エンディング後の沢渡ココが配信に復帰するまでにあったかもしれない話。

魔法少女ノ文体裁判 第一回参加作品(No.7) 本人による転載。pixivにもあります。

元サイト。13のまのさばSSが集まっています。

http://twilight-off.wikidot.com/tachibana

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配信少女、復帰前

ゴールデンウィーク明けに転入生が来るのはクラスラインで聞いていた。転入というか、4月から来る筈だったのが不手際か何かで入学自体が遅れたらしい。

 

(変な子じゃありませんように……)

 

このクラスは奇数構成で余り席は僕のものなので、隣に転入生が来るのは確定事項だ。僕は未知のクラスメイトに若干の警戒心を抱きながら、鐘の音の重さをよく再現した始業チャイムの音をぼーっと聴いていた。

 

「皆さん着席してくださーい。今日は転入生の紹介があります」

 

寝不足だったのもあって、転入生の姿を見てもまだ何が起こったか分からなかった。

 

「どもども〜沢渡ココでーす。みんな今日からよろしくね〜」

 

僕のクラスに推しが来た。

 

(嘘。だって──)

 

「一学期中は後ろの方にあるあの席が沢渡さんの席になります。視力的な問題は無いって言ってたけど本当に大丈夫ですか?」

 

「問題ないでーす」

 

(問題大有りだよ。何を聞けば、いや聞いていいのかを聞いていいのかすら──)

 

「自己紹介の時間、本当になくて大丈夫? やっぱり1ヶ月の遅れは大きいし、今日は連絡事項もないから時間は取れるけど」

 

「ご心配ありがとうございます〜。でもこういうのってやっぱ相手見て喋んないと意味ないんで〜」

 

「そう? まあそれならそれで。じゃあ今日は連絡事項なし、ホームルーム終わりです!」

 

思考が纏まらないまま隣の席に当然のように推しがやってきて、初対面なのに親しげに語りかけてきた。黒髪の中にアクセントとして差し込まれたオレンジ色がとても綺麗で、元々なかった集中が更に乱される。

 

「今日からよろしく〜、あんた名前なんて言うん? てかタメで大丈夫?」

 

「あ、いつもお世話に…………」

 

口走った次の瞬間、ハッと我に返る。しかし今更、と言わざるをえないだろう。寝不足で気が散ってた、ココたんが可愛いのが悪い、と失敗の言い訳は思いつくけど、ここからのリカバリーは何も思いつかない。

 

(うう、ネットに個人情報流出させちゃったときとかもこういう寒気が走るんだろうな)

 

今までずっと配信で聴いていた声で名前を聞かれたのだから、咄嗟に初めましての挨拶をできないのは仕方ない。そんな風に現実逃避しても彼女の視線は僕の顔を射抜き続けている。キュッと息が詰まるせいで、いつまでも言葉が音を伴ってくれない。

 

「あの、その、えと」

 

「……あ〜そっかぁ! どっかで見たと思ったんだよ! お前あてぃしのメンバーシップの! ってやべ」

 

「……見た?」

 

「あ〜……細かいことは気にしなくてヨシ! そんなことよりもあんた、視聴者ならあてぃしがこのクラスに馴染めるよう協力してくれよ。いいでしょ〜?」

 

(お、お世話になってるって言っただけでそこまでバレるなんて いや、そんなことより、バレたってことは──)

 

パッと見不敵な笑みを浮かべてはいるけど、ココたんの綺麗な橙色の瞳には、僕にも分かるくらいの気まずさが浮かんでいた。

 


 

「そんでそいつも同じものを頼もうとしたんだけど、そいつ世間知らずすぎてすっごいミスしててさ〜、これがその時の写真ね」

 

せっかくだし昼飯食べながら沢渡さんと話そうよ、と僕が呼びかけてからほんの1分。あっという間に教室左後方に小さな円卓が完成した。今は鉄板ネタらしき写真を見せられた騎士達がバンバン机を叩いてる。机を伝播する衝撃には本当に面白いって感情が乗ってて、僕も自然と口角が上がる。

 

(円卓って確か参加者同士が対等の関係で話す目的で使われるとかどこかで聞いた気がするけど……この円卓はココたん王一強って感じだ)

 

