ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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待たせてしまって申し訳ない。
会社での連続残業に続いて、ネタを入れまくったせいで増える文字数。
痛む腰と疲れた心がモンハンの周回についついと……。


それはズルいだろぉ!!?

 

 今や本人とその主神以外に広まりまくったベル君のエロ本。その新刊が今までにないくらいの分厚さになっている事にざわめく神々や愛読者たち。

 そして、それにざわつくのはヒロイン達も同じこと、皆が各々の手段で新刊となるその本を購入して読み始める。

 

 

 物語の始まりはダンジョン。ローリエは急遽組んだパーティで大量のモンスターに襲われ、仲間から置き去りにされてしまう。無抵抗のままやられてたまるかと必死に抵抗するが、徐々に追い詰められ、身につけている装備は次第にボロボロになっていく。

 

『くっ、もはやこれまでか……』

 

 死を覚悟した姫騎士のようなセリフで死を覚悟するローリエの前に兎が現れた。

 

『大丈夫ですか!今助けます!!!』

 

 そう言って姫騎士を守るように前に立つ白兎。その姿はまるで姫騎士を救いに駆けつけた王子のようだった。

 しかし、その兎は歴戦の狩人のように、押し寄せる大量のモンスターを流星のごとき速さで次々となぎ倒していく。

 そして最後の一匹、ヘルハウンドを一閃で仕留めた。

 全てを薙ぎ払い、武器を収めた少年がゆっくりと振り返った。

 

『あ……ありがとう、貴方は……?』

『……可愛い』

 

 振り向きざまにこちらの顔を見た少年は、ぽつりと心からの言葉を漏らす。

 

『ふえぇ!?な……何を急に小っ恥ずかしいことを言い出すんだ!!』

『あっ、ご……ごめんなさい。えっと……あなたが、僕が子どもの頃に思い描いていた理想のエルフそのもので……つい口に出ちゃって……』

『そ……そうか、いや、その前に助けてくれた礼が先だな。すまない、少年。助かった……ありがとう』

 

 恥ずかしそうに照れる少年の姿は、とても先程の王子や狩人のそれには見えず、年相応で可愛らしいものだった。

 そうして、地面に倒れた私を引っ張り起そうと手を差し伸べる少年の手を握った瞬間、私の胸にトゥンクと心臓が跳ねる音がした。

 

「かぁ──ーっ!!何がトゥンクですか!!こんな甘々でベタベタ、しかも少年少女の甘酸っぱさまでトッピングして、雲菓子(ハニークラウド)たっぷりのケーキに熟してない木苺を乗せたデザートでも、リリは食べさせられてるんですかね!?」

「ですがリリ様!これはまさに王道であり至高の展開です!!危機的な場面に駆けつけた英雄が助けてくれて、一目惚れを匂わせるようなセリフ、そして重なる手と手!ダンジョンに挑む女冒険者はもちろん、乙女なら誰だって憧れてしまうシチュエーションでございます!!!」

 

 ヘスティアファミリア内で同盟を組んだリリと春姫は、ベルの新刊を回し読みしながら、感想を言い合っている。

 未だ序盤の出会いながらに、理想的過ぎるシチュエーションにリリは歯ぎしりを起こし、春姫は大興奮で感想を述べている。

 

 

 運命的な出会いを果たした2人は、そこから徐々に距離を縮めていく。ローリエは助けてもらったお礼と称して、買い物デートへと誘い出す。

 冒険者らしい買い物から、恋人のようにアクセサリーを買ったベルがローリエにプレゼントするなんて展開も1コマの絵で表現される。

 

『へぇー、ここにもヘファイストスファミリアのお店があったんですね』

『そうだよ。バベルの上の方には新人の武器や防具なんかが売られている。下級冒険者なんかはここら辺で自分に合った武具を買うのさ』

『そうなんですか。あはは……僕、上級冒険者なんて言われてるけど、まだまだ知らない事ばかりで、こうしてローリエさんに教えてもらわなければ、こんな場所があったことなんて知らずに過ごしてましたよ』

『それは仕方ないさ、ベル君のファミリアは新興で、君はあっという間に強くなってしまったからね。だから、ベル君が無知なことは恥ずべき事じゃないさ。それに、君が知らないことは私が教えてあげる。これも、私からのベル君へのお礼ってやつさ♪』

 

 ツンとベルの鼻を突いて、可愛らしい笑みを浮かべながら、ローリエは鼻歌混じりにお姉さんぶった態度でベルの手を取ってデートの続きを再開させる。

 

「はぁ──ーっ!?ベル君にはちゃんとレベル1のときにその場所を教えてるんですけど!!」

「どぅどぅ、エイナ、落ち着いて。まあ、興奮するのも分かるけどね」

 

 怒りに声を荒げるエイナを、ミィシャがなだめる。

 それでもエイナの怒りは収まらず、ベルとの初デートの思い出を塗りつぶされたような気持ちで胸がいっぱいになる。

 今にも本を破りそうな雰囲気(オーラ)を発しながら、それでも本を読む手は止まらず、次のページをめくっていく。

 

 

 月夜の夜。オラリオではない誰もいない森の中にある泉でベルとローリエは隣に座っている。

 その距離、およそ10センチ。肩と肩が触れ合うほどの距離にいる2人は互いに見つめ合っている。

 

