ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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アルフィアのエロ本を描くのは間違っているだろうか?

 

 その日、オラリオは激震した。闇派閥が暴れ回り、高レベルの冒険者も次々と打ち倒されていくなかで、一つの爆弾が落とされたのだ。

 その爆弾の名は、『ヘラファミリアの女~お前がパパになるんだよ~』というタイトルの同人誌だった。

 

 目撃情報によれば、灰色の女が男性冒険者や、独身の一般男性、果てには神にまで無料で配布して回ったそうだ。

 その後、有名になって本が欲しくなった者にそこそこの値段で売り捌いていると噂になっている。

 

 その噂は闇派閥に手を焼くロキファミリアの耳にも届くというもの。

 

「しっかし、ドストレートでエゲつない事する奴がおるもんやで」

「ああ、まったくだ。けど、これのおかげで敵の動きに乱れが生じている。こちらにも混乱は生じてはいるが、全体で見ればプラスだ」

「まあ、せやな。……けど、これは喜んでええ代物かいな?」

 

 二人の間に置かれている一冊の本。その表紙には、黒のランジェリーを着たアルフィアが、困惑するザルドの胸元を田舎のヤンキーみたく掴み上げる構図の絵が描かれていた。

 知り合いが、それも、かつては敗北の泥を覚えさせた相手が、エロ本にされて都市中にバラまかれている。

 はっきり言って、最初にこれの報告を受け取った時は眩暈がした。いっそ、悪夢の中にボボボーボ・ボーボボが乱入してきた気分だとロキは言っていたが、ボボボーボ・ボーボボって誰だとフィンは首を傾げる。

 

「せやけど、ネタだけの本かと思うたが、中身も大した作り込みやな。冒頭のとこの、寝てるザルドにエロい下着姿で乗り込んできたアルフィアには吹いたけど、なんつうか、曲線美の描き込み具合やとか、顔の良さをこれでもかと引き出してるとことか、もう、うへへへ……」

「普通に楽しまないでくれ、ロキ」

 

 ロキは、その本をぱらぱらとめくりながら、最初は中身を確かめていたが、次第に娯楽として楽しみ始めた。そんな不真面目なロキにフィンは苦言を呈しつつ、こんな命知らずなものを描いたのは一体誰なのかと作者を気にしていた。

 というのも、この本を手にした瞬間から親指がうずき出し、いつかの未来に頭痛が痛くなるような出来事が起こる予感をフィンは感じていたからだ。

 そんな中、負傷したガレスが起きてやって来た。

 

「やれやれ、都市がこのような状況じゃというのに、何をしておるんじゃ……」

「ガレス……。起きてすぐに情けない姿を見せてしまって悪かったね」

「なに、構わん。それよりも、お主らが無事で何よりじゃ。しかし、これは……」

 

 ガレスの視線の先には、ロキが手に持っている一冊の本に集中している。

 彼もまた、このような冗談みたいなタイトルと表紙に頭痛を痛めているのだろう。念のためと本を手に取り中をめくってみるが、予想通りの内容に、これを描いた者は自殺願望でもあるのかと溜息をついた。

 

「今、都市ではこの本がバラまかれている状況だ。それによって、闇派閥も威厳の為か、あるいは、アルフィアに命じられてか、本の回収と犯人の捜索に手を焼いているような動きを見せている」

「そいつは何とも言えん話じゃのう。都市を脅かしておる闇派閥が、こんなしょうもない本を巡ってあちこちで奔走するとは……」

 

 この状況に、幸いと言うべきか、あるいは情けないと嘆くべきか。シリアスとギャグのサンドにガレスは何とも言えない表情で本を置いた。

 

「しかし、一体誰がこんな本を……?」

「う~む、それなんじゃが、儂に一つ心当たりがある」

「っ!?ホントかい、ガレス?」

「ああ、じゃが、心当たり程度で、本当に其奴かどうか、確証はないぞ」

「それでもいいさ、都市を騒がす騒動の中心人物の詳細は早めに手に入れておきたいからね」

 

 確かにそれは道理だと納得し、あの日アルフィアに追われていた灰色の髪の女のことを話す。

 最初はただ逃げ惑う一般市民だと思っていたが、第一級冒険者である自分の目でも一瞬見失いそうになるほどの速さで駆け抜けていったこと。

 そして何よりも印象的だったのは、去り際にアルフィアへ捨て台詞を吐き、喧嘩を売って逃げていったことだ。

 