インフレが著しい現代社会だと忘れがちだけど、軽く見積もって二、三十人はメンバーシップ加入者がいる配信者のトークスキルはその辺の高校1年生と戦うには十分な戦力だ。いくら視聴者に『自分語り終わった?』だの『一生ツッコミ役しててくれ』だの散々なことを言われてる彼女であっても、"面白いやつ"という立ち位置くらいは確保できるらしい。

 

(ぶっちゃけビジュ良いのも大きいよね……なんだかんだ言って僕も普通に喋れてるし、このまま楽しくやっていこう。それが一番だ)

 

生で推しの声が聞ける。ありえないと思っていた幸福に感謝して、推しのおかげで見られる未来のことだけ考えてたら、教室に備え付けられたスピーカーから軽い音が響いた。

 

「はぁ!? もう予鈴!? この学校の昼休み短くね!? まだ食べ終わってないんですけど〜」

 

会話に熱中してたせいで、円卓の半数は目の前の食事を片付け終わっていなかった。やべーやべーと言いながらお弁当を掻き込む彼ら彼女らを横目に、普段から食べるのが早い面子といつもより早く食べ終わってしまった僕は、机を授業用のそっけない配置に運び始めた。

 

(今日の切り抜きは──)

 

手癖でスマホを弄って、手が止まる。何度目かの失敗に、喉の奥から口の外へと無力感と後悔の混ざったぬるい空気が漏れ出てしまう。この高校はスマホの管理が緩いから、少なくともスマホが机の上にあるくらいで注意されることはない。だからスマホをロッカーに入れる必要はないし、僕も普段はそんなことしない。

 

(……余計なことだな)

 

それでも僕はロッカーにスマホを閉じ込めて、代わりに教材を取り出す。さっきの予鈴と同じ筈の音が重く聞こえる。

 

(僕なんかが出しゃばって、良いことになる筈ない。これで良いんだ、これで──あ……)

 

喋ってる時は不自然なくらいに絶えず笑顔を浮かべていたココたんの──4月1日に突然アカウントを消して失踪した彼女の、今は誰にも向けていない無表情を見てしまって、やっぱり僕は我慢できなかった。

 


 

校舎の隅々まで届くような重い鐘の音。その日の授業の終わりを告げるそれで裁判を思い出して嫌な気分になった。そしてただのチャイムでそんなことを思い出したのは、今から審問が始まるからだ。

 

(めんどいし、この際無視してやろっかな……)

 

そう思って隣の席の視聴者の不安げな顔を見て、あの時の言葉が頭を過ぎる。

 

(あ〜もう分かってるっての! 向き合うよ!)

 

あてぃしはひと足先に顔を上げて教室を出た。下校時間の廊下はけっこう人が多いけど、通り過ぎる知らないやつのことなんか誰も気にしちゃいない。友達との会話に夢中。スマホ弄ってる。それでいて周りの音はぐちゃぐちゃに混ざってるから、ちょっと自分の教室から離れてしまえば誰も個人の識別なんかできやしない。

 

リアルで内緒話をするのに体育館裏に行くのなんて無駄で時代遅れ。こうやって周りに紛れてるところに後から相手が合流すればそれで密会の完成。隠れる必要なんかない。人の目はあるから変なことをされる心配だってない。

 

「沢渡さん」

 

「うぇあっ!? ビックリした……後ろから話しかけんなし……それで話って何さ。最初の放課後奪ってんだから大事なことじゃないと承知しないからな〜?」

 

【千里眼】を失う前は死角から話しかけられることなんて一回もなかったから、また変な声が出てしまった。牢屋敷でも何回かマーゴやヒッキーに弄られたけど、今までずっとありえなかったことだから未だに慣れない。

 

「……配信は、もうしないんですか」

 

──あてぃしの逃避を許さないシンプルな質問。話なんて絶対、どう考えても、間違いなくこれしかないって分かってたけど、その黒い目をまっすぐ合わせて言ってきたのが意外で言葉に詰まってしまった。

 

牢屋敷のネットが外界と接続されてすぐに、あてぃしが配信をしていたアカウントが消されてるのに気づいた。存在を抹消するってことは当然痕跡を可能な限り消し去るってことだから、ちょっと予想はしてた。もちろんお偉いさんに通話でブチギレはしたけど、【千里眼】無しでの配信に一瞬ビビっちゃって、怒りは長続きしなかった。

 

 