『……綺麗だな』

『ですね。ここ、前にクエストで外に出たときに見つけたんです。その時はエルフの人が好みそうな場所だなと思ったんです。でも、今はこの場所は貴方のためにあるような気がします』

 

 ベルの言葉にローリエがドキリとする。

 それは決して彼の何気ないセリフが刺さったからだけではない。普段は頼りなさげな少年らしい顔が、凛々しい表情でこちらを射抜くように見つめてくるからだ。

 

『なんて、あはは……ちょっと格好つけ過ぎちゃいましたかね?』

『つっ、つけすぎだ、馬鹿!私をトキメキで殺したいのか!?』

『トキ──!?いや、その……ローリエさんはまるで英雄譚に出てくるような妖精みたいな綺麗で素敵な方で、僕なんかとは比べ物にならないほどの美人だから、少しでも釣り合えるように、僕もカッコいい英雄の真似事くらいはしないとなって……』

『……本当に君は馬鹿なんだな。あの日、ベル君と初めてダンジョンで出会った時から君は、まさしく私の英雄だったよ。だから、そんな心配なんかせずに、ずっと私の隣にいて欲しい。……って、これでは告白ではないか!?』

 

 ノリツッコミを入れながら、ローリエは羞恥で頭を抱え込む。

 そんなローリエから目を背けるように、ベルは口元を手で覆い隠しながら、頬を赤く染めて空に浮かぶ月を見上げる。

 

「……英雄」

 

 むすっと頬を膨らませたアイズは、ローリエのセリフに強い嫉妬と憧れを感じていた。いや、最初のモンスター襲撃でベルに助けられた時から、すでにローリエに嫉妬していたのかもしれない。

 あるいは、自分以外の女性や怪物までも救ってしまうベルに、理不尽な怒りを抱いていたのかもしれない。

 

「何でベルは私の英雄になってくれないんだろう……」

 

 もちろん、レベル5のベルがレベル6の自分を助けられるほど強くないことは分かっている。

 それでも、その理屈とは別のところで、アイズのベルへの想いはどんどん膨らんでいった。

 

 

 月夜とはいえ、夜の森の中でもはっきり見えるほど、ローリエの顔は赤くなっていた。

 そして、それはベルも同じで、ローリエのセリフに、ベルは照れた表情を見せていた。

 そんな2人を祝福……あるいは、見守るように泉の周りにホタルが集まりだした。

 

『あっ、そうだ。ローリエさん、これ』

『これは……?』

 

 ベルが差し出したのは花束ではなく、葉の一枚もない木だった。

 これにどんな意味があるのかと首をかしげたローリエの前をホタルが横切り、そのまま渡された木に集まり始めた。

 それはやがて、幻想的な光の花束のようになり、ローリエの手の中で輝く。

 ローリエは、その幻想的な光景に感動し、涙が溢れてきた。そんなローリエの手をベルがそっと握り、その木を渡した意味を告げる。

 

『その木にホタルが集まる習性があるって、僕の田舎でおじいちゃんが教えてくれて。それで、いつも僕に色んな事を教えてくれるローリエさんに教えてあげたかったんです』

『──嬉しい!ありがとう、ベル君』

 

 涙を浮かべながら花のような笑みを見せ、ベルに抱きつくローリエ。

 突然の抱擁に戸惑うベルだったが、やがて落ち着きを取り戻し、感動で泣き続けるローリエをそっと抱き返した。言葉は交わされず、ただ静かな時間が2人を包み込む。

 やがて自然とハグを解き、顔を近づけ、その距離はゼロになる。

 月明かりに照らされた2人の影は一つに重なり、そのまま夜の闇へ溶けていった……。

 

「──は、破廉恥だぁ!!月夜の誰もいない泉の前で幻想的な花束を贈り、そのままキスするなど!?不純異性交遊だぁぁぁ!!!」

「ニャ~、うるさいニャ、リュー。白髪頭がキスしたぐらいで叫び過ぎニャ。そもそも、おミャ~はもっと過激でエッチなことしている本が出てるんだから、そろそろ慣れろニャ!」

 

 酒場の営業が終わり、自由時間になった豊穣の女主人の店員であるリューとアーニャは、シルを通じて新刊のベルのエッチな本を手に入れ、2人で読んでいた。

 一方そのシルは、別のテーブルでクロエとルノアと共に、もう一冊の同じ本を囲んで読んでいた。

 

「しっかし、あの白髪頭はよくメスにモテるニャ。シルもリューもあの白髪頭にメロメロだし、物凄い早さで強くなっていくし、ニャーも今のうちに唾つけ──」

「──アーニャ?」

「じょ、冗談ニャ!猫の気まぐれってやつだニャ!!」

 

 別のテーブルで本を読んでいたはずのシルの猫なで声と、毛が逆立つほどの殺気じみた気配に、アーニャは思わず冷や汗をかいた。

 目の前で恥辱に顔を覆っていたリューも、指の隙間から今から縊り殺すモンスターでも見るような視線を送ってきており、アーニャはもう二度とこの話題でふざけないと心に誓った。

 

 

 月夜の森でのデートを終えた2人は正式に付き合ったらしく。仲良く恋人繋ぎでローリエの主神であるヘルメスにその報告をしに行った。

 

