ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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コラボ 転スラ×ローリエ下巻 前編

 

 ベル・クラネルとローリエの本は様々な意味で人気となっている。

 それは前回の本の出来が良すぎたというのもあるが、今回は今までになかった上下巻セットである事と、異世界に飛ばされる設定に、モンスターが喋って国を興した事、そして特に重要なのは、最後に黒竜が登場するということだ。

 

 人類三大クエスト最後にして最大の敵、黒竜。

 その討伐は、冒険者にとっての最高の誉れだろう。

 

 当然、妄想の類とはいえ、黒竜討伐を目指すロキファミリアにとって、この下巻の内容は無視できないものであり、自然と皆が団長室に集まるのは必然ともいえた。

 

「さて、みんなはこの本の内容をどう思うかな?」

 

 フィンが手にする下巻を、皆一様に真剣な眼差しで見つめていた。

 今この部屋にいるのは、フィンをはじめとした幹部全員と主神ロキ。そして、ラウル、アキ、レフィーヤの三人だった。

 

「……黒竜、か」

 

 最初に口を開いたのは、リヴェリアだった。

 彼女の中で、黒竜といえば7年前に戦った絶対悪に組した彼女、アルフィアの事をどうしても思い出してしまう。

 それはガレスも同じで、あの時ダンジョンの18階層でアルフィアの悲愴の覚悟を聞いた身としては、黒竜の話題はどうしても無視はできなかった。

 

「まあ、黒竜もヤバめな内容やけど、ウチは魔国連邦(テンペスト)っちゅうのが問題になりそうやと思うけどもな」

 

 上巻をペラペラめくりながら、そこに描かれているモンスターの国の描写にロキは眉を顰める。

 ここに描かれているモンスターを異端児であると解釈するならば、この作者はつい最近まで自分達ですら存在を知らなかった異端児の存在を知っていたことになる。

 それについては、闇派閥やギルドも前々から関わっていたからそこまで驚くことはない。

 ただ、モンスターが国を興し、人とも交流がある。これこそ、ウラノスが目指していた人と異端児との融和の光景なのだろう。

 

「モンスターが国を興して、人と交流してる……?ウラノスが長年夢見てた光景やけど、今の下界じゃ早すぎるわ。こんなん、知れ渡ったら混乱どころやないで」

 

 そう、確かに人とモンスターが争うことなく、平和な時を共に歩むのは素晴らしいことだろう。

 だが、それは今の人類にとってはまだ早すぎる。そう考えるロキは苛立ちを隠すことなく頭を搔きむしる。

 

「せやけど、この温泉シーンはええな。モンスターやけれども、いいおぱっ──!!?」

「少しは神として慎みを持て、ロキ」

 

 温泉のサービスシーンに目を輝かせるロキに、リヴェリアの手刀がその煩悩だらけの頭に炸裂し、部屋に景気の良い音が響いた。

 

「あ~、確かにロキの懸念も間違いじゃないけれど、街の様子はどうだった、ラウル?」

「はいッス!俺とアキで少し聞き込みしてみたッスけど、反応はまちまちっていうか、モンスターが喋るのはあくまで物語の設定として認識している人が大半で、そこまで気にしてないって感じッス」

 

 ラウルの答えにフィンも頷く。確かに、物語の設定としてモンスターが喋るのを許容しているのなら、それはそれでいいのかもしれない。

 ただ、とフィンは続ける。

 

「前回の武装したモンスターの一件と、この本の設定を照らし合わせて異端児の存在に辿り着く勘の鋭い者もいないとは断言出来ない。以前のクノッソス攻略でモンスターと手を組んだ僕たちの立場からして、異端児の存在を匂わせることはしたくない」

「あの、でもこの本は既に多く出回ってますし、今更これを全て回収するのも無理があるというか。それをしたらしたで怪しむ人がいるんじゃ?」

 

 恐る恐る手を挙げてレフィーヤがそう意見すると、フィンもそれに同意する。

 というか、フィンもそれを一番に懸念していたのだろう。頭痛が痛いとばかしに、眉間を指で押さえている。

 

