彼女のアイは、とても痛い 作:異色
「いっ……ご、んのっやろう……ッ!!」
「あは、あははははははっ!」
聖なる
「ほんとうにきれいなめ! ……食べちゃいたい、宝物にしたい、このままずっと眺めていたい!」
「ぐ……おえっ……!?」
聖女と呼ばれる女が、赤に濡れた手で光を反射するナニカを大切そうに掲げている。
その様はまるで、割れ物や宝石を扱う様に、そっと、壊れない様にという意思が見て取れる。
対する俺は猛烈な吐き気がして、足に力が入らない。
下げた視点に映るのは、綺麗な白い床と、赤い己の血。
そして
「でも、だぁめ。これは私の大切な証」
やっとのことでできたのは、下げた視点を上げること。
眺めているしか、なかった。
奴にとっての宝石 ああ、俺の顔から抉られた右目を、奴が己の顔に当てる姿を。
「? あ、そっか」
「……てめ……!」
忘れていた、と言わんばかりに己の目に、空いている手を伸ばし
肉のちぎれる不快な音が、鳴り響く。
右側から、おそらく同じ様に抉り取りやがった。
痛みをまるで感じていないみたいだ。
「ん、思ってたより出血がひどい。先に嵌めてあげますね?」
「俺の目を、返して……くれるのか」
「え、もちろん私の目ですよ?」
「要ら、んっ……俺のを、返せっ!」
無防備に近付いて来る奴から目を取り返そうとする……が。
「わぁ、お薬の所為で全然動けない筈なのに……あはは、すごいすごい!」
「はぁ……げほっ! お前を……喜ばせるためじゃ、ねぇっての……」
抵抗虚しく、俺の手は空を切っただけだった。
まずい、もう全然動けない。
「大人しくしててくださいね、失敗……なんてのはしないつもりですけど」
「ぐ……」
奴が、右目を俺の方へと近付けてくる。
生憎右側は何も見えないが……正気じゃないことを、やろうとしているっ。
「はーい、ぐちゅ、ぐちゅ……えへへ、あったかいですねぇ」
「気持ち悪りぃんだよ……!」
痛みはなく、ただ肉をほじくり返される様な不快感のみが襲って来る。
盛られた薬に、痛み止めでも混ぜ込んでいたのか。
「……おしまいです、次は……あはははっ」
「っ……!?」
次の瞬間、俺の視界は元に戻っていた、否
俺の目は、未だ奴の手に収められていて、反対に奴の目は無くなっていたのだから、違いない。
「冗談きつい、ぜ」
「んっ……あはぁ、冗談なんかじゃないですよぉ?」
するりと俺の目を嵌め込んだ奴が、異色の双眸で語りかけてくる。
「誓いのキスも、あなたの愛も。ぜんぶぜーんぶずっと、ずぅっと私のものにはなりませんよね?」
「は」
「私は、理想だけで物事を測る他の人達とは違うんです。だからいつか、あなたが私じゃない人を愛する可能性だって考えてます」
……いきなり流暢に、何を言っている?
キスに、愛? 訳がわからない。
「わかってます、これは神に背くことだって。でも私 」
訳のわからないまま、奴の……聖女、リシアの言葉は紡がれていく。
「神様
誰かが、リシアの姿に扮しているんじゃないかと思うほど、俺の知る彼女とかけ離れた言動ばかり。
「だからじゃ、ないですけど、まあそれは良くて。……私は考えたんです、絶対に汚されない"証"は何かって」
「証……?」
「キスも、向ける愛情も、指輪だってそう。先んじたとして奪えるのは最初だけ。だめなんです、そんなんじゃ満足できないんです!」
声を荒げて、リシアが苦しそうに言い放つ。
「上書きなんて、されたくない。私は、私がリックさんのものじゃないことに耐えられない」
「ん、な……」
「でも、リックさんが私を愛してくれるかなんて、ものにしてくれるかなんてわからないんです、悔しいですけど。だから……」
嗚呼、神よ。
いるかもわからない、曖昧な神。
何が、どういう経験がここまで彼女を変えてしまったんだ。
「目を、あなたの綺麗な瞳を、私に刻んで、私の穢い瞳をあなたに刻むんです。これは、私以外の誰にも汚せない、汚させない……!」
時に人というものは、訪れる辛い体験を神の試練などと吹聴したりすることがあるが。
……これが、リシアに与えられた神の試練によるのだとしたら、俺はとてもじゃないが神を許せそうもない。
「あなたの身体に、私の目を馴染ませればもう、凄腕の回復魔法だろうが高級なポーションだろうが、私の目以外を治すことは叶わない」
「聖女の奇跡を、利用したってのか」
「はい、そうです。この力は、回復魔法とは異なるものですからね」
素顔を晒したリシアは、正直とても儚さを感じさせて綺麗だ。
……違う、違わないがそんなのは今じゃない。
だめだ、右目が、痛い、薬の痛み止めが切れた。
痛いのに、意識が、思考が纏まらない。
血を流し過ぎた、薬の影響、他にも衝撃が……あったから、か。
「……」
「おやすみなさい、リックさん。……私の、大好きなリックさん」
眼球交換ってえっちだよね()
作者は癖をぶっこわされました。