ストライク・ザ・ブラッド~春風雪華~ 《完結》   作:山中 一

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その五

 雪菜と春菜が遊んでいるころ、古城たちもまた自由を満喫していた。

 冬休みに入ってからこの方、追試や補習などに奔走していた古城は、他の面々と異なって冬休みらしい生活をまともに送っていなかった。

 外に出て自由を味わう。古城は、出所した元囚人にも似た心境で、開放感を楽しんでいた。

 絃神島の新年は花火で祝う。

 気候も真夏そのものとなれば、当然ながら夏祭りと同じように出店が立ち並び、人々が集う。

 金と笑顔と人が集まり、混ざり合う、混沌とした市場が完成するのである。

「姫柊も言ってたけど、本当のこの島の新年は、季節感ないわ」

 古城がいるのは、参拝客で賑わうとある神社の参道である。

 島内では最大規模の神社で、絃神島にある神社はこの神社の分社がほとんどなので、事実上島内唯一の神社ということになろうか。境内も大きく、参道の両脇には威勢のいい声を上げる的屋の露天が立ち並ぶ。本土での生活の

ほうがまだ長い古城は、こうした光景が夏祭りと重なってしかたがない。

「あんたもここ長いじゃない。今更何言ってんの」

「まあ、そうなんだけどな。姫柊がそんなこと言ってたから、本土にいたときのことを思い出したんだよ」

 浅葱のツッコミに、古城は頭を描いて答える。

 古城は絃神島の育ちではない。妹の凪沙を治療するのに、“魔族特区”の最先端技術が必要だとされて引っ越してきたのである。

「姫柊ちゃんだって、すぐに慣れるだろ。そんなこと言ったら、コイツなんて最近来たばかりだぞ」

 矢瀬がそう言って結瞳を指す。

 結瞳は、矢瀬にぞんざいな扱いを受けるのが気に入らないのか、相変わらず渋い顔をしている。

「古城さん。こんな人は放っておいて、りんご飴でも買ってきましょう」

 つれない小猫のように、結瞳はプイと矢瀬から離れて古城を誘う。矢瀬もさすがに結瞳のませた態度に慣れたので、嫌な顔をすることもない。むしろ、自ら煽っていくスタイルを貫く。

「結瞳坊も甘いものには目がないか」

「その変な呼び方止めてください。人が嫌がることすると、将来禿げますよ」

「禿げねえよ! 根拠なく人の将来を辱めんな!」

 禿げる、などと言われては、矢瀬も捨て置けない。ついつい、息を荒げて反発する。

「何、基樹。あんた禿げんの? 知り合いに植毛関係で仕事してる人いるけど紹介しようか?」

「余計なお世話だ。お前まで何言ってんだよ」

 浅葱も結瞳に乗っかってからかう。心底、嫌な顔をして矢瀬は呻く。顔には出さないが、古城も矢瀬の気持ちは分かる。男として、頭に問題が表れるのは辛いことだと思う。

 四人で話をしていると、その背後から声をかけられた。

「お前たち。往来のど真ん中で、邪魔だぞ」

 声の主は、古城の担任の南宮那月であった。

 真夏並みの気温だというのに、いつも通りにゴスロリドレスに身を包み、ひらひらの付いた黒い扇を古城の脇腹にぐりぐりと捻じ込んでくる。

「げ、那月ちゃん」

「教師をちゃん付けで呼ぶな」

「痛てえ、痛てえって」

 古城は一歩退いて、那月を睨む。

「まったく、こいつらはいいとして。……お前は遊んでいる余裕はないんじゃないのか?」

「なんでだ? 補習はもう終わっただろ?」

「冬休みの課題は、お前に関しては他の生徒よりも多いだろう。言っておくが、提出日を延ばしたりはしないからな」

「ぐ……いや、まあ確かに」

 古城は第四真祖として、多くの事件に心ならずも巻き込まれてきたが、同時に学生という立場でもある。義務教育ならばまだいいが、高等学校では出席日数が大きな問題となる。

 古城は、頑張ればそれなりの成績を出せる頭を持っているが、そもそも学校に行っていないとなれば強制的に留年となる。それを回避するために、補習をこなしていたのであり、それだけではまだ不安が残ると言うから冬季課題も多めに出されていたのである。

