冬でもバイクに乗りたい
「なら、スノータイヤが必要だよね?」
元キノネキの家は、今では私の自宅になっている。結局、買わせて貰ったんだ。
決め手になったのはガレージだ。表向きの理由だけど。
本音はキノネキの派出所が神奈川県北部を担当する大型支部になった事が理由だ。
恩はある。だが所属してデスマはゴメン被る!
私は山梨から時々応援に行くから、それで許して……
まだ、高校を卒業してないから、住民票は北杜市の儘だけど。
高校卒業後は住民票もコッチに移す事になる。
法律的な事は事務員さんが上手くやってくれるそうだし、気にしなくて良いだろう。
税金とか色々あるんだろうけど、収入源が表に出せないから。
マッカにフォルマが一番の収入源だものね?
私とキノネキが納得して、オカルトで正式な契約書を交わしたんだ。ガイア連合としては問題無いらしい。
週に2日住む我が家……後4月程で北杜市のアパートともお別れ、後チョットだ頑張ろう。
私も礼子も家財道具は最低限しか持たないんだし、引っ越しは簡単だな。
こっちにある家電の方が質も良いし数もある。
アパートにある家具は安物だし、思い入れも無い。
向こうの家財道具は処分しちゃおうかな?
新生活だし安物のベッドを運んでくるより、こっちで新しいベットを買った方が良いと思う。
他の家具も据え付けのモノで足りると思うし、必要になったら、礼子と選べば良いんだ。
「カブ以外の荷物は如何でも良いかも」
タイヤを交換するなら、夏タイヤは此処で保管する事になる。
場所もお金もある。タイヤ交換自体は容易だ。道具も揃ってるしね。
「でも終末が近いんだよね?」
タイヤやブレーキなんかの消耗品って終末後でも入手出来るのかな?
「無理かも……」
南の支部でゴムの木は栽培されてると聞くが、需要を支えられるのかは不明だし、タイヤ以上に優先される製品も多いハズ。
例を挙げればパッキンとかね。
「こういう時は、素直に聞こう」
困った時は先輩に聞く。キノネキなら解決法を知ってるかも知れないし、私よりも伝手が多いから相談相手にも困らない。
私の伝手がキノネキしか居ないのが問題だって? (∩゚д゚)アーアーキコエナーイ
礼子さんの指摘は後日前向きに考えます。
付喪神の利点
「タイヤ交換? ああ消耗品の問題か。スキル入れたら如何?」
スキルですか?
「そーだね~、個体差もあるから一概には言えないんだけどさ? 【リジェネ】で再生する子は多いよ?」
再生……タイヤどころかブレーキも治る!?
「そーゆー事。そうだなcubネキのカブだと【リジェネ】【炎熱耐性】【変化】がオススメかな?」
【リジェネ】は消耗品対策、【炎熱耐性】はエンジンの過熱対策、じゃあ【変化】は?
「低位で良いから【変化】を付けるんだ。するとタイヤ交換しなくても路面状況に合わせてスノータイヤに変わるって寸法だ♪」
なにそれ便利!
「バイク弄りが趣味だと、弄れる部分が減るから良し悪しではあるけどね~」
キノネキのエミール君も【変化】を持たせているらしい。
彼は雪道どころか水上や空中も走れるスーパーマシンだから比較対象としては不適格かも?
エミール君の【変化】は変装用だし。
付喪神は必要に応じてスキルを追加する事も、組み替える事も出来る。
何より、使い手と一緒に成長出来るのも利点。限界もあるらしいけどね?
【リジェネ】は戦闘での㏋回復でも当然使える。私はカブを異界に持ち込む気は無いから、そうそうレベルアップはしないと思うけど。
「少しはカブのレベルアップもした方が良いのかな?」
カブで悪魔を轢き殺したら、経験点はカブに入るのか、私に入るのか?
「キノネキは如何思います?」
「そうだねぇ……バイクじゃ無く、銃の付喪神のケースなんだけど」
キノネキの付喪神だと外れ値な予感がする。
「ボクじゃ無くて義妹達の銃の話だよ」
私の表情を見てキノネキが苦笑する。
「武器には熟練度ってのがあるんだ」
知ってた? ってキノネキが聞いて来た。
「ちらっと聞いた事はありますけど」
武器熟練度が上がれば攻撃力も増えるらしい。最大で2割チョット上がるんだっけ?
「銃の熟練度って義妹達の場合はMAXまで育ててるんだけど」
そうなんだ?
「最低でも習熟度と同じ割合で経験値も入っているっぽいよ」*1
「そうなんだ? バイクでも同じなのかな?」
「多分ね」
銃を道具として扱うキノネキの義妹達でも、23%の経験点を得られる。銃を手足の延長、自分の一部として扱うキノネキだとどうなるのか?
答えはキノネキの配下たる付喪神達のレベルが物語る。入手する経験値が多いのか、必要経験値が少ないのか?