『まさか、ベル君がウチのローリエと交際するなんてな。……ヘスティアの方は大丈夫だったのかい?』

『あはは……。神様も最初は猛反対だったんですけど、僕とローリエが本気で付き合いたいって伝えたら、渋々ながら認めてくれたんです』

『そうか……。なら、俺からも何も言うことはない。2人仲良くするんだぞ。ああ、それとベル君。ローリエは恋愛経験ゼロだから、君がしっかりエスコートしてあげるんだよ?』

『は……はい!分かりました!』

『ちょっと、ヘルメス様!?それにベルも、そこまではっきり返事しなくていいから!!』

 

 からかう主神と、馬鹿真面目な彼氏のやり取りに、ローリエは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「これがローリエが自らあの作家に描かせた作品ですか。いやはや、よくもここまで乙女の妄想を全開にして、そこらの恋愛小説が裸足で逃げ出すような本を作り上げたものですね……」

 

 前までメリルに勧められた恋愛小説を、顔を真っ赤にして否定していた純粋エルフはどこへ行ったんですかとばかりに、アスフィは眉間に皺を寄せながら本を読む。

 彼女も長年オラリオで暮らしていて、生娘のエルフが恋を知った時のこじれ具合──つまり面倒くささはわかっていたが、それでも手元の本に書かれている内容はあまりにもぶっ飛んでいた。

 他派閥の恋愛ほど不味いものはない。現実ならば、あのちゃらんぽらんな主神といえど、こうも簡単に他派閥の──それも団長との交際を認めるわけはない。

 

「もはや、妄想本というよりも、恋する化け物の未来設計図(願望)と化してきていますね。これなら、ただの男女のまぐわい本の方がよっぽど良かった……」

 

 アスフィは溜息を吐きながら、ベル・クラネルに恋慕を寄せる他の女性によるファミリア襲撃が起こりそうだと戦々恐々とする。

 

 

 恋人になって初のダンジョン探索。前衛のアタッカーであるベルと、中衛のアタッカーとヒーラーをこなすローリエは互いに背を預けながらモンスターを狩っていく。

 順調に中層を攻略し、そのまま19階層から下の大樹の迷宮へと潜っていく。

 流石に、レベル3のベルとレベル2のローリエだけでは現実的に潜れないので、偶々アンダー・リゾートで休憩していたロキファミリアの剣姫と千の妖精の2人を臨時のパーティに組み入れる展開になる。

 

『まさか、貴方みたいなヒューマンがこんな綺麗な同胞を恋人にするなんて、どんな汚い手を使ったんですか?』

『何を言う、千の妖精!!ベルは私がダンジョンでモンスターに襲われ、ピンチになったところを颯爽と助けに駆け付けてくれた。まさに、私の英雄なんだ。あの時から、私のハートは彼に掴まれてしまい、寝ても覚めてもベルの事しか頭にないんだ!!』

 

 恋人のベルを貶すレフィーヤの言葉に、ローリエは誇らしげな笑みを浮かべながら惚気を語る。

 そんなローリエに、ベルは恥ずかしさで視線を落とし、レフィーヤもまた、ローリエがどや顔で語るベルの活躍に不機嫌そうな表情を浮かべつつ、隣に立つベルの脇腹をデュクシと突く。

 

「なんですか、私をまるで恋愛話のかませ役扱いにするなんてぇ~!!しかも、あのベル・クラネルにこんな美人エルフが夢中だなんて、天地がひっくり返ってもありえません!!!」

 

 そうは言っても、レフィーヤもベルが実際に女性からモテることを知っているので、この同胞も現実ではベル・クラネルに恋心を抱いている可能性が十分にあると理解している。

 まあ、それはそれとして、ライバルであるベルが他の女性にうつつを抜かしているのは普通に気に入らないので、本を読みながらベルのダメなところ独り言でブツブツと呟く。

 

「なんか怖いよ、レフィーヤぁ~!!」

 

 そんな彼女の狂気じみた行動に、同室のエルフィが涙目で叫ぶ。

 

 

 大樹の迷宮を4人で順調に進んでいた矢先、突然の異変が襲いかかった。大量発生したモンスターの群れに囲まれ、激しい襲撃を受ける。そして気がつけば、ローリエの姿はどこにもなかった。

 おそらくモンスターパーティの強襲の隙を突かれたのだろう。動揺するベルを落ち着かせるため、アイズとレフィーヤはこの場所に来た理由を語り始めた。

 最近、この大樹の迷宮では冒険者の行方不明事件が相次いでおり、その調査を目的としたクエストで訪れていたのだという。

 手掛かりがまったくない中、ベルはローリエとの繋がりを感じ、背に刻まれた恩恵に導かれるように、複雑で不可思議な大樹の迷宮をまるで正しい道を知っているかのような足取りで進んでいった。

 

『ここは……!?』

『地図にも載っていない未開拓領域!?』

『行きましょう、2人とも!!』

 

 気持ちが逸って先頭を突き進んでいたベルだったが、敵の仕掛けた罠が作動し、アイズとレフィーヤの二人から引き離されてしまった。

 結果、最深部にはベルのみで辿り着き、そこには迷宮内とは思えない研究設備が備えられており、その奥でローリエが捕まっていた。

 

『罠が作動したから侵入者が来たってのは知ってたけど、来るのが早くない?まだこっちの準備が出来上がってないんだけれど』

『貴方は……!?』

『あれ?侵入者は1人だけ?ああ、もしかして、このエルフのパーティメンバーかな?確か君はリトル・ルーキーだったか?自己紹介が必要なら、僕の名前はミュラー。ただの研究者だよ』

 