「レフィーヤの言う通りだ。この本はすでに街中に出回っている。今更この本を回収しようとすれば、逆に何か隠していると勘ぐられるだけだ」

「せやろなぁ……」

 

 ロキが頬をかきながら、気まずそうに呟く。

 そんな暗くなりかけた部屋の雰囲気を塗り替えるように、ティオナの呑気な声が部屋に響く。

 

「でもさー、みんな難しく考えすぎじゃない?ベルが異世界でモンスターと仲良くしてるって、なんか楽しそうじゃん!」

「アンタはまったく、本当に緊張感というものがないの?」

 

 ティオナのそんな能天気な発言に、ティオネが額を押さえる。

 

「だってさぁ、ほら見てよこれ!」

 

 ティオナは上巻をひょいと掲げ、あるページを指差した。

 

「このスライムの子、めっちゃ可愛くない?喋るし、ぷにぷにしてるし、絶対いい子だよ!」

「うん、そうだね……」

 

 そんなティオナに同意するようにアイズもにこやかな笑顔を浮かべて頷く。

 

「っていうか、私まだ上巻までしか読んでなくて、下巻の方はまだなんだよね」

「……そうだね。というか、話が少し逸れたが、元々僕の方としてはこっちの下巻に描かれてる内容の感想を皆に聞きたかったんだ」

 

 テーブルの上に複数冊の下巻を並べ置くと、この部屋に集まった全員がその本を手に取っていく。

 既にロキ、リヴェリア、ガレスは読み終えており、この部屋に皆が押しかけてくるまで互いの意見交換は終わっていた。

 

 それじゃさっそくとばかしに、ウキウキした表情でティオナが本を開いて物語の世界に没入する。

 

『そこじゃ!』

『っ──、あいててて』

 

 木刀を握ったベルがハクロウの一閃で胴体を打たれ、その場に倒れ込む。

 それを見下ろすハクロウはふむと顎に手を当てた。

 

『ほっほっほ、その若さで中々の動きじゃ。その上、ワシの教えも実直に吸収し、ワシの技を盗まんとするその姿勢。ベルよ、お主は強くなるぞ』

『そうですか。えへへへ、ありがとうございます』

 

 ハクロウにそう言われたベルが嬉しそうに笑う。

 

『それに比べて、ゴブタ!』

『はいっす!!』

『お主もベル殿を見習って精進せんか』

『うへぇ~~』

 

 まるでやる気の見えないゴブタの返事に、ハクロウが静かにピキる。

 そして、その背にユラリと殺意のオーラ的なものが立ち昇り木刀を構える。

 

『ちょうどよい。ゴブタよ、ワシと一つ手合わせしてみるかのう?』

『いや、ちょっ!?師匠と手合わせしたら死んじゃう──じゃなかった。ここはオイラとベルが手合わせするってのはどうっすか!?』

『ええぇ!?僕がゴブタさんと手合わせするんですか?』

 

 急に巻き込まれたベルが驚きの声を上げる。

 それに対して、ハクロウは殺意のオーラをすっと消し、顎に手を当てながら、ふむっと一考する。

 

『まあ、よかろう。異世界の御仁の剣を知るというのも学びになるじゃろうて』

『いよっしゃっす!!』

『あの、僕の意見は……』

 

 ベルの意思を無視して、勝手にゴブタとの手合わせが決定した。

 

「この角の生えたお爺さん、すっごく強そうだね!」

「うん、今のベルをこんなにあっさり倒すなんて。私も稽古つけて欲しいかも」

 

 ティオナとアイズがハクロウの強さに盛り上がる。

 それに聞き耳を立てるように、ベートの耳がピクリと反応して、モンスターに師事を受けるなんてという意味を込めて、本の中のベルを睨んで小さく舌打ちをうった。

 

『それでは、此度の手合わせはスキルの使用ありとする』

 