古株の〝カノン〟なんかはエミール君に並ぶ高レベルだった。*2
戦闘ではキノネキと同化同調するから個体のレベルって意味無いけど。
「そうすると【リジェネ】と【変化】は確定だよね?」
贅沢を言うなら【物理耐性】や【炎熱耐性】も入れたい。
「轢き逃げするなら攻撃スキルも必要だよ」
ああ、考えて無かった。
カブを武器にするのも抵抗がある気が? レベルを上げるなら戦闘が近道で、攻撃スキルが必要になる。
レベル上げせずに乗り物として愛用するなら、攻撃スキルは必要ない。その替わり、戦闘に巻き込まれたら壊される可能性が上がる……悩ましいけど、カブが壊される方が嫌だな。
「一度試したら良いよ。合わないと思うならスキルを入れ替えるからね」
スキルの入れ替えが容易なのは付喪神の利点? 私の伝手だとキノネキしか出来る人が居ないんだけどね。
先ずはスキルカードを入手しないと始まらない。
二台分か、お財布が薄くなるな。
終末後の快適なツーリング生活の為だ。がんばるぞー!
妖怪マッカ置いてけ
「とりあえずマッカ置いてけ!」
フォルマも置いてくなら貰うけど、マッカはどんな取引にも使えるのだ!
「スキルカードの材料もあれば嬉しいけど、マッカを積めば大体買える」
マッカだ、全てはマッカが解決する。
「理由はわかったし、あたしもスキル強化はお願いするけどさぁ」
LLENNネキは何が言いたいんだ?
「取り急ぎで必要なのは【変化】だけじゃ無いかな?」
あれっ?
「冬でもカブに乗りたい。気持ちはわかるし、移動を考えると必要だよ? それだけなら【リジェネ】は後でも良いよね?」
それはそう、わかっている。わかってはいるが、わかるわけにはいかん!!!
「急いだ方が安心。今後の需要が不明だし、終末も近い。後回しにして手遅れになったら後悔する」
今なら確実に入手出来るんだ。何時頑張るの? 今でしょ!
「ふみゅう、なるほど了解」
LLENNネキも納得してくれたところで。
「「マッカ置いてけー!」」
妖怪マッカ置いてけは二人に増えたのである。
礼子は優しい目で私達を見つめていた。気持ち距離を取っていた気もする。
こんな感じで私達は、半月程の悪魔狩りを頑張って必要なマッカを稼ぎ切ったのである。
スキルカードを入れて貰おう
「「「お願いします」」」
私と礼子、LLENNネキの声が揃う。
「いいよー」
キノネキは快く応じてくれた。
「どうせ待機で暇だからさー」
「報酬はどうします?」
礼子が確認している。確かに友人だからって甘えるのも不味い。
「ん~、変にサービスするのも悪い前例になっちゃうかな?」
お願いだから技術の安売りは止めて欲しい。
「まあ報酬は後で考えようか? 暴利にはしないからさ」
その辺は信用してます。
「じゃあ【変化】から入れて行こう」
キノネキがスキルカードを手にカブ達に近付く。
場所は家のガレージだ。
「OK、次に【リジェネ】だね」
これも無事に終わる。
「容量的には後2つだね」
じゃあ耐性を2つが良いのかな?
「こんなのがある」
キノネキが差し出したのは【会話&テレパシー】の省エネセット。
「君達の付喪神にはしっかりとした自意識がある。これを入れれば連携も出来る」
何より、自分のバイクとお話出来るよ。
それがキノネキの提案だった。
直接戦闘力が上がる訳じゃないけど、相棒との無言の意思疎通が可能になるのか……
「如何する?」
キノネキのお誘いは魅力的だった。
手元にあるのは【ぶちかまし】に【物理耐性】と【火炎耐性】この中から2つ選ぶのか。
如何する? LLENNネキに目で問いかける。
「あたしはリト君を戦うだけの存在だとは思わない」
なるほど。
「無理な走りの予定は無いから【ぶちかまし】と省エネセットで!」
そうだね、エンジンが壊れるような走りをする予定は無い。
絶対に起こらないとは言えないけど……
「全員分を【ぶちかまし】と【会話&テレパシー】の省エネセットでお願いします」
こっちの方が戦えるし楽しそうだ。
「了解、スキル組み込みと【会話&テレパシー】の代金は今日の夕食と引き換えにしよう」
ボクの分は君達の奢りねってキノネキが笑う。
「安くないかな~?」
「元々君達にプレゼントしたくて用意したんだ。他に使い道は無いよ?」
「とは言っても、贔屓だ俺たちにも寄こせって馬鹿が出るかも……」
「御飯と引き換えに渡せば良い。前払いでね」
ボクのお腹が空き過ぎてるかも知れないよ? キノネキの笑みが邪悪だ。
「破産する程、食べてやる♪」
そっかぁ、キノネキを満足させるなら質も量も必要だもんね。
私達と一緒なら程々で満足出来るけど、タカル気マンマンなら遠慮なしで食べるだろう。
キノネキはウソを吐いていない。
友人との食事ならお喋りしながらの軽い食事で満足できても、嫌いな人と一緒だと無言でひたすら食べるってだけなんだ。
友人相手なら信用取引も出来るけど、親しくない人間相手なら前払いが当然だよね?