 現れた白衣の男を前に、ベルはナイフを構えて警戒を示す。

 

「まさか、彼もこの本に登場するとはね……」

「こやつは以前の冒険者失踪事件の黒幕じゃった男じゃのう……」

「あの事件は一般には公開されていない。どうしてあの女がこの男の事を知っている?」

 

 ロキファミリアの三首領、フィン、ガレス、リヴェリアは、ミュラーの登場に思わず驚きを隠せなかった。そもそも、この本を描いている人物が、なぜ他の誰も知らない情報を知っているのか、不思議でならなかった。

 

「まあ、その疑問はこの本を描いている女を捕まえれば分かるやろう。ただ、それがクソほど面倒くさい事を除けばやけどなぁ〜」

 

 ロキが溜息を吐き、再び視線を本へ落とす。

 

 

 ミュラーの指示で用意された駒であるモンスターがベルに向けて放たれる。

 そのどれもが未知のモンスターに寄生されたコボルトだった。通常のレベル3ならば、数の暴力とモンスターの性能でお陀仏だっただろう。

 しかし、漫画の中のベルはナイフの一撃と魔法の連発で次々とモンスターを撃破していく。

 

『噓ぉ。キミ、本当にレベル3の冒険者?速度も力もレベル4──それも上位陣の冒険者並なんだけど?』

『ローリエを返せ!!』

『その感じ……。もしかして、この子。キミの彼女だったりするのかな?』

 

 激高するベルの反応から、ミュラーは捕らえたエルフがベルの恋人だと悟った。

 

『ははははっ!安心しなよ。殺したりなんかしないさ。彼女は魔法に長けたエルフだからね。僕の実験の為の魔力タンクになってもらうからさ。ちゃ~んと、生かして利用するよ!泣き叫んで、殺してくれって懇願しても、魔力が尽きて使えなくなるまでちゃ~んとね!!!』

『──放せ』

『ん?』

 

 ローリエの頬に触れ、その顔を醜悪に歪ませるミュラー。

 ベルは、そんな彼に今までにない冷淡な声で告げた。

 その声色に、ミュラーはベルの怒りを感じ取った。

 しかし、彼はその程度の事でたじろぐ様な男ではない。

 その程度の事なら何度も体験してきたからだ。

 

『何を言ってるのかな?こいつは僕が捕まえたんだ。この道具(モルモット)を僕が辱めて、利用しようが僕の勝手だろぉ!!』

『──もういい。喋るな』

 

 ベルが体を沈め、前へと走り出した瞬間、ミュラーとの間にいた駒であるモンスターは全て灰へと変えられた。

 

『────は?っっぶべぇ!!?』

『──僕のローリエは返してもらう』

 

 限界を超える力を解き放ったベルは、ミュラーを殴り飛ばし、捕らわれていたローリエをナイフで縛る蔦から解き放ち、その小さな体を抱きしめた。

 

「いい雄の顔だね。絵とはいえ、こんな顔を見せられちゃ、女の部分が疼くってもんさ」

 

 見開きでローリエを助けるベルの覚悟と怒りが入り混じった雄の顔に、アイシャは昂りを覚えた。

 ミュラーを殴り飛ばし、気を失っているローリエを守るベル。その立ち振る舞いはまさに英雄のそれだった。

 春姫が好きそうなシチュエーションだと、アイシャは思いながら、自らの秘所に手を伸ばす。

 

『──ベル?』

『目を覚ました!怪我はない、ローリエ。助けるのが遅れてしまってごめんね。だけど、もうこれ以上は君を傷つけさせない。ローリエは、僕が護る!!』

『べ、ベル……!』

 

 目覚めたローリエを優しく抱きしめ、ベルは彼女に自分の思いを告げる。

 それに対してローリエもまた、顔を惚けさせ、出会った頃の王子様状態のベルに惚れ直した。

 

「い……いいな。私もベルさんにこんな風に助けられたら……」

 

 予知夢で強力な恋敵の出現を知ったカサンドラは、新刊の本を手に読み進めるうち、理想的なヒロインらしく振る舞い続けるローリエに嫉妬を覚えた。

 いや、正確にはローリエの立場そのものに強い羨望を抱いたのかもしれない。誰にも自身の予知夢を信じられず、報われなかった彼女だからこそ、ローリエという主人公に救われる悲劇のヒロインに憧れと嫉妬の感情を募らせたのだろう。

 

 

 ローリエを救い出し、黒幕ミュラーを後に合流したアイズとレフィーヤの力を借りて捕縛した。まさにハッピーエンドのような結末だったが、物語はまだ続く。

 英雄の失墜──街に現れたモンスターを庇った行為によって、ベル・クラネルは嘲笑と蔑みの的となった。

 

『離れてください。僕のそばにいればローリエまで……!』

『離れない、絶対に!』

 

 それは強い覚悟を宿した眼差しだった。

 レベル3のベルが無理やり振りほどかないよう、ローリエはその腕を抱きしめるように寄り添い、憔悴したベルの顔に自分の視線を重ねた。

 

『あの日、月夜の泉で言ったはずだ!ずっと私の隣いて欲しいと……。君はその約束を破るのか?』

『そういう訳じゃ、……でも、今の僕の近くに居たら、ローリエまで巻き込んでしまう。それだけは嫌なんだ!!』

『──っ、関係ない!私は君がどんなに嫌がろうとも、ずっと君のそばにいる!!──だって、そうじゃなければ、君は私を置いて何処かへ消えてしまいそうだから……』

 

