ベル君のエロ本を書くのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
他の作品じゃここまで多くの感想は中々貰えないから頑張ろう!って気になるよ。
その日、まるで大捕り物のように、歓楽街では必死に逃げる者とそれを追いかける者の姿が見られた。
「はぁ!はぁ!はぁ!!!」
逃げろ、足を動かせ、呼吸が止まろうと逃げる足を止めさせるな!!!
何故こうなった?いや、原因など分かりきっている!!あの本が原因だ!!!
それは遡る事数分前のことだった――。
「はい、毎度ありがとうございます」
今日も今日とてエロ本販売で大忙し。やはり、今話題のベル君を題材にしたエロ本だからか、かなりの調子で売り上げている。
もうダンジョンに潜ってモンスターを狩るなんて蛮族みたいな真似は出来ませんね。グヘヘヘェ──。
「あの~、少しよろしいでしょうか?」
「はい!いらっしゃい……ませ……」
ご機嫌なまま新しく訪れた客の方を向くと、そこには長い耳に見目麗しい整った顔立ちの美人なハーフエルフが立っていた。
知らない顔じゃない。というか、今も売っている本に彼女の顔が描かれている。彼女はギルドの受付嬢であるエイナ・チュール。
そんな歓楽街に相応しくない彼女がどうして私の目の前にいるのか。そう疑問に思う余地もなく、理由は明白だった。
「こちらで、無許可で!勝手に!人を卑猥な本のモデルにしたという話を聞きましてぇぇ!!」
「あ……はい……」
言葉の端々に怒りが滲んでいる。そして、彼女の背後には般若のスタンドが見える!?
こっちは神の恩恵を刻まれ、アルフィアの才能まで持っているというのに、一般人である彼女に何故か勝てないという本能的な恐怖を感じている。
戦う?馬鹿なこと言うな、こういった場合の対処法はただ1つ。
「三十六計逃げるに如かず!」
「あっ、待てぇぇぇ!!!」
即座に売り上げのお金だけを手に取り、エイナさんに捕まる前に逃げ出す。
どれほど彼女が恐ろしくても、恩恵持ちの足の速さに一般人が追いつけるはずもなく、瞬く間に距離は開いていく。そして、このまま逃げ切れると確信したその瞬間、逃走経路を塞ぐように誰かが立ちはだかった。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
「ミーシャ、ナイス!!」
両手を広げて行く手を塞いだのは、確かエイナさんの同僚のミーシャちゃんだった。
今まさにミーシャちゃんに進路を塞がれ、後ろからは般若を背負ったエイナさんが猛ダッシュで迫ってくるという、完全な挟み撃ちの状態だ。横へ逃げる道もなく、おそらく事前にこちらの逃走経路を予測して待ち伏せしていたのだろう。
だが、敢えて言おう、舐めていると!!!
「えっ!噓ぉ!?止まらない!!?」
私は立ち塞がるミーシャに向かって、一切速度を落とさずに走り抜けようとする。
そんな私に、驚きながらもこちらを止めようとミーシャちゃんは手を伸ばしてきたが、その瞬間、歩幅を縮めてジグザグにクロスオーバーステップを踏み、まるで霧になってすり抜けるように彼女のディフェンスを突破した。
そう、これこそが悪魔の走り!
