英雄記   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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二話混迷と光

旅の一行の旅の始まりは追われる身から始まった。

 

ゴブリン騎兵

「ヤツラヲコロシテ宝物ヲ奪エ‼︎ソシタラボスカラホウビガ貰エルゾ‼︎先ズハソノドワーフカラダ‼︎」

 

クロ

「穢らわしいゴブリンが‼︎そう簡単にやられてたまるか‼︎」

 

ゴブリンが突き出してきた槍を掴んだクロはそのままゴブリンの体を斧で唐竹割りにした。

 

ミズキ

「ドワーフにしてはやるじゃないか。負けてられないな…!」

 

ミズキは更に矢を放ち追手を射落とす。

 

リオ

「二人とも遊んでる場合じゃ無いんだぞ…っと甘いな!」

 

ゴブリン騎兵が槍を払ってきた所をリオは体をのけ反らせながら腰に佩た剣を引き抜き、ゴブリンを寸断した。

 

シクレセリア

「ここで蹴散らすか…炎よ、邪な者らを灰に変えよ!」

 

シクレセリアの杖の先に巨大な火球が現れ、それは複数の火の玉になってゴブリン騎兵に襲い掛かった。

 

獣共の悲鳴と断末魔が森に響いた。

 

シクレセリア

「終わったか…。」

 

リオ

「シクレセリア様‼︎」

 

シクレセリアが乗る馬の隣にあった草藪の中から屈強なオークの戦士が雄叫びを上げながら現れた。

 

オーク

「オオオオオオオ‼︎‼︎」

 

シクレセリア

「伏兵か‼︎」

 

オークの斧をシクレセリアが剣を引き抜き、受け止める。

 

だが馬が驚いて立ち上がってしまい、アイリスが落ちてしまった。

 

アイリス

「うわっ‼︎」

 

シクレセリア

「いかん、離れておれアイリス!」

 

ミズキ

「いけない!アイリス、逃げるんだ‼︎」

 

そう言った束の間大火傷を負いながらも辛うじて息があり、更に凶暴になったコボルトがアイリスの前に立ち塞がった。

 

コボルト

「グルルルルル…!」

 

アイリス

「ヒッ…。」

 

コボルトはアイリスに飛び掛かった。

 

アイリスは飛び掛かられて地面に押し倒されたが、斧でコボルトの口を塞いで防いでいた。

 

アイリス

(殺されちゃう…!殺されちゃう…!)

 

アイリスは死の恐怖に呑まれそうになった。

 

だが死の恐怖は逆にアイリスを冷静にさせた…生き残る為の生存本能を呼び覚ました。

 

アイリスはコボルトを蹴り上げた。

 

足の力は人間より強いハーフフッドならコボルトを蹴り上げるのは容易かった。

 

何よりコボルトは手負だった。

 

コボルトがまた飛び掛かろうとする瞬間。

 

アイリス

「ヤァァァァァァァ‼︎‼︎」

 

アイリスは斧を振り下ろしてコボルトを両断した。

 

オークを切り伏せたシクレセリアが馬を降りてアイリスの元に駆け寄った。

 

シクレセリア

「アイリス!無事だったか…。」

 

クロ

「見直したぞ!コボルトを蹴り上げた辺りはちょっとした豪傑だったぞ!」

 

アイリス

「ぼ、僕…怖くて…必死で…気がついたら斧を振り下ろしてて…。」

 

シクレセリア

「皆最初はそんなもんじゃ。無事でよかった。」

 

リオ

「然しオークの戦士迄こんな所に来るなんて…闇の軍勢はそこまで勢力を?」

 

シクレセリア

「分からん…オークや、ゴブリンを束ねるウォー・ボスの中には最後までマレスに従わず自らの勢力を保持した者も居る。」

 

クロ

「ソグバック…。」

 

アイリス

「ソグバックって?」

 

クロ

「魔王マレスが死んだ後、独自に勢力を作ったオークの親玉だ…アイツが俺たちから一度エイトピークを奪ったんだ!」

 

