ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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コラボ 転スラ×ローリエ上巻 前編

 

「サポーターくぅぅぅん!!!」

 

 その日、バイトから帰ってきたヘスティアが、ホームの玄関ドアを騒がしく開け放ちながら、怒りの怒号を上げてリリを呼び出した。

 喧しく自分の名を呼ぶヘスティアに、リリは一体何事かと面倒くさい顔を隠さずに、それでも主神であるヘスティアの呼び出しに応じてヘスティアの元まで向かう。

 声のしたリビングに行くと、仁王立ちの構えで待ち構えるヘスティアがリリを出迎えた。そんな随分とご立腹な様子に、また神様が暴走したかとリリは心の中で嘆息する。

 

「一体何事ですか、ヘスティア様?」

「君に1つ質問をする。言っておくが、神に噓は通じないし、沈黙も禁ずる!」

「……ごくり。一体、リリに何を聞くおつもりですか?」

「それは……。ベル君が最近、不特定多数の女の子と不純異性交遊をしているという件だぁぁぁ!!!」

 

 ピシャーン!!!とヘスティアの頭上から雷が落ちたような音が、リリには聞こえた気がした。

 それと同時に、遂にこの時が来てしまったのかと、リリは天を仰いだのだった。

 いや、前々から覚悟はしていた。今やベル・クラネルのエロ本は表立ってはいないが、オラリオに大きく広まっている。

 いずれは神様や本人の耳にも入ることは明白だった。

 

「どこでそれを……?」

「バイトのおばちゃんが教えてくれたんだよぉ!!『最近、ヘスティアちゃんのところの子が色んな女の子と危ない火遊びしてるって聞くけど、保護者ならしっかり面倒見ておきなさいよ』って注意されたんだぞぉ!?一体どういうことだぁぁぁ!!!」

 

 なるほど、バイトのおばちゃん経由で知ったのかと納得する。

 

「ならば、ヘスティア様。リリも正直にお答えします。その話は本当であり、噓でもあります」

「どういうことだい……?」

 

 噓を言っていないのは分かるが、本当であり噓でもあるとはどういうことだろうか?まるで意味が分からないとヘスティアが首を傾げると、リリは一拍置いてから、その答えを話す。

 

 ここ最近で、ベルをモデルにしたR18指定の本が出回っており、自派閥の女性だけならず、他派閥や無所属の女性にまでその魔の手は伸びており、中には、男同士のものもあって、その人気は留まることを知らない。

 と、リリが今のベル・クラネルのエロ本の状況を説明すると、ヘスティアは顔を真っ赤にする。

 そして、怒りのボルテージが更に上がったのか、頭から煙を出す勢いで激昂する。

 

「ふざけるなぁぁぁ!!!ベル君は処女神の眷族なんだぞ!!それを不特定多数の不純異性交遊のモデルにするなんてぇ、ボクに喧嘩を売ってるのかぁぁぁ!!!!」

 

 ヘスティアの叫びは酷く真っ当なもので、リリもそう思う。

 

「ま……まさか、ヴァレン何某くんもその本に出てベル君と……」

「ご想像の通りです、ヘスティア様」

「~~~~~っ!!?」

 

 ムンクの叫びのような表情を浮かべるヘスティアに、リリは更に追い打ちをかける。

 

「ちなみに、リリとベル様の本も出てます。それも二冊も……」

「ムキぃ~!!それを今言う必要あったのかい、サポーター君!!ってか、君も処女神の眷族なんだから、そういう話には少しは忌避感を持ちたまえよ!!!」

 

 ヘスティアがリリにまで怒りの矛先を向けてくる。

 あわや取っ組み合いのキャットファイトが始まりかけたその時、リビングの扉が勢いよく開けられる。

 

「リリ様、大変でございます!!」

「春姫様!?そんなに慌ててどうしたのです?」

「実は……!?へ、ヘスティア様もいらっしゃったのですね……」

 

