿っていけば、
「パイパー、『猪突猛進』の力…もう一度借りても良いかい?」
「あいよ〜、こいつの運転に任せなって。急ぎの用があるなら絶対に間に合わせてやるよ〜」
「ニコ達も一緒に来るかい?パールマンの一件に一番決着をつけたいのは君だろう?」
「勿論よ!ブリンガーとかいう子悪党、邪兎屋の前にひれ伏させてやるわ!」
「───よし」
その場の全員の意見が合致する、目的はパールマン、そしてブリンガーの確保だ。その過程で包を見つけ出し、保護する。
以前から贔屓してくれた事は多かったが、ここまでの献身はとても望んでいない、彼女の暴走を止めるにもまずはパールマンを取り戻す。
「行こうか、悪党に相応しい結末を届けにね」
──そうして、運命の歯車を回すのはいつだって主人公なのだと、パエトーンらが動き出す。