【デビルバットゴースト】
「──っ、うぇ!?消えちゃった!!?」
「何やってんのミーシャ!!後ろだよ!!」
私の走りで姿が消えたように見えたミーシャを棒抜きにして、そのまま2人から離れて逃げていく。
このまま後は適当に巻いて、少し早いけれどもホームへと帰って今後の対策なり、なんなりを練り直そう。
そう思いながら、歓楽街を走り抜けていると、私の直感──否、才能が危険を予知して動きを変えた。
「っ!危な──!?」
「ちっ!避けられましたか」
あのまま走るルートを変えていなければ、上から降ってきた捕獲用ネットに捕まっていただろう。視線を向けると、屋根の上にパルゥムが1人。フードを被ってはいるが、その隙間から見える顔は、私が描いたことのある人物だった。
そう、ベル・クラネルのサポーターであり、私の描いたエロ本にも登場したリリルカ・アーデだ。
「貴方は……クラネル氏の!?」
「どうやら、考えることは同じのようですね」
追ってきたエイナさんも、屋根の上に立っているリリを見て驚愕している。
リリの方は逆に、エイナさんを見て、まるで当然のことのように落ち着いている。
屋根にフックをひっかけて、まるで自衛隊さながらの動きで屋根の上から降りてくる。
というか、よく見ればあの特徴的なバックパックこそ背負っていないものの、バトルクロスを着込んで、体のあちこちに道具を装備している。
ねえ、ここ歓楽街だよ?ダンジョンじゃないんだよ。
「そのお顔、ええ分かりますとも、言いたいことは。ですが、それだけリリが本気であるとご理解ください」
「ええぇ~……」
こんなエロ同人作家を捕まえるために本気になりすぎじゃないかとツッコミたくなるが、今はそれよりも彼女から逃げることに全力を注がなければならない。
後ろから迫ってくるエイナさんは怖いが、所詮は恩恵を持たないただの一般人。だが、目の前に現れたリリルカ・アーデは、この時期にはすでにレベル2の冒険者で、つまりレベル1の私より格上だ。
先程外した捕獲用ネットを素早く回収し、リリが待ち構えている。彼女は基本的に後衛のサポーター役で、アビリティもレベル2の中では最下位に近いはずだが、長年冒険者相手に逃げ続けてきた経験を持つ彼女から逃げるのは、むしろアビリティ上位のレベル2冒険者から逃げるよりも難しいかもしれない。
こうなったら、私も覚悟を決めねばならないようだ。
「いいだろう、経験にも勝る才能の差というのを見せてやろう!」
微笑みを浮かべ、できる限りのハッタリをかます。
だが、それがすべて噓で作られたハッタリというわけではない。この世界に来てから、何度もアルフィアの才能に助けられてきた。そのおかげで生まれた自信であり、確かな根拠もあった。
それは私がダンジョンでまだ調子に乗っていた頃、戦闘でモンスターと渡り合うことは不可能だと悟った際、別の事を思いついた。
それはダンジョンにMGS──通称、メタルギアソリッド方式で潜るというやり方だった。
ダンジョンで稼ぐには、何もモンスターを倒して魔石を手に入れるだけが全てではない。ダンジョンだけで採れる特殊なアイテムの収集。有名なところでいえば、カドモスという名の竜が守る泉の水はディアンケヒトファミリアなどの医療系ファミリアにかなりの高値で売れる。
だから、戦闘を極端に避けて奥へ進み、貴重なアイテムだけ拾って逃げかえればいいと、当時の私は浅はかな考えでダンジョンの奥にたった1人で進んだ。
最初のうちはまだ良かった。上層は足の遅いモンスターや探知能力の低いモンスターばかりだったので、才能ある私は悠々と奥へ進めたのだが、問題は中層からだった。某有名なドラゴンのナンバリングゲームで、シンボルエンカウントのモンスターを避け、推奨レベルより低い状態で奥へと進み宝箱を開けるという経験があったせいで油断していた。
たとえ見つかっても、小回りを利かせて逃げれば戦闘にはならないだろうと高を括っていたのだ。しかし現実は違った。上層とは異なり、中層ではモンスターの出現頻度が高く、極めつけはヘルハウンドの存在だった。奴らは嗅覚でこちらを見つけ出し、ひたすら食い殺そうと迫ってくる。あるいは炎で焼き殺そうと執拗に追いかけてきた。あの時ほど、警察犬に追われる犯人の気持ちを理解した日はなかった。
騒ぎを聞きつけて他のモンスターまで現れた時は死を覚悟したが、ちょうど近くに原作には登場しなかった上級冒険者のパーティーがいたので、
そうして命からがら逃げ延びた私は、もう二度とダンジョンなんかに潜らないと固く心に誓った。
同時に、この経験が恩恵として反映され、新たなスキル【逃げ上手の
その効果はシンプルで、逃走時に敏捷とスタミナへ超大幅な補正を与えるというものだ。
つまり──、
「「「はっやぁぁぁぁ!!?」」」
周囲の建物の壁を蹴り、まるで極東の忍者のように軽やかに飛び回りながら、素早い逃げ足を見せつけた。
先ほどまでのエイナさんとの追いかけっこは、逃げるうちにも入らない程度のものだった。だが、レベル2を相手にしたことでスキルが発動し、今の私はレベル2以上の敏捷性を手に入れている。比喩ではなく、本当に背中に翼が生えたかのように体が軽くなり、スキル発動前には不可能だと思っていた動きが、今では当たり前のように感覚で理解し、実行できている。
後ろを振り返ると、先頭にはリリがいて、その後ろからミーシャちゃん、さらに後方からエイナさんが追ってくる。だが、私はさらにスピードを上げて逃げる。逃げ足の速さが段違いでどんどん距離を突き放していく。
そうして、追っ手の姿が豆粒程に見える距離まで逃げた私は漸く足を止めて脇道へと逃れる。
「ふぅ、もうここまでくれば……あっ」
「あっ!」
フラグが建ったかのように、逃げた先にロキファミリアの団員であるラウルという、モブっぽいキャラがいた。
エイナさんとリリに追われた私が、ここに来てロキファミリアと遭遇した事を偶然と片付けるつもりはない。
まあ、万が一に彼がただの慰安目的で歓楽街に来た可能性も否めないが、そのような楽観的な考えは捨てるべきだろう。仮にそうであっても、そうでなくても、今この場から逃げるに越したことはない。
「ま……待つっす!」
ほら見たことか!私が背を向けて逃げた途端、ラウルは手を伸ばして追いかけてきた。
原作ではかませ役とはいえ、彼はレベル4の生粋の冒険者。サポーターであるレベル2のリリとは敏捷性に雲泥の差がある。
私と彼の距離は着かず離れずの距離を保たれているものの、着実に追いつかれ始めていた。
「こうなったら!」
ここは歓楽街。右を向いても左を向いても娼婦の店がずらりと並ぶ。私はエロ漫画を売りにできる玄人だが、ラウル君はどうかな?