「いや、でも、なんとかなるだろ。今までも、何とかなったし」

「そもそも真面目に学校に出てきていればこんな面倒は起こらなかったのだがな」

「んなこと言ってもな……」

 古城も面倒とは思いながらも、学校には行かなければと思っているのだ。それが叶わないから、困っているのである。

「ところで、那月ちゃんもずいぶんと楽しんでるみたいだな」

「あん?」

「いや、その手のさ」

 那月の目つきが妙に鋭いので、古城は引きながら那月が持っているものを指差す。

 それはチョコバナナであった。露天の基本であろうそれを、那月は持っていた。

「ああ、これはアスタルテのものだ」

「アスタルテの?」

 那月の視線が動く。その先を追ってみれば、見慣れた少女が金魚すくいに熱を上げているではないか。

 当初は表情のなかったアスタルテだが、那月に引き取られ、古城たちと接している間に徐々に人間らしい感情を育ててきている。感性が独特なのは、仕方のないことではあるが、傍目から見れば人間と大差ない。

 結瞳がその隣に座り、アスタルテと競争するように金魚を追っている。いつの間にか、古城を那月に任せて自分たちは出店巡りを再開したらしい。

「それはそうと、獅子王機関の舞威姫が来ているようだな」

「舞威姫?」

 古城は聞きなれない単語に首を傾げる。が、その後すぐにそれが紗矢華の肩書きだということを思い出した。

「煌坂が来てるって?」

「ああ。なんだ、まだ会っていないのか。お前たちのことだから、……ん? 転校生がいないな。珍しい。喧嘩でもしたか」

「してねえよ。姫柊にだって都合があるんだっての」

 那月にまで、古城と雪菜がセットだと捉えられているのかと思うとげんなりとする古城であった。

「てか、なんで煌坂が来てるって知ってるんだよ」

「獅子王機関の人間が島に来れば伝わるに決まっているだろう。素手で魔族と戦える人間だぞ。事前連絡もなくゲートを通れるものか」

 言われてれば、確かにその通りだ。

 魔族と戦える攻魔師は、得意技能を有し、人間の常識を超えた身体能力や魔術を行使する。生まれ付いての才能も関わる分野であり、人手不足も相俟って未成年でも力のある者は免許を取得できるとされるが、当然力には相応の義務が発生する。

「じゃあ、春菜のことも伝わってるのか」

「春菜?」

「姫柊の姉貴だよ。今、アイツの家に泊まってるんだ」

 春菜は今でこそ剣巫を退き、別の役職に就いていると言っていたものの、獅子王機関の人間であるという点に変わりはなく攻魔師資格を有している。ならば、那月にも話が向かうはずである。

「何だと? 転校生の姉?」

 だが、那月は信じられないとばかりに表情を変えた。

「何だよ。別に、姫柊に姉貴がいてもおかしくはないだろ?」

「転校生に姉がいることくらい知っている。履歴書に書いてあったからな」

 ふむ、と那月は思案するように扇を広げて口元を隠す。

「暁古城。今、転校生はその姉と一緒にいるのだな?」

「ああ、そうだよ。もうじき、合流する予定だけど」

 そう言って、古城はスマートフォンを取り出す。そして、眉を顰めた。

「なんだ、アイツ。少し遅れるってか」

 雪菜から送られてきたメールであった。人込みがあまりに酷く、予定していた合流時間に間に合わないという。サイレントモードにしていたために、メールが来ていたことに気付かなかった。

