【本編完結】羅浮に吹く旋風   作:サツキタロオ

2 / 18
エアライダーハマり過ぎててやべぇよやべぇよ…


楽園追走Ⅱ「楽園の喧騒と影」

二人は空港を出てすぐ、楽園のメインストリートへと足を踏み入れた。

そこはもう、別世界だった。

色とりどりのホログラム広告が空を埋め尽くし、巨大なマスコットが浮遊しながら歌い、踊り、通行人にキャンディを投げている。

ストリートパフォーマーが火を吹き、空中に浮かぶステージではバーチャルアイドルがリアルタイムでファンと会話している。

笑い声、歓声、爆音のBGM、甘い食べ物の香り――すべてが渦を巻いて、感覚を一気に飲み込んでいく。

「こういう場所、あんまり得意じゃないんだよな……」

秋織は眉を寄せて周囲を見回す。

人混みの中を歩くだけで、すでに肩が凝り始めていた。

「えー? 私はこういう賑やかなところ大好きだよ? わくわくする!」

雲璃は目を輝かせて、くるくると回りながら歩く。

手に持ったガイドマップを広げては、すぐ閉じて、また広げて……完全に子供のようだ。

「でもって、なんか妙にあそこが賑わってないか?」

秋織が顎で指したのは、メインストリートの少し脇道に入った広場。

周囲が派手な光に満ちているのに、そこだけ妙に人影が薄く、代わりに黒い制服を着たスタッフらしき集団が何人か立って、ざわついている。

「……確かに。なんか、囲まれてる感じ?」

「行ってみる?」

「俺はいいよ。雲璃、行ってこいよ。俺はここで待ってる」

「えー、つまんないなあ。じゃあすぐ戻るから!」

雲璃はぴょんと跳ねるようにして、人混みをかき分けてその広場の方へ消えていった。

残された秋織は、近くのベンチにどっかりと腰を下ろす。

「……はあ」

来たはいいものの、予想以上に疲れる。

音楽がうるさい。光が眩しい。人多すぎる。

正直、ホテルに直行して寝たい気分だった。

 

(雲璃の奴、すぐ戻ってくるかな……戻らなかったら探しに行くのも面倒だな)

そんなことをぼんやり考えていると――

「そこの子供!」

鋭い声が背後から飛んできた。

「!?」

秋織が振り返ると、そこに眼鏡をかけた青年が立っていた。

十代後半くらいだろうか。羅浮でよく見られる青年向けの服装。

表情は苛立っているが、どこかめんどくさそうな表情も混じっている。

「なんか用かよ?」

「ここに、黒髪のツインテールの少女は見なかったか?背はそれなりで、赤と黒の服装だ。目つきがちょっと生意気そうで、いつもニヤニヤしてるような……」

青年の説明は妙に具体的だった。

 

秋織は一瞬、雲璃の姿を脳裏に浮かべる。

……いや、雲璃は今ツインテールじゃないし、スカートも違う。

「ん? 見なかったな」

「そうか……たく、何処行きやがったあの馬鹿……」

青年は溜息を吐いて、苛立たしげに周囲を見回す。

そして、秋織に一瞥をくれると、早足で人混みの中へ消えていった。

「……何だあいつ」

秋織は首を傾げながら、立ち上がる。

妙な胸騒ぎがした。

楽園に来てまだ三十分も経っていないのに、すでに「何か」が始まっているような――そんな予感。

(雲璃の奴……まさか、もう何かやらかしてんのか?)

秋織はため息をつきながら、雲璃が消えた方向へ歩き始めた。

…………

その頃、雲璃は人混みをかき分けて、例の広場へと近づいていた。

周囲は相変わらず騒がしい。

巨大スクリーンから流れる広告音楽が耳を劈き、足元では光る床タイルがリズムに合わせて点滅している。

でも、広場に近づくにつれ、なんだか空気が少し重くなっている気がした。

すると、突然横から小さな声が飛んできた。

 

「ちょっといい?」

雲璃が振り返ると、そこにはツインテールの少女が立っていた。

歳は雲璃と同じくらいか、少し上くらい。

派手な服の服を着ているのに、表情は妙に真剣だ。

「ん? 何?」

「背の高い男の人、見なかった? 眼鏡かけてて、右の前髪がちょっと長めで……コート着てるんだけど」

少女の目が、キョロキョロと周囲を探している。

雲璃は首を振った。

「知らなーい。ごめんね」

「もー、急に逸れちゃうんだから……! あ、ごめんね! じゃあまた!」

少女はぺこりと頭を下げると、くるりと踵を返して駆け足で人混みの中に消えていった。

「……変なの」

雲璃は小さく呟いて肩をすくめた。

でも、なんだか胸の奥がざわついた。

さっき秋織のところにいた眼鏡の青年……まさか、あの人を探してるのかな?