「とまあ、おかげで儂らはアルフィアのいい八つ当たりの的になったというわけじゃ」

「なるほど、確かに現状じゃ、その彼女が犯人の可能性は高いね。それで、ガレス。その彼女はアルフィアと関係性があると。もっと言えば、血縁関係にありそうだと思うかい?」

「フィンよ、いくら灰色の髪は珍しいとは言え、それは飛躍しすぎじゃ。それにのう、一瞬しか顔を見てはおらんが、顔や容姿は似とらんかったと思うぞ」

 

 ガレスの言葉にフィンは「まあそうだろうね」と同意した。本当にただの確認という意味で聞いただけなのだろう。

 彼女に妹がいる事を知っているフィンはガレスの証言からその存在を犯人候補から消す。

 

「そんでぇ、その逃げた子とアルフィア。どっちの方が可愛かったん?」

「……ロキ」

「そうじゃのう、あのレベルまでいくと、もはや個人の好みに左右されるじゃろうな」

 

 顔をニヤけさせてガレスにくだらない質問を投げかけるロキに、フィンは呆れたようにため息をつく。そんな主神の問いに、ガレスは真面目に答えていた。

 そんなガレスにも、フィンはロキを調子づかせるなという意味を含ませた視線を送る。

 

「いやいや、これで探しとる相手がアルフィアに負けず劣らずのべっぴんさんやって事が知れたやん」

「それがどれだけ役に立つか分からないけど、まあ、参考にはさせてもらうよ」

 

 その後、より詳しい情報を集めるために、フィンはガレスからその女の特徴を更に聞き出し、団員たちに情報を共有した。

 ちなみに、起きたリヴェリアにも同様の質問をしたところ、見せたエロ本に相当のショックを受けたのか、顔面が真っ白になって気を失ったことをここに記しておこう。

 

 

 


 

 

 

 このエロ本騒動はロキファミリアだけでなく、他のファミリアからも注目を集めていた。もちろんヘルメスファミリアも例外ではない。

 主神であるヘルメスは真っ先にその本を手に入れ、中身を確認した。そして内容に大満足し、本を片手に高笑いを響かせる。彼にとってそれはアルフィアらしくはないが、ヘラファミリアらしい言動が詰まった一冊だと絶賛した。

 

「なんというか、信じられないというか、あのアルフィアをモデルにこのような本を描いて広めるとか、作者は特大の自殺願望でもあるのかと疑いたくなりますね?」

 

 こういった本にはあまり興味のないアスフィも、さすがに今の情勢でこれがバラまかれていれば気になって読んでみて、その内容にどうかと苦言を漏らした。

 特に、ザルドが避妊の必要性を説いた直後、アルフィアが嗜虐的な笑みを浮かべながら避妊具をゴミ箱に捨て、ザルドが絶望するシーンなど、アスフィからすれば完全にアルフィアのキャラ崩壊だと呆れていた。

 さらに、主神ヘルメスから「それこそがヘラファミリアの眷族だ」と言われ、思わずドン引きしてしまった。

 

「にしても、オラリオがこんな状況じゃなけりゃ、俺もこの本の作者を探しに行けたんだがな……」

「それ、本当に今は止めてくださいね。こっちもまだまだ余裕がないんですから、貴方が居なくなれば、どうなるか……」

 

 泣き言をこぼすアスフィに、ヘルメスも日頃の信頼の無さを申し訳なさそうに思いながら、肩をすくめた。

 早速行動を起こさんと、エロ本を大事に懐にしまい込む。

 

「それ、もしかして持ち運ぶ気ですか?恥ずかしいので、止めて欲しいのですが」

「何を言うアスフィ!これはただのエロ本じゃない。芸術作品なんだ!!そうまさに聖典(マビノギオン)と言っても過言ではない!!」

「はぁ……。ヘルメス様が何を言っているのか理解出来ないというか、したくないというか。……もう、好きにしてください」

 

 色々と言いたいことを諦めて、アスフィはなんでこんな主神のファミリアに入ったのだろうかと心の中で涙を流す。

 