「今すぐ連絡を取れ」

「は?」

「今すぐにだ。転校生の姉とやらに話がある」

 凄む那月の圧されて、古城は雪菜に電話をかけた。

 那月に連絡が行っていないだけだろうに、妙に力強く命じてくる。とはいえ、文句を言ってもやぶへびになるだけだ。古城は大人しく那月に従うしかない。

「まったく、生徒使いの荒い教師だよ、まったく……」

 しばらく待ったが、雪菜が応答することはなかった。

 無味乾燥とした機会音声が、雪菜が電話に出られないことを告げる。

「あれ、どうしたんだ、アイツ」

 画面を確認すると、姫柊雪菜の名前がきちんとある。番号を間違えたということではない。とすれば、雪菜が気付いていないか、電話に出られない状況にあるということである。

「那月ちゃん。電話、通じないみたいだわ」

「チッ、肝心なところで使えんやつだ」

 露骨に舌打ちをして、那月は小さな魔法陣を手の平に展開した。

「何だ?」

「念話用の魔術だ。雑念が入るからしばらく話しかけるな」

 頼られたかと思えば熱い手の平返しだ。

 いつものことなので、特になんとも思わないが、それでよく教師をやっていられるなと毎回思う。攻魔師としての実力が桁外れすぎて、誰も文句をつけられないのではないか。

「何だってんだよ……」

 頭を掻いて、古城は呟く。

 那月が、妙に焦っているようでもあるが、その理由が掴めない。どうやら春菜にあるようだが、それはどういうことなのか。

「第四真祖。南宮教官(マスター)が何か?」

 金魚すくいから戻ってきたアスタルテが、無機質な表情で尋ねてきた。手には二匹の金魚が入った袋が握られている。

「それが分かったら、苦労はしねえっての」

 紛れもない古城の本心であった。

 那月が何を考えているのか分からない。

「古城さん。見てください。五匹です。一回で五匹!」

 結瞳が目を輝かせて金魚を見せてくる。なるほど、確かに五匹というのは中々できることではない。不器用な人間がやっても、一匹も取れず、結局お情けで一匹か二匹ほどの金魚がもらえるだけなのだから、結瞳は器用に掬ったのであろう。

 それ故に、古城は結瞳を誉める。誉められた結瞳は嬉しそうに目を細めて喜んだ。

「ん、アスタルテ。お前、何すんだ?」

「再戦」

「は?」

 アスタルテはメイド服のスカートを翻し、金魚すくいの的屋に向かう。結瞳に金魚の数で負けたのがよほど悔しかったのであろうか。

「アスタルテさん。不思議な人ですね」

「え、ああ。まあ、独特だよな」

 結瞳がアスタルテの背中を興味深そうにして見送る。

「で、古城。あんた、また追試?」

「んなわけねえだろ。さすがに。春菜のことを聞かれたんだよ」

「春菜って、姫柊さんの、お姉さんよね? それがどうしたの?」

「だから、知らねえって」

 何度、同じ質問をされただろうか。浅葱への返答が多少ぞんざいになるのも仕方がないだろう。

「まあ、ここで補習の話がでないんなら、しばらくは大丈夫そうね」

「ああ、そういう考えもあるのか」

「冬休み課題はあるけどね」

 浅葱のからかうような口調に古城は顔を歪める。新年を迎えようとするこの時にまで、何故勉学で頭を悩ませねばならないのか。

「ん?」

 その時、不意に見たスマートフォンの画面に、着信履歴が表示されていた。三件。皆、同一人物からである。

「何よ?」

「煌坂から電話だ。ちょっと、出てくる」

 

 

 古城は、人込みを避けて参道をはずれ、露天の後ろ側に回った。そこは、鎮守の森となっていて、松林が続く場所であるが、遊歩道が設置され、街灯もあるのでそれなりに明るい場所であった。

 公園のような鎮守の森の中、古城は紗矢華に電話をかけ直した。

『暁古城! 今、どこにいるの!?』

 ワンコールで紗矢華が電話に出た。ずっと、スマートフォンを握り続けていたのであろうか。

「どこって、神社だよ。んで、お前、今島に来てるんだってな」

『え、ど、どうして知っているのよ!?』

「那月ちゃんから聞いただけだよ。お前たちが島に入ると伝わる仕掛けになってるんだろ?」

『ああ、そういうこと』

 電話の奥で納得したと安堵のため息を吐くのが分かった。

「煌坂。お前、なんで突然来たんだよ?」

『え、何? わたしが来たらまずいっての?』

「ちげえよ。でも、姫柊も何も言ってなかったしな。いきなり来てるって言われて驚いただけだ」

 雪菜と心底仲がいい紗矢華は、雪菜を溺愛している。それこそ、実の姉の春菜以上の執着を感じるほどである。それならば、雪菜に一報を入れてもいいはずだが、今回は何も音沙汰がなかった。

『それは、急に休みが入ったから。……この時期にこっちに渡れる航空券なかなか手に入らないし、慌ててね。飛行機の中からじゃ、連絡できないでしょ』

「そんなに、急にか?」

『今日の午後になって急にね。どういうわけか分かんないけど、ありがたく利用させてもらったわ』

 休みが取れてその場で絃神島に渡ると決める紗矢華の決断の早さに呆れる。

 本土から絃神島は、飛行機でも数時間はかかる。手続きなどを含めれば、先ほど降り立ったというのも、納得だ。

『それで、雪菜よ! すぐに連絡取ろうとしたのに、全然繋がらないんだけど!? どうして!? 着拒!? わたし、雪菜に何かした!? メールも戻ってくるし、どうなってんのよ!?』