 手合わせの審判としてハクロウが間に立ち、ベルとゴブタが木刀を構える。

 最初はハクロウとの手合わせからベルの手合わせになってルンルン気分なゴブタが描かれていたが、木刀を持って互いに対峙すると、その空気は一変する。

 ゴブタの纏う空気がガラリと変わり、その顔も真剣さを纏ったものになる。

 

『いくっすよ!』

 

 先手を取ったのはゴブタだった。馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくる。

 誰もがそう読んでいてが、次のコマでゴブタが自らの影に沈むように消えた。

 

『なっ!?──っ!!』

『うぉ!防がれたっす!?』

 

 消えたゴブタに驚愕するベルだったが、背後からの気配を感じ取り、即座に木刀を盾にベルの影から飛び出てきたゴブタの奇襲の一撃を防ぐ。

 

『すみません。僕、人の視線とか気配とかに敏感でして』

 

 ベルが少し申し訳なさそうに言うと、ゴブタは木刀を押し返されながら目を丸くした。

 

『ほっほっほ、小手先の技じゃベル殿には通じんぞ、ゴブタよ』

 

 ハクロウは愉快そうに笑い、その目はまるで獲物を見つけた老練の剣士のように光っていた。

 

『だったら、実力による真っ向勝負っす!』

 

 ゴブタが勢いよく地面を蹴る。

 だが、その動きは馬鹿正直に見えて、実は違う。

 体全体を使ってベルに攻め立てる姿勢は、漫画の描写とはいえ、ロキファミリアの幹部らも内心で舌を巻いていた。

 

『負けません!』

 

 だが、ベルも負けてはいなかった。

 攻め立てるゴブタの攻撃を上手く捌きながら、隙を見つけては反撃を試みている。

 その絵の精巧さと、まるで本当に戦っているかのような迫力のある動きに、読みふける皆の喉がゴクリと鳴った。

 そして、その戦いは唐突に終わりを告げる。

 

 カーン!という効果音と共に、空へと木刀がくるくる回転しながら打ち上がる。その次のコマでは倒れて尻餅をつくゴブタと、木刀を振り上げたまま固まっているベルの姿が描かれていた。

 唐突な終わりではあったが、どう見てもベルの勝利である。

 

『ふ~、手合わせありがとうございました』

 

 ベルは息を整えながら、尻餅をついたゴブタへ手を差し伸べる。

 

『いや~、見かけによらず強いんすね……オイラ、ちょっとナメてたっす……』

 

 ゴブタは苦笑しながらベルの手を掴み、軽快に立ち上がる。その様子から見て、大した怪我は負っていないようだ。

 

「しっかし、このゴブリン。語尾が~っす!やったり、目立たへん地味な顔やったりで、なんかラウルに似とんな」

「なぁっ!?酷いっすよ、ロキ!」

 

 ロキの指摘にラウルがショックを受ける。

 

「でも、地味に動きがいいところとか、ラウルに似ている部分はあると思うわ」

「アキまで!?」

 

 アキの言葉にラウルはさらにショックを受ける。だがロキと違って、アキは悪気なく、むしろ褒めているようなものだった。

 だが、それでもラウルが地味で目立たないという評価には変わらない。

 ゴブリンと同列に扱われたことに、シクシクと涙を流しながら、ラウルは続きを読む。

 

『皆さん、そろそろ昼食にしませんか?』

『おっ、飯っすか!』

 

 訓練場にシュナが風呂敷を持ってやって来ると、ゴブタが嬉しそうに飛び跳ねる。

 そんなシュナの後ろには同じく風呂敷を持ったローリエが一緒に来ていた。

 

『シュナさんと一緒に私もベルの為にお弁当を作ったんだ。ベルの口に合えばいいのだが』

『ローリエの手作り!!うわ~、楽しみだな!!』

 

 ベルが満面の笑みを浮かべて、ローリエから風呂敷包みを受け取る。それを見てローリエもまた笑顔で返す。

 その絵に描かれているローリエの笑顔は、まるで恋する少女のようで……。

 

「「「むむむ~!!」」」

「どうしたん、あの子ら?」

 