 ベルの言葉にローリエは涙を流して叫ぶ。

 まるで頭をガツンと殴られたかのように、ベルは言葉を失ってしまう。

 

「愚兎が。やはり、あの生娘エルフとの約束を取り付ける前にすぐさま姿を晦ませて正解だったな」

 

 以前の特訓(改造)で出会ったエルフの娘の危険性を、ヘディンは改めて痛感する。

 あれは非常に強力なヒロイン補正を持っている。もし愚兎が剣姫に憧れを抱いていなければ、本気で一目惚れしていた可能性すらあった。

 そして、予想通り、出会いを知ったエルフの生娘の執念深さも、この本に描かれている通りで、惚れた相手がどれほど凋落しても、決して愛想を尽かすことはない。むしろ弱った男を献身的に支えようとするだろう……。

 

 

 ローリエの支えを受け、ベル・クラネルは再び立ち上がる。多くの人々の失意と敵意を受けてもなお、英雄は立ち向かい、再び戦いへと身を投じた。

 第一級冒険者が束にならねば相手にもならないような漆黒のミノタウロス。ロキファミリアの幹部との交戦を経て、手傷を負って尚も強大な敵を前にベルは一歩も引かず、ただ己の武器であるヘスティアナイフを握りしめた。

 

 そこから先はまさしく死闘であった。ミノタウロスの重く鋭い一撃と、それに立ち向かうベル・クラネルの驚異的な速さによる連撃。互いが互いの長所を武器としてぶつけ合い、好敵手同士の激しい攻防が繰り広げられる。

 僅かなページ数ながら、その中には壮絶な戦いが描き記されていた。いつまで続くのか、どこまでやり合うのか──読み手を夢中にさせる攻防は、やがて一時の決着を迎える。

 

『ぐっ、──ああああああっっっ!!!』

『ベル!』

 

 鋼鉄のような腕を持つミノタウロスの一撃で、建物をいくつも突き抜けるほど吹き飛ばされたベルに、ローリエが駆け寄った。

 装備はボロボロになり、ベル自身も体の至る所が傷だらけで血に染まっている。

 

『お願い……もう止めて!そんな体で、もう戦わないで!』

 

 瞳に涙を浮かべ、声を震わせながら懇願するローリエ。倒れたベルの体を抱き起こし、息も絶え絶えの彼の口へ無理やりポーションを流し込む。血が止まり、口を開けるほどに回復したベルは、ふらつきながらも立ち上がり、いつものように柔らかな笑みと決意に満ちた瞳でローリエを見つめた。

 それだけで、ローリエもベルの言いたいことを悟ったのか、彼の手を握り、その動きを止めた。

 

『貴方はすご過ぎるくらいに戦った!あの黒いミノタウロスを、あそこまで追い詰めた!ここから離れましょう!他のファミリアの冒険者と合流すれば……!』

『……ごめんなさい。僕は逃げない。もし、ここで逃げたら、僕はもう二度と冒険が出来なくなってしまう!そうなってしまえば、僕はもう冒険者を名乗れない!そのために、僕は……!』

『……ベル!』

 

 こうなってしまえばもう止められない。この顔に、この覚悟に、ローリエは惚れ込んでしまった。

 だから、涙をこぼしながらベルの手を握る力が少しずつ抜けていった。

 

「むぅ~!なんかモヤモヤする~!!」

「どうしたのよ、急に……?」

 

 それまで黙々と本を読んでいたティオナが、突然声を上げた。姉のティオネからすれば、そのシーンは怪物に立ち向かう英雄と、その英雄を案じるヒロインの感動的な場面にしか見えなかった。

 

「なんか、上手く言えないんだけど、私の見せ場が丸パクリされたというか、奪われたというか……」

「アンタ、別にこの時白兎の脚(ラビット・フット)に会ってないじゃない。何言ってんのよ?」

「そうなんだけど、そうなんだけどぉー!うがぁ──!!?」

 

 どうにも説明がつかず、悶々とするティオナ。姉には呆れられてしまうが、それでも感情を抑えられない様子だった。

 ベッドの上でジタバタと足をばたつかせ、ティオネに拳骨をもらうまで騒ぐのを止めなかった。

 

 

『……我儘を言ってしまって本当にごめんなさい。でも、どうか僕に、あのミノタウロスと一対一(冒険)をさせて欲しい!』

『──っ、少しだけ……あのミノタウロスが羨ましい。貴方が私を放って、それほどまでに夢中にさせるのが……心底羨ましい。でも、私は貴方を信じている。だから、せめてこれを持って行ってくれ!』

『──これは!?』

 

 ローリエが腰に差していた剣をベルに手渡す。ベルがそれを受け取った瞬間、回想が描かれる。

 大樹の迷宮から無事帰還した翌日、神ヘルメスから祝いの品として雌雄一対の剣が贈られた。ベルには雄の『レウス』、ローリエには雌の『レイア』と名付けられた剣が渡される。

 それらは、とある下層に現れる竜種が落としたドロップアイテムから作られたもので、ヘルメス様なりに冒険者にふさわしい婚約指輪のつもりだったらしい。

 

『──ありがとう、ローリエ。必ずこれを君に返す』

 