「あー……まあ、姫柊と連絡取れないのは、こっちも同じでさ」

『何それ? あんたも連絡取れないって。一緒にいるんじゃないの?』

「いいや。昼間に春菜と出かけたっきりだ。さっき、那月ちゃんに言われて電話をかけたけど、繋がらねえ」

『春菜って、春菜さん!? 雪菜のお姉さんの!?』

 紗矢華はよほど驚いたのか、声を大にした。

 雪菜と幼馴染の彼女は、春菜とも面識があるのであろう。

「ああ、なんか遊びに来てんだ」

『そんな、だって、あの人は……』

「春菜がどうしたってんだよ」

『春菜さん。しばらく潜入捜査で連絡が付かないはずよ。仕事が終わったって話も聞かないし、休暇が取れるような、そんな任務じゃないんだけど』

「はあ? でもそんなこと一言も言ってなかったぞ。調停官とか言う仕事だって」

『それはこっちにも色々とあるのよ。でも、雪菜には危険な仕事に就いてるって言ってないはずよ。心配かけたくないって、前に会ったときに言ってたから』

 どうやら、春菜は調停官の仕事に就いていたわけではないらしい。しかも、雪菜にも教えずに、潜入捜査を行っていたというのだ。

「じゃあ、あの春菜は何なんだよ」

『知らないわよ。もしかしたら、仕事が終わってたのかもしれないけど、わたしは聞いてない』

 紗矢華の知らない春菜。そして、春菜と一緒にいる雪菜とは連絡が付かず、獅子王機関の人間が出入りすれば伝わるシステムでありながら、春菜の存在は気付かれていなかった。

 どうやら、春菜には古城の知らない何かがあるらしい。

『で、暁古城。神社のどこにいるの? 話に聞くと結構大きいらしいじゃない。神社』

「あ? 今は、参道の真ん中辺りだけど、また移動するからな。花火が見える位置を探して歩き回るはずだ。なんで、そんなこと聞くんだ? 今、姫柊はいねえぞ」

『あ、いや、ほら、どうせ、雪菜と後で合流するんでしょ? だったら、わたしもそこに行けば雪菜に会えるじゃない? ……それとも、あれ、もしかして、迷惑だったりする?』

 焦ったような口調を一転させて、紗矢華は道に迷った仔犬のような声で古城に尋ねた。

「いや、迷惑なんてことはねーよ。姫柊も喜ぶだろ。春菜もいるしな」

『あー、うん。そう。じゃ、そっち行くから。また、連絡する』

 そう言って、紗矢華は通話を切った。

 嵐のような会話の後で、参道に戻ると神妙な顔をして待っていたのは那月であった。

「暁古城。転校生が見ていない隙に女を電話か。いいご身分だな」

「変な言い掛かりはよしてくれよ、那月ちゃん。別に煌坂と話したくらい、何てことないだろ」

「まあ、そうだな。わたしは」

「わたしはって」

 ふと、反対方向を向けば浅葱と結瞳、そしてアスタルテが何か言いたそうな、それでいて諦めたような表情でこちらを見ている。

「さて、暁古城。お前が連中と騒動を起こす前に、こちらに協力してもらおう。藍羽もだ」

「はあ!?」

「え、な、なんでですかッ!?」

 古城だけの問題かと思っていた浅葱が驚いて声を上げる。

「緊急の案件だ。さっさと来い。リリスの小学生は、そこの保護者と一緒にいろ」

「えぇー、むぅ」

 抗議しようとした結瞳だが、相手が悪い。大人びた性格だから、なおさら敵にする者を選ぶ。大変不服だったが、結瞳は口を噤んで引き下がった。

 

 

 

 □

 

 

 古城と浅葱が連れてこられたのは、社務所であった。

 真新しいのか、柱に使用されている木や床板の色が明るい。テーブルの上には、すでに起動しているデスクトップ型のパソコンが置かれており、棚には、業務で使用するための様々な道具を綺麗に並べられていた。

