ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
拝啓、親愛なる女神様へ。朝起きたらホームがもぬけの殻で、テーブルの上に『今日から眷族のみんなとオラリオの外で旅行兼新しい眷族を探しに行くのでしばらく留守にするわね。あっ、旅行の費用として、ちょ〜っとだけアナタの本の売り上げ金を拝借したけどいいわよね♪P.S.ちゃんと美味しいお土産買ってくるので、帰った時に怒らないでね♡』という書き置きだけあった時は、他の眷族連れてくなら私も連れていけよとか、人のお金勝手に着服するとかどんだけ人の心ないんですか?などと思っていた時期が私にもありました。
「待てや!この変態クソ女ぁぁぁ!!!」
「あの駄女神めぇぇぇぇ!!!」
今まさに街をぶらついていたところ、フレイヤ・ファミリアの副団長アレン・フローメルに見つかり、そのまま鬼の形相で追いかけられています。
原因は……はい、言われなくても分かっています。だって、あの真面目というかフレイヤ・ファミリアの不良枠のアレンが、あんな本を読むなんて想像できないでしょう!?
っていうか、あの駄女神と他の眷族のみんなも、こうなることを最初から分かっててオラリオから逃げたんだな!!!
それで、私を連れて行ったらアレン、ひいてはフレイヤ・ファミリアが追ってくるかもしれないって危惧して、黙って置いていったんだな、チクショウ!!
「うひっ!?」
「ちっ!ちょこまかとハエみてぇに避け回りやがって!!!」
今アレンの投げた槍が背中にかすりかけた!!?マジで殺す気で追ってきてやがりますよ!!!
っていうか、仮にも乙女である私にハエ扱いは酷くない?……いや、人の妹を勝手に使ってエロ本を描いてる奴には妥当な扱い?
いやいや、今はそんなのに考えを巡らせる暇はねえ!!とにかく体をもっと効率よく動かし、最適な逃走ルートを選び、アレンの投げる槍を避けるタイミングに全集中しろぉ!!!
「コオォォォォ!!!!」
「アイツ!?また速くなりやがった!!」
前回のリューさんとの命がけの鬼ごっこで身につけた、なんちゃって雷の呼吸を、直線の道を走るときだけ使って距離を稼ぐ。こんな短期間で呼吸法を習得できるなんて、アルフィアの才能は本当に恐ろしいね♪
とはいえ、レベル2の私とレベル6のアレンでは、やっぱり後者の方が圧倒的に速い。呼吸法で身体能力を底上げしても、すぐに追いつかれそうになるのに、それでも今こうして逃げ切れているのには理由がある。
1つ目は、先日の逃走劇が偉業と判定され、私がレベル2にランクアップしたこと。
2つ目は、その逃走劇をきっかけに、呼吸法などの逃げる術を増やしたこと。
そして3つ目は──
「止まれ、愚猫!!」
「め……女神の神意に逆らいし、愚かな猫の足を止めるのは、女神の剣たる我の役目なり……」
フレイヤファミリアの幹部であるヘディンとヘグニが、アレンの妨害をしてくれているからだ。いや、あの二人だけじゃない。余裕がなくて後ろは振り返れていないが、時折だが平団員らしき連中の勇ましい声や、まるで轢き潰されたカエルのような悲鳴が聞こえることから、フレイヤファミリア全体が私を援護……いや、アレンの暴走を止めるために動いてくれているのだろう。
まあ、平団員が轢き潰されているのはどうなんだ、という疑問はあるが、あのフレイヤファミリアだから仕方ない。
そして、その援護のおかげで、私は今もこうして逃げ延びられている。
しかし、それもそろそろ限界かもしれない。ヘディンとヘグニはレベル6の冒険者で、アレンに引けを取らぬ強さを持つが、速さではやはり敵わない。その証拠に──
「追いついたぞぉ!」
「ひぃっ!?」
先程までヘディンとヘグニの相手をしていたであろうアレンが横並びに並走してきた。
その形相はもはや人ではなく、鬼そのもの。……いや、レベル6の冒険者が人外みたいな形相で並び走るとか洒落にならないんですけど!!
