相変わらず志都児出てねぇ…
ファイル7.西の高校生探偵と
「おらおらおら、どきやがれ!!」
「おにいやんこっちでやんす!!」
大阪の一角、ある和菓子屋にて。
秘蔵のレシピを奪取した二人組の男が客を押し除け、外へと駆け出していく。
と。その前に二人の人影が立ちはだかった。
「待て、貴様らっ!!」
「そうは問屋がおろさへんで!!」
一人は花園親子に誘われ、和菓子を目当てにやってきていた恋太郎ファミリーの一人、
もう一人は幼馴染に誘われて来店していた西の高校生探偵、服部 平次。
彼らはその手に竹刀を握り、向かってくる犯人へと振りかぶった。
「てぇええーーーーっ!!」
「ふっ!!」
「「ぐっは!?!?」」
乾いた音が二つ響き、犯人たちがその場に崩れ落ちる。
二人が竹刀を収めると同時、警官の一人が声を張り上げた。
「確保ーっ!!」
倒れた犯人たちに警察が殺到する。
その様を尻目に、服部は竹刀を騎士華に差し出した。
「流石、いい太刀筋しとるわ」
「貴様もな。探偵としての手腕ばかり注目されているが、剣の腕も見事なものだ。
機会があれば、手合わせ願いたい」
「かまへんよ」
竹刀を受け取り、己が握っていたものと合わせて背中に携えた竹刀袋へと戻す騎士華。
それと同時に、服部のそばに一人の少女…彼の幼馴染である遠山 和葉が駆け寄った。
「平次、大丈夫か!?」
「おぉ、大丈夫や。土呂瀞が竹刀2本持っとって助かったわ」
言って、和葉に笑みを向ける平次。
それに続くように、騎士華の元に羽香里が駆け寄る。
「騎士華さん、大丈夫ですか!?」
「ああ。服部の助力もあってなんとか危機を切り抜けることができた。
心配をかけたな、羽香里」
「怪我がないなら良かったです…」
羽香里が騎士華の無事を喜んだ、まさにその時だった。
「きちかたん大丈夫ーーーーーーッ!?」
甘い咆哮と共に、すっ飛んできた羽々里が騎士華を抱きしめたのは。
「待て、羽々……ぶ、ばぶぅ…っ♡」
「ああ怖かったわね!でももう大丈夫よ!今日はいっぱいママに甘えてちょうだいね!!」
「ま、ママぁ…♡」
羽々里に抱き締められた途端、とろん、と騎士華の顔に締まりがなくなっていく。
言葉も舌足らずなものへと変化し、その目には先ほどまでの凛々しさなどかけらも残ってない。
端的に言えば、騎士華は赤ちゃんになっていた。もちろん、見た目はそのままで。
「おっぱいちゅっちゅっしてもいいのよ!?」
「すゆ♡」
「警察の前ですよ、二人とも」
シャバにいられるギリギリの母性を抱える怪物こと羽々里。
大家族の長子であるという強い自覚から、甘えたい盛りの頃から母に甘えることを我慢してきた結果、少しでも母性を感じると赤ちゃんになってしまう本能が目覚めてしまった騎士華。
需要と供給が噛み合った二人の奇行は、留まるところを知らなかった。
公衆の面前…それも警察がいる前で授乳プレイを敢行しようとする二人に、羽香里が釘を刺す。
と。正気を取り戻した騎士華が羽々里の腕から抜け出し、膝から崩れ落ちた。
「くっ、殺せ…っ!」
「……ええっと、似たもの親子なんやな、土呂瀞って」
「親子じゃないですよ」
「「えっ?」」
ファイル8.ジョディ先生の独白
「私ってあんまり教師に向いてないのかしら…」
米花町を走るとある外車、その車内にて。
助手席に座る女性…日本で黒の組織を追うFBI捜査官の一人、ジョディがため息混じりに愚痴を吐きこぼす。
その愚痴が向けられたのは、運転席に座る筋肉質の男…同じく捜査官のキャメル。
キャメルはそれに苦笑を浮かべ、彼女を宥めた。
「なんですか、その弱音。高校教師だった時間なんて、ほんの一瞬だけじゃないですか」
「それでも日本人に英語を教えるくらいは訳ないと思ってたのよ。今考えると、ひどい自惚れだったわ」
「なにがあったんです?」
黒の組織関連以外でジョディがここまで打ちのめされているのは珍しい。
キャメルが怪訝そうに首を傾げるのを前に、ジョディは暫し逡巡し、辿々しく答えた。
「いえ、その…、あまりにひどい英語を濫用する女性が潜伏先の近くで暮らしてて…」
「日本にいたらいくらでも聞くでしょうに」
「それを差し引いてもなお酷かったのよ…」
「……具体的には?」
好奇心に負けたキャメルが問うと、ジョディはため息混じりに答えた。
「出身地の話になって、『ユーアーはアメーリカからカミングしたデースかー?』…って聞かれたわ」
「………指摘したくもなりますね」
英語圏の出身者全員が怒鳴り声を上げるレベルだろう。
キャメルがそんな命知らずなことを思っていると、ジョディの体が小刻みに震え始める。
恐らくは身にためた怒りが吹き出してきたのだろう。ジョディは怒気を込めた声で捲し立て始めた。
「一人称が『アイアム』だしステイツを『アメーリカ』って呼ぶし日本語で生まれると表現される全てを『ハッピーバースデーした』って言うし…ッ!
いつ見てもウエスタンな衣装着てて髪全部ブロンドに染めててその上でアメリカ人自称しててこれってあんまりじゃないかしら!?」
「………………」
ヒートアップするジョディに、何を返せばいいのかと逡巡するキャメル。
しかし、奮闘虚しく、何も言葉が見つからなかった。
そんなキャメルの胸中など知らずか、ジョディが先ほどとは打って変わって消え入りそうな声を搾り出した。
「この間、とうとう我慢できなくなって、つい英語を教えるなんて言ってしまったの…」
「それで向いてなかったのかも云々に繋がったんですか…」
「ええ…。地獄を見たわ」
「なにか進展はあったんです?」
「もちろんよ」
流石に未就学児よりもひどいレベルからは脱却したのか。
キャメルが感心するも束の間、ジョディが鎮痛な面持ちで告げた。
「彼女の言語を理解できるようになったわ」
「そっち!?!?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「恋太郎ボーイ!アイアムのイングリッシュベリーグッドになったデスかー!?」
「はい!発音がよりネイティブに近づきましたよ!」
「発音よりも文法直しなさいよ」
土呂瀞 騎士華…恋太郎が誇る彼女の一人。普段は騎士道精神あふれる凛々しい年長者なのだが、甘やかされると途端に赤ちゃんと化し、大暴走をかます。「きちか、ちょうらいあかちゃんになゆー!!」、「あかちゃんつくゆ!!」などなど、数々の迷走を繰り返しては「私を殺せぇ」と羞恥を露わにして猛省する。
ナディー…恋太郎が誇る彼女の一人。お花の蜜大学附属高等学校の英語…ではなく国語教師。自由を謳歌するアメリカ人に強い憧れを抱いており、自分の思うアメリカ人を演じている純日本人。英語がダメダメすぎて英語教師になれなかった過去を持つ。そのエセ英語混じりの話し方はもはや「ナディー語」と呼ばれるほどに難解極まりなく、完全に解読できる人間は恋太郎くらいだった。彼女の授業で成績が上がった生徒も多いのだとか。本名は大和撫子。
ジョディ先生…ナディーの英語にブチギレた元英語教師のFBI。奮戦した結果、英語話者としての心を根本からへし折られた。