 アイズとティオナがふくれっ面をしながら笑顔のローリエを可愛く睨みつける。

 ちなみに、もう1人の唸り声を上げているレフィーヤは、デレデレのベルを恨みがましいそうな顔で睨んでいた。

 そんな3人の様子に、ここ最近の彼女ら(特にアイズとティオナ)の心境の変化を知らないロキは、それぞれの反応が理解できず、頭の上に大きな?を浮かべている。

 

「はぁ~」

「苦労しとるのう、リヴェリア」

 

 なんとなしに事情を察しているお母さんの立ち位置にいるリヴェリアは溜息を吐き、それを見たガレスが母親の苦労を労う。

 

『わあ、おむすびだ!』

 

 風呂敷を開けたベルの目に飛び込んできたのは、極東の米を手で握った料理であるおにぎりだった。

 それを手掴みで掴むと、そのまま口に放り込んで美味しそうに頬張る。

 その姿はエサを食べる兎を彷彿とさせ、先程まで可愛らしい唸り声を上げていたアイズとティオナをほっこりさせる。

 

『あれ?そういや、ローリエさんってベルの奥さんなんすよね?だったら、それ愛妻弁当ってやつじゃないっすか?』

『ぶほっ!!?』

 

 ゴブタのその余計な一言にベルはむせて口から米粒が飛び出した。

 慌ててローリエが、そんなむせたベルの背中を優しく擦りながら、お茶を飲ませて介抱する。

 

『あっ、ごめん、ローリエ。そうだよね、これってよく考えたら、ローリエが僕の為に作ってくれた……その、愛妻弁当ってやつだよね。ちゃんと味合わずに急いでがっついちゃって、すみません』

『そんなことないぞ。私は、ベルが美味しそうに一生懸命に食べる姿が……その、可愛いというか、嬉しく感じたぞ』

 

 ベルの謝罪に、ローリエは頬を染めながら答える。

 その二人の様子にゴブタがニヤニヤとした笑みを浮かべ、シュナとハクロウも微笑ましそうに2人を見守っている。

 

「あっま~。ちょっと誰かコーヒー淹れてくれん?とびっきり苦いやつで頼むわ」

「なら僕が淹れよう。ちょうど僕も欲しくなったからね。他にいる人は?アイズとティオナ以外の皆だね」

 

 ちょっとした小休憩を挟んで、読書を再開する。

 ベルのテンペストでの修業は終わり、街道を5人で歩いていると、ゴブリンの青年が急いで走ってくる。

 

『緊急事態です!ジュラの森の奥地にて、未確認の測定不能のエネルギーを感知したとの模様!至急会議室にお集まりください!!』

 

 その連絡を受けて、全員が会議室に集合する。

 そこには人種種族関係なく、様々な者たちが席に着いていた。その中にはベルとローリエの姿もあり、人魔共存を体現したような光景にビビっているような様子だった。

 そんな2人を置いて、会議は進む。

 

『さて、諸君らに集まって貰ったのは他でもない。ジュラの森の奥地から今まで確認されなかった未知のエネルギーを持つ存在が現れたというのが、今回の会議の議題だ』

 

 スライム状態のリムルが、皆を見渡す。

 全員のその顔には緊張と共に、この国への敵対勢力かという敵意もあった。

 

 背後で腕を組むシオンは、すでに「いつでも斬れますよ」と言わんばかりの殺気を漏らし、ソウエイは目を瞑りながら「いつでもご命令を」とばかりに待機し、ベニマルは眉間に皺を寄せながら問いかける。

 

『未知のエネルギー……それも、測定不能とのことですが。リムル様、それは魔王級の反応なのですか?』

『あるいは、覚醒魔王級の可能性すらあり得そうですね』

 

 ディアブロが静かに微笑む。

 その笑みは優雅だが、どこか楽しげでもあった。

 リムルはスライムの体をぽよんと揺らしながら答える。

 

『うーん……正直、俺にもよく分からないんだよね。ただ、この世界の理から外れてる感じがする。異質というか……別の世界のエネルギーっぽい』

 