そんな恐怖体験を味わっていると、更なる援軍が駆けつけて来た。
「待て!この馬鹿猫!!」
「二度に渡る女神の神意の無視!もはや容赦はしない!」
「首に鎖繋いでハウスしていろ!」
「やーい、チビ猫!」
ヘディンとヘグニだけでなく、ガリバー兄弟までがアレンの暴走を止めるために加勢してくれた。屋根の上を駆けながら、次々とアレンに罵声を浴びせる彼らに、アレンの怒りの矛先が向かっていく。
「おい、コラ!今最後に俺のことをチビって言ったのはどいつだ!?」
よっしゃ!目線が私から屋根の方に外れた。その隙を狙って横道に直角レベルの急カーブで曲がって逃げる。
いくら第一級冒険者でも、相手への目線が外れた状態での急な進路変更に反応出来る筈もなく、かなりのスピードで逃げていた為に急停止も出来ぬまま、直進していったアレンを撒くことに成功した。
そして、私は今やっと足を止めて息を整えることが出来た。
「……ふぅ、危なかった。もう少しで捕まるところだった」
文字通り、命がけの鬼ごっこを乗り越えた私は汗だくな顔を乱暴に拭った。
とはいえ、このままホームに逃げ帰ってしまえば、また不意に遭遇してしまう可能性もあるわけで、ちょっとこの辺に身を隠そうかと思った瞬間、私の才能という名の直感がすぐさま近くの建物の隙間に身を隠すように指示を出した。
すると、その直感が正しかったことが証明された。
私が隠れたほんの1秒後ぐらいにアレンが猛スピードで私のいたところを通過していったからだ。
「ん?」
だが、通過していった途端に足を止めて周囲を嗅ぐように見回している。
そこでハッ!と気が付いた。アレンは獣人。ならば、ヒューマンよりも五感が優れているから、汗をかいた私の匂いに気が付いたのだろう。
「おい、そこに隠れているな!」
「……は、は~い」
案の定、建物の隙間に隠れていたことがバレてしまい、下手に誤魔化せば即座に殺されると判断した私は、両手を上げて隙間から出て降参のポーズを取った。
そんな私に、アレンは槍を向けたまま苛立たしげに口を開いた。
「1つ聞くが、なんであの愚図を兎の相手に選びやがった!?」
「…………」
ここで、アーニャちゃんが可愛くて、家族ネタでベル君とイチャイチャラブラブさせたかったからです!と言える勇気があるならば、私はとっくにダンジョンで荒稼ぎ出来てます。
とはいえ、どう言い訳しても槍を突き刺されて殺される未来しか見えないので、私はどうしたものかと口をもごもごとさせていると、神に助けての祈りが通じたのか、私とアレンの間にフレイヤファミリアの幹部らが立ち塞がるように、屋根の上から降りてきてくれた。
これ幸いとばかりに、私は礼も言わず、その場から全速力で逃げ出した。
「ちっ!テメェら、まだ俺の邪魔を……!」
「いい加減にしろ!自ら手放した妹のことでここまで怒り狂うのなら、初めから手元に置いておけ!」
「「「「そうだ!そうだ!」」」」
「め……女神の戦車でありながら、自ら己が戦車の車輪を外「テメェは黙ってろ、ヘグニ!」ひ……酷い!」
ヘグニの罵倒だけバッサリと切り捨てたアレンは、再び車輪を回さんと腰を落とし、進行方向に立ち塞がる障害を蹴散らさんと槍を構えた。
しかし、ヘディンとヘグニはそんなアレンに臆することなく、それぞれ武器を持って戦車の進路上に立ち塞がり、ガリバー兄弟は止まった隙を狙うべく、アレンの周囲を取り囲んだ。
「テメェらじゃ、今の俺は止められねえよ」
「確かに、今の貴様を止めるには、愚猪を連れてくるしかあるまいよ。しかしな──」
「「「「「オッタルに邪魔されない為だけに、女神の作った弁当を盗んで盛るな!!!!」」」」」
そう、フレイヤがシルの姿でベルのために用意した弁当を、ダンジョンへ向かう途中にアレンがすれ違いざまにベルから盗み取り、それを女神からの試食だと偽ってオッタルに食べさせた結果、都市最強を行動不能にしてしまったのだ。
まさに外道!普段は卑怯卑劣とは無縁なアレンがそんな行動に出たことに驚くべきか、それともアレンにそんな真似をさせた彼女に呆れるべきか、この件を知る者たちは頭を抱えた。
「あの愚猪め!常日頃から死ねとは思っていたし、口にも出していたが、ここぞという時に本当に死んでいてどうする!?」
「……黙禱」
「「「「マジそれな!」」」」
(お……俺は……まだ、死んでは……いない。ガクッ)
どこからか小さな声のようなものが聞こえた気もするが、たぶん気のせいだと思って全員揃って無視した。
だが、なんにせよ、今のアレン・フローメルを止めるにはオッタルの存在が欠かせなかった。魔法職のヘディンは街中で魔法を使うわけにもいかず、ヘグニもダインスレイブを使用してもなおアレンには敵わない。ガリバー兄弟もまた、限界を超えた謎の力を発揮する今のアレンを相手に、得意の連携を強引なパワーとスピードでねじ伏せられてしまう。
そんな一見無敵に見えるアレンにも弱点はある。それを知ってか知らずか、逃走中のオラリオ史上最悪の馬鹿作者は、とある場所を目指して走っていた。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
「げぇ~!?もう追ってきた!!ヘディン達は何やってんのよ!!同じ幹部として不甲斐なさ過ぎでしょ!!」
全力で逃げていた私の後ろに、アレンがものすごい勢いで追いついてきたのは、さっきの場所からそう遠くないところだった。
つまり、あの6人はアレン一人を足止めすることすらまともにできなかったというわけだ。はぁ?原作よりも強くなってない?なに、妹のエロ本見て覚醒でもしたの?馬っ鹿じゃないの!?