『てめえらふざけんなよ!? 危ない魔女だから誘拐しました〜、すぐに元の生活に戻しますからね〜。なんてのも別に許してねえんだからな!? あのアカウントはあてぃしが配信初めてからのアーカイブも登録者も──」

 

『落ち着いてください沢渡ココさん。確かに我々は魔女候補だったあなた方の痕跡を消すためにSNSアカウントなどの凍結措置を行いましたが、圧力をかけたのが我々機関であるだけで凍結措置自体は通常のそれと同じです。ですから沢渡ココさんが希望するなら我々の方から再度申し立ててアカウントを復旧させます』

 

『……それ、すぐ答えないとダメとか言わないよな?』

 

『構いません。全てこちらの責任ですから、数年後でもない限りはご連絡頂ければすぐにこちらで対応させて頂きます。深夜でもゴクチョーの方に連絡をして頂ければ即座に作業を始めますので」

 

『あのフクロウの労働環境どうなってんの?』

 

 

「はあ〜。別にあてぃしが配信しようとしまいと勝手なんだから、お前キモ、であしらわれても文句言えないってのは忘れるなよ?」

 

ファンってことなら仕方ないから教えてあげる、という体で口を開いた。本当は誰かに聞いて欲しいだけだけど、そんな弱いと思われたくないし。本当にしょうもないことだから先に帰っちゃったおっさんや忙しそうだったマーゴに相談する気にもなれなかったし、こいつが首突っ込んできたのは都合が良かったかもしれない。

 

「あてぃしはね、安心したいんだよ。みんなを監視する側でいたい。でもそれだけじゃダメ。見守られもしたい。配信ってのはちょうど良かったんだよね」

 

これは本当。こいつに今説明した理由も、見られたくないのに見られることで世界への憎悪を忘れないように、ってのも、どっちも真実。

 

「でも最近は視聴者も増えてきて、アクティブなやつらだけでもあてぃしはもう管理しきれなくなってたの。あてぃしのことを見守ってくれるのはそりゃありがたいよ? だけどあてぃし、知らない奴らにジロジロ見られるの、苦手なんだよね。矛盾してっけど、それがあてぃしなの。だからめんどくなっちゃってさ」

 

これは半分嘘で半分本当。【千里眼】があったときはいくら数が増えようがあてぃしは監視する側でいられた。全てを把握しきれてなくても、覗こうと思えば誰だって好きに覗けちゃう。規模が大きくなっていってもあてぃしはずっと監視者だった。それで十分だった。でも今は──

 

(レイが殺された後のあいつらの目、思い出すんだよ)

 

“可哀想な被害者遺族”を憐れむあの視線、あてぃしのことを見てる訳でもなくて、あてぃしが無力なことを突きつけてくるだけのキモい野次馬の目。【千里眼】で見た視聴者達は確かに沢渡ココという配信者を見に来てたから、見られることへの嫌悪感も、足元から消えはしなくともあてぃしの視界から勝手に外れてくれた。でも今は遠くを見れなくなったから、本当にみんながあてぃしを見てるのか分からない。弱いあてぃしを見てるんじゃないかって不安になる。配信をしたらどうなるかって想像だけで下を向いてしまう。

 

露骨にしょげて、大切な物をどっかに落としちゃったみたいに下を向いてるこいつに、あてぃし自身に向けて言い切る。

 

「もうスッパリやめちゃお〜って思ったワケ」

 

本当はそんなに割り切れていないから、これは強がりだ。昨日だってゴクチョーに連絡するか悩んで、心音が鬱陶しくて眠れる気がしないまま朝まで気絶してた。別に配信をしなくてもアカウントくらい復旧すればいいって頭では分かってる。でも消えてたものを元に戻して、それでまた目を逸らすくらいなら、ずっと消えてた方が楽だ。元に戻すのがダルいからって言えるし。

 

 

 

「それは嘘、です」

 

 

 

聞き覚えがある。これは生意気にも確信を持ってるやつの声だ。朝と同じくらい蒼白な顔してるから、どうせ思ったことが口をついて出てしまったとかだろう。

 

「最後まで言ってみ? その証言、聞いてやんよ」

 

言っていいのか分からない、けど言うべきだと感じてるみたいな、最初の裁判でのエマっちみたいな顔。もちろん、事件でヒロっちが殺されたパターンでの怖いエマっちは除くけど。

多分、こいつの証言はあてぃしがまだ向き合えていないことを突きつけてくれる、あてぃしの直感がそう言ってる。

 

 

「だってココたん、2年前の雑談配信で、配信活動を推しが応援してくれてるからこれからも続けてくって、凄い幸せそうに言ってましたから!」

 

 

(──んー?)