 その言葉に、場がざわつく。

 

『あの、別世界って、もしかして、僕たちの世界のエネルギーってことですか?』

 

 ベルが会議室に集まる全員の視線を受けた状態で、恐る恐ると手を挙げて質問する。

 

『多分だが、そうだろうな。きっとお前たちと同じように空間の裂け目からこっちの世界にやって来たんだろう。ただ、問題なのは──』

『そこから先は私が説明致します』

 

 リムルの言葉を遮って、植物を擬人化したようなエルフと比べても遜色ない美貌の持ち主がが優雅に一礼すると、全員の視線が自然と彼女へと集まった。

 

『件のエネルギーの持ち主は周囲の魔素を手当たり次第に吸収していき、出現が確認された場所は魔物が一切住めない土地へと変貌しております』

 

 その言葉を受けて、会議室にいる全員が驚愕した。

 なにせ、魔素は魔物にとっての生命線のようなもので、それが吸われるということは、魔物が死滅するという事と同義である。

 

『ということは、その存在はここを目指している可能性が?』

『ええ、魔素を求めてこちらへ移動を開始していることは確認済みです』

 

 ベニマルの疑問の声にトレイニーさんが肯定する。

 その瞬間、部屋の空気がまた一段とザワついた。

 魔素を吸い尽くす──それは魔物国家テンペストにとって、存在そのものを否定されるに等しい脅威。

 

 シオンが椅子を軋ませて立ち上がる。

 

『魔素を吸収……?そんなの、魔物にとっては毒どころじゃありませんよ!リムル様、すぐに討伐隊を──』

『待て、シオン』

 

 ベニマルが低い声で制した。そのことに反論しようとしたシオンを目線で御しながら、トレイニーへと視線を向けた。

 

『トレイニー様、そいつはどれほどの速度で移動しているのでしょうか?』

『申し訳ございません。時間と共にその対象の魔素を吸収する範囲も量も増えていく為、現在は観測すらも不可能でして』

『魔素を吸収するという性質上、接近はおろか、観測すら不可能ということですか……』

 

 トレイニーの回答に、ソウエイが静かに口を開く。

 このテンペストの主要戦力は魔物ばかり。魔素を吸収する特性を持つ存在に対抗する術があまりにもなさすぎる。

 

「うわ~、これすっごくピンチじゃない?」

「そうだね。そして、こういう場面にこそ、彼は率先して動き出す」

 

 テンペストのピンチにティオナが不安そうな声を上げた。それに同意するようにフィンは頷きながら、この後の展開を容易に想像する。

 

『あの、リムル!!僕に何ができますか!?』

 

 ピリつく会議室にて、ベルが勇ましく名乗りを上げた。

 

『ベル!?いや、お前らは別にテンペストの住人って訳でもないし、無理に手伝おうとしなくても、避難していいんだぞ?』

『でも、それはこの国を見捨てることになってしまいます。僕もローリエもこの国で沢山お世話になりました。その恩を返したいんです!』

 

 その目には真摯な思いが宿っており、リムルは思わず息を呑んだ。

 

『それに、恩だけじゃない。この国には色んな人たちがいる。魔物だろうと、僕たち人と何も変わらない皆を救いたいんだ!』

 

 テンペストで過ごした日々、受けた優しさ、守られてきた実感、それらが全部、彼の胸の奥でひとつの形になっている。

 それを理解したリムルは一瞬だけ言葉に詰まる。そして考え込むように、器用にスライムボディを捻りながら悩む。

 

『……分かった。なら、お前にはその謎の存在の調査を依頼する。だが、危険だと思ったらすぐに逃げるんだぞ』

『うん、約束する』

 

 リムルの言葉にベルが力強く頷いた。

 そんなベルの手を隣に座るローリエがそっと握りしめた。

 

『ベルが行くなら、私も行きます。あなたを一人で危険に向かわせるなんて、あり得ません』

『っ、それは危険──』

『だから何ですか!私は、ベルの妻です。騎士に守ってもらう湖の乙女ではない!!だから!!……だから、一緒にあなたの隣を今度こそ』

 