 ヘスティアの顔を見た途端、何かを伝えようとしていた春姫の口を閉ざしてしまう。

 その様子を見て、リリは悟る。

 

 ──これは、火急の用事でリリに伝えねばならないこと。

 ──そして、ヘスティア様がいたら絶対に言えない案件。

 

 その2つから、大方の予想がついたリリは嘆息を吐きながら、春姫に話を進めるよう促す。

 

「大丈夫ですよ、春姫様。どうやら、ヘスティア様もベル様の本のことを知っちゃったようですし」

「ほ……本当でございますか!?」

「なんだろう、急にベル君の本の話が出てきて、ボクは嫌な予感しかしないぞ……」

 

 神の直感というものが働いたのか、震えるヘスティアを無視して、春姫が懐から二冊の本を取り出した。

 その表紙を見た時、リリはいつもとは違うスライムの絵が描かれたそれに疑問を抱く。

 しかし、そんな疑問も次の春姫の言葉にその疑問は吹き飛ぶ。

 

「あのローリエ・スワル様の新刊が出ました!それも上下巻の2冊セットで!!!」

「な、なんですってぇぇぇ!!?」

「おわ!?ビックリした!!どうしたんだい、サポーター君?その、ローリエ・スワル君だっけ?彼女の本が出たってだけでどうしてそこまで驚くんだい?」

 

 事の深刻さを理解していないヘスティアに、リリがどれだけローリエ・スワルが恐ろしい存在かを話す。

 

 「彼女は――不純異性交遊の本ばかり描く作者が、唯一“純愛ラブストーリー”を描いた時のモデルなのです」

「……は?」

「しかも、ただの純愛ではありません。過去のベル様の辿った出来事を勝手に改変し、ベル様との理想の英雄譚に仕上げたのです。その完成度は、読んだ読者を虜にし、オラリオ中で大ヒットしました」

 

ヘスティアの顔がみるみる青ざめていく。

 

「ま、待って……それってつまり……」

「はい。ローリエ様は“公式に近い形でベル様との恋愛を成立させた女”です」

「公式ぃぃぃぃ!!?」

 

ヘスティアが絶叫した。

だが、リリの説明はまだ終わらない。

 

「さらに恐ろしいことに……その本が売られて数日後、冒険者ランキングに“白兎の脚に一番お似合いな女冒険者”という分野を作り、堂々と自分の名前を1位にしたのです」

「自作自演じゃないかぁぁぁ!!?」

 

ツインテールをビュンビュン振り回しながら、遺憾の意を表す。

 

「今やベル様の外堀を一番埋めている女と言っても過言ではありません!」

「な、な、なんだってぇ~!?そんなこと許せるもんか!!春姫君!その本をちょっと見せてくれ!」

「あっ、ズルいですよ、ヘスティア様!リリにも読ませてください!!」

「実は、私も買ったばかりで、本の中身はまだ読んでいないのです!」

 

 本を奪い取ったヘスティアの左右から、リリと春姫が覗き込む形で本を読む。

 

 リーンゴーン!と鐘の音が響き、真っ白な教会で純白のタキシードを着たベルと純白のドレスを着たローリエが結婚式を挙げようとしていた。

 参列するのは、オラリオ中の神々と冒険者たち。

 誰もが祝福の笑みを浮かべ、花びらが舞い、光が差し込む。

 

「がはッ!!?」

「「ヘスティア様ぁ!!!」」

 

 初っ端からクライマックスシーンをぶち込まれたヘスティアは、心の鳩尾にクリティカルヒットを受け、その場で崩れ落ちた。

 リリと春姫は慌てて両脇から抱き起こす。

 

「ヘスティア様、しっかりしてください! 深呼吸です、深呼吸!」

「お水を……いえ、まずは落ち着く呼吸法を……!」

 

 ヘスティアは白目を剥きながら、震える指で本を指差す。

 

