ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
人類史上最強のファミリア、ヘラとゼウスが健在だったあの時代に、もしオリ主が転生していたら一体どうなっていただろうか?
気になれば確かめてみればいい。これはただの予測と予想の物語。
実際に史実にはなくとも、書き手はその妄想で新たな時代を生み出せるとここに書き記していく。
さあ、ふざけた茶番を始めよう。
強大な両派閥が睨みを利かせている今のオラリオは平穏そのものである。そんな平穏なオラリオに似つかわしくない破壊の轟音が都市に響き渡る。
「なんだまたか……」
「この音が聞こえたってことは……」
「ああ、また新作が出たんだろうぜ」
町の人々は慌てた様子もなく、日常の1コマのようにその光景を受け止めていた。
なんなら、男性はいやらしい顔で浮かれてすらいた。
そして、その破壊の震源地には、2人の女がいた。
「今日こそは貴様の肉体を塵に変えて、天界へ送ってくれる」
「きゃ~!誰か助けて、人殺しがいまぁ~す!!」
同じ灰色の髪をした2人の女が、街中で全力の追いかけっこを繰り広げていた。追う女は街中にもかかわらず、遠慮なく容赦ない魔法を放ち、逃げる女もそれを当然のように避けるので、結果的に街へ大きな被害を与えていた。
そんな闇派閥も真っ青な光景に、人々はまた始まったと呆れながら、大工関係のファミリアに修繕の依頼を出しに向かうのだった。
破壊と悲鳴がオラリオの街に響く中、逃げる女はあるファミリアを目指していた。行き先を知っている追っ手の女も、そこに辿り着く前に仕留めようと殺意を高めて魔法を連射するが、まるで体が身勝手に動いて避けているかのように、逃げる女には一発も当たらなかった。
結局、目的地まで逃げ切られてしまい、逃げている女の目的地であるそのファミリアに辿り着いてしまった。
その名はゼウス・ファミリア。神時代最強を誇るファミリアだ。
女は門番の肩を軽く叩き、「後ろのあの子をよろしくね♪」とウィンクを送ってから中へ入っていった。
門番は頬を赤らめることもなく、逆に顔を真っ青にし、こちらへ歩み寄る女に死地へ赴く戦士のような表情で向き合った。
ゼウスファミリアのホームに入ったと同時に、魔法の爆発音と男の悲しき悲鳴が聞こえてきたが、彼は無事に天界へ行けただろうか?
そんな風に考えながら、ホームの中を走っていると、老人ながらに逞しい肉体を持つ神に出くわす。
「あっ、ゼウス様!こちら新刊になりま~す!」
「うっひょーい!!!」
通り過ぎ様に背中のバックの中にしまってあった新刊のエロ本をゼウス様に献上する。
そう、これこそが彼女がゼウスファミリアのホームへと入れる理由だった。つまるところ、彼のファミリアの主神へエロ本の賄賂を送っていたのだ。
それを知っているからこそ、門番の彼も彼女の侵入を止めなかったし、なんなら彼も彼女のエロ本のお世話になった者の1人だった。
「あっ、ザルド君かパァル君が何処にいるか知ってます?」
「むっ!パァルはこの間の傷がまだ癒えておらぬ。連れて行くならキッチンの方にいるザルドにしておけ」
「了解です」
そう返事をしてキッチンへ駆けていく。迷わず突き進む様子から、このファミリアにかなり出入りしているのがうかがえる。
ちなみに、キッチンに辿り着いた瞬間、轟音とともに一瞬だけ送還の光が見えた気がしたが、まあ気のせいだろう。
「ザルド君発見!」
「っ!?やっぱり貴様か!!この疫病神がぁ!!!」
「そんな女神だなんて。私のこと褒め過ぎですよ」
「誰も女神だなんて言ってねぇ!疫病神だ馬鹿!!」
キッチンの中がほとんど片付いている様子から、ここへ来るまでの轟音を聞いて状況を察していたのだろう。作りかけの料理がいくつか残っているところを見ると、慌てて避難の準備を終えたようだ。
そんな料理をつまみ食いしながら、私はこっそりとキッチンの物陰に隠れる。
「あっ、人の作った飯をお前!?」
「ここか?」
「ア……アルフィア!!」