 ベルはナイフをしまい、その雌雄一対の剣を両手に握りしめ、ローリエの横を悠然と歩いて通り過ぎる。

 それと同時に、ベルが吹き飛ばされて空いた建物の穴の先から地響きのような足音が近づいてくる。

 

『──待たせてすまない。ミノタウロス!』

『オオオッ!』

『──冒険をしよう。あの日、ダンジョンで命懸けの戦いをしたあの時のように!僕たちはまた『冒険』をする!!』

『オオオオオッ!!』

『──勝負だ!!』

 

 それは悲壮ではない。それは憎しみではない。それは醜悪ではない。雄と雄の決着をつけるための熱き決闘だった。

 両者の顔に悲しみも憎しみも怒りもなく、ただ目の前の好敵手と雌雄を決するために、己の力を解き放っていた。

 

 再び繰り広げられる激闘。最初は慣れない二振りの剣の扱いに押され気味だったベルも、一撃を受け流すたび、一閃を振るうたび、その剣技が着実に研ぎ澄まされていく。

 やがて、戦いの場は路地からバベルの塔の中央広場へ。そこには、一人の冒険者と一匹のモンスターを取り囲む群衆の姿があった。

 

『おおおおおおおおっ!!』

『オオオオオオオオッ!!』

 

 雄叫びを上げながら、泥臭くとも、一歩でも相手よりも前へと進みながら剣を振るうベル。その剣に呼応するかのように雄々しくも猛るミノタウロスの両刃斧がぶつかる。

 民衆は──読者は魅せられていた。小さな冒険者が巨大なモンスターと打ち合い続けるという光景は、全ての者の胸に熱を灯した。

 

『──ベル。あの日、流星のように私のピンチに颯爽と君は現れた。本当に夢みたいだった。まさか運命が目の前に現れるなんて思わなかった。だからお願い、今度もまた私のために負けないで、ベル!!』

 

 彼女の涙が、想いが、ベル・クラネルに強さと速さをくれた。

 

『彼女が見てる、負けるなと応援してくれてる。だから!絶対に負けられない!!!』

 

 いくつもの民衆の応援に紛れながらも、ローリエの声はひときわ大きく描かれ(響き)、ベル・クラネルの背に宿る恩恵を熱く燃え立たせる。

 まるで火傷しそうなほどの熱さに、ベルは目を見開くが、その熱からは溢れんばかりの力が込み上げてくる。

 負けたくない男の意地と、負けられない彼女からの願いが、激闘の中で光り輝く。

 

『グオオオオッ!!?』

『──はあああぁぁぁ!!!!』

 

 荘厳な鐘の音が背景を埋め尽くす(響き渡る)と共に、流星のごとき輝きが二振りの剣に宿る。

 

『──あの日の僕を彼女は英雄だと言ってくれた!!なら、もう一度!僕は英雄になってみせる!!!』

 

英雄願望(スキル)】の引鉄(トリガー)は、思い浮かべる憧憬の存在は、古代の英雄でも、今も前を進む憧れた人たちでもない──。

 あの日、僕の運命の人を救った自分自身を想い描く。ローリエの口から語られる自分と思えなかった理想の姿を今この瞬間、スキルを介してトレースする。

 

 暗闇の広場に暁色の朝日が差し込むのをきっかけに、勝負が終わる時が来た。

 

『『────』』

 

 互いに取る姿勢は、相手へ向かう前傾姿勢。弓を限界まで引き絞ったかのように、力を溜めて溜めて、最後の一撃に全てを賭ける。

 

『あああああああああっ!!!!』

『オオオオオオオオオッ!!!!』

 

 ベルの二振りの振り落としと、ミノタウロスの掬い上げる突進(チャージ)が衝突する。

 ──勝ったのは、ミノタウロスの一撃。

 

『──っ、まだだぁぁぁぁ!!!』

 

 だが、それは史実のように少年の体が天高く舞い上がることはなく、二振りの剣の振り下ろしでほぼ打ち消された。

 ミノタウロスの一撃による衝撃で吹き飛ばされたベルは、足から着地し、地面を削りながらも勢いを止める。

 そして、再び地面を蹴って飛び出したベルの手には、まだ光を宿す二振りの剣が握られていた。

 

『スターバースト!!!』

 

 速く!もっと速く!そう願うベルの想いに応えるように、背中の恩恵の熱はより滾り、力を溢れさせる。

 一撃、二撃、三撃と、剣を振るうたびに速度は加速し、輝きは眩さを増す。

 当然、ミノタウロスも無抵抗はあり得ないと、斬撃を喰らいながら拳を振るう。

 

『──ストリーム!!!!』

『ブモオオオォォォ!!!』

 

 16連撃もの斬撃がミノタウロスの胴を切り裂き、鮮血が宙に舞った。

 これで勝負はついた。冒険者による怪物の討伐。史実で成し遂げられなかった英雄譚の偉業がここに果たされる。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……』

『──っ、ウゥゥ……』

 

 灰へと変わりゆくミノタウロスの瞳には、自らを倒した冒険者の姿(憧憬)が映り、やがて口元を僅かに上げ、満ち足りた笑みを浮かべて息絶えた。

 

「ベル君が敗北した宿敵、あるいは好敵手とも呼べるミノタウロスを、愛の力で打ち倒す。それも、俺が贈った武器で……」

 

 ヘルメスは、この結末に秘められたローリエの意図に気付いている。

 それは言外に、ベル・クラネルの成長にはヘルメス・ファミリアとの繋がりが大事だと説いているのだ。

 