そう考え、女性の猫人が客引きをしている店に目をつけ、一目散に飛び込んだ。
すると案の定、ラウルは顔を真っ赤にして店先の色気ある猫人に足を止められ、私はその隙に2階へと駆け上がり、廊下の窓から外へ飛び出して見事に逃走成功させた。
「はぁ、はぁ、はぁ……流石にレベル4の冒険者との鬼ごっこは疲れる……」
膝に手をつき、肩で息をしていた。レベル4の冒険者と追いかけっこなんてしたせいで、体力がごっそり削られてしまったようだ。
ホームに帰ってステイタスを更新したら、敏捷のアビリティが大幅に伸びていないかなと考えながら、帰路へと就こうとしたその時だった。
「──っ!!?」
ここは歓楽街だというのに、まるでダンジョンの中層でモンスターの群れに追い掛け回された時のような死の感覚が背筋に走った。
一体何事かと感覚に付き従うままに振り返ると、そこには死神を彷彿とさせる元正義の味方が立っていた。
そう、私が作ったエロ本で一番売れ行きが良く、最も力を込めて描いたモデルであるリュー・リオンがそこにいた。
「灰色の髪と黒装束の妙齢の女、お前がここ最近、ベルの卑猥な本を描く悪しき存在か?」
「え?いや……あの……人違いでは……?」
フードとマスクで顔を被っているせいでその表情は読み取れなかったが、彼女の背後に怒りの炎が燃え上がっているように見えた。
人違いであることを訴えたが、それは目の前の存在に届かない。恐らく、入念な下調べを済ましていたのだろう。
こちらがどのような言い訳をしようとも、彼女は意にも介さず、やがて右の拳を力強く握り締めた。
「あのような……、あのような破廉恥な本をよくもぉぉぉ!!!しかも、ベルに対してあのような恥知らずなセリフを私の口からぁぁぁ!!!」
(やっべぇ……。私、死んだかも)
いつもの「私はやり過ぎてしまう」という口癖もなく、まるでこちらをもうやり過ぎても構わない相手だと認識しているように見えた。
私が描いたエロ本の内容を思い出して、未だ悶え苦しんでいる隙をついて、私は全力でその場から逃げ出した。
「──っ!逃がすかぁぁぁ!!!」
まさに疾風の二つ名にふさわしい速さで追いかけてくる姿は、ただただ恐怖そのものだ。
原作初期のミノタウロスに追い掛け回されるベル君もこんな気持ちだったのかな?と、目元に涙を浮かべながら、私は必死になって限界を突破して逃げた。
「ひいぃぃぃ!!!」
歓楽街を抜け出てもなお追いかけてくるリューさんに、私は恐怖で思わず悲鳴を上げた。
レベル4の冒険者ラウルとの鬼ごっこも必死だったが、同じレベル4のリューさんとの追いかけっこはまさに命懸けだった。
「っ、このままじゃ、無理!だったら──」
本当は隠しておきたいとっておきの切り札だったが、このままじゃ追いつかれて惨たらしい死が待っていると悟った私は、覚悟を決めた。
「【堕落せよ、我が魂。矮小なりし我が身にヴェールを包め】」
「っ!?まさか、この街中で魔法の詠唱!それも並行詠唱など!!」
並行詠唱はダンまちでも出来る者が少ないとされる高等技術の1つ。レベル1である私が出来るのはアルフィアの才能のお陰ではあるが、今の私では成功率など半分にも満たない博打のようなもの。
走りながら詠唱する難しさ、詠唱と並行しながらの呼吸の難しさ、そしてなによりも、魔力暴発を起こさない集中力を維持するのが至難の業なのだ。
練習でも成功率は安定しないのに、この極限状態で並行詠唱を成功させようなど、正気の沙汰ではない。だが、これをきっかけに私の才能は最大限に引き出された。
(今ここで限界を超えろ!プルスウルトラの精神だ!!)
