ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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ロキファミリアVSオリ主

 

「待てゴラァ!!!!」

 

 ヤクザ顔負けのドスの効いた声で、こちらを追い掛けてくるエルフの少女。

 可憐で聡明さを売りにするエルフとかけ離れた言動で、少女は殺意を滾らせながら追い掛けてくる。

 

 なぜこうなったのかを語るには、少し時間を遡らなければならない。

 あれは、眷族探しという名目の、夜逃げなのかバカンスなのか判断しづらい旅行から帰ってきた主神である女神の頬を、びよーんと引っ張った日の昼頃のことだ。

 

「まったく、旅行で私の貯めたお金を全部使い切って帰ってくるなんて。しかも、お土産で買ってきたものも、自分が好きなお酒だし……」

 

 あまりお酒に強い方ではない私への土産にこれはどうなんだと愚痴を吐きながら、お金稼ぎの為に新刊のロキファミリアの子の本を刷っていると、とある噂が耳に入った。

 大切断(アマゾン)白兎の脚(ラビット・フット)がデートをしていたというものだ。「あれは夜のバトルに発展するぞ!」とはしゃぐ神様連中や、「どんだけの女性に手を出してるんだ、あの兎野郎は!!」と嫉妬の炎を燃やす男性冒険者の声が聞こえてくる。

 私自身も、まさかあの本がきっかけでそっちの√に入ったのかと驚愕し、その真偽を確かめようと噂の出処になっている場所に突撃する。

 すると、腕を組んで楽しそうに屋台を巡るベル君とティオナちゃんの姿を目撃した。

 

「ねえねえ、じゃが丸くんの新作味だってさ!」

「へぇ~、僕もこれまだ食べてないですね」

 

 ティオナちゃんの誘いにベル君が応え、2人は早速じゃが丸くんの列に並ぶ。

 

「えっ、マジじゃん!?いや、これどっちだ?友人としてなのか、それとも恋愛対象としてか。ダンまち世界のアマゾネスって誰もが恋愛強者だから、本気で狩りに行かれたら、兎のベル君なんてペロリだぞ!?」

 

 ああ、いやどうだろう。原作じゃ、美の女神フレイヤ様のもう一つの顔であるシルちゃんの告白を断ったし、アイズちゃん一筋のベル君ならティオナちゃんのアプローチもかわしそうだ。

 けど相手はアマゾネスだからな。下手すると、抵抗するベル君を無理やり襲って、そのままできちゃった婚なんて展開もあり得る。

 

「そうなったらリアリス・フレーゼはどうなるんだろう?いや~、私が描いたエロ本でガバして世界滅亡とか笑えませんよ」

 

 自分が描いたエロ本の影響で、ヒロイン力最強クラスのティオナちゃんを生み出してしまったかもしれない事実と、世界滅亡の引き金を引いてしまったかもしれない可能性に震えていると、2人はじゃが丸くんを買って別の場所へ向かった。

 そこは露天商が並ぶ市場で、英雄譚好きという共通の趣味を持つ2人は、並べられた英雄譚を指さしながら大盛り上がり。うーん、これはオタクトークなのか、それともデートの盛り上がりなのか、判断に迷う。

 

「まだ時間はお昼過ぎだけど、もし夜までこのデートっぽい散歩を続けたら、本当にお持ち帰りぃ~されて、ベル君がパパになる可能性も!?」

 

 そんな一抹の不安を抱えながら、私はベル君たちの後を追う。かれこれ3時間ぐらい尾行を続けたのだが、原作とかだと、他のヒロイン候補らにバッタリと遭遇して、修羅場展開でうやむやになるのに、そんな様子は一向にない。

 これも、ヒロイン力の高いティオナちゃんの運命力によるものなのか、私が戦々恐々としていると、待ち望んでいたヒロイン候補が現れました。

 

ただし、私の後ろに──

 

「見ぃ~つけた♪」

 

 とても嬉しそうな声のはずなのに、どこか背筋が凍るような恐怖を感じさせるその声に、私はおそるおそる振り返った。

 すると、そこにはニコニコしながらも、背後に包丁を握りしめた般若のスタンドを出現させているレフィーヤちゃんが立っていた。

 

「h……ハロ~♪」

「ええ、こんにちは、変態さん。死ぬにはいい日ですね♪」

「いや~、死ぬにはいい日過ぎて、もうちょっと生きていたいかな?なんて……」

 

 瞬間、殺気を感じて飛び退くと、さっきまで立っていた場所に杖が振り下ろされていた。

 そしてレフィーヤちゃんは、杖を再び振り上げる。

 