勝手に料理をつまみ食いしたことに怒るザルドの前に、アルフィアが殺気を放って現れた。
ゼウスファミリアの幹部であるザルドといえど、理不尽の権化であり、厄災が人の形をしたアルフィアの殺気を受けては、冷や汗を流すしかなかった。
無意識に震える足の膝を気合いで止めながら、ザルドはアルフィアに向き合った。
「な、なんの用だ?」
「知れたこと、あの命知らずの女を差し出せ」
「あの馬鹿のことか?だとしたらここには──」
「福音」
最後まで言わせることなく、アルフィアの魔法がザルドを吹き飛ばした。
その拍子にキッチンの料理が宙を舞い、私は慌てて飛び出し、床に落ちる前にキッチンのあちこちに置かれてあったタッパーへ神業のような速さで詰め込んでいく。
この一連の光景とキッチンに常備されていた大量のタッパーからして、これもいつもの恒例行事なのだと察せられる。
「やはりここに隠れ潜んでいたか」
「ザルド君は頑丈だからいいけど、料理は勿体無いから吹っ飛ばしちゃダメでしょ!!」
「俺の事もダメに決まってんだろぉ!!!」
吹き飛ばされた先から立ち直り、戻ってきたザルドが大声で私の言葉を否定する。それにしても、アルフィアの魔法をまともに受けて即座に回復するとは、さすが第一級冒険者だ。
そんな茶番を挟んでも、アルフィアの殺気はまったく揺らぐことがない。
「なあ、おい。今度は一体どんなふざけた内容の本を描いたんだ?」
「ふざけた内容とは失礼ね。メーテリアちゃんとクラネル君の夜の情事を盗み見したアルフィアが過激な一人遊びをしているだけの本を描いただけよ!」
「自殺したいんなら俺らを巻き込むなぁぁぁぁ!!!!」
あまりにもふざけ過ぎた内容に、ザルドの脳の血管がキレるほど浮き上がった。
そんな怒気を漂わせるザルドに、目を開いたアルフィアが睨む。
「貴様、よくも私の恥を知ったな」
「待て!俺は悪くない!悪いのは全部こいつだ!!」
「あっ、もしここで私を助けてくれなかったら、ゼウス様が今後1年間恩恵の更新はしないって約束してるから」
「このぉ、疫病神がぁぁぁあああ!!!」
罵倒しながらも、お玉と鍋の蓋を手にして果敢にアルフィアへ挑みかかる。
その隙に、私は素早くタッパーをバッグに押し込み、キッチンから逃げ出した。
ああ、ザルド君。私の為にあの恐ろしい女の足止めを引き受けてくれるだなんて。
もしあなたが亡くなったときには、ザルド君とヘラファミリアのハーレム本を描いて、お墓にお供えします。
「そんな恐ろしい呪物を俺の墓に供えるなぁぁぁ!!!!」
「あっ!」
逃げている途中、アルフィアの魔法で吹っ飛ばされたであろうザルド君が空中でそう叫びながら、中庭の地面に犬神家ポーズで突き刺さった。足がまだピクピク動いているところを見ると生きてはいるようだが、あれでは足止めを続けるのは難しそうだ。
他にアルフィアの足止めが出来そうなパァル君は動けないみたいだし、誰か代わりになるような人は……?
「はっ!いた!!」
「ん?げぇっ!?」
ホームを走っていると、前方に赤い髪と赤い瞳を持つヒューマンが目に入った。
あっちもこちらの存在に気付いたのだろう。吞気そうだった顔が一瞬で引きつり、その場から全力の逃走を始めた。
中々の逃げ足だが、日々厄災の権化たるアルフィアとの逃亡劇を繰り広げている私の足の速さほどではない。すぐさま並走すると、彼は絶望から涙を流してこっちに顔を向ける。
「さっきの爆発音。アンタがいるってことは、どうせアルフィアなんだろ?」
「正解。流石はクラネル君。状況把握が早くて助かるわ」
「チックショー!どうせ団長か副団長が訓練場で暴れてるだなんて楽観視せずにホームから逃げてりゃ良かったー!!」
そう嘆きつつも、走る速度は全く落ちない。むしろ、どんどん加速している。彼はレベル2だが、敏捷性に限ればレベル3、いや下手すればレベル4の域に達している。
それでも、並走している私を振り切ることはできない。当然だ、こちらは逃げ足に関してはレベル7に達するほどの、生まれながらの逃亡者なのだから。長年アルフィアと生死を賭けた追いかけっこを続けてきたのは伊達じゃない。
