ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
その日、ロキファミリアの幹部であるリヴェリアの招集で、団長フィンと幹部ガレス、そして主神ロキが呼び出されていた。
「なんじゃ、急に呼び出しおってからに。何か問題でも起きたのかいのう?」
「あ~、多分例のあの本の事かな?」
リヴェリアからの突然の呼び出しに、ガレスは首をかしげ、フィンはその用件に心当たりがあるようなことを口にした。
「なんや、例のあの本って?」
「それは、これだ──!!」
机の上に、普段のリヴェリアらしくない乱暴さでその本を叩きつけた。ロキが差し出された本に目をやると、普段は糸目で開いているのかどうかも怪しい目をこれでもかと見開き、その本を手に取った。
「な、なんやこれはぁ!?ウチのアイズたんがドチビのとこのガキと半裸で密着しとるぅぅぅ!!!?」
本の表紙に描かれているベルとアイズの半裸で抱き合っている絵に反応したロキは、その本をパラパラとめくっていく。
そこには表紙の絵よりも更に刺激的な内容が描かれていた。
『あの、アイズさん……』
『ベル、緊張してる?大丈夫、私の方がお姉さんだから、ちゃ~んとリードしてあげる♡』
精巧な絵に、見やすいコマ割り、モデルとなった人物を忠実に再現しているであろう描写など、これがただの漫画であるのならば、手放しで絶賛していたであろう。
ただし、これが生モノエロ同人誌でなければの話だ。
「う……噓やぁ。ウチのアイズたんがこんな色気あるお姉さんムーブであのドチビのとこのガキとS○Xするやなんて……」
「なっ、口に出すな、馬鹿者!!」
ロキの口にしたS○Xという言葉に過剰反応するリヴェリアを眺めながら、フィンとガレスは久しぶりに見るエルフらしい彼女の動揺に、どこか懐かしさを覚えていた。
とはいえ、ファミリアの仲間、それも幹部の立場にして、娘のような存在であるアイズを無許可でこうも辱める内容の本を勝手に売り出されるのは面白くはない。
「にしても、一体誰がこれを描いたのか?」
「うむ、あの若造はこのような真似をするはずもなし」
「そうだね。彼はこんな手は好まないだろうし、まあ、レコードホルダーとして有名だし、正直なところ容姿も万人受けする。モデルにするにはうってつけってわけだ」
下手な噂になってロキファミリアの名に傷がつくのも困りものだが、それ以上に、目の前のリヴェリアよりも怒り狂うであろうもう一人のエルフのことを考えると頭が痛い。
普段は冷静で落ち着いている彼女も、ベル・クラネルとアイズの事となると途端に暴走しがちだ。
「とりあえず、ラウル辺りに歓楽街に出向いてもらって、この本の作者を捕まえてきてもらおうか。犯人がどういう目的でこれを作って売っているのか知らないが、僕らロキファミリアを馬鹿にしたツケはキチンと払ってもらわなきゃね」
「じゃな。しかし、本の内容はともかくとして、この絵の精巧さといい、読みやすい描写といい、素人の仕事じゃないのう」
「何を真剣に読んでいる!」
アイズの情事が描かれた本を何食わぬ顔で読みふけるガレスの頭を、リヴェリアがはたいた。
後衛の魔法職であるリヴェリアの攻撃など、前衛でタンク役を務めるガレスの耐久力の前ではそよ風程度。ガレスはリヴェリアの抗議など意に介さず、はたかれた箇所をポリポリとかき、しょうがないといった様子で本を閉じて机に置いた。
「まったく、このような本を描いた者には然るべき処分を与えなければ!」
「まあ、それは当然だが。僕や君が歓楽街に出向いて調べようものなら、すぐに噂が広がって、この本を描いた者の耳にも届くだろう。だからこそ、あまり歓楽街に出入りしても目立たないラウルを派遣するから、どうか感情的になって独りで突っ走らないでくれよ」
「……分かっている」
少し間が空いたのはどういうことかと問い詰めたい気持ちはあったが、本人が理解しているならこれ以上念を押すのも野暮だと、フィンは口をつぐんだ。
ロキファミリアの団員たちは皆、聡明で気高いハイエルフのリヴェリアを信頼している。だからこそ、彼女の暴走は何としても止めなければならない。
もし彼女が勢い余って歓楽街に突撃でもしようものなら、ファミリアのエルフだけでなく、街中のエルフたちまでが加勢して犯人探しに奔走する可能性もある。そうなれば、ギルドに目をつけられるのはほぼ間違いないだろう。