「付喪神がレベルアップしたらスキルスロットが増える可能性はある」
増えてたら教えるから【物理耐性】と【火炎耐性】は持っておいてって。
「だから偶にはマスツーに誘って下さい。見る機会が無いとスロットが増えてもわかんないんだからね?」
キノネキのお道化た嘆願は笑いを誘った。
異界の中の雪原
「うわぁ、真っ白だ!」
白銀の世界。
小高い丘と小さな林、そして降り積もる雪の世界。
LLENNネキが感嘆の声を上げ、私達主従も暫し景色に見惚れる。
「訓練用の異界です。ついでに試している事もありますけど」
そう言うのはフォトネキだ。
ガイア連合に参加したのは私よりも後なのに、既に中層まで来ている、生粋の修羅。
毎日どころか、異界に泊まる事すらある位に修行漬けの日々を送っている人。
ショタおじの修行を修め、正式な古式サマナーになった人。
私の様な修羅卵とは覚悟が違うのだろう……*3
此処はフォトネキが管理する相模原市の修行場。
異界を新規に作るのは無理でも、改造は出来るのだとか?
「仲魔のジャックフロストをボスにしています。今、試しているのは雪室ですね」
仲魔を使役してかまくら? を作っている様だ。
この中に野菜を貯蔵して糖度を上げるのだとか?
普通の野菜の他に、霊地の影響を受けた低位のオカルト野菜、トリコ食材等のガチオカルト野菜。
雪室の影響はどうなるのか? 霊力が籠った異界の雪の影響は? 保存はどれだけ出来るのか?
様々な疑問を試す場所。
〝ウインナース〟や〝ベーコンの葉〟はどうなるんだろう? 脂肪分や塩分を含むんだよね? 長期冷蔵して味は変わるんだろうか?
「わからないから実験するんです」
それもそうだ。
この実験の根本には非覚醒者や低レベル覚醒者の食事を少しでも美味しくしたいとのキノネキの思いが籠っている。
「此処で走って良いんですか?」
「雪室を壊さなければ問題ないですよ」
本格的に雪が積もる前に、体験しておけってキノネキの親切。
有難く、経験させて貰おう。
「行こうか……」
「行こう!」
LLENNネキと声を掛け合い、アクセルを捻る。
「「うっひゃー♪」」
雪をカブのスノータイヤがガッチリとグリップ。
雪道とは思えない程に安定した走りを楽しむ。
「次はリアを滑らすよ」
『承知』
私のカブは寡黙だ。無駄口は開かない。それが良い。
リアタイヤを態と滑らせターン。必要な時に必要なだけグリップしてくれる、私のカブ。
LLENNネキもリト君と語り合っている様だ。
雪の瘤を見つけてジャンプ。
私とLLENNネキはハシャギ声を上げながら、満面の笑みを浮かべる。
そんな私達を礼子は少し離れて見つめていた。
「こっちはゆっくり慣らしましょうか?」
礼子の郵政カブは人当たりの良い男性的な人格らしい。
付喪神だから人間とは違うって事を忘れちゃダメだけど。
結局、飽きるまで半日は遊んでいた。
「雪道にも大分慣れたねー」
LLENNネキに頷く。
「速度は抑えた方が良さそうだけどね」
雪が積もってなくても、路面が凍結する事もある。ブラックアイスバーンは見た目ではわからない事もあるんだ。
冬にバイクで走るなら、速度を抑えて安全運転。スノータイヤは必須、ノーマルタイヤで雪道を走るなんてしちゃダメだ。
覚醒者は頑丈だし、私有地(異界)だったから、ノーヘルで遊んだけど、危険だからホントはダメだよ?
でも、たかが雪に負けるつもりは無い。
「冬でもバイクを楽しむ」
頑丈で寒さにも強い覚醒者ならではの考えかも知れない。
冬のバイクは危険? それはそうだけどさ。
「普通の世界でのツーリングが出来るのも何時までなのか? 貴重な時間を無駄にする気はない」
普通の世界を普通に走る。なんて贅沢な時間だろう? 雪ごときで諦めちゃ勿体ない。
転倒のリスク? それ悪魔より怖いの??
漸く出来た私の趣味だ。
「雪? 凍結? 寒さ? その程度には負けない! ねっ、カブ君?」
『当然』
寡黙なカブの返事が頼もしかった。
轢き逃げアタックが実装されましたw
【物理耐性】も欲しい所だけど、5スロは多過ぎる気がするので、止めとこう
アレが欲しい、でも容量が足りないって悩むのも楽しいよね?(ゲーム脳