「っつか、なんで俺と並んで走ってんだよ。アンタの足ならもっと早く逃げられるだろ」
「う~ん、そうしたいのは山々なんだけどね」
そう口にした次の瞬間、私はクラネル君の腕を引っ張って横へ飛ぶ。その直後、先程まで私たちが走っていたホームの廊下が爆発した。
誰が犯人なのかなんて推理する必要もない。後ろを振り返れば、怒りで髪を逆立てたアルフィアがこちらを睨みつけていた。
「なんだかこうして見ると、追っ手から逃げる貴族令嬢と農家の平民の駆け落ちみたいね。ポッ」
「このドぐされ男。私の妹に手を出した分際で、今度はそこの馬鹿女にも手を出したのか?百回死ね」
「ちょっとぉぉぉ!!とんでもない誤解されたんだけど!?つか、わざとだろ今の!!」
「よし、ヘイトは上がったけど、これでタゲが増えてこっちへの狙いが下がった」
「ああ、うん。確信犯だってこと隠す気はないわけね。マジで、アンタなんで闇派閥に所属してないわけ?」
ホームを飛び出して街に出ると、すぐに分かれ道にぶつかった。私は右へ、クラネル君は左へ行くよう指示したのに、なぜか同じく右へ曲がってくる。
「なんで私と同じ方に来るの!?」
「当たり前だろ!ここまで来たら一蓮托生だ。それに、アンタより足の遅い俺の方に来る可能性が高いだろ!」
「男の子でしょ。か弱いレディーを守る為に自身を犠牲にする騎士道みたいなのはないの?」
「か弱いレディー?一体何処にそのような女性が?」
「あら、初めて会った時は、貴方のような可憐で美しいお嬢さんを見たことがありません。って、ナンパしてきたのは何処の誰ネル君だったかな?」
「ぐうぉぉぉ!!やめろ、俺の消し去りたい黒歴史!!!つか、あの時のデートも支払いは全部俺の金で、しばらく金欠になったんだぞ!!」
そんな馬鹿みたいな会話の中で、クラネル君を置いていこうと速度を上げる私の服を掴み、彼は置いて行かれまいと必死で後ろをついてくる。
ホームの廊下みたいに一本道なら置き去りにしても足止めにならないけど、今の分かれ道で別々に逃げれば半分の確率でクラネル君の方に向かうはずだったから、わざわざ無理して連れてきたのに、これじゃただのお荷物じゃない。
「絶対にこの手は離さんぞぉ!!」
「もう!これじゃ私も捕まっちゃうじゃない。こうなったら……」
無理に引き剝がそうにも、力じゃクラネル君の方が強い。だったら、こっちも武器を使うしかない。
そう思って、バックからアルフィアの本とは別の新刊を取り出す。
「これな~んだ?」
「………………なにそれ?」
「最近、神様達も求婚する話題の花屋の看板娘のエリザベスちゃん。そんなあの子にお酒を飲ましてお持ち帰りする悪い狼男のクラネル君の薄い本よ」
「聞きたくないんだけど、それをどうするおつもりで?」
「まだ売りには出していないけれど、まずはメーテリアちゃんに感想でも貰おうかなって。出来が良ければ、彼女もヘラファミリアにふさわしい女に早変わりするかもね」
「鬼!悪魔!アンタこそ絶対悪だわ!!!」
今度こそ分かれ道で別々に逃げると約束させ、私はエリザベスちゃんとクラネル君に本を手渡した。本を受け取ったクラネル君は、まるで地獄行きを宣告されたかのように肩を落としていた。
やがて再び分かれ道が現れ、今度こそ私が右へ、クラネル君が左へと進む。単独になった私は振り返り、すぐ後ろまで目と鼻の先ほどに迫ってきているアルフィアの姿を見た。
「今度は別れてこちらの狙いを1つに絞らせるのが目的か……」
「それで迷いなく私の方を追いかけるのね」
「当然、最初から私の狙いは貴様だ。馬鹿女め、あの男はまた別の機会にシメる」
「ああ、見逃す気はないのね。ごめんね、クラネル君」
結局、無理に巻き込んだというのに、何の役にも立てず、後で報復されるクラネル君には心から謝罪する。
まあ、きっと彼は今頃アルフィアに見逃されたとぬか喜びして、さっき私が渡した本をいやらしい顔で読みふけるんでしょうね。でも残念、私が描いたのは表紙だけで、中身はまだ真っ白で未完成なのだから、ガッカリしてる頃かな?