 

「人に見られるのが嫌いっていうさっきのココたんの言葉も確かに嘘じゃないんだとは思います……配信を始めた時はそこまでじゃなかったことが最近苦しくなってきたとか、そういう理由なら僕はもう何も言えないから、諦めようと思ってました。でも、スッパリやめようと思ったなんてのは嘘に決まってます。ココたん、いつもめちゃくちゃ前向きに配信してましたから!」

 

(──うーん)

 

「なんかこう、ココたんはバイタリティが凄くてそこが推せるんですよ! その辺の有名配信者じゃ相手にならないくらいに、あてぃしは絶対幸せになる! みたいな気迫があるというか、なんというか」

 

 

「特に推しの話してる時は推しを幸せにするぞって熱意を凄い感じれて、推しの為にも幸せになるぞって信念を感じれて」

「その姿を見てると、僕も頑張るぞって気持ちになれるんです。だから推してるんです」

「そんな、ずっと前に進み続けてたあなたが、推しの為でもある配信を、嫌なとこがあるからってそんな簡単にやめるって、思えなくて」

「やめるにしても、きっと凄い葛藤があったと思うんです。あっさりやめれるようなら中1から実名配信者やって3年続けるなんてとんでもないことできっこないです!」

 

 

(推しが配信してくれって言ってたなら絶対やめねえけどそうじゃないし、それじゃ結局、あっさりじゃなければやめてるかもってなって終わりじゃね?)

 

ヒロっち程じゃなくてももっとズバッと切り込んだクリティカルな指摘が来るのかと思ったら、結構しょうもなくて心底がっかりした。ただの高一をあのモラハラダブスタ委員長と比べるのは可哀想すぎたかもしれない。

 

(まあでも……)

 

あたふたと言葉を探してるこいつに反論するのは簡単だけど、別にする必要もない。

 

「お前にとってあてぃしは、何?」

 

「推しです」

 

あてぃしは誰かに承認されないと、どうしても自分を肯定できなくなっちゃう。無力な自分が嫌いだから、そんなあてぃしを人に見られるのも嫌になっちゃう。知らないやつに弱い自分を見られるくらいなら、まだ嫌われる方が少しだけマシ。

 

(そうじゃん、できてたことができなくなった衝撃とかでちょっとヘラってただけ。【千里眼】がなくなったとか監視できないとか、嘘じゃないだけでただの言い訳じゃん)

 

推されるってのはプレッシャーだ。でも今はまだ、あてぃし一人で現実と向き合うのはちょっとしんどいから、それが必要。この1ヶ月、配信してない間に落としちゃってたらしいその重りを拾い直した。とりあえず他の視聴者にも顔見せれるくらいには勇気が出たと思う。

 

(なんか前より重い気がする……あてぃしの素の自己肯定感が高くなった……? ああいや、あいつらがいるのがめちゃくちゃ大きいのか)

 

視聴者とか友達とか、結局誰かに頼って甘えなきゃ張れない見栄、嘘、虚勢──かもしれないけど、あてぃしは調子乗ってるくらいで丁度いいから別にこれでも良いと思う。それに、一人で自分が強いって思えればそれが一番だけど、なんだかんだ言ってあいつらだって一人じゃ弱かったし。

 

(補助輪使ってるだけであてぃしはまだ一人じゃ弱いって現実は見てるし、文句ないでしょ?)

 

とりあえず落とし物を届けてくれたお礼をするために、あてぃしは顔を上げた。

 

「あてぃしの直感、やっぱダメだな〜。結局どの牢屋敷でもちゃんと嘘を嘘って見抜けたことはあんまなかったし」

 

「牢……?」

 

「まずお前、雑魚。的外れ。後方腕組み師匠面厄介オタク」

 

「うぐっっ!?」

 

「あてぃしのこと分かった気になってるみたいだけど全然分かってませーん。てか配信だけでその人のこと分かった気になるってありえないんですけど? 中学校でSNSの授業ちゃんと受けてます〜?」

 

「うぐっっっ!?」

 