「待って!天下のロキファミリアが殺傷事件なんて、冗談じゃすまないよ!!!」

「大丈夫です。あなたの死体は袋に詰めて、ダンジョンに捨ててレア・ラーヴァテインすれば問題は起こりません。ですから、安心して眠ってください」

 

 はい、この時点で説得はもう諦めました。だって、ヤンデレヒロイン特有のハイライトのない目で杖を握るエルフに、説得が通じたなんて話は古今東西のアニメ知識を知る私でも聞いたことがありませんから。

 相手が杖で殴りかかってくるタイミングに合わせて横へ跳び、スキルを発動して逃走を試みることにしました。

 

 本当なら、ベル君の方に怪物進呈(パス・パレード)したかったが、下手すればティオナちゃんも敵に回って捕まる可能性もあったので、泣く泣く反対方向へ逃げ出した。

 そこから、話は冒頭に戻るという訳ですよ。

 

「私をベル・クラネルとイチャイチャラブラブと、あ……あんな風に絡ませるなんて!万死に値します!!!」

「あっ、そっち!私はてっきりあっちの方か──マズッ!!」

「あっち!?まさかまだ余罪が!?ゆ……許せません!!!」

 

 どうせアイズの本が原因だと思っていたら、実は自分をモデルにされた本が原因だと知り、つい口を滑らせて余計な一言を言ってしまった。

 そのせいで、結果的に火に油を注ぐことになってしまった。てへぺろっ♪

 

「まあ、アレンとの鬼ごっこに辛うじて勝利した私に、レベル4かそこいらの魔法職の足で追いつける訳はないし、このまま撒かせてもらうよ」

「ぐぬぬぬぬ……!!!」

 

 雷の呼吸法を使うまでもなく、両者の距離はどんどんと離れていき、このまま撒けるかと油断した所に、前方を塞ぐ影が!?

 

「はーい、ストップ!」

 

 あれは、確かロキファミリアの平団員の一人!?名前は……えっと、そうエルフィっていう、ソシャゲのダンメモっていうゲームのイベントである『真夏の夜の恋宴』に登場したキャラ!!

 見た目と言動がお馬鹿そうなのに、なんかビジネス用語で話すギャップで妙に記憶に残っている女。

 

「くっ、挟み撃ち!?」

「いいや、残念ながら、ここら一帯を包囲させてもらったよ」

 

 あっ、やばい。私はそのイケボに冷や汗をかき、近くの建物の屋根から聞こえてきた声に視線を向けると、そこにはロキファミリアの団長であり、オラリオ最強のパルゥムである、フィン・ディムナがいた! ていうか、え、ちょっと待って。さっきフィンはなんて言った?包囲したって?

 焦って周りを見渡すと、ロキファミリアっぽい冒険者がそこら中にいるんですけど!?後ろを振り返れば、ふしゅー!とミノタウロスみたいな荒い息を吐きながら、他の団員に拘束されているレフィーヤの姿が。

 

「さて、随分と今までウチの団員を金儲けの道具にしてくれたね」

「えへへ、どうも……」

「ふむ、この状況でまだそんな軽口が叩けるとは、大したものだね」

 

 本当にどうしよう。前のフレイヤファミリアの時はアレン一人の暴走で、他の団員らが私の逃亡の手助けをしてくれたから助かったけど、今はロキファミリアに囲まれている状況。

 今のところ、フィンだけしか矢面に立っていないが、逃走ルートになりそうなところに、ガレスやリヴェリア、他の幹部連中を配置してるんだろうな。

 

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、私を捕まえてどうするおつもりで?」

「ふむ、まずは勝手にウチの団員を使って儲けた金の回収。それから、風評被害による賠償金の請求が先かな。まだ詳しい罰は決めていないから、とりあえず捕まえてロキの元に連れていこうかな」

 

 はい、アウト。稼いだお金は駄女神によって使い尽くされてるし、賠償金なんてオラリオ2大派閥からのものなんて目の飛び出る額だろう。

 しかも、まだ罰があるみたいな物言いだし、眷族大好きなロキの元に連行されたら、どんな悲惨な目にあうか。

 

「──サラダバー!!」

「逃げたぞ!追え──ー!!!」

 

 私はスキルによって俊敏性を上げて逃走を図ろうと、エルフィの横をお得意のデビルバットゴーストで駆け抜けて包囲網から強引に突破する。

 それに対して、フィンは多少の驚きを顔に出すも、即座に他の団員に指示を出す。

 

「直ぐに他の団員にも知らせろ!追跡は獣人を中心に行え!ただし、街中での魔法の使用と、武器を抜くのは禁止だ!!」

 