シクレセリア

「ソグバックの軍勢なら厄介じゃな。奴はいかに強大な存在であろうと一度敗れたマレスには従わぬだろう。あやつは力こそ全てと信奉するオークの中のオーク。最も恐ろしいウォー・ボスじゃ…奴も動いているならグズグズしておれん。」

 

ミズキ

「黄金滝壺の館に急ぎましょう!エルフの領内には奴らもおいそれとは入ってこれない。」

 

シクレセリア

「ウム、ミズキ、リオ。先導しておくれ。皆行くぞ。」

 

一行は日が明けるまで馬を走らせた。やがて一行はとある岩場迄辿り着いた。

 

シクレセリア

「一旦休憩じゃ。馬を休ませんとな。」

 

馬達は息を切らしていた。

 

荒い鼻息を挙げてブフ…ブフ…と鼻を鳴らしていた。

 

アイリスはまだ少し放心していた。

 

食べる為に魚や豚を捌くことはあっても生きた化け物を手に掛けたのは初めてだったのだから無理もない。

 

ミズキ

「大丈夫かい?」

 

アイリス

「うん、少しだけど落ち着いてきた。」

 

ミズキ

「奴らはまた来る、感じるんだ。今のうちに休んでおいた方が良い。また戦う事になるかもしれない。そしてもしそうなったら、決して容赦をしてはいけないよ。彼らは私達の肉を喰らうこと以外何も考えていないからね。」

 

アイリス

「僕らを食べるの…!?…分かった。」

 

リオ

「ソグバックもマレスの籠手を狙っているのでしょうか?」

 

シクレセリア

「うむ…可能性は高いと見るべきだろうな。彼奴がマレスに敬意の類いは抱く事は無いが奴の力そのものは欲していてもおかしくない。」

 

クロ

「奴がマレスの籠手を狙っている理由は一つしかない。ドワーフの王国を滅ぼす為だ!」

 

シクレセリア

「復讐戦は考えては居るじゃろうな…だがもしそうなら奴はどこでマレスの籠手の事を知った?」

 

リオ

「マシーナの軍勢と小競り合いを起こしたのではありませんか?その中で籠手の事を知ったのかも。」

 

シクレセリア

「それが1番あり得そうじゃな…奴を動かしているのは永遠に終わらぬ戦への渇望…この世の全ての生き物を殺戮する欲求じゃ。」

 

その頃…遥か北西の彼方…エルフの住まう島大陸ウルサーンを超えた凍てつく大地ナガロースと言われた地にダークエルフ達は都市群を築いている。

 

そしてその中で最も邪悪で最古の闇の都ナガロスの塔にて闇の大王の母マシーナは忌々しい報告を聞いていた。

 

マシーナ

「ソグバックがマレスの籠手を狙っているとはどういう事か‼︎」

 

ダークエルフ武官

「捜索隊の一隊がオークとゴブリンの手によって壊滅したと知らせを受けました。現場にはソグバックの印が残されていたと。」

 

マシーナ

「おのれ!穢らわしいオーク風情が‼︎」

 

武官

「然し、ソグバックは尤も強大なオーク。並の者どもでは太刀打ち出来ません。ここは私が参ります。」

 

マシーナ

「ラカールス将軍、其方の竜騎士団が我が息子をここに連れて来てくれるのかえ?」

 

ラカールス

「誓って、我が王を再びこの地にお連れ致します!」

 

マシーナ

「何が欲しい?褒美を言うてみよ。」

 

ラカールス

「マシーナ様と一晩褥を共に…我らエルフの太祖カインの花嫁の寵愛を受けとうございます。」

 

マシーナ

「良かろう…妾の唇、妾の豊満な胸、妾の永遠に蘇る純潔…努めを果たし戻ったならば一晩と言わず気が済むまで其方の相手をしてやろう。そしてお前の妻になっても良いぞ。ついでにお前を大将軍に任じてやろう。お前は我が息子マレスの忠実な僕である事は妾は良く知っておる、それに見合った地位も授けてやらねばな…。」