「な……なんだいこれは?ボクのベル君が、結婚……だと……!?」

「ヘスティア様、トドメを覚悟で申し上げますが、開幕結婚式なんて、ベル様の本の中ではヌルい方です」

「な……なんだとぉ!!?」

 

 リリのその言葉に、噓など一切ないと見抜いたヘスティアは、ガビーンと音が聞こえるほどのショックを受けた。

 

「ぬ、ヌルいって……じゃあ、じゃあこの後に何があるっていうのさ……!」

「……ヘスティア様の精神衛生を考えるなら、読まない方がいいかと」

「ぬぐぐぐ!!いや、ボクは読むぞ!このまま読まずに終われるか!!!」

 

 から元気で立ち上がると、ヘスティアは本を再び手に取って読み始めた。

 結婚式のシーンをなるべく流し読みする勢いでめくり飛ばしていく。

 

「……はいはい、誓いの言葉ね、はい次っ……!」

 

 それを横から覗いていたリリと春姫は口にこそ出さないが、もう少しゆっくり読んで欲しいと思っていた。

 まあ、後で読み直せばいいかと考えているので問題はないが、そう考えている時点で、この2人も随分とベル・クラネルのエロ本シリーズに染まってしまっているのは言うまでもない。

 

 やがて、ベルとローリエが誓いのキスを済ませ、舞台は教会から、オラリオの外にある小さな村へと移った。

 モノローグには、“新婚旅行のために立ち寄った村”と、さらりと説明が添えられている。

 その村に見覚えのあるヘスティアは、思わず首を傾げた。

 

「……あれ? この村って、確か……」

 

 しかし、その疑問は次の瞬間、跡形もなく吹き飛ぶ。

 次のページに描かれていたのは、手を──よりにもよって“恋人繋ぎ”で──絡め合いながら、村の中央へと歩いていくベルとローリエの姿だった。

 

「……ッッッ!!」

 

 ヘスティアの奥歯がギリギリと音を立てる。思わず神威が漏れ出しそうな程に激昂するヘスティアから少し距離取って、リリが春姫に耳打ちする。

 

「(もしヘスティア様がベル様のアレなシーン見たら、憤死して天界に帰っちゃいませんかね?)」

「(リリ様、シッ!もしヘスティア様のお耳に入れば大変なことになりますよ)」

 

 ヘスティアの後ろでコソコソと話をするリリと春姫。

 そんな2人の様子にも気付くことなく、ヘスティアは嫉妬と怒りに身を震わせていた。

 それでも本を読む手は止まらず、次のページに進む。

 

『これ、黒竜の鱗らしいですよ』

『かの英雄アルバートがオラリオから撃退した黒竜が落としたものと聞いた時は驚いたが、鱗1枚でこの大きさか……』

 

 観光名所的な扱いなのか、地面に突き刺さっている黒竜の鱗を、2人が見上げながら話している。

 このまま、のんびりとした2人の旅路でも見せられ続けるのかと、ヘスティアたち3人が思ったその時だった。

 

 ページを1枚めくったその先に、ピキン!と空間に裂け目が現れるシーンが描かれる。

 そして、その裂け目が掃除機のように周囲一帯を吸い込んでいき、それに飲み込まれていくローリエと、それを追って裂け目に自ら飛び込むベル。

 

『ベルっ、来ちゃダメェ!!』

『嫌だ!君を見捨てたりなんかするもんか!!』

 

 ベルは迷うことなく裂け目へ飛び込んだ。

 そして、二人が完全に飲み込まれた瞬間、次のコマには綺麗さっぱり何もなくなった場面が描かれる。

 そんなあまりにも急すぎる展開に、ヘスティアは面食らった顔をする。

 

「おいおい、いきなりの急展開過ぎやしないかい!?」

「ちょっと、ヘスティア様!早く次のページに進んでください」

「一体、ベル様とローリエ様はどうなってしまわれるのですか!?」

 