「【木は森に、人は群れに。鼠たる小さき我が姿を覆い隠せ】」
奏でられる呪文は一切の淀みがなく、魔力にも綻びがない。
目の前の光景にリューは驚嘆していた。ただの下賤な小悪党だと思っていた相手が、レベル4の中でも最上位と自負する自分から逃げ続けているだけでも驚きなのに、その最中に並行詠唱まで成立させている。
ここがダンジョンならば自分も対抗して並行詠唱を行うところだが、攻撃魔法を街中で放てば市民を巻き込んでしまう。ならば魔法が完成する前に捕らえるべきだが、相手の敏捷性が高く、思った以上に距離を詰められないでいた。
「【妖精の小さな悪戯】」
今ここに極限状態を乗り越えて、並行詠唱によって唱えられた魔法が解放される。
「──【フェアリー・ウィキッド】」
地面いっぱいに魔法陣が広がり、周囲を一瞬で眩しい光が包み込む。
光に目を焼かれたリューが思わず瞼を閉じ、再び目を開けた時、そこには信じられない光景が広がっていた。
「これは──!?」
そこには人、人、人の道を埋め尽くさんばかりの群れがあった。
同じ場所のはずなのに、辺り一帯がまるで別の場所になってしまったかのような錯覚を覚えるが、周囲の建物は目を閉じる前と何ら変わらなかった。
すなわちこれは──、
「幻影魔法の一種。恐らくは周囲の人を幻影で増やして姿を晦ませる用途のものですか」
よく見ると、人混みの中には同じ顔や服装の者が何人もいる。さらに観察すると、突然の出来事に慌てた冒険者らしき人物が暴れ回っており、その男にぶつかる人もいれば、すり抜けてしまう人もいる。きっと、すり抜けるのは幻影で、ぶつかるのは本物の人なのだろう。
「くっ、あの女は何処に!?」
周囲を見回してみても、幻影によって増えた人の群れに紛れ込んだのか姿が見当たらない。
こうなってしまえば、もう追跡は不可能だろう。悔しい気持ちを抑えながら、リューはこの場から撤収した。
「はぁ、危なかったぁ……」
幻影魔法が発動して、無数の人々に紛れた直後、私は脇道の裏路地へと逃げ込み身を潜めた。
今の魔法【フェアリー・ウィキッド】は、スキルが発現したと同時に手に入れたものだ。最初は攻撃魔法じゃないことに少しガッカリしたが、そもそもダンジョンに潜る気を失っていた時に得たものなので、いざという時のためにホームで何度も練習し、使いこなせるようにしていた。
「リューさんの姿は……?よし、ないな!」
疾風はお尋ね者の身だ。この混乱した状況で長居はしないだろうと思って裏路地からこっそりと顔を覗かせて確認したところ、何処にもリューさんの姿はなかった。
フェアリー・ウィキッドは私の魔法だから、私の目に幻影は映らず、魔法が発動する前と同じ景色のまま見える。
これで私の安全は確保されたとホッと一息つきたいところだが、まだ油断はできない。
「う~ん、街中で魔法を使っちゃったし、ギルド職員や大手のロキファミリアからも狙われちゃってるし、もうこのまま突き進んじゃうか!」
数々の逃走劇と、リューから並行詠唱を成功させて逃げ延びられたことで、テンションがハイ!になってしまっていた私は、このままベル君のエロ本を売り続ける道を選択してしまった。
そんなテンションのまま、ホームに帰った私は主神に今日の事を話すと、彼女は持ち前の寛容さで「いいんじゃない?自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても明日は何が起こるか分からない。なら、分からない明日の事よりも確かな今を楽に行きなさい」とありがたいお言葉を頂いて、私は早速、次のエロ本を描き上げていった。
「そうねえ、次はエロ狐とアマゾネス、それから酒場のアホ猫ちゃんもいいかもね」
その日の私の筆のノリは最高だった。そして後日、歓楽街には新しいベル君のエロ本が並ぶことになった。
この作品以外にも、いせかるとフィジギフゴリラも同時更新したので、読んでくれている方はそちらもどうぞ!
マジで3作品同時に更新ってしんどいっすわ~www