新連載なんだな。頑張ります。
episode.1:風が呼んでいる
「…………」
俺は公園のベンチに腰を預け、ただぼんやりと空を眺めていた。抜けるように青いくせに、特に何かを期待させるわけでもない空だ。
理由はない。暇だから。それ以上でもそれ以下でもない。
「……秋織〜」
間延びした呼び声が頭上から降ってきた。
「ん?」
気怠く視線を上げると、俺の影に少女が一人立っていた。長い髪に、街で浮きそうなほど派手めの服を着こなす……そして裸足な幼馴染の雲璃だ。
こうして覗き込んでくるのはだいたい、ろくでもない用事がある時に決まっている。
「なんだよ雲璃。俺は忙しいんだ。後にしてくれ。」
適当な言い訳を吐いてみる。もちろん、忙しいわけがないのは俺自身が一番よく知っている。
「そんなわけないじゃん。どうせ暇なんでしょ?」
雲璃は呆れと笑みを混ぜた声で言い放つと、ためらいもなく俺の腕をつかんだ。「ちょっと着いてきてよ!」
「ちょ…!」
言い終わる前にぐいっと引っ張られる。
こいつは華奢な見た目に反して握力がやたら強い。痛い、と文句を言ってやりたいところだが──まあ、言わないでおいてやった。
引きずられながら、俺は小さくため息をつく。どうせ逆らっても無駄だ。雲璃がこうして来たときは、たいてい強制参加が決まっている。
「でさ、何かあるのか? ここって電気屋じゃん。」
雲璃に手を引かれて到着したのは、羅浮の中でも品揃えが一、二を争う大型電気ショップだった。
仙舟人が運営しているわけではなく、スターピースカンパニー直営の店舗らしい。外観からして金の匂いがする。
「秋織、新しいやつ欲しいって言ってたでしょ? だからさ、今日こそ買いに行きたいなって思って。」
「まあ、確かに。お互いそろそろ古い機種だしな……よし、機種変するか。」
雲璃の勢いに押されつつ、俺たちは自動ドアをくぐった。
「いらっしゃいませ〜」
白い制服を着たスターピースカンパニーの社員が、丁寧な口調で頭を下げる。
俺はすぐ近くの店員に声をかけた。
「なあ、スマホから機種変したいんだけど……オススメとかある?」
「うーん……それなら“トランスキャリアー”がオススメだよ。最近人気なんだ。使い勝手が良くてね。」
トランスキャリアー。
どこかの学園都市が開発して、一般流通にも回された携帯端末だ。
チラッと値札を見ると──一台14,000円。思ったより手頃だ。
「じゃあ、それください。」
迷う理由もなかった。俺と雲璃は二台分の端末を購入し、そのまま機種変更の手続きを済ませた。
「ねぇ秋織、トランスキャリアーってね、電子機器に向けるだけで、その中のデータに“入れる”んだって。」
「へぇ……そうなのか…」
雲璃が目を輝かせて説明しても、正直まだ実感が湧かない。
携帯端末にそんな芸当ができるなんて、にわかには信じがたい。
──そのときだった。
俺の手のトランスキャリアーの画面が揺らぎ、光の粒が弾けるように飛び出した。
「……!?」
小さな影は床に落ちることもなく、ふわりと跳ねるようにして、そのまま店外へ──路地裏へ向かって消えていった。
「なんだろアレ…?」
雲璃が呆然とつぶやくと、俺はすでに前を見据えていた。
「行ってみよう。」
「うん。」
言うが早いか、俺は走り出す。慌てて雲璃もその後を追う。
得体の知れない“何か”を確かめるために、二人で路地裏へ駆け込んだ。
……………………
路地裏を奥へ進むにつれ、空気がひんやりと変わる。
しばらく行くと、闇の中にぽつんと光の粒が浮かんでいた。
「……あったね」
雲璃が小声で指差す。
「一体なんなんだ?」
俺たちは互いに頷き合い、反射的に武器を構えた。
光はゆらゆらと震え、かすかな電子音のようなものを発しながら変質していく。
次第に──白い光はざらついた黒へと濁り、ノイズが混じり合うように形をゆがめた。
「……?」
やがてそこに現れたのは、俺の知っているどんな生き物とも違う存在だった。
一頭身に近い丸っこい体。
頭には小さな工場用のメット。
そして、ツルハシを握っている。
あまりのシュールさに、俺も雲璃も思わず武器を下ろしてしまった。
「……なあ……なんだろうコイツ……」
「さあ……。生き物なのか、機械なのか……」
困惑したまま距離を詰めようとしたその瞬間──
金属が空気を裂く鋭い音がした。
生き物は、ためらいなど一切なく、いきなりツルハシを振り下ろしてきた。
「っ……!」
俺たちは反射的に跳び退き、左右に散る。
振り下ろされたツルハシが地面に叩きつけられた瞬間、石畳が粉々に砕け、破片が飛び散った。
……冗談じゃない。あれを食らったら、ただじゃ済まない。
「ね、ねえ秋織……」
「分かってるよ。さっさと倒すぞ!」
雲璃が大剣を構え、俺は腰の刀を抜き放つ。
二人で呼吸を合わせ、生き物へ同時に踏み込んだ。
得体の知れない敵との、予想外の戦いが始まった。
生き物は言葉も発さず、ただひたすら無機質にツルハシを振り下ろしてくる。
動きは直線的で読みやすい。避けるのは難しくない──だが問題は別にあった。
「……硬っ……!」
斬りかかってみたものの、工場メットが異様に硬い。
刀が弾かれ、金属音が耳に刺さる。これではまともにダメージが入らない。
「秋織、だったら私に任せて!」
雲璃が地面を蹴り、軽やかに跳び上がる。
大剣を両手で振りかぶり、生き物の真上から一直線に叩きつけた。
乾いた破裂音と共に、生き物は真っ二つに割れ、その体はデータの粒子となってふわりと空中に散っていく。
ノイズが消え、路地裏は再び静けさを取り戻した。
「案外弱かった……」
雲璃が肩で息をしながら呟く。
「しかし……一体何者なんだ?」
俺は刀を収めつつ、データの残滓が消える空間を見上げた。
トランスキャリアーから飛び出した光。メットの敵……
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだが、ふと思い当たる人物がいた。
「……そうだ。兄貴に聞いてみるか。
「秋作さんに?」
「ああ。兄貴なら、こういう“妙な話”にも心当たりがあるかもしれないからな。」
俺と雲璃はすぐに武器をしまい、路地裏を駆け出した。
胸の奥に、微かな驚きと、どこかざわつく予感を抱えたまま。
──この小さな遭遇が、俺たちの後に大きく関わるとは、まだ知る由もなかった。
実はストーリー考えてたら殆ど改変されてました。