 

ラカールス

「有り難き幸せ!必ずや大王をお連れ致します‼︎」

 

黒き都ナガロスの塔から十数騎の竜騎士が飛び立って行った。

 

マシーナ

「フフフ…妾の永遠に失われぬこの美しさ…我ながら恐ろしいものよ多くの男どもの肉欲を開放する…この体…。ラカールスがしくじったとしても変わりは幾らでも居る…。今宵の奴隷を連れて参れ、今宵は屈強な男の奴隷が良い。」

 

ダークエルフ女官

「畏まりました。」

 

悪意と淫乱が渦巻く黒き都からは恐ろしい刺客と魔王の母の狂気に満ちた嬌声が一つの世界を影に落とそうとしている。

 

その頃旅の一行は旅を続けていた。

 

クロ

「そういやリオ、あの武勇に馬術、お前さん女の身にしては只者じゃないだろう?何処の国の騎士なんだ?人間の帝国は今三つに分かれているだろう?執政の治めるアルトドルフ皇帝忠誠派、ミドンランドを始めとした諸侯の選帝侯制制定派、そして中立を決め込む南東の牧草地帯を治めるエドラフ大公国、その内の何処だ?我輩の見立てではエドラフの鎧を身につけてるからエドラフ大公国から来たと思っているが?」

 

リオ

「私は…確かにエドラフから来たが、何のことはない。エドラフなら子供ですら馬に乗る術を知っている。私は一介の騎士にすぎない。」

 

クロ

「そうか。」

 

だがクロは隣にいたアイリスにそっと耳打ちした。

 

クロ

「ああ言うがな、あいつかなりの凄腕だ。きっと高位の騎士だ。名家の出身だな。」

 

アイリスも耳打ち声で返す。

 

アイリス

「どうして分かるの?」

 

クロ

「ワシは戦士である前にドワーフだからな、道具や武器を見ればそいつがどんな奴か分かる。奴の剣や槍、古いものだが定期的に鍛え直されている業物だ。そんな物を持てる騎士は余程金に余裕がある。それに奴の鎧、一見古臭いが、アレは間違いなくドワーフの鍛治士に作らせた奴だ。然も何百年も使われ続けた一品物だ。アイツの正体が明確には言えなくても高い地位の出身って事はこれだけで分かるぜ。」

 

確かに旅の仲間だけで自分の素性を明かしていないのは騎士だけだった。

 

それを知るのはシクレセリアとかつて面識が有るらしいミズキだけだろう。

 

シクレセリア

「ここまで来れば一先ず安心じゃな。」

 

ミズキ

「はい。」

 

そう言った束の間角笛が鳴り響き向こうから十数騎の騎兵が走ってきた。

 

クロ

「何だ!?敵か!?」

 

ミズキ

「違う、アレはエルフの角笛だ。迎えが来たんだ。」

 

エルフ族独特の意匠で作られた鎧を見に纏ったエルフ騎士を見て雪兎はただ声を上げるしかなかった。

 

ミズキを観た時点で御伽話のエルフは実在したんだと思ったが今この場には十数人以上も居る。

 

いよいよ自分が異国の地に降り立ったのだと実感した。

 

エルフ騎士

「ミズキ様!」

 

ミズキ

「アルフィアス!迎えに来てくれたのか!」

 

アルフィアス

「叔父御殿がお待ちです。既にエルフ諸王国、ドワーフ、人間の代表者もお着きになりました。」

 

シクレセリア

「なんと我らが1番最後か。」

 

アルフィアス

「シクレセリア様、主人が是非とも話をしたいと申しておりました。そしてアイリス。」

 

アイリスは突然自分の名前を呼ばれたので思わず声を出した。

 

アイリス

「ぼ?僕?」

 

アルフィアス

「エルフの友フロドの末裔よ、我々は君を歓迎する。」

 

シクレセリア

「フロドはな、エルフの信頼を勝ち取ったただ一人のハーフフッドなのじゃよ。」

 