「しっかし、どんだけ外堀埋めに行ってんだ。さすがの俺も、え……エゲつなさすぎない?ローリエ。って、ドン引きだぜこりゃ……」

 

 あの時の姦計を巡らせていた俺よりも腹黒い策士になってませんかね、ローリエさん。

 帽子を目隠し代わりに顔に乗せ、この結末に興奮している己のニヤつく口元を隠すのだった。

 

 しかし、喜んでばかりもいられない。なにせ、あのベル君には女難の相がある。

 この本を読んで、ウチに殴り込みを掛けてくる女性陣がいるかもしれない。

 っていうか、戦争遊戯前のフレイヤファミリアだったら、神フレイヤの癇癪で潰されてたかもしれない。

 まあ、今のフレイヤ様ならそうはならない……だろうと思いながら、ちょっと、いやかなりローリエにあの神作家を紹介したのを後悔している。

 

「ぐぬぬぬ……!!!よもやここまでの作品だとは!?この指揮官の目を以てしても読めなかった……!!!」

「こ……コーン!!ベル様とローリエ様の英雄譚!?こんなの、春姫に勝ち目がががぁぁぁ……!!!」

「ええーい!落ち着いてください、このへっぽこ狐!!!」

「みこ──ん!?」

 

 うろたえて震える春姫の脳天にチョップを叩き込むリリ。

 確かに、英雄譚オタクの春姫にとって、この本は劇物だろうが、これはあくまで史実ではなく、作者の妄想の産物だ。

 とはいえ、これは今までになく強力な外堀となった。もし仮にこれがベルの目に入ったとなれば、ひょっとして、ひょっとするかもしれないと、リリは内心で大いにパニクっていた。

 

「おのれぇ!ローリエ・スワル。絶対にベル様の隣は譲りませんよぉ!!!」

 

 恋する乙女心を闘志に変えて、リリルカ・アーデは打倒ローリエ・スワルを掲げた。

 

「はぁ!?なんでそうなるの!?ベル君はあの日モンスターに負けて、悔しみながら次に向けて涙を流すところが良かったのにぃぃぃ!!」

「いけない!エイナが解釈違いによる、悪質悪辣な怪物(アンチクレーマーモンスター)になっちゃった!?」

 

 初デートのみならず、初恋を自覚したあの日をも塗りつぶされたエイナは、その本の内容に怒りを爆発させる。

 そんなエイナ自身のエロ本を描かれていると知った時よりも激怒したオーラに、ミィシャは目に涙を浮かべて、本を破こうとするエイナを羽交い絞めにして必死に止める。

 

「ベルが……勝っちゃった」

 

 怖くて恐ろしい黒いミノタウロス。あの存在にベルはたった一人で立ち向かって敗北した。

 けれど、この本では、ローリエというエルフの女の子の「負けないで」という言葉で強くなって勝利した。

 

「もしも、あの時私が傍にいて、ベルに負けないでって言えてたら、ベルは勝ってたのかな?」

 

 考えても意味のないIFの話でしかない。

 だが、英雄が自分の前に現れてくれるのではないかと、再び幼いアイズが出てきた今の自分にとって、とても無視できないものだった。

 こうして、アイズは布団の中でグルグルと答えの出ない自問自答を繰り返して、眠れない夜を過ごすのだった。

 

「いや~、いいものが見れちゃった。あの日の闘争も確かに素晴らしかったけど、こういった結末もアリっちゃアリよね。ただ、私がヒロインじゃないのはいただけないわねぇ……」

「「出てる出てる。フレイヤ様のお顔が出ちゃってますよ、シルさん!」」

「あらやだ!?」

 

 町娘の顔から美の女神の顔へと変貌しつつあるシルに、同じテーブルに座るクロエとルノアは恐れ慄きながら、注意する。

 すると、今の顔が噓だったかのように、あっさりと町娘シルへと元通りになる。

 ちなみに、別のテーブルの方はというと……。

 

「──……ほへぇ」

「いかんニャ。あまりの壁の高さにリューがノックアウトして灰になっちまったニャ」

 

 あまりにも手出しできるような内容でなかった結末に、リューは灰となって真っ白に燃え尽きていた。

 そんなリューにアーニャは手で拝んで、安らかに逝くように冥福をお祈りしていた。

 

「馬鹿やってんじゃないニャ。おミャーもたかが本ごときで、心折れすぎニャ!」

 

 小芝居を打つアーニャと、真っ白な灰となるリューにクロエのチョップが炸裂する。

 

「胃が……。胃薬が欲しい……」

 

 どう考えてもやり過ぎな内容に、アスフィは未来へのストレスで胃を痛めていた。

 これが身内のみの妄想本ならば微笑ましい感情で済むのだが、オラリオ中に広まったことを考えれば、ベル・クラネルにラブしている女性の特攻もあり得そうで怖い。

 主神であるヘルメスはまあ大丈夫だろうと楽観視しているが、アスフィの脳内では、高笑いするフレイヤ様の命令で襲撃を仕掛けてくるフレイヤファミリアの光景を想像して嘔吐しかけていた。

 

「──ぐぬぬぬ!ベル・クラネルのくせに生意気なぁ~~~!!!なぁにが、英雄になってみせるですか!!だったら、私だってあの黒いミノタウロスにも、ベル・クラネルにも負けない英雄になってみせます!!!負けない、負けられないのはこっちも同じです~~~~!!!」