「で、こんなところに呼び出して、何があったんだよ」

 古城は、若干不機嫌になりながら尋ねた。

「結論から言うと、転校生の姉を捕縛する必要ができた」

「な、……はあ!? なんで、そうなるんだよッ」

 古城は信じられないとばかりに怒鳴る。捕縛とはすなわち逮捕である。教師が出来の悪い生徒を連行するのとは訳が違う。

「姫柊春菜と言ったな。転校生の姉は」

「ああ。それが、どうしたってんだ」

「空港の入島履歴を調べさせたが、そんな名前はなかった。転校生の顔によく似ているというから、空港の監視カメラで確認したが、こちらにはきちんと映っていた。これが、何を意味しているか分かるな?」

「偽名を使ったってことですか? 姫柊さんのお姉さんが?」

 古城よりも先に答えたのは、浅葱であった。

 空港にいるのは確かなのに、名前がないとなれば、それ以外には考えられない。そして、搭乗手続きなどの時間と映像の時間を付き合わせれば、どの名を名乗ったのかはすぐに分かる。

「偽名って、何でまた」

「それを確認しなければならないから、捕まえねばならんと言ったのだ。お前とは繋がりがあるからな。もしかしたら、向こうから接触があるかもしれない」

「そういうことかよ」

 春菜が何かを企んでいる可能性がある。となれば、一緒にいる雪菜がどうしているのかが気になる。紗矢華からの連絡にも応じないとなると、一層危機感が募る。

「藍羽。そこのパソコンを使って、足取りを探れ。お前ならすぐに追えるだろう」

「え、ええッ!? いや、できなくはないですけど、そんな、学生に犯罪を教唆していいんですかッ!?」

「緊急事態だ。やれ」

「は、はいッ」

 有無を言わさぬ迫力に、浅葱は背筋を正してパソコンに向かう。

「モグワイ。聞いてたわね。全力で、姫柊さんとそのお姉さんの居場所を調べるわよ」

『ケケ、さっさとしねえと、花火も見れねえかもしれねえな。あんだけ楽しみにしてたのによ』

「うっさい。さっさとする!」 

 と、AIに怒鳴りながら、浅葱はキーを叩く。

 才能というには、あまりに常軌を逸した能力で、浅葱は瞬く間に絃神島中の監視カメラを掌握し、GPSにまで手を伸ばす。雪菜と春菜の一日の行動を調べるため、キャッシュカードの使用履歴なども参照する。

「いた。ブティックワードで服を買ってるみたい。うお、結構な額を買い込んでる」

「名義は?」

「もちろん、春菜さんの名義です」

 那月の言葉に浅葱がてきぱきと答える。

 浅葱に支配されたパソコンが映し出す複数の映像に、那月は目を通し、情報を取得していく。

「空港を抜けて気を緩めたか? まあいい、そこから先は追えるな?」

「はい」 

 浅葱の手は止まらない。複数のルートから同時にハッキングをしていく。浅葱一人いるだけで、世のプログラマーの大半は叩き潰されるであろう。

「姫柊さんのスマホのGPSはここで途切れてますね」

 浅葱の手が止まる。

人工島北区(アイランドノース)の第三埠頭近くか。藍羽。後は、監視カメラの記録映像だ。GPSが途切れた時間に、その付近に連中が映っているかどうか調べろ」

「もうやってますよ」

 そして、パソコンに出たのは、第三埠頭付近の監視カメラの映像である。複数の画面が同時に表示されるので、慣れていないとどこに誰が映っているのか、探すだけでも一苦労である。ただ、時間ははっきりと分かっているし、雪菜はギグケースを担いでいるのだ。見つけるのは難しくなかった。

「なんでアイツ。あんなところに行ったんだよ」

「お姉さんが何か言ったってことなんでしょうけどね。……本当に埠頭のほうに歩いていくわね」

 雪菜と春菜が連れ立って、歩いている。

 周囲にはコンテナが立ち並び、クレーンや大型の貿易船がいくつも並んでいる。商船を専門に受け容れる港なのである。

 雪菜と春菜はなにやら話しながら、コンテナの間を抜けて海に出る。コンクリートに固められた港には、自然の趣など何もない。無機質な船とコンテナだけのその場所に、少女が二人だけである。

 そこに、コンテナの間から複数の人影が躍り出てきた。雪菜と春菜を瞬く間に取り囲み、そして、アサルトライフルを向けた。

「姫柊ッ!?」

「な、何よこれッ!?」

 古城が叫び、浅葱は悲鳴を挙げる。そして、那月も不快の念を隠しきれずに眉根を寄せた。 

 その後、監視カメラの映像に映っていたのは、武装集団に単身立ち向かう雪菜の姿であった。

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