ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
その日、ロキファミリアのホームで阿鼻叫喚の叫びが轟いていた。
何が起きたのか、理由は説明するまでもなく、例の本が騒ぎの原因だ。
あの日、ロキ・ファミリアがほぼ総出で大捕り物を行った事件から数日後、オラリオ中に二冊の本が出回った。まだ大きく
当のティオネは満面の笑みでその甘々新婚ムーブをフィンに仕掛け、被害者のフィンが事実無根だと否定してもまったく聞く耳を持たなかった。
そして、もう一冊が今問題になっている本だ。
それは、なぜかベル・クラネルがロキファミリアに所属しているというIFストーリーで、朝稽古としてベートに教えを請う場面から始まる。稽古でかいた汗を流すために、2人きりで朝風呂に入るという、男同士なら特に珍しくもない状況なのだが、それが酷く淫らに描かれていた。
『あっ、ベートさん。お背中お流ししますね』
『おう。……って、おい待て!?どうやって洗おうとしてる?』
『えっと、ロキ様にお世話になってる人には、感謝の気持ちを込めて、裸同士で洗いっこするのがいいって……』
『あんの馬鹿は……』
少年の慎ましやかながらも、鍛えられた胸筋で石鹼を泡立てて、その身体で直接洗おうとするベルをベートが止める。
本人も恥ずかしそうに顔を赤らめながら、必死にくっつこうとするが、ベートはそれを阻止するようにベルの頭を掴んで、その場に留めた。
パタパタと腕を振ってどうにか拘束を振り解いて抱き着こうとするベルに、ベートは溜息を吐きながら説教する。
『あの、馬鹿の言うことを真に受けんな。っつか、世話になった奴全員にそれするつもりかよ?』
『……違いますよ。僕がこんなことするの……ベートさんだけなんですから』
『……はぁ?テメェ、何言ってんのか理解してんのか?狼の前でそんなこと口にして、食われねえとでも思ってんのかよ?』
『……っ、僕は、ベートさんになら、食われてもいいぴょん♡』
「ぐっはぁぁぁぁぁ!!?」
「「リーネ!!?」」
可愛らしく兎耳を表現しようと手で耳を作ったベルにベートが発情して襲い掛かるところで、読み進めていたリーネが衝撃でメガネを割って鼻血を吹き出す。
それを一緒に本の中身の検分をしていたラウルとアキが、慌てて介抱に走る。
「駄目だわ!リーネったら、情欲と屈辱と寝取られによる興奮と尊さでぐちゃぐちゃになった顔をしてる!?」
「どんな顔っすか!?」
鼻血を出しながら表現しがたい表情をするリーネに、ラウルがツッコミの声を上げる。
とりあえず、鼻に巻いたティッシュを詰めて鼻血を止め、休ませることにした。まだ読み始めてから10ページも進んでいないのに、もうこの本はダメかもしれないとアキは思いつつ、続きを読み始めた。
『っ♡ベートさん!♡僕もうっ!!♡』
『もうちょっと我慢しろ、兎野郎。俺ももうすぐっ♡』
「駄目ね、これは!!」
人のホームの風呂場を舞台になんてもの描いているんだと、この間追いかけたヒューマンの女に怒りが湧くアキ。
もう、ヤバかった。正直、アキもそっちの扉を開けてはいないのだが、なんとなしに鍵が開きかけたような感覚がある。
「それじゃ、この本どうするっすか?ってか、これベートさんが見たら……」
「下手すれば発狂するかもしれないわね」
危険物と化した本を片手に、どうするかとラウルとアキが相談する。
こんな馬鹿な事で、ファミリアの幹部を失う訳にはいかないと思うも、ベートも問題となっている本の存在を知っている為、これがバレるのも時間の問題だとアキは思っている。
どうしたものかと悩んでいると、ホームの一角からドデカイ破壊音が鳴り響いた。
「なにっ!?」
「敵襲っすか!?」
慌ててアキとラウルが音のした方へ駆けつけると、そこにはものすごい勢いでホームの外へ飛び出そうとしているベートがいた。鬼のような形相で、怒りに燃えた血走った目をしながらホームから去っていった。