アイリス

「本当に凄いんだ…僕のご先祖様…。」

 

エルフの騎士団に護られながら一行は黄金滝壺の館に入った。

 

黄金と名がつくように陽の光がこの街と見間違う館全体を光り輝かせ、そしてその館の周りを囲む幾つもの大きな滝がその光をさらに反射し、館の周り全てが黄金に輝いて見える様になっていた。

 

シクレセリア

「アイリス、ここがエルフの最古の植民王国、千年前の戦の英雄オルランドゥ卿が治める黄金滝壺の館じゃ。ハーフフッドの御伽話ならあちらの名前の方が馴染み深いかの。」

 

アイリス

「裂け谷…!」

 

アイリスは興奮を隠せなかった。

 

御伽話で聞いたエルフの国が今目の前に広がっている。

 

そして暫くしたらエルフの総本山、白き都が聳え立つウルサーン島に行く。

 

エルフの国々を見て回れると言うことは使命とはまた別の気持ちを抱かせた。

 

やがて一行は館の入り口に着いた。

 

そこにはエルフの英雄イムリック・オルランドゥ卿が近衛兵を引き連れて出迎えに現れた。

 

イムリック

「ようこそ、黄金滝壺の館へ。」

 

リオが跪き、シクレセリアは帽子を脱ぎ、長く豊かな白髪を露わにした。

 

クロですらエルフの大英雄には敬意を払わずに居られないのか跪いた。

 

すると巨大な影が一行を覆い、それは吠えながらイムリックの後ろに降り立った。

 

ミズキはその光景を見て微笑みながら口を開く

 

ミズキ

「叔父上、ミナイスニアがはしゃいでいますね!」

 

イムリック

「全く、幾つになっても若いつもりで居るのだ。この館の中では最長老のドラゴンなのに…全く…まぁ久し振りの来客にはしゃぐのは今に始まった事ではない。」

 

そう彼らの前に降り立ったのはドラゴンだった。

 

蒼き鱗に覆われたこの世界で最も偉大で強大な生き物が目の前にいる。

 

アイリスからしてみれば、もう大興奮してしまう出来事の連続だ。

 

クロ

「コイツが…いやこちらがあの天下無双のドラゴン、ミナイスニアかよ…。ドワーフにとってドラゴンはあんまり良い思い出は無いがこれには敬意を払わずにはいられないぜ。」

 

イムリック

「斧使い、ドワーリンの子よ。案ずるな、ミナイスニアがドワーフを喰らったのはマレスとの戦いより遥か前の事。これより共に戦う偉大な戦士を手に掛けるほど此奴は耄碌しておらん。」

 

クロ

「いや、その…恐縮の限りでござる。」

 

イムリックは微笑むと一行を館の中に招き入れた。

 

イムリック

「さぁ、食事の用意が出来ておる。会議までまだ間がある故寛いでいかれるが良かろう。ミズキは着替えて参れ、この館の一門として恥ずかしく無い格好にな。」

 

エルフの近衛兵に案内されシクレセリア以外の一行は屋敷の中に入って行った。

 

シクレセリア

「オルランドゥ卿、誠に忝い。」

 

イムリック

「構わぬよ、寧ろこうして、少しでも皆の中にある遺恨を取り除かねばな。」

 

シクレセリアはその言葉の意味を理解していた

 

ミツキ

「やはり足並みは揃いませんか?」

 

イムリック

「うむ…エルフの諸王国の王達は本島の事などどうでも良いと思っている様だ…ドワーフはここ最近のエルフとの関係が冷え切っているせいで非協力的な態度を崩さん。人間の帝国は…もはや論外だな。フリードリヒ殿が居たならば嘆いていたであろう。互いの牽制の為に軍を使い、エドラフは大公が病床にある故致し方ないが代表すら寄越さなかった。」

 