そう考えているうちに、ふと視界の端に秋織の姿が見えた。

ベンチに座ったまま、退屈そうにスマホをいじっている。

「秋織ー! お待たせ!」

雲璃が手を振って駆け寄る。

秋織は顔を上げて、軽く手を振り返した。

「雲璃、何かあったのか?」

「ううん。なんかさ、配信者が特定の人を探してるらしいんだって。

 広場の近くで、スタッフっぽい人たちがざわざわしてて、みんなスマホで撮影してるの」

「へえ……どんな奴を探してんだ?」

「黒髪のツインテールの女の子と、眼鏡かけてて右の前髪が少し長い男の人だって。

 なんか、二人とも急に姿を消したとかで……」

秋織の手が、ピタリと止まった。

「………………見た事あるな」

「え?」

雲璃が目を丸くする。

秋織はゆっくりと立ち上がり、さっきの方向を振り返った。

「あの眼鏡の青年……さっき俺に話しかけてきて、黒髪ツインテールの少女を探してた。

 説明が妙に具体的で、苛立ってたけど……」

「まさか、それって……」

二人は顔を見合わせた。

楽園の喧騒の中で、まるで別世界のように静かな一瞬が流れる。

「雲璃。お前、今からもう一回、あの広場の方見てこい。俺はさっきの青年が消えた方向を探してみる」

「え、ちょっと待って! 私も一緒に行く!」

「いや、別行動の方が早いだろ。何かあったらすぐ連絡しろ。……絶対、変なことに首突っ込むなよ?」

「分かったってば! 秋織こそ、無茶しないでよね!」

雲璃は頷くと、再び人混みの中へ飛び込んでいった。

秋織はポケットからチケットを取り出し、もう一度注意書きの部分を睨んだ。

 

※現地でのトラブル・事件への巻き込まれやすさは、通常の100倍です。

 

「……冗談じゃねえよ、本当に100倍かよ」

秋織と雲璃が広場の方へ近づいた瞬間――

 

向こう側から、慌てふためく二人の姿が飛び込んできた。

眼鏡の青年と、黒髪ツインテールの少女。

さっき探されていたはずの二人だ。

しかし今は、二人とも必死の形相で走っている。

その背後を、奇妙な仮面をつけた集団――十数人ほど――が追いかけている。

仮面はすべて同じデザイン。

赤と黒の炎のような模様が描かれ、目元だけが光っている。

まるでゲームのモブ敵のような、統一された不気味さ。

 

「居たな。」

「居たね。」

秋織と雲璃が同時に呟く。

すると、右側の路地から新たな声が響いた。

「ヒバナーのみんな! ソイツら捕まえちゃってー!」

現れたのは、さっき雲璃に話しかけてきた少女にそっくりな……いや、髪色が鮮やかなピンクで、服装も派手なネオンカラーのストリートファッションに変わっている少女。

手に持っているのは、スマホのようなデバイス。

画面にはライブ配信のコメントが高速で流れている。

「…なんだなんだ!?」

秋織が思わず声を上げる。

青年とツインテールの少女は、息を切らしながら互いに声をかけ合う。

「くっ……火花め……ここまでやるのか」

青年が悔しげに吐き捨てる。

少女は、逃げながらもどこか楽しげに笑った。

「流石花火が作ったアバター! リスナーの使い方が分かってる!」

「言ってる場合か!」

「叢雨ちゃん。こういう時こそ軽口叩いて落ち着かないと……」

少女が照れたように青年の腕を掴むと、青年は顔を赤くして怒鳴り返した。

「馬鹿か!」

その瞬間、ヒバナーと呼ばれた連中――が一斉に飛びかかってきた。

手に持っているのは、光るバトンやネットガンらしきもの。

明らかに「遊び」ではない本気の動きだ。

「危ない!」

秋織が咄嗟に動き、納刀したまま振り回して一番近いヒバナーを弾き飛ばす。

雲璃も負けじと、大剣で別のヒバナーをぶっ飛ばした。

二人は青年と少女の前に立ちはだかり、背中合わせで援護した。

「大丈夫か?」

秋織が青年に声をかけると、青年は驚いた顔で振り返った。

「さっきの……!」

「おい、やばそうだぜ。逃げようぜ!」

秋織が叫ぶ。

青年は即座に頷き、少女の手を強く握った。

「分かってるよ! 花火、どっから逃げられる?」

少女――花火――は周囲を見回し、地面を指差した。

「真下のマンホールとか? あそこなら下水道に繋がってるはず! 配信者ルートでよく使う隠し通路なんだよね!」

「下水道!? マジかよ……」

秋織が顔をしかめるが、ヒバナーの増援がどんどん近づいてくる。

もう選択の余地はない。

「行くぞ!」

秋織がマンホールの蓋を蹴り開けると、中から湿った空気と微かな音楽の残響が上がってきた。

まるで楽園の地下にも「遊び場」が広がっているかのように。

花火が最初に飛び込み、続いて叢雨。

雲璃が秋織を振り返る。

「秋織! 早く!」

「分かってる! お前も落ちるなよ!」

二人はヒバナーのネットが届く寸前で、マンホールの中に身を投げた。

蓋が閉まる音が響き、仮面の集団の怒号が遠ざかる。

暗闇の中、四人は息を潜めて下水道の通路を進み始めた。

花火がスマホのライトを点け、照れ笑いを浮かべた。

「えへへ……助けてくれてありがとー。花火だよ〜。こっちは叢雨ちゃん。……ってか、君たち、誰? なんで助けてくれたの?」

秋織は壁に背を預け、息を整えながら答えた。

「俺は秋織。こっちは雲璃。困ってたから助けただけだ。」

雲璃がくすくす笑う。

「でも、面白くなってきたよね?」

秋織は深い溜息をついた。

「……お前だけは、絶対に黙ってろ」

地下の暗闇に、四人の足音だけが響く。

楽園の表舞台から、裏側へと――

「幻月遊儀」の本当のゲームが、今、始まろうとしていた。




続編主人公が顔出しするのは定番だよねパパ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。