「お~、頑張れ、レフィーヤ!けど、現実と妄想の分別は付けてね。子供じゃないんだから」

 

 黒いミノタウロスを英雄さながらに倒してみせたベル・クラネルの活躍を描いたシーンを見て、レフィーヤがいつになく昂っている。

 それを横目に応援するエルフィは、しれっと酷い事を言っている気もしないでもなくはないが、今は聞かなかったことにしよう。

 後日、ダンジョンで猛るミノタウロスもかくやというレフィーヤが、ミノタウロスを一人で倒しまくる光景に、付き添いで連れて来られたエルフィがドン引きする事件があったとか……。

 

「がっはっはっ!やはりあの若造は面白いのう!あの黒いミノタウロスを倒すか!これがあの女の妄想を描いたものだとしても、この冒険を魅せられて、老兵(わしら)も負けておれんと、燃え滾らぬわけがない!!」

「まっ、確かにそうだね。彼の冒険はいつだって僕たちの老いてしまっていく冒険心に火をつける」

「おい、やめろフィン。それでは、私まで老けているように聞こえるではないか」

 

 相変わらずなフィンの軽口に、リヴェリアは一緒にするなと嘆息する。

 だが、知らず知らずのうちに老いさらばえていっている自分達が、今もなお若い冒険者のように胸を熱くしている事実に、3人はそれぞれの熱狂の笑みを浮かべる。

 

「感化されとるな。まあ、分からんでもないけどもな。あの少年はまさに下界の可能性(未知)やかんな。それに、ウチもこの冒険に心惹かれとる」

 

 糸目を薄っすらと開いて、黒いミノタウロスを討ったベル・クラネルを見据えるロキ。

 

「こりゃ、強すぎて春姫のやつ、早々に戦意喪失してないだろうね……」

 

 あの黒いミノタウロスとの闘いを生で見たからこそ、その光景はより強烈で鮮明に脳裏に刻まれている。あの敗北が、たった一人の女性の「負けるな」という想いで、あそこまで劇的な勝利に繋がるなんて……。

 

「雄と雌のまぐわいもいいが。たまには、男と女の恋愛なんてのもいいね。まあ、同じエルフでも、あの酒場の夢想家(ロマンチスト)の語る恋愛観はナシだけどね……」

 

 ニヤニヤとしながら、あのリューをからかった日の夜を思い出す。

 

「つ……強すぎる。これが、夢のお告げで出てきた恋敵」

 

 まるでアンフィス・バエナと遭遇した時のように、戦慄するカサンドラ。

 金髪長髪の美人エルフというだけでも強敵だというのに、このようなストーリーも絡んでしまえば、剣姫に魔剣、勇者に猛者だろう。

 この後、帰ってきたダフネに涙ながらに抱きついて、事の顛末を話して呆れられるのだった。

 

「ふぅ~、感情1つで偉業を成し遂げられるなら苦労はしない。……と言いたいところだが、あの愚兎なら成し遂げてしまうのだろうな」

 

 読んでいた本を置き、ヘディンは眼鏡を外して椅子に深く腰掛ける。

 ベル・クラネルが冒険者になってからの数々の偉業は常軌を逸している。その根底にあるのは憧憬という想い。なればこそ、それが愛に変われば、奇跡の1つも起こせるやもしれん。

 

「まったく、フレイヤ様をフッておいて、もし本当にこのエルフの娘に恋慕の情を欠片でも抱こうものなら……」

 

【カウルス・ヒルド】にて、焼き兎にするだけでは飽き足らぬ。

 そう、ヘディンは心に決めながら、ホームを後にして、愚兎の様子をこっそりと見に行った。

 

「はぁ~、すごかった!」

「確かに、中々の動きだったわね。最後の技、スターバーストストリームだったかしら?あれ、私も真似してみようかしら?」

 

 読み終えたティオナとティオネは満足気に感想を言い合っていた。

 

「うん!あれすごかったもんね!でも、私のウルガじゃ出来ないし、私もティオネみたいにククリナイフでもサブ武器にしようかな」

「やめときなさい。アンタって、基本力任せなんだから、下手すりゃ借金倍よ、倍!」

「げぇ~、借金倍はやだなぁ~」

 

 ティオネの指摘に、ティオナは嫌そうに顔を顰める。

 そんな他愛もない会話をしている中、ティオナはもう一度本を開く。

 開けたページに描かれているのは、息も絶え絶えになって灰になっていくミノタウロスを見送るベルと、そのベルを瞳に映して笑うミノタウロス。

 

「なんだか、とっても笑っちゃうな」

 

 

 

 

 

 後日、ギルド本部にとあるランキングの集計結果が届けられる。

 

白兎の脚(ラビット・フット)に一番お似合いな女冒険者』順位(ランキング)──堂々の第一位、ローリエ・スワル。

 

 このランキングは不正投票だなんだと、多くの女性冒険者が押しかけてきたが、その騒ぎの中でランキングが書かれた羊皮紙は刃物でぐちゃぐちゃに切り刻まれてしまったらしい。

 




今回ヘルン女史を入れる隙間というか、絶対に拗れすぎて収拾がつかなくなると踏んで、最後の最後に出番を入れました。
ヘルンファンの皆さん申し訳ない。あの長文詠唱を唱えるヤンデレは私にはキツイ!原作者の頭を解剖して見てみたいですよホント!!!
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