「一体何があったんすか!?」
「ねえ、ラウル。あれ……」
ベートが壊したであろう場所に紙の切れ端のようなものが落ちていた。この状況と、破壊痕に落ちている紙の切れ端、点と点が結びつかない筈もなく。
「まあ、そういうことだよ」
「「フィン団長!?」」
出ていったベートと破壊痕に目がいっていたラウルとアキは、話しかけられた事でようやくフィンの存在に気が付いた。
いつの間にか居たのではなく、最初から居たのだろう。アキが見つけた紙の切れ端を、フィンは拾いながら口を開く。
「君たちも既にベートの本は見たのだろう。なんというか、僕もだけど、ご愁傷様としか言えないね」
「じゃあ、ベートさんはやっぱり……」
「ああ、今頃、彼女を探しにオラリオ中を走り回っているだろうね」
その予想は間違いなく当たっているだろうと、ラウルとアキは頷いた。探すにしても止めるにしても、自分たちが動くよりは、フィンやガレス、リヴェリアあたりでなければ、今のベートを大人しくさせるのは難しいだろうと二人は考えていた。
「それじゃあ、まずはこの壊れた場所の補修作業に取りかかろうか。さすがにこのまま放っておくわけにはいかないしね」
「「はい……」」
パラ……っと瓦礫が崩れる音を聞きつつ、「面倒な作業を押し付けやがって」とアキがぼやきながら、3人は手分けして補修と作業人員の確保に動いた。
不機嫌さを隠そうともせず、常に周囲に殺気めいた気配を飛ばしながら辺りを見回すベートに、周囲の人間は怯えて目を逸らす。
「ちくしょう!あのクソ女がぁ──」
牙を剥き出しにして、脳裏に浮かんだ子供じみた挑発をして逃げ去った女の顔を思い出しながら、ベートは舌打ち混じりに悪態をつく。ロキファミリアのホームを飛び出してから、もうすぐ1時間になろうとしているが、相変わらず女の姿はどこにも見当たらない。
そもそも、この広いオラリオでたった一人を探すなんて至難の業だ。顔と性別しか知らない相手で、どこにいるのかも分からず、しかも冒険者ですらないであろう女性を手掛かりなしで見つけるのは難しい。おまけに、こうして街中を歩き回っていると、俺の姿を見た途端に慌てて尻を隠す者や、目の色を変えてはしゃぎ出す女神など、反応はさまざまだが、ほとんどの者があの本の内容を知っているような反応を見せた。
「ちっ!」
こうなってくると、盛大に舌打ちの一つや二つはしたくなってくる。それでも、冒険者は距離を取ろうとするが、神連中は気にした様子もなく「ベト×ベル最高!」とか、「逆にベル×ベトも見たくない?」とか、勝手なことで盛りやがりまくる。
イライラが積もるばかりだが、流石に神を相手に喧嘩を起こすほど馬鹿にはなっちゃいねえ。さっさとあのクソ女を見つけ出して、ボコして事態の鎮圧に当たればいい。
そう、ベートは考えていたのだが、ここで思わぬ事態が発生した。
「あれ?ベートさん」
「おまっ!?」
偶然ばったりと、あの兎野郎に遭遇した。
普段なら気に入らねえ奴に会ったと舌打ちの一つでもするのだが、今はそれどころじゃない。
「オ、オレの……オレのそばに近寄るなああーッ!!!」
「うぇへっ──!?」
突然大声を上げたベートに、ベルは思わず驚きの声を漏らした。
まあ、ベートの反応も無理はないのかもしれないが、事情を知らないベルは訳も分からず戸惑っている。
この場合、さっさとこの場を離れればいいのに、ベルの急な登場に動揺したベートは冷静さを失い、その場で固まってしまっている。
そのせいで、二人の姿を目にした女神たちや、男色気味の男神たちは口笛を吹いて盛り上がり、一般人の中でも事情を知っていそうな者たちがひそひそと噂をしていた。
「ああもう、ちくしょうがぁぁぁ!!!」
「あの、一体何が──っ!!?」
「見つけたぁ!この泥棒兎ぃぃぃ!!!」
「あべしっ!!」
最近、レフィーヤさんの時にも似たようなことがあったなと思いながら、事情を知っているであろうベートに声をかけようとした瞬間、突然の乱入者がベルをドロップキックで吹き飛ばした。