 すっごく的確な指示、しかも予想していた通り、エルフィの横を通り抜けた先には待ち構えていたようにリヴェリアを先頭に、エルフの集団が待ち構えていた。

 

「随分とナメた真似をしてくれたな。ウチの団員を辱めてくれた礼だ。一発殴らせろ!」

「え~っと、エルフの王族なんですから、そんなヤンキーみたいなセリフを吐かないで下さいよ」

 

 それは怒りを抑えてほしいというつもりで言った言葉だったのだが、どうも逆効果らしく、リヴェリアの美しい顔に青筋が浮かんだ。どうやら彼女には鏡でも見て出直せと聞こえたようで、杖を握る手がわなわなと震えているように見える。

 

「やっば、口は禍の元だね。学習しないな、私は……」

 

 踵を返して別方向へ逃げると、リヴェリアの怒号と、それをなだめるエルフの声が耳に届く。正直、リヴェリアの理性が怒りに振り切れていて助かった。

 もし普段通りの冷静さで対峙していれば、こんなに簡単には逃げられなかっただろう。

 

「ほぉ、やはりフィンの狙い通りじゃったか」

「げぇっ!?」

 

 リヴェリアから逃げ出した先にはどっしりと腕を組んで立つガレスが待ち構えていた。

 慌てて引き返そうかと足を止めて反転しようとすると、怒り狂ったリヴェリアが退路を塞いだ。

 

「なるほど、逃げた先に冷静さを欠いたリヴェリアさんを配置したのは、こうして確実に袋小路へ追い詰めるためだったんですね。本当に腹黒いですよね、お宅の団長は……」

「まあの、奴の腹黒さなど、今に始まったことではないが、それで助かった場面も多いのでな。それに、現にこうして鼠を引っ掴まえることに成功したしのう」

 

 ニヤリと髭を撫でながらこちらを睨むガレスの眼力にビクッと肩が震える。

 流石は第一級冒険者なだけはあると心の中で諦めた笑みを上げていると奇跡が起こる。

 

「っ、拙者、兎と美女のイチャラブエッチ好き侍。義によって助太刀いたす!!」

「うおおおぉぉ!!俺らにロマンを与えし作家を守れ!!」

「ちくしょう!主神命令なんです。俺の意思じゃないんです!!!」

 

 あちこちから冒険者が現れてロキファミリアと交戦しだした。

 

「な、なんじゃ一体!?」

「くっ、どういうつもりだ、貴様ら!?」

 

 突然襲いかかってきた冒険者たちを、ガレスとリヴェリアが次々となぎ倒しながら困惑の声を上げていた。私も最初は何が起こったのか理解できなかったが、騒ぎの中から聞こえてくる彼らの声を耳にすると、どうやら彼ら、もしくはその主神が私の同人誌のファンらしく、ロキファミリアに捕まりかけた私を見つけて逃がそうと立ち上がってくれたらしい。

 

「ありがとう!今後も頑張りますので、応援よろしく!!」

「「「「おう!!!」」」」

 

 お礼を告げてその場を急いで離れる。そんな私に待てと叫ぶロキファミリアの団員たちを、冒険者たちが押さえ込む。

 ただ、ガレスとリヴェリアだけは抑えきれず、次々となぎ倒されていくが、一瞬でも隙があれば、逃亡に全スキルを注ぎ込んでいると言っても過言ではない私なら、容易に抜け出せる。

 

「ふぅ~、やはりエロは身を助くだね。今度の新刊はもう少し割安で売ろうかな?」

 

 逃げられた安心感でつい気が緩んでしまった。まだロキファミリアから完全に逃げ切ったわけじゃないのに。

 そんな私の油断を突くように、頭上から怒気の塊のようなものが降ってきて、反射的に前方へモンハンの緊急回避を繰り出した。すると、その直後、私が走っていた場所に爆音とともにクレーターができた。

 

「テメェか、ウチの妹を勝手にいかがわしい本に描いた奴は?」

 

 髪の毛が怒りでヘビのようにうねるアマゾネス。ティオナちゃんの姉のティオネが怒髪衝天の様子で拳をボキボキと鳴らしながら、私を見下ろしていた。

 やばい。これはマジでヤバい!今ので腰が抜けて這いつくばった姿勢のまま。逃げようにも逃げられない。

 

「まあ、あの馬鹿は大して気にしてないから私もそこまで気にはしてないんだけれどもね」

 

 あれ?なんか怒気が急に下がっていってる。もしかして、実はそこまで怒っていなかったとか?

