ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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今回も叔父さん不憫回です。


ザルド襲撃

 私の主神はいつもダラしがないが、時にはいいことを言う。

 例えば、『人生には選ぶことが難しい選択がある、人は心の底から難しい選択に迷ったとき、どちらを選んでも後に後悔するもの、どちらを選んでもどうせ後悔する。ならたった今、楽な方を選びなさい』と、道に迷う子羊である私を導く言葉をくれたりする。

 

 私は、ムカつく相手に仕返しするべきか、それとも反撃を恐れて引くべきか、その岐路に立ったとき、その言葉を思い出し、今、楽な怒りのままに報復する道を選んだ。

 それが良かったことなのか、悪いことなのか、あの時の私には判断がつかなかった。

 それでも私は声を大にして言いたい。

 

「私がアルフィアのエロ本を描くのは間違っているだろうか!?いいや、間違っていない!!!」

「やかましいぃぃぃ!!!」

 

 そんな私の魂のシャウトにザルドが怒号を上げて血眼でキレる。

 この状況を説明するには、定番の少し時を遡る必要がある。

 

 五分ほど前、あのエロ本がオラリオ中に広まり、私が稼いだ金で二冊目を描いて新刊として売り出していた頃、爆発音とともに、闇派閥の連中や鬼ですら泣いて逃げ出しそうな形相のザルドが現れた。

 

「っ、貴様かぁ!あの恐ろしい本を描いた奴は!?」

「……?」

「お前だお前!!!他に誰がいる!?」

 

 キョロキョロと周りを見渡して、私じゃありませんアピールをする私の態度にブチ切れたザルドが指を突きつける。

 まあ、こんな子供騙しが通じる相手じゃないとは思っていたが、ノリツッコミすらないあたり、よほどあの本が気に入らなかったのだろう。

 

 それでも、私は後悔していない。だからこそ、私は声を大にしてさっきの通り、エロ本を描くのは間違っていないと叫んだのだ。

 とはいえ、眼前にザルドがいる状況は非常にマズい。逃げるにしても、初動を潰されれば周りの闇派閥の連中に囲まれて逃げられなくなってしまう。

 こうなったら、あれをやるしかない。

 

「きゃー!誰か助けて、ママにされちゃうー!!!」

「するかー!!というかやめろ!あんなベヒーモス級の爆弾ばらまいた挙句、今度は俺をレイプ魔に堕とそうとするな!!!」

 

 私は体を抱きしめながら全力で叫んだ。すると、今にも殺しそうな雰囲気だったザルドが思わずツッコミを入れる。

 そんなザルドに、周りも「お労しや、ザルド様」と同情するような目を向け、私を囲もうとする動きがほんの少し鈍った。その隙を逃さず、私は即座にその場から離脱を試みた。

 

「っ、逃がすかぁ!!」

「噓ぉ!?」

 

 完全に隙を突けたと思ったのに、相手はあらかじめ逃げ道を読んでいたのか、大剣の一撃で私の進路を断ち切ってきた。

 間一髪で回避することに成功したが、これによって、相手が逃走者の行動パターンを熟知していると悟った。

 

「アルフィアの奴から貴様の事は事前に聞かされていたからな。アルの奴と同じで、逃げ足が恐ろしく速いってな」

「そう言って、捕まえた私を無理矢理にママにする気なんでしょ!?あの同人誌みたいに!!」

「だから止めろと言ってるだろうがぁぁぁ!!!しかも、あれ描いたのはお前だろうがぁぁぁ!!!」

 

 毒より先に血管が切れて死ぬんじゃないかと心配するほど、ザルドは目を血走らせて叫んでいた。再び隙は生まれたが、ここで逃げても同じことの繰り返しになるだろう。

 とはいえ、逃げる手段がまったくないわけではない。一手、ザルドが対応できない状況を作り出せれば、その間に逃げ出すことも可能だ。そのための準備は既に整えてある。

 

「そこまでよ、闇派閥たち!!この正義の味方が来たからには、婦女子への暴行なんて見逃せないわよ!」

 

 キタ!私が散々か弱い女性として乱暴(ママに)されると騒ぎ立てた理由。それは相手の理性を奪う挑発目的もあったが、先の爆発騒ぎを聞きつけてやってくる冒険者に、今が一刻を争う状況だと知らせるためでもあったのだ。

 おかげで、アストレアファミリアの到着が間に合った。

 

「そこの貴方、もう大丈夫よ。なにせ、私たちが来たんですもの!」

 

 正義の味方であるアリーゼが親指を立てて笑いかける。その周りでは、リュー、輝夜、ライラが次々と闇派閥を片付けていく。

 

「ほぉ、アストレアの眷族か。エレボスの奴がやたらと気にしてはいたが、さてどうするか?」

 

 アストレアファミリアの登場に、先程までの怒りはどこに行ったのか、ザルドは余裕の態度で彼女たちを見つめていた。

 原作では相対したことのないザルドとアストレアファミリアの間に、静かな緊張感が漂う。

 

「おい、待て、貴様!」

「ありゃ……」

 