 あの時のミノタウロスの回想が挟まり、ローリエの確かな決意が読み解ける。

 

「これもう勝ち確ヒロインやん。まあ、結婚してる時点でそうなんやろうけれども……」

「……現実じゃ、まだベルは結婚してないもん」

「だよね。ロキも変なこと言わないでよ」

「えっ、冷たい2人とも!?ウチそんなに変なこと言うたか?」

 

 ローリエのあまりにも優遇され過ぎたムーブに、ロキが軽口を滑らすとアイズとティオナから冷たく指摘される。

 若干涙目になりそうなロキを放っておいて、フィンたちは触らぬ神に祟りなしと本に集中する。

 

 ベルはこの国に迫って来ているであろう謎の存在を調査する為に、前準備としてクロベエという鍛冶師から前々から用意されていたという装備を受け取る。

 小柄でヒット&アウェイのスタイルのベルに合わせた軽装備で、黒一色のその装備は、どこぞのゲーマーを彷彿とさせる。

 

『そしてこいつが、お前さんから預かっとった武器だべ』

『これは!?』

 

 ベルが預けていたのは、あのミノタウロスを倒した時に使用した雌雄一対の剣である『レウス』と『レイア』だった。

 それを見たクロベエが研ぎ直すのと一緒に鍛えてくれると言われ、そのまま預けたのだった。

 そうして、返ってきた2振りの剣は渡す前とは見違えたように、その形を変えていた。

 レウスは赤みがかった色だった刀身が輝くような銀に変わり、レイアもまた鮮やかな緑色の刀身だったものが落ち着いた輝きを放つ黄金一色に変わっていた。

 柄の部分も鍔部分も軽く装飾されつつもシンプルなデザインであり、無駄な機能や装飾は省かれた実用性重視のもの。

 なによりベルの手に不思議と馴染む……そんな感じを受ける剣だ。

 

『その剣は生まれ変わっただ。レウスは『シルバーソウル』、レイアは『ルナゴールド』。今やその2つの剣には、素材に使ったとあるドラゴンの加護が宿っているだ』

 

 クロベエの言葉にベルは胸が熱くなった。

 当然だろう。冒険者ならば、自らの装備が強くなって嬉しくないわけがない。受け取った新たな武器を携えて、ベルが外へ出ると、そこにはローリエが待っていた。

 そんな彼女もまた、今のベルの奥さんに相応しい、どこかの騎士団にでも入団してそうな装備をしており、腰に差したレイピアがキラリと輝る。

 

「中々似合ってるじゃない。白に黒の組み合わせって私は好きよ」

「だよね!ベルすっごくカッコよくなってる!!」

「けっ、冒険者ならカッコよさよりも実用性だろうが。まあ、所詮は絵に描かれた装備だがな」

「きぃぃぃ!ベル・クラネルの癖に、こんな凄そうな装備を身につけてぇぇ!!……まあ、似合ってるのは否定しませんけれども」

「うん、すごくいい。ベルにとってもよく似合ってて、まるで英雄みたい」

 

 一部を除いて、ベルの新衣装は概ね好評のようである。

 そんな5人の反応を見ながら、フィンたちも各々の評価を下す。

 

「にしても、随分とよく描き込まれている」

「うむ、人物や衣装だけならず、冒険者の装備の造詣も深いのやもしれんな」

「だとするならば、普段もこれぐらいまともな作品を描いてくれさえすれば、我々も頭を痛ませずに済むのだがな」

 

 フィンとガレスがそんな評価を述べる中で、リヴェリアは若干呆れを含んだ声で呟く。

 その意見に2人の心境が一致したのか、首を縦に振って賛同した。

 




前編は一旦ここまで。後編でついに謎の存在とバトルです!!

あと、このすばにこの作品のオリ主をぶち込んだ小説を息抜きで投稿しました。
もし気になれば、読んでください。
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