 そ……そりゃそうだよね。描かれた本人がなんか本の通りにベル君とデートしてるし、姉のティオネがそんなに怒る理由もないか。あ~、助かった。

 

「まあでも、団長が捕まえて来いって言ってたんだから、大人しくお縄についてもらおうか」

 

 あっ、違った。絶体絶命の大ピンチには変わりなかった。

 

「よし!私がここから無事に逃げられたら、今度、貴方とフィン団長との結婚イチャラブな性の夜を描くことを約束──」

「さっさと逃げろやコラァ!他の団員らは私に任せとけ!!!」

 

 一瞬で掌を返して仲間になった。そこからの私は、抜けた腰をなんとか立たせて、後ろから追ってくるロキファミリアの連中を燃えるティオネに任せて逃亡を再開する。

 なんか後ろから、「何をしておる、ティオネ!?」「気でも狂ったか!?」とガレスやリヴェリア、他にも平団員の困惑する声が聞こえてくるが、それ以上に暴れ回る破壊音の方がうるさくてよく聞き取れなかった。

 

 それにしても、最初に会って以来フィンの姿が見えないな。ガレスとリヴェリアに挟まれた時点で、フィンも合流してジ・エンドかと心配していたのに、何かあったのだろうか?

 まあ、後ろから迫るロキファミリアはティオネが足止めしてくれているし、このまま逃げ切って帰ろう。

 

「おい、待てよ」

 

 ……そうだ、ロキ・ファミリアにはこの男がいた。狼の獣人、ベート・ローガだ。

 不機嫌そうにこちらを睨むその表情からして、私を逃がす気なんてこれっぽっちもなさそうだ。

 

「テメェだな、あのくっだらねえ本を描いたっていう頭のおかしい奴ってのは」

「なんだァ?てめェ……」

 

 おっと、思わず私の中のキレた愚地独歩が顔を出してしまった。

 しかし、くっだらねえとか、人のことを変態ではなく頭のおかしい奴とか、言いたい放題言ってくれるじゃないか。言っておくが、私はファンが出来る程の作品を作っているし、紅魔族でもない! なんにせよ、私にだって怒り心頭になる時くらいあるさ。

 そんなわけで、私はベート・ローガへの嫌がらせを決行することにした。

 

「テッテレー!特製煙幕トウガラシ玉!!!」

 

 某青狸の声真似で取り出したのは、以前のアレンとの鬼ごっこで思い知った獣人の五感の鋭さを危険視して作った爆弾モドキだ。

 これを地面に思いっきり叩きつけると──。

 

「っテメェ、何を──ゴホッ!!?」

 

 赤い色の煙が辺り一帯を覆いつくす。その煙の中に刺激臭の強いものを混ぜ合わせており、下手に吸い込むと獣人でなくてもしばらく嗅覚が麻痺する代物だ。

 それを知らないベートはもろに吸い込み、咳き込みながらも必死になって煙の中から私を探そうと躍起になっている。

 

「や~い!ヘタレイキリ狼!今度の同人誌で覚えとけよぉ!!!」

 

 子供じみた挑発をした後、そのまま全力で逃げ出した。煙が晴れる頃にはもう私の姿はなく、ベートは煽るだけ煽って逃げた雑魚認定のクズを逃がした屈辱に顔を歪め、その後は今も暴れているティオネを八つ当たりの標的にして鬱憤を晴らしていたらしい。

 

 

 


 

 

 私が無事にロキファミリアから逃げた後、ホームに戻ったフィンらは反省会のようなものを開いていた。

 

「さて、聞きたいことはいろいろあるけど、まずはティオネからだ。どうしてあんなことをしたんだい?」

「えっと、それは……あいつが私と団長の本を描いてくれるって言って……はい……」

 

 言葉がだんだん小さくなるティオネに、フィンは大きくため息をついた。自分でも愚かなことをしたと反省しているようだが、罰は必要だと判断し、一週間ホームの清掃を命じた。

 

「それじゃ、次はガレスとリヴェリアに聞こうか?」

「うむ、フィン、お主の作戦通り、ワシとリヴェリアで奴を挟み撃ちするところまでは上手くいったんじゃが、途中で冒険者らが邪魔をしてきてのう。暴れとった奴らは全員取り押さえてギルドに突き出したんじゃが、どうも事情を聞けば、奴のファンらしくてのう。まんまと妨害にあって逃げられてしもうた」

「そのうえ、ティオネの暴走で完全に足止めを食らってしまってな。頼みの綱であるベートも、まさか街中で刺激臭のする煙幕を張られるとは思っていなかったようで、今はディアンケヒトファミリアで念のために検査してもらっているが、毒の類ではないようだから、夜までには帰ってくるだろう」