けれど、きっと彼のことだし心配はいらないだろう。問題は私の方、狙いを分散させるためにクラネル君と並走してた上に、服を引っ張られて文字通りの足手まといになられてたせいで、ザルド君の貴重な足止めが完全に無駄になってしまった。
この距離から魔法を撃たれたら、避けられるかどうか分からない。
「アルフィア!アンタいい加減しつこいよ!ヘラファミリアだからって、女にまで執着しだしたら終わりよ、終・わ・り!!」
「安心しろ。貴様のふざけた口と腕を二度と使えんようになるまでズタボロにしたら、貴様なんぞにもう興味もない」
「とても都市の平和を守るファミリアに所属してるとは思えない発言ね」
「貴様こそ、闇派閥に所属していないとは信じられない程に問題ばかり起こしてるだろうに」
売り言葉に買い言葉の応酬を繰り広げながら、私は必死に逃げ道を探す。
このまま逃げ切れるとは思っていないし、策を考えていないわけではない。ひとまず策その1を発動させる。
「もってけ泥棒!新刊のアルフィアシリーズ13番目の新刊無料配布だ!!!」
「っ、貴様ぁ!!!」
号外!号外!とばかしに、バッグの中にしまってあったサンプル品のアルフィア本を道すがら出くわした男神様に投げ渡す。
これが策その1である狙いの分散。流石のアルフィアでも、神様を相手に乱暴なことは──。
「そのふざけた本と記憶ごと吹き飛べ。福音」
「「「「ぎゃああぁぁぁ──ー!!!!」」」」
「ちょっとぉ!?全員が全員、ゼウス様じゃないんだから。何人か天界へ送還されたんじゃないの?」
「私の要らぬ恥を広める口が減っただけのこと」
「神への信仰心以前に、人の心とかないんか?」
ここにザルドかクラネルがいれば、どの口でほざいてるんだぁ!とツッコミを入れていただろう。
なんにせよ、これで策その1は失敗。続けて、策その2を発動させる。
「衛兵さ────────ん!!!」
自分一人でどうにもならない時は救けを呼びましょう。運が良ければ世界最強の剣聖が助けに現れることも……。
「この馬鹿騒ぎに今更衛兵が来るとでも?」
「ですよね。これで助かったの2回目までだったし。3回目からはもう衛兵さんも来ないどころか、逃げるようになっちゃったからね」
策その1と2が失敗した今、私に残された手は一つ。古来より、こういった人間が取るべき手段は決まっている。
「死ぬ気の本気で逃げるんだよぉぉぉ!!!」
ええ、もうこうなったら全力で逃げるしかない。思考も何もかもを逃げ足に集中させ、私は一目散に駆け出した。対してアルフィアは、さらに私への追撃の手を強めてきた。
これが今のオラリオの日常であり、ゼウスとヘラファミリアが黒竜に挑むまで続いた茶番のような騒ぎだった。
とある墓の前で私は墓参り用の花束を持って愚痴を零していた。
「はあ~、15年前にあっさりいなくなって、7年前に帰ってきたら、私じゃなくてアルフィアの方が闇派閥になるなんて。最初の出会いは、私が徹夜明けのハイテンションで画材を買ってるのをうるさいの一言で吹き飛ばしたのよね。それに腹立てて、アンタのエロ本シリーズを作っては襲われて、作っては襲われてを繰り返して、20作品も作っちゃったりして、ザルド君とレオン君が何回アンタの八つ当たりで生死の淵を彷徨ったか……」
苦笑交じりに手を合わせて天界へいった腐れ縁のような彼女の冥福を祈る。
「あれ、なんだ君も来ていたんだ」
「おや、ヘルメス様。それに君は……」
「あっ、初めまして。どうも、ベル・クラネルって言います」
アルフィアとその妹のメーテリアちゃんによく似た真っ白な髪と、愉快で騒がしかったクラネル君と同じ赤い瞳。
っていうか、今書いてるアルフィアに代わるエロ本のネタの張本人がいた。
「貴方のことはよく知ってるわ。ええ、本当によくね。それでお願いがあるんだけど、このお墓の子に祈って欲しいの。私にとっては腐れ縁で、友達っていう関係の子じゃなかったけれど、君に死後の冥福を祈って欲しい。そんな間柄の子だったの……」
「…………?よくわかりませんが、それぐらいなら」
素直で優しいベル君は、墓前にしゃがみ込み、手を合わせて顔も名前も知らないアルフィアの冥福を祈ってくれた。
「あれ?なんですか、この本は……」
「ん?あっ、ベル君それは!!?」
祈りを済ませて目を開けたベルの視界に、隣の墓に供えられていた本を発見する。
それを見たヘルメスが慌てて止めようとしたが、一手遅かった。興味本位で手を伸ばしたベルが表紙を見て固まる。
「………………えっ?」
裸の男性(ザルド)とその周りを様々な過激な衣装を着込んだ女性(ヘラファミリア)が描かれてハーレムもののエロ本に、思考が停止する。
この日、この時、この場所で。
私は確かに天上からの『声』を聞いた。
それは雷鳴のような怒鳴り声。血管をブチギレさせ、怨嗟にも似た悲鳴のような、ザルド君の怒りの声。
天へ帰った魂は、私の『お供え物』に対して告げたのだ。『天界へやって来たら、真っ先に俺が貴様を叩き切る!!!』と。
私の答えは一つだけ。
「ごめーんね!」