ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
私は激怒していた。必ず、かの
事の発端は言うまでもなく、あの下品な本にあった。ここ最近、リヴェリア様やラウルさんにアキさんが歓楽街の動向に目を光らせており、闇派閥が何か動きを見せているのではないかと、他の団員たちは静かに緊張感を高めていた。
そんな中、私はいつも通りに過ごしていると、同室のエルフィがなにやら不思議な顔で私の方をジロジロと見てくるので、ちょっと気になって問い詰めると、一冊の本を取り出してきた。
「な……な……何ですか、これはぁぁぁ!!?」
その本は普通の本に比べると薄く、作りもそこそこ良い物だが、そんなことが気にならないくらい、表紙に物凄いものが描かれていた。
あの変態覗き魔野郎のベル・クラネルと私がハート模様の中で首に腕を回して抱き合っている、という物だった。
しかも、ご丁寧にベル・クラネルの服ははだけてあり、私の服も少し乱れているという、まるで事後のような絵だった。
「え~っとね、最近、リヴェリア様やラウルさんにアキさんが歓楽街を調査しているみたいだから、私の方でもこっそりと調べていたら、こんな本が売られててね。中身凄かったです、レフィーヤさん」
「なんでさん付けなんですか!?」
顔を真っ赤にしながら、敬意を込めたさん付けをするエルフィに怒鳴った私は悪くないと思います。
いつも、リヴェリア様が大木の心を持てと言いますが、これはいくら大木の心を持っていても、レア・ラーヴァテインを喰らったようなものです!
あんな兎男と肌を合わすだけでもアレなのに、こんな恋人みたいに見つめ合って抱きしめ合うなんて、私への侮辱に他なりません!!とっとと、このような呪物は焼き払おうとも思いましたが、肝心の本の中身がどうなっているのか確認せねばと、勇気を振り絞って表紙をめくった。
しかし、そこに描かれていたのは、私の想像を絶する内容だった。
『あ……あの、レフィーヤさん。いくら雨に濡れちゃったからって、その同室の宿を取るのは……』
『ん~?もしかして、ベルは私と一緒のお部屋にいるのは緊張しちゃうんですか?ふふ……可愛い♡』
「ガフッ!!!」
「れ……レフィーヤ!!?」
突然の通り雨に濡れた私とベル・クラネルが近くの宿屋へ駆け込む場面から物語は始まったが、その本の中ではベル・クラネルの濡れた体にピッタリと張り付く私の姿に、思わず口から血が出そうになった。
なにこれ?というか、誰これ?私ってこんなふうに見られてるの?私、エルフなんですけど!?
足元が揺らぐほどの衝撃に、よろめいた私の肩を支えるエルフィにもたれかかりながら、間違いだと思いながらも次のページへ指を進めた。
『ちょっ……!?は……離れてください、レフィーヤさん!!』
『ダ~メェ♡それに、ここはこ~んなに膨らんじゃってますぉ~♡』
「はぁ~!はぁ~!はぁ~!」
「大丈夫、レフィーヤ!?しっかり息して!!」
エルフなのにアマゾネスみたく、性に戸惑う少年をたぶらかすように迫る本の中の自分に拒絶反応が起きる。
しかも、相手があの憎きベル・クラネルだというのだから、もう私の精神は崩壊寸前だった。もう止めようというエルフィの声にも耳を貸さず、プルプルと震える指で次のページをめくる。
『あっ♡あっ♡あっ♡』
『ほ~ら、女の子にこんな事されてもまだ我慢しちゃうんですか?このヘタレ兎♡』
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「それ一体何の悲鳴!?」
自分の中で何かが壊れる音がした気がした。
だって、ベル・クラネルを壁に押しやって、あ……アソコに自分の腰をペッタン♡ペッタン♡と打ち付ける描写なんて、描いた人は正気じゃないでしょ!?
しかも同室のエルフィにこんなのを見られるという、現実の私はこんな辱めを受けたうえに、ベル・クラネルを辱めて喜ぶ変態みたいに描かれるなんて。こんなの絶対おかしい!!!
『我慢しないで、ベル』
『れ……レフィーヤさん』
『違うでしょ?レフィって呼んで♡』
『……レフィ♡』
『はい、よろしい。これはご褒美です♡』
「……死のう」
「絶望するくらい本の中の自分に感情移入しないでよ~!!」
あのベル・クラネルに親しい間柄だけが呼べるあだ名を言わせた上、自分からご褒美と称してキスまでしてしまうなんて、もう限界だった。
まだページは残っているし、この後の展開を考えると、とても正気を保てそうにない。だから、発想の転換というか、混乱の末というか、一度本を閉じて、逆から──つまりラストシーンだけを読もうと思い至った。
『んみゅ?ベル──っん!?』
『おはよう、レフィ。これは昨日のご褒美のお返しだよ♡』
「かふゅっ!!」
「あっ、倒れちゃった」
神が語る朝チュンのシチュエーションで、寝起きの私にベル・クラネルがキスするラストシーンを見届けた私は、キャパオーバーで意識を失った。
そして倒れた私を介抱してくれたエルフィにお礼を告げ、私は再び冒頭のシーンへと戻った。
ホームを飛び出して、あの兎に正義の鉄拳をぶち込まねば我慢ならぬと街中を疾走する。
時折、私に対して変な視線を向けてくる者がいたが、今の私の頭の中にはベル・クラネルへの鉄拳制裁しかなく、その視線がどういった意味を含んだものかなど気に留める余裕はなかった。
もはや人を視線で殺せると言っても過言ではない形相で街中を駆け抜ける私は、遂にお目当ての人物を見つける事に成功した。
「ベル・クラネル~~~ッッ!!!」
「えっ、あっ、はい。おはようございます、レフィーヤさん。いいお天気ですね」
いきなり怒り心頭で現れた私に対して、宥めようとでもしたのか、挨拶を始めるベル・クラネルの言葉に思わずラストシーンの台詞が脳裡を過ぎる。
(おはよう、レフィ。これは昨日のご褒美のお返しだよ♡)
「あ……あわ、あわわわ……!!?この
「ひでぶぅ!!!?」
魔法職とは思えない右ストレートがベルの鳩尾にしっかりと決まり、ベル・クラネルは悶絶した。
突然の暴力に困惑していると、何故か周りで一連のやり取りを見ていた男連中は、「発情兎に天罰下る!!」「よくやった、エルフの嬢ちゃん!!」「死ね!氏ねじゃなくて、死ね!!」「ファイアボルトを乱れ打ちした罰じゃぁぁぁ!!!」と、何故か天誅の喜びを叫んでいる。
しかも、謎に殴り掛かってきたレフィーヤさんは顔を真っ赤にしてこの場から逃走しだすし、ベルはあまりの理不尽さに泣いた。
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