予想外の出来事に、モロに蹴りを受けたベルは悲鳴を上げながら宙を舞い、「最近の僕って、ロキファミリアの人と関わると変なことばかり起きるな」と乾いた笑みを浮かべつつ地面に倒れ込んだ。
「ベート・ローガ!!なんでレナちゃんじゃなくて、兎──それも男なんかと子作りしようとしたの!?もし兎が好きだってなら、レナちゃん兎人にだってなっちゃうんだから!!」
「て……テメェは、変態アマゾネス!?なんでテメェがここに──いや、それよりも、街の往来で何トンデモねえこと口走りやがってんだ!!」
「きゃんっ!!♡」
ベルに蹴りを入れたレナは、そのままベートに迫ると、胸元に抱きついて凄い剣幕で唾を飛ばしながらベートを捲し立てる。しかし、事態が急展し過ぎて、一周回って冷静になったベートの蹴りがレナの腹に炸裂する。
その際に、泣き喚くどころか、恍惚な笑みでご褒美をもらったとばかしに喜びの声を上げる。
「うっ……、一体何が……?」
「あっ、起きたわね、この泥棒兎!!アンタなんかにベート・ローガは渡さないんだから!」
「テメェはこれ以上事態をややこしくすんじゃねえ!!」
ベルが起き上がって事態を把握しきれずに混乱していると、レナがビシッと指を指して牽制を仕掛ける。
ベートとしては、これ以上事態をややこしくするなとガチギレするが、もう遅い。今のやり取りを見ていた暇潰し大好き神連中は、一瞬で都合のいい部分だけを切り抜いて、噂を広めようと画策する。
「いい、ラビットフット!アンタはベート・ローガに噛み痕いっぱい付けてもらったんだろうけどね、レナちゃんだって、ベート・ローガの強烈な一発を何度もこのお腹に──♡」
「だから、口を開くんじゃねえ、この変態アマゾネス!!!」
ガツン!と拳骨を叩き落とし、再びベートがレナを黙らせた。
しかし、本当に事情も分からず、変なライバル心と身に覚えのない一方的に捲し立てられて、ベルはついていけずにいる。
(なんだろう、この一方的に自分の主張だけ言う感じ、怒っている時のレフィーヤさんみたいで凄く怖い。ってか、嚙み痕ってなに?)
人は理解出来ない者を前にすると、恐怖を覚えるというが、今のベルの状態はそれに近い。
ガクガクブルブルと震えるベルの姿に、周りの女神や腐の世界を知った女連中が、「兎ちゃんが怖がってる。抱きしめて慰めてあげて!」とか「怖がる兎ちゃんをさり気なく助ける優しさ……キュン♡」などと、ベト×ベルの信者になっている腐の世界の住人たちの声が上がる。
「なっ!?くっ、か弱い兎の真似が上手い。そんなことでベート・ローガを堕とせると思っているわけ!?」
「真似ってなんです!?っていうか、さっきからホント意味分かんないんですけど!!?」
ベルとしては、さっきからレナが言っていることは全然理解できない。そもそも、自分は何もしていないのに、どうしてベートさんと絡めようとして来るのかが本当に謎だった。
そんな当のベート・ローガは──。
(もう、マジで面倒だし、ホームにでも戻ろう)
ゲッソリとした顔で、怒りも抜け落ちて完全に脱力した状態で、これ以上付き合っていられるかとばかりに、スタスタとその場を後にしようとするが、それに気付いたレナは逃がさないと追いかける。
「待ってよ、ベート・ローガ!!」
「ついてくんじゃねえ!!」
そうして、意味も分からないまま、勝手に帰っていった2人の背中を、ベルはただ黙って見ていることしか出来なかった。
「なんか、最近のロキ・ファミリアの人たちが変っていうか。もしかして、アイズさんも……?」
レフィーヤさん、ティオナさん、そして今日のベートさんも、いつもと様子が違う(レフィーヤさんはあまり変わらなかった?)。そんなこれまでになかった状況に、ベルは最近のロキ・ファミリアがどうなっているのか、不安を感じていた。
余談ではあるが、この状況を見ていた神様達が、オラリオ中に、
そろそろベル君も気付く頃合いになってきましたかね。