「そうか、なるほど、どうやら敵は思った以上に厄介な存在のようだね」

 

 フィンは頭痛が痛いとばかしに、頭を押さえて悩みだした。

 そんなフィンの様子を見て、主神であるロキが一つ疑問に思ったことを問いただす。

 

「なあ、フィン。現場の指揮にはフィンもおったんやろ。フィンがおって取り逃がしたっちゅうんか?」

「うーん、僕の方でもちょっと問題というか、厄介な神が彼女の後ろ盾になっていたようでね」

 

 団員たちに追う指示を出した後、フィンもまた追跡を開始しようとしたところで、自身の背後に気配を気取らせずに神を抱えた男が立っている事に気付いた。

 都市最大派閥であるロキファミリア団長である自身の背後を取れる者など限られている。

 

「なんの用かな?神フレイヤ」

「あら、振り向きもしないで訊ねるなんて、私に対して随分な対応ね」

 

 そう言って、女神フレイヤはフィンの背に向けて微笑んだ。それだけで、フィンは魂ごと魅了されかねない危うさを感じる。美の女神の中でも特に警戒すべき存在だと改めて認識し、態度こそ変えずとも、何が目的で何処が地雷なのかも分からない以上は慎重に立ち回るべきだと気を引き締めた。

 

「これは失礼を。それでは改めて、何の目的でこちらに?」

「ふふふ、貴方たち、随分と面白い子を追い掛けているみたいじゃない。私の趣味じゃないんだけれど、ちょ~っとだけ、彼女の作る作品に興味があってね」

 

 しながらも、表情を変えずに受け答えをする。まあ、これも彼女を相手にどれだけ通用しているのか分かったものじゃないが。

 

「まさか、美の女神である貴方が、あのような俗物染みた本に興味がおありとは」

「うふふ、俗物だなんて。神の視点から見てもあれは面白いわ。モデルがいいってのは勿論なのだけれど、あれには歴史が詰まっている。見る者が見ればその価値に気が付くわ。だから、これはただのお願い。彼女の事を見逃してくれないかしら」

 

 お願いと言いながらも、その微笑みと後ろに佇むオッタルの圧からして強制に近しいものだ。

 別にこのお願いを断ることも可能だが、その場合の最悪の可能性はフレイヤファミリアとの全面戦争に発展するかもしれないということ。

 リスクとリターンを天秤に掛けた結果、あまりにもリスクが大きすぎるとフィンは判断する。

 

「いいだろう。けれど、今回限りの願いとして聞こう。彼女の作る作品は少々僕たちの醜聞に関わりすぎる。下手な噂が流れて、今まで僕たちが築き上げたものを崩されたら事だからね」

「う~ん、まあいいわ。あの子もそこまで馬鹿じゃ……多分ないと思うから、私もこれ以上は口を挟まないわ。ロキによろしく伝えておいてね」

 

 そこまでが、フィンとフレイヤの会話であった。

 それを聞いたロキは「あんのアバズレがぁ!?」と喚いていたが、すぐに気を取り直してフレイヤの言っていた価値というものに思い至る。

 

「それじゃあ、ロキ。神フレイヤが言っていた“価値”について、見解をすり合わせようか」

「せやな、最初ウチが見た時はアイズたんがドチビの眷族にチョメチョメされとった事に気がいってもうて気が付かんかったけど、あの本は今の時代で子供らが作れるようなものやない」

「ふむ、確かにアレはオラリオじゃ見たこともない技法で描かれていたけれど、それはオラリオという範囲だけで、広い世界で見れば別にあってもおかしくはないんじゃないのかい?」

 

 フィンの指摘にロキは首を横に振る。

 

「確かに、フィンの言う通りやろう。けどな、ここは世界の中心のオラリオや。どこぞの国であの技法を子供らが生み出したにせよ、趣味に没頭する暇神が教えたにせよ、試作っちゅうもんが流れて来てもおかしくはない。やけど、アレは初めから完成されとった。ウチらの知らんところから、急に漂流してきたようなもんやで。まっ、これはただの神の勘ちゅうやつやけどな」

「なるほど、なら彼女の価値はますます上がったと見るべきだろうね」

「せやな、可笑しなモン作っとんは本だけか、ちゃ~んと確認するべきやな」

 

 お互いにあくどい顔を浮かべながら、搾り取る物が増えたと頭の中で皮算用を始める。

 そんな2人の様子を見て、ガレスとリヴェリアは、子は親に似るという言葉を思い出す。

 




次回 ベル君の穴の大ピンチ!?変態狼の魔の手!!

次回も絶対に見てくれよな!
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