 この隙にこっそり抜け出そうとしたが、ザルドがそんな私に気づき、殺気を放って動きを封じてくる。

 これ以上動けば斬りかかると言わんばかりの圧に、さすがの私も足を止めた。

 

「まったく、一々騒ぎを起こして、どさくさに紛れて姿を晦まそうとする。本当にあいつにそっくりだ……」

「へへ……、どうも……」

 

 私の行動はお見通しと言わんばかりに、ザルドは呆れと怒りが入り混じった声で呟いた。ただ、その表情にはどこか懐かしさが浮かんでいた。

 

「え~っと、どういう状況?」

 

 とても襲う側と襲われる側の雰囲気に見えないこの状況に、アリーゼが困惑気味に尋ねる。

 まあ、実際はエロ本を描いた加害者と、エロ本に描かれた被害者という立場なのだが、どちらもそれを口にする気はない。

 

「詳しいことは言えませんが、私は今狙われていて、どうか助けてくれませんか、正義の眷族様方!」

「くっ、そういう厚顔無恥なところも、あいつにそっくりだぁ!!」

 

 どの面下げて助けを乞うているんだと言わんばかりに叫ぶザルドの姿に、助けに駆け付けたアストレアファミリアの面々が困惑している。

 今、都市を脅かす絶対悪の片翼の姿なのかと言わんばかりに輝夜は眉をひそめ、ライラはそんな風にさせた私の方に警戒の視線を向けている。

 

「う~ん、よくわからないけど、助けを求められたなら、それに応えるのが正義の味方!ただし!それで、全部終わったら、素直にこっちの質問に答えてね!」

 

 そう言って、アリーゼは私を助けるべく、ザルドに斬りかかった。

 だが、その攻撃はあっさりと大剣で防がれてしまう。レベルも経験も、どちらもザルドが圧倒している。

 この場にアストレアファミリアの上位陣が揃い踏みしているとはいえ、勝てる可能性は限りなく低いだろう。

 

 とはいえ、今この隙こそが、私が欲していた千載一遇のチャンス。

 アルフィア相手じゃ使う事の出来なかった手を、ザルドがアリーゼたちに足止めされている今こそ使うべき時だ。

 

「【堕落せよ、我が魂。矮小なりし我が身にヴェールを包め】」

「魔法の詠唱!?」

 

 かつてリューとの命懸けの追いかけっこで使った、私が唯一扱える幻惑魔法。

 アルフィアが相手のときは、魔法を打ち消す静寂の園(シレンティウム・エデン)で無効化されてしまうため使えなかった。だが、ザルドが相手ならその心配はなく、私は冷静に魔法の詠唱を唱える。

 

「止めろぉ!おそらくそいつは攻撃の類じゃない。逃げる為の魔法だ!完成されれば、逃げられるぞぉ!!!」

 

 詠唱の内容からなのか、それとも私がベルの父親に似ていると判断したからなのか、この魔法が逃走用のものだと即座に看破したザルドが、大剣を振り回しながら慌てて阻止しようとしてくる。

 周りの闇派閥も、アストレアファミリアの面々を無視してこちらに迫ってくるが、ザルドは選択を間違えた。

 

「【木は森に、人は群れに。鼠たる小さき我が姿を覆い隠せ】」

「なっ、こいつ──」

「並行詠唱だと!?」

「と、捕らえられん!?」

 

 私を捕まえようとする闇派閥たちの間を潜り抜け、ザルドの攻撃も、私に近づく闇派閥を盾にすることで回避する。

 そして私は、詠唱を終えた魔法を発動させた。

 

「【妖精の小さな悪戯】──【フェアリー・ウィキッド】」

 

 その魔法は、私という存在を世界から隠すために、私以外の存在を増やして見せる幻惑魔法だ。視覚、触覚、嗅覚、聴覚と、味覚以外の五感に作用するため、あのザルドですら初見で喰らえば即座に対応できず、あっさり取り逃がしてしまった。

 さらに、その混乱に乗じて、現状の戦力ではザルドに勝てないと判断したアリーゼの指示で、アストレアファミリアもすぐに撤退を開始。ザルドは追おうとしたが、エレボスのお気に入りという理由から、そのまま見逃すことに決めた。

 

「ザルド様、その、こんなものが……」

「ん?おいおい、あの女、こんなものまで──!!」

 

 今回の襲撃で売りに出されるはずだった二冊目のエロ本を見つけた闇派閥の一員が、それをザルドに見せると、彼は表紙絵を見て口元をピクピクと引きつらせた。

 なにせ、タイトルに『アルフィアママの性教育』と、もうあいつ地獄を素足でスキップして渡る強者だろうという、とんでもない代物だったからだ。

 しかも、アルフィアと共に描かれている少年の姿。最初は勝手に作られた自身とアルフィアの子供かと思ったが、その瞳の色から色々と察して、何故あいつがこの子の存在をという疑問よりも先に、怒り狂ったアルフィアの怒りの矛先が自分に向くことを想像して震えあがった。

 




もうちょっとだけイレギュラー・レコードは続くんじゃ
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