シクレセリア

「一時的にでも協力させねばマレスの軍勢には敵いませぬ。マレスの復活を阻止出来たとしてもマシーナは息子の弔い合戦を挑んでくるでしょう。ウルサーンの戦力でも迎え撃てるでしょうが凄まじい犠牲を払う事になります。そうなれば闇の勢力は更に増長します。今こそ光の陣営を一つにしなければ増大する闇には対抗出来なくなって行ってしまいます。ソグバックも動き出しておる様ですからな。」

 

イムリック

「何っ!?ソグバックだと‼︎エイトピークの戦以来東の地に逃げ去ったのでは無いのか?」

 

シクレセリア

「再び力を取り戻し、奴もマレスの籠手を狙っております。そこに秘められた魔力を手に入れこの世で尤も強大な存在として殺戮を尽くすと言う野望を完遂する為に戻ってきたのでしょう。」

 

イムリック

「悪い知らせが続くな、ソグバックが戻ってきたとあらばドワーフ達は尚の事ウルサーン島には援軍を出すとは言うまい。オークとゴブリンと因縁深いドワーフは必ず復讐に囚われ、そちらとの戦を優先するだろう。」

 

シクレセリア

「じゃが、ソグバックが目的を達成する為にはマレスの魔力が必要な筈、いかに奴自身が強大でもドワーフの王国に勝つには今一つ力不足の筈、イーティンの聖なる炎にあの籠手を投げ入れてしまえばソグバックはどこまで行っても強大なウォー・ボス止まり、魔王の後釜など狙えぬ。ドワーフ達を説き伏せ、その場の援軍を出してもらい、その後ソグバック討伐の為にエルフも助力すると約束を取り付ければ良いのです。」

 

イムリック

「仮にそうなったとしてもフィヌバール王とティリオン公子は同意されると思うが他のエルフの貴族達が気掛かりだな。」

 

シクレセリア

「歳を取ると心配事が絶えませんな。」

 

イムリック

「あの戦いの時、私は最年少の将だったのにな…今じゃエルフ諸王国の国王や領主の纏め役だ…。全く、私は龍を駆って槍働きをする方が性に合っているんだがなぁ。」

 

シクレセリア

「遅かれ早かれその機会は巡ってくるでしょう、星のランスを振るう機会が。」

 

暫くしてから館のテラスにエルフの諸王国の代表、ドワーフ王国とその他近隣の衛星城塞都市の代表、そして人間の帝国の代表が二名集められた。

 

イムリック

「フロドの子孫、アイリス殿がマレスの籠手を破壊するとは云え、既にダークエルフ達は軍勢を集めウルサーン島を攻め入ろうとしている。ここでマシーナも討ち取ればもう二度とダークエルフ達が我らを脅かす事はない。その戦が終わり次第、ソグバック討伐の為にエルフの軍勢を派遣する事をフィヌバール王は約束されるだろう。さすれば人間の帝国、ドワーフの王国の脅威も払われる。我ら共通の敵を撃ち倒す為是非とも力を貸してほしい‼︎」

だが代表達の返答は否であった。

 

エルフの諸王国の代表はウルサーン本島だけで充分対応出来るだろうと渋り、ドワーフの代表達はエルフの手助けも助けを借りる事も嫌がり、籠手が破壊されるならソグバック等恐れるに足らんと吠えたて、人間の帝国は何故対立する両者から代表を呼んだのか気に入らず、我こそ帝国の真の代表と其々(それぞれ)の正統性を主張してばかりでまるで話にならなかった。

 

そしてやがて代表達の口喧嘩に発展した。

 

まるで足並みを揃える以前の問題であった。

 

収拾がつかなくなったので一先ず会議は解散させられ、テラスには頭を抱えるイムリックが一人残された。

 

アイリス

「どうして、みんな自分勝手な事ばかり言うの?魔王はみんなで協力して倒さないといけないんでしょう?」

 