「あてぃしはみんなが嫌い、大っっ嫌い。あてぃしと推し以外みんな死ねって感じ。どこの誰が推し達に何するのか分からないって思うと怖くてどうにかなっちゃいそうだし、世界ってマジで雑に推し達とあてぃしのこと虐めたり殺したりしてくるし。今でもあてぃしが死ぬ悪夢とあてぃしが死なない悪夢を見るんだよ。このことは一生変わんないし忘れない」

 

「……でもね、あてぃしはこの世の終わりみたいな最悪な目に遭ったけど、もっと最悪な目に遭いながらあてぃしの幸せを願ってくれた家族がいるんだ。その過去だって忘れない。忘れたくない。そんでもって推しの為にも、あてぃしは幸せな未来を諦める気はない」

 

「それで、その為には今と向き合うのも大事って、最近気づかされたからさ。今お前らが推してくれてること忘れてヘラってあてぃしもうダメ〜弱い〜配信やめる〜なんて後退りすんの、バッカみたいだよな。やめるわ、それ」

 

一拍、二拍、三拍遅れて、目の前の雑魚がエマっちに負けず劣らずの子犬っぷりでパァッと顔を明るくした。

 

「やるんですか!配信!」

 

「あったりまえよ。すぐにチャンネル復旧させるから続報を待て! あ、ゲリラ配信になると思うから通知オンにして24時間スマホに張り付いとけよ?」

 

「勿論です! …………それじゃあ、また明日!」

 

今更恥ずかしくなったのか人混みに紛れて逃げ帰ってく雑魚にこんなこと言われなくたって、どうせしばらくしたらあてぃしは勝手に立ち直ってたと思う。別に何かと向き合えてなかったとかじゃなくて、いきなり変わった視界に戸惑って見落としをしてただけだし。それこそ今コンタクトを取ろうとしてるあいつとかが二重の意味で一発解決してくれそうな問題だった。

 

「でも助けられたのは事実だし、一ヶ月無駄に待たせたんだし。ちょっとくらいファンサしてやらないとな?」

 


 

『やっほぉ〜、ココたんだよ〜! お前ら! あてぃしは帰ってきた! そして復活一発目はコラボ配信、ゲストはこいつ!』

 

『はは、相変わらずテンションが高いんだね』

 

伝説のアーカイブの新しい切り抜きが上がってたので、昼ごはんと授業の間の一瞬で視聴、切り抜きですら長いという面倒くさがりの為に見どころタイムスタンプをコメントしてスマホをポケットに入れる。

 

「あっ、また教科書家に忘れた!?」

 

なあなあ、ちょっと見せてくれよ〜、いいでしょ〜? と、情けない顔でダル絡みめいたおねだりをする推しの為、はいはいと適当に返事をしながら机と机を結ぶ教科書の橋を架ける。

 

転入してから2週間、沢渡ココはすっかりクラスに馴染んだようで、彼女がいなかった1ヶ月の方が不自然に思えるくらいだった。

 

(警戒を解くとこうなるのかな……)

 

転入初日の沢渡ココは誰にでもニコニコという感じだったけど、次第に主張の強さと毒が透けてきて、まあ断じて浮いている訳ではないが大体そういう感じの立ち位置が確立された。配信の方も復帰後は同様のキャラ変がされたけど、『こっちの方が自然でツッコミが板についてる』『っつーかニコニコしてることが多かっただけで元から割とこんなんじゃなかった?』という意見が圧倒的多数派だ。反転アンチの捨て垢荒らしコメントはモデレーター権限を貰った僕が責任持ってタイムアウトしている。

 

「ちょっと早いけど今日の授業はここまで。そろそろ演習問題やっとけよー」

 

「まぢ無理。おっさんとヒロっちに教わろ……勉強配信って名目にして……」

 

「学外の友達にあんまり迷惑かけちゃダメですよ……? ほら次体育ですから。とっとと着替えに行きましょう」

 

来たる中間の難易度に絶望してるココたんを置いて先に行く。5限終わりの鐘の音と、背後の彼女の駆ける軽くて重い音が小気味よく鳴り響いてて、なんとなく気分がいい。

 

(ココたんも、今日が良い日だと思ってるといいな)

 

僕にはその心中は分からない。その役割はきっと僕のものじゃないんだろう。それでも僕にも意味があるんだろう。そう思わせてくれる推しのいる今を、愛おしく思った。


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