 

 


 

 

 

 雑音を嫌うアルフィアだが、今はその雑音を奏でたい気分だった。

 

「待て!アルフィア!!落ち着けぇぇぇ!!!」

疾く死ぬがいい(ゴスペル)

 

 羞恥ではなく憎悪に染まったアルフィアの魔法の一撃を受けるザルド。

 異論や反論、抗議や質問、口答えすら許さぬ様子で、アルフィアは壊れないサンドバッグのようなザルドを八つ当たりの標的にしていた。

 

 勿論、原因は言わずもがな例のエロ本だ。

 その存在を知った時、ザルドは顔を真っ青に染め上げ、エレボスは顎が外れるくらい大爆笑した。

 なにせ、内容が内容だったのだ。ザルドはかつてのトラウマと同時に、共に絶対悪の道を進んだ女の逆鱗に触れる恐怖に身を震わす。

 

『待て!おい、避妊はどうする!?子供が出来たらどうするつもりだ──!!?』

『出来たら……?違うな、お前がパパになるんだよ!!!』

 

 終始アルフィアに主導権を握られ、無理矢理の逆レイプの内容に、思わず眩暈がする。

 これを描いた奴は、ヘラをも畏れぬ狂人か、俺を殺す死神のような鬼畜畜生だ。

 

「クソッたれぇ!!!全てこの本がぁぁぁ!!!」

 

 これまで俺を畏怖し、頼れる存在として見ていた闇派閥の連中の視線に、憐憫の眼差しが混じるようになっていた。

 特に、俺を化け物として見てきた顔無しのヴィトーとかいう奴の「あぁ……」という気まずそうな反応や、殺帝から同情めいた励ましをもらった時なんかは、憤死しそうになるほどだった。

 

 俺はエレボスと共に、すぐさまその本の回収と犯人探しを命じたが、時すでに遅し。

 いつものように教会へ足を運んだアルフィアの耳に、その本の噂が飛び込んでいたのだ。自分がエロ本のモデルにされた事実と本の内容が重なり、アルフィアの中で殺意の歯止めが外れかけていた。

 教会での思い出による感傷も後にし、拠点となる場所に帰ったアルフィアは苛立ちを隠すことなく俺の元までやって来て、手加減など一切ない魔法の一撃をお見舞いしたのだ。

 

「よぉ~、帰ったぞって。あらら、ザルドの奴生きてる?」

「これくらいでくたばるタマならば、既に奴は毒で死んでいる」

「死なないからといって、俺を八つ当たりに使うな、馬鹿……!」

 

 ボロボロになった体に鞭打って立ち上がり、理不尽の権化であるアルフィアに怒鳴り散らす。

 しかし、そんな抗議もアルフィアは右から左に聞き流し、普段は閉じた瞼を開けて鋭い目つきで睨み上げる。

 

「戯言はいい。私とお前の不愉快極まる本を作ってバラまいた奴の目星はついているのか?」

「おお、それならちょうど、俺の優秀な眷族()が見つけ出してくれたぜ」

 

 アルフィアの問い掛けに、エレボスがこの騒動の犯人を見つけたと報告する。

 犯人の特徴はアルフィアと同じ灰色の髪の女で、容姿も何故こんな本を作っているのかと疑いたくなるような美貌。眷族であるヴィトーも捕縛しようとしたが、逃げられてしまったらしい。

 しかし、その特徴に心当たりがあるアルフィアは、すぐに犯人の正体が分かった。

 そして、同時に怒りのボルテージが上がり始める。

 

「なるほど、奴か……。有言実行とは、私を相手にいい度胸だ」

 

 怒りのストレス値が振り切れたのか、普段は笑わないアルフィアが口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。

 その笑みは見る者すべてを震え上がらせるほど凄まじく、ザルドもエレボスも、怒りの矛先となるであろうそのエロ本作家に、心の中で黙祷を捧げた。

 

 




アル×ベルかと思った?ブッブー!正解はアル×ザルでした。
だってねえ、アルフィアにやり返そうと思ったら、ベル君よりもザルドを竿役にした方がいいでしょう。
ザルドはまあ、巻き込まれ事故に会ったと思ってもろうて。都市ぶっ壊そうとしたんだから、これくらいはね。
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