シクレセリア

「長い時が光の者らの結束を崩してしまったのじゃろう、同族ですらもな。人間やドワーフは長い時の中でその脅威を忘れてしまうのも無理はない。だが肝心のエルフ達が協力を渋るとはな…いやともすれば当事者達も生きているからこそ恐ろしいのかも知れぬ、魔王が甦らんとしていると言う事実、仮に蘇らなかったとしてもマシーナ…エルフの太祖カインの呪われた花嫁、エルフの恐るべき魔女の力を恐れているのじゃろう…。戦った末一族が死ぬ様を見るくらいならこの地で安寧に暮らした方が良いと考えるのも無理はない。」

 

二人は屋敷の中で最も高い塔の最上階に辿り着いた。

 

シクレセリア

「ここにいる間は籠手はここに預けておけば良い。黄金館の中で最も聖なる塔じゃ、この塔、いや館全体が強力な魔法で守られている故余程の事がない限り邪悪な者は近づけん。」

 

アイリス

「余程のことって?」

 

シクレセリア

「まぁ、ドラゴンのブレスやそれに匹敵する超強力な魔法かの。少なくともオークやゴブリンには無理な芸当じゃ。」

 

その夜、リオは館を散歩しているとテラスから夜空を眺めるミズキを見つけた。

 

ミズキは騎士の気配を感じ取ったのか夜空を眺めながら口を開いた。

 

ミズキ

「妙な気配がする…とても嫌な感じだ。」

 

リオ

「オークやゴブリンか?」

 

ミズキ

「いやもっと…強大な…」

 

その瞬間館中に鐘の音が鳴り響いた。

 

リオ

「これは⁈」

 

ミズキ

「敵襲だ‼︎」

 

敵襲の報告は、イムリックにも武官から齎された。

 

イムリック

「敵は?」

 

エルフ武官

「ドラゴン騎士十数騎、こちらに向かっております。ウルサーンのドラゴンではありません。」

 

イムリック

「ナガロスからか!たった十数騎で籠手を奪いにくるとは大した自信だな。…私の鎧を持て、私自ら出る。ミズキに弓箭(きゅうせん)隊を率いらせよ、歩兵隊は上陸に備え待機!」

 

アイリス

「敵が来たって!?」

 

シクレセリア

「ああ、それもドラゴンに乗ったダークエルフの騎士団じゃ。アイリスはここにおれ、決して外に出てはならぬぞ!」

 

ミツキも防戦に参加すべく出て行った。

 

アイリスは部屋の隅に置かれた自分の斧に目をやった。

 

アイリス

(みんなが戦うのに一人だけ隠れてるだけなんて嫌だ!聖なる塔へ行こう、籠手を守らなきゃ!)

 

アイリスは斧を担ぎ直走った。

 

十数騎のドラゴンがブレスを吐いた。

 

だが黄金滝壺の館に貼られた結界がこのブレスを防いだ。

 

ラカールス

「チッ…オルランドゥの餓鬼め、知恵をつけたな。だが闇の力で強くなった我らのドラゴンを舐めぬ事だ!」

 

もう一度竜騎士達はドラゴンにブレスを吐かせた。

 

それは更に強大なブレスだった。

 

結界は崩れ、館の上空にドラゴンは迫った。

 

イムリック

「大弩を放て!私は敵の首領を討ち取る。」

 

大弩から放たれたボルトは二体のドラゴンを死に至らしめた。

 

ラカールス

「お前達は弩塔(いしゆみとう)を破壊し、我が王の籠手を捜索しろ。我はイムリックの餓鬼を抑える。」

 

かくして二体の巨龍に跨る騎士が夜空に相対した。

 

イムリック

「ラカールス、この死に損ないめ。貴様の王はパズルの様に組み立てれば蘇るような単純な奴だとは知らなかったぞ。」

 

ラカールス

「オルランドゥ家の餓鬼が偉そうな口を叩くな。若輩に劣る我と思うな!」

 

一千年ぶりに伝説の英雄同士の一騎討ちが始まった。

 

イムリックのランスとラカールスの剣と鞭が火花を上げ何十合と渡り合う。

 

その間に他のダークエルフのドラゴンは屋敷の