 リリと春姫が、続きを早く読みたいと言わんばかりにヘスティアに催促する。

 しかし、次のページを開いた途端、更なる衝撃の事態が起きていた。

 

『ううぅん……。あれ、ここは……どこぉ!?』

『もしかして、モンスターの街!!?』

 

 ベルとローリエが目を覚ましたのは、先ほどの村とはまったく違う整った街並みの中だった。そんな異常事態に目を回しかけるが、それ以上に異質な存在が自分達の周囲を取り囲んでいた。

 ゴブリンにオーク、獣人のように見えるが、自分達が知っている獣人よりも更に獣の要素が強い種族。他にもダンジョンでは見たことのないモンスターのような存在が遠巻きにこっちを見ていた。

 

『ローリエ、僕の近くから離れないで……』

『はい……』

 

 腰に差したヘスティアナイフを握りながら、周囲を取り囲むモンスターに注意を払うベル。

 そんなベルの後ろで、ローリエもまた自身の愛剣を握りながら、相手を刺激しない程度の警戒を見せる。

 

「おいおい、急展開も急展開じゃないか。これ、いつもこんな感じなのかい?」

「いえ、今回はちょっと特殊といいますか……今までの本で、こんな突拍子もない展開はなかったのですが……」

「けれど、なんだかこの描かれてるモンスター。普段、私達がダンジョンで戦うモンスターとは違う。まるでウィーネ様達、異端児のような印象を感じます」

 

 春姫のその言葉に、リリとヘスティアは考え込む。 確かに、襲い掛かるでも、敵意を剝き出しにして様子を伺うでもないモンスター達の様子は異端児を想起させる。

 なによりも目だ。ベル達を取り囲むようにしているモンスターの目には、確かな理知を宿す瞳が描かれていた。

 

「ヘスティア様、次のページをめくってください」

 

 リリの声は、いつになく真剣だった。

 

「もしかしたら、この本の作者は異端児を知っている可能性があります。もし、この本を読んだ冒険者が“異端児の存在”を知ってしまったら……。下手をすれば、第二のイケロス・ファミリアが生まれるかもしれません」

「……ああ、そうだね」

 

 ヘスティアの表情が一気に険しくなる。

 さっきまで“ベルの結婚”で白目を剥いていた神とは思えないほど、その瞳には、確かな危機感が宿っていた。

 その危機感に背を押されるように、ヘスティアが次のページをめくる。

 

『なにか──くるっ!!』

 

 ベルの視線の先、モンスターの輪の奥から、禍々しいオーラの“端”が漏れ出した。

 それを確認した瞬間、ベルは反射的にヘスティア・ナイフを抜き放ち、低く構える。

 刹那、周囲のモンスターたちがざわめいた。

 そのざわめきは恐怖か、敵意か、それとも警告か。

 ベルとモンスターたちの間に、一触即発の空気が走る。

 ローリエもまた、ベルの背後で愛剣を握りしめ、さらに相手を刺激しないようにしながらも、いつでも動けるように身構える。

 だが、その緊張は次の瞬間、まるで糸が切れたように、一気に緩んだ。

 

 ベルが構えを解いたわけではない。

 ローリエが下がったわけでもない。

 ただ、モンスター側の危機感が薄れたのだ。

 まるで、絶対の信頼を置けるナニカが来たのを悟ったかのようだった。

 

『一体、なにが……!?』

 

 警戒するベルの正面にいたモンスターの集団が左右に割れ、その奥から、ひょこっと青いスライムが姿を現した。

 

『やあ、こんにちは!俺はリムル、悪いスライムじゃないよ?』

 

「「「スライム?」」」

 

 まんまるで可愛らしいスライムの登場に、ヘスティア、リリ、春姫の3人は揃って首を傾げた。

 




上下巻で2話構成にしようと思ったのですが、それすると2万文字overになりそうだったので、4話ぐらいに分けて投稿する予定です。
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