そう心の中で文句を言いながら、私は逃げる。それも今まで以上に速く。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
もはや女であることを捨てた、先程のアレンと同じような唸り声を上げながら走りまくる。
それでも、背後から感じる怒りと殺意をビンビン受けまくり、こちらも限界を超えて逃げるも、レベル6であるアレンとの距離はだんだんと詰められていく。
(ヤバい!このままじゃ追いつかれて殺される!!)
そんな恐怖が私の中で芽生え始めた時、私の視界にある一軒の飯屋が見えた。それこそが、今の私にとっての希望の光であり、逃げ込むべき場所だった。
「豊穣の女主人!?テメェ!!!」
「うひぃっ!!」
こちらの狙いに気づいたのか、背後に迫るアレンも私が逃げ込もうとしている場所を見て顔をしかめた。
そう、あの場所には今回の騒動の原因のひとつとも言えるアーニャが働いている。もしそんな場所に怒り心頭のアレンが飛び込めばどうなるか。まず「なぜ」と理由を問われるだろうし、その理由を妹に言えるはずもない。
あそこへ逃げ込まれた時点で詰みだと悟ったのだろう、限界を超えた走りがさらに加速する。絶対に逃がさない!そんな気迫で迫るアレンの眼前に、剣が投げ込まれた。
「ちっ!」
トップスピードで走っていたとはいえ、速さを武器に戦う第一級冒険者であるアレンは地面を強く蹴って投擲された剣をひらりとかわした。だが、その反射的な回避行動を直後に悔やむことになる。
ほんの一瞬とはいえ、走るのを止めたアレンの隙をついて、追っていた女は豊穣の女主人に駆け込んでしまった。もし、あのまま投擲された剣を被弾覚悟で突っ込んでいたならば、女が店に入る前に仕留められていただろう。
「っ誰だ!?」
邪魔をした犯人を探して周囲を見渡すと、屋根の上に一般構成員であるハーフパルゥムのヴァンがいた。その姿を確認した瞬間、音速級の投擲で槍をヴァンの肩に突き刺す。肩から血を噴き出しながら彼は屋根から転げ落ちたが、レベル4ならあれくらいでは死なないはずだ。
ターゲットが追えない場所に逃げ込んでしまったせいで、どうしようもない怒りを抱えつつも必死に叫ぶのをこらえていると、先ほど路地裏で叩きのめして撒いたヘディンたちが追いついてきた。
「どうやら、最悪の事態は防げたようだな」
「ちっ、ヘディン。なんだ、勝手に暴走したあげく、ヘマした俺を嗤いにでも来やがったか?」
「ふん、今の貴様の醜態なぞ、嗤う気すら失せるわ!」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるアレンに、ヘディンは呆れた様子で言い放った。
他の者らも同じ意見なのだろう。醜態を晒して走っていたアレンに冷たい目線を送る。
「けれど、今のアレンから僕らの手助けありとはいえ、逃げられるなんて、あの女は何者だ?」
「さあ?まあ、あんな本を描いている時点で、普通とは言い難いだろうな」
「それはそう、それに──」
「「「「いくらアレンから逃げる為とはいえ、自分から無許可でエロ本に出した女の働く店に駆け込むのは異常を通り越して、馬鹿だろう」」」」
ガリバー兄弟が声を揃えて、あの女の行動をそう評価した。
その直後、店の方から喧しい声で「ここで会ったが百年目!どの面晒して私の前に現れた!」「いや、私客なんだけれど!I am a customer!」と騒ぎ立てる声が聞こえてきた。
そんな店の方へ目を向けると、中から酒場で働くウェイトレスが一人姿を現した。その瞬間、誰もが姿勢を正し、頭を下げる。そう、豊穣の女主人から出てきたそのウェイトレスこそ、女神フレイヤのもう一つの顔、シル・フローヴァだった。
「みなさ~ん、お店の方に厄介なトラブルを持ち込んではいけませんよ。それと、アレンさんには帰ったらも~っと厳しいお仕置きがあるので、覚悟してくださいね。……あっ、けれど、彼女を店に連れてきた点を考慮して、ちょっとだけ慈悲は与えちゃいます!」
フレイヤとシルを見事に使い分け、1つの店を切り盛りする看板娘の顔で、にっこりと微笑む彼女の姿にその場にいる全員が無言で了承の意を示した。
その後、アレンをホームへと連行していったヘディンらを見送ったシルは、店で暴れるリューと巻き添えを喰らってミア母さんに拳骨を貰う女性の姿を見て苦笑しつつ、店内に戻った。
勿論、自身とベルのアレコレを本にしてもらおうと、食事する彼女の隣で延々と妄想を垂れ流したことはご愛嬌というやつだろう。
次回は神様の回 新進気鋭のエロ漫画作家の作品に熱弁する男神様の集会です。
あと、BL本を希望する人が感想でちょくちょく見受けられたので、いづれベートとヘディンの本でも描こうかと思います。