べ、別にネタが無くなった訳ではない!
楽園追走Ⅰ「出発と到着」
「秋織、ちょっと聞いてよ! 今日のくじ引きでさ、こんなの当たっちゃったんだから!」
雲璃が目をキラキラさせながら、薄いホログラムチケットを秋織の鼻先に突きつけてきた。
「……何これ」
秋織は眉をひそめて、チケットに映る派手なネオンと奇妙なマスコットキャラクターを眺める。
そこには金色に輝く文字でこう書かれていた。
『二相楽園へようこそ! 幻月遊儀特別招待チケット』
「二相楽園行きのチケットだよ! しかも二人分! 秋織、せっかくだから一緒に行こうよ!」
「え……まあ、いいけど」
「最近ずっと暇そうじゃん! たまには息抜きしたっていいでしょ!」
雲璃は秋織の両肩をガシッと掴むと、まるで駄々っ子のようにブンブン揺さぶり始めた。
「アバババババ……! だーっ! やめろって、やめろ! 分かった、分かったから! 行くよ、行く! 行けばいいんだろ!?」
「やったぁ! 約束だよ! 絶対キャンセル禁止ね!」
雲璃は満面の笑みを浮かべると、くるりと踵を返してスキップ混じりに走り去っていった。
残された秋織は、乱れた髪を片手で適当に掻き上げながら、深い溜息を一つ。
「……はぁ。全く…」
それでも、どこか口元が緩んでいる自分に気付いて、秋織は小さく舌打ちした。
二相楽園。
愉悦の星神・アッハが最も愛したという、銀河でも指折りのエンターテインメント惑星。
そこでは現実と虚構が溶け合い、願いさえも一瞬だけ「本物」になるという噂の「幻月遊儀」が、今まさに開催されようとしているらしい。
チケットの隅に小さく書かれた注意書きを、秋織はもう一度確認した。
※本チケットは幻月遊儀への優先参加権を保証するものではありません。
また、現地でのトラブル・事件への巻き込まれやすさは、通常の100倍です。自己責任でお楽しみください。
「……100倍って何だよ、それ」
秋織は苦笑しながらチケットをポケットに押し込んだ。
まだ知る由もなかった。
このチケットが、ただの娯楽旅行の切符ではなく、二人が予想だにしない大騒動への「招待状」だったことを。
そうして二人は、二相楽園行きのシャトル乗り場へと向かった。
シャトルの搭乗ゲート前。
少し離れたところから、桂乃芬と秋俊が見送りに来てくれていた。
「いいなー、二相楽園……。私も動画に撮って、みんなに自慢したかったのにぃ」
桂乃芬が少し拗ねたように唇を尖らせる。
「兄さん。楽しんできてくださいよ。……あんまり無茶はしないでね?」
秋俊はいつもの落ち着いた声で、でもどこか心配そうに秋織を見た。
秋織は軽く肩をすくめて答える。
「大丈夫だって。」
「そうそう。」
雲璃がふふんと胸を張った。
「秋作兄さんと素裳さんは仕事で来れなかったようですが……無事に着いたって伝えておいてくださいよ。」
「そうだよ、気をつけてねー!」
桂乃芬が元気よく手を振る。
「お土産、あったら買ってきてねー! 絶対変なやつじゃなくて、まともなやつで!」
「分かった分かった。……じゃあ、行ってきます」
秋織が小さく手を上げると、雲璃も「いってきまーす!」と明るく声を揃えた。
二人はそのまま搭乗ゲートをくぐり、シャトルへと乗り込んだ。
シャトル内は予想以上に静かだった。
豪華な内装とは裏腹に、乗客はまばら。
皆、窓の外を眺めたり、VRゴーグルを装着して仮想空間に浸ったりしている。
雲璃は座席に座るなり、シートをリクライニングさせて伸びをした。
「ふぁぁ……やっと出発だね。なんかドキドキする」
「まだ何も始まってないだろ」
秋織は窓際の席に座り、腕を組んで外を見やる。
シャトルがゆっくりと浮上し、加速していく。
やがて星々が流れ始め、惑星の輪郭が遠ざかっていく。
「……本当に、何もないなここ」
雲璃がぼそっと呟く。
「何が?」
「シャトルの中。もっと賑やかかと思ってた。音楽流れてたり、ゲームできたり、ダンスフロアあったり……みたいな」
「二相楽園に着いてからで十分だろ。あそこは24時間遊べるって話だし」
「うん……そうだよね」
雲璃は少し眠そうに目をこすり、秋織の肩に頭を預けてきた。
「ちょっとだけ、寝てもいい?」
「ああ、寝とけよ。」
秋織はぶっきらぼうに言いながらも、肩を動かさないように気を使った。
そうして数時間。
船内アナウンスが静かに響いた。
『……まもなく二相楽園空港に到着いたします。
二相楽園空港に到着いたします。
シートベルトの着用をお願いいたします……』
「ん……? もうか」
雲璃が目をぱちくりさせて起き上がる。
秋織も窓の外を見た。
そこには、黒い宇宙の中に浮かぶ巨大な光の球体――二相楽園が、ゆっくりと近づいてきていた。
無数のネオンとホログラムが渦を巻き、まるで生き物のように脈打っている。
「……着いたな」
「うん……着いた……」
シャトルが着陸態勢に入り、柔らかな振動とともにドッキングする。
ゲートが開くと、甘い花のような香りと、遠くから響く音楽と歓声が一気に流れ込んできた。
二人は荷物を手に、空港の出口へと足を踏み出す。
そこはもう、楽園の入り口だった。
巨大なアーチの上に、黄金色の文字が浮かんでいる。
『ようこそ、二相楽園へ。ここでは、すべての「遊び」が、永遠に許される』
秋織は一瞬、眉をひそめた。
「……なんか、妙に物騒な文言だな」
「えー? かっこいいじゃん! さあ行こー!」
雲璃は秋織の手を引っ張って、出口の先へと駆け出した。
まだ、二人は知らない。
この楽園が、ただの遊び場ではないことを。
そして、このチケットが、単なる招待状ではなく、
ある「ゲーム」の参加証だったことを――。
ストーリー的に第二部の真ん中あたりです。
多分割と短い!