ロキファミリアの名誉を汚すやもしれない未来は早めに潰しておいた方がいい。どっちの意味でも……。
「なんにせよ、ラウルには早めに犯人を捕まえてもらわないとね」
フィン達はこの件をどうラウルに伝えようかと、頭の片隅で思案しながら、部屋を出ていった。
その日、アイズはとある理由でロキの神室にやって来た。
「ロキ、いる?」
部屋の扉をノックしてみたが返事はなく、いないのかと思って扉を開けて中を覗くと、ロキの姿は見当たらず、どうやら何処かへ出かけているようだった。
どうしたものかと少し考えて、すぐにロキが戻ってくるかもと思い、部屋の中で待たせてもらうことにした。
とはいえ、あまり勝手にあちこちの物に触れていいものなのか分からずに悩んでいたら、机の上に置いてある一冊の本が目に留まった。
「これって?」
その本の表紙には、肌を露わにした自分と同じように服を脱がされたベルの姿が描かれていた。
ロキのセクハラの延長なのかと思いつつも、好奇心に負けて中を覗いてしまう。そこには、純粋で幼いアイズにはあまりに刺激が強すぎる内容が綴られていた。
『アイズさっ──んちゅ♡』
『んっ♡これ、私のファーストキスだから♡』
最初は城壁での訓練という、いつ見られたのか、あの頃の風景が描かれていたが、本の中の私がベルを怪我させてしまってから展開が変わった。
次のページではベルと私の唇が重なり合う様子が描かれていて、その次のページでは、困惑するベルを私が押し倒している場面が描かれている。
どんどん自分の服とベルの服を脱がしていって、なんだかよく分からない行為に発展していった。
「これって、ベルのお○ん○ん?」
本の中で私が無理矢理にベルのズボンとパンツを脱がせると、存在だけは知っていた男性の象徴とも言える、ベルのアレが丸見えになっていた。
それを私がアレして、コレして、いちゃいちゃラブラブして──。
「アイズ、ロキいた~?」
「っ──!!?」
本に夢中になっていたアイズの背後、部屋の入口から、一緒にロキを探していたティオナが声をかけてきた。
その声に驚いたアイズは、反射的に本を閉じると同時に、うっかり床に落としてしまう。
カタン!という音が部屋に響き、ティオナは不思議そうに中を覗き込み、一歩踏み入れた瞬間、アイズはレベル6の俊敏さで落ちた本を蹴り、机の下へ滑り込ませた。
「う、ううん、ここにはロキはいなかったよ」
「どうしたの、アイズ?なんか顔が赤いよ」
「そ、そうかな?」
確かに、言われてみれば体がなんだか火照ったように熱いと感じる。
「にしても、ここにもいなかったんだ。じゃあ、他は何処探そう?」
「えっと、あの、私はここでロキが帰って来るまで待ってるから、ティオナは──」
「あっ、アキ!ねえ、ロキが何処行ったか知らない?」
ティオナはアイズの話を聞かずに、たまたま通りかかったアキを見つけてロキの居場所を尋ねた。
すると、アキはちょうどロキの居場所を知っているようで、先ほどラウルに何かおつかいを頼んでいたらしい。
「OK!ありがとう。ほら、アイズも行くよ!」
「あっ、まっ!」
有無を言わさずにアイズの手を引っ張って、ロキがいた場所へと走ってしまう。
「何だったんだろ?ん……」
開けっ放しのロキの部屋の机の下に、一冊の本が落ちているのをアキは見つけた。
どうせロキが酒に酔った拍子に落としたのだろうと気軽に拾い上げたが、表紙に描かれた人物と状況を見て思わず驚愕した。
それは間違いなく、アイズと他派閥であり、今話題のラビット・フットが半裸で抱き合っている絵だったのだ。
まさかと思い、本の内容も確認すべくパラパラとページをめくると、そこには恋人かと思うほどの情熱的というか、普段のアイズらしからぬ、されどアイズらしさのある性行為が描かれていた。
「……ふぅ~」
流し読みとはいえ、最後まで読み切ったアキは、大きく深呼吸をして混乱した思考を落ち着かせ、整理し始めた。
アイズとティオナがロキを探しにこの部屋から出ていった。ロキはアイズを猫可愛がりしており、セクハラ行為は頻繫にしても、間違っても他派閥の男とこういった関係を許すはずもない。
そして、さっき見たロキはラウルに何かおつかいを頼んでいた。ここまでの事を整理すると……。
「誰かが勝手にアイズとラビット・フットの本を描いて売っている?」
真相に辿り着いたアキはこの本を他の誰にも見られないように、男子中学生がよくする隠し方で本棚に隠し、自身もまた事の経緯を詳しく知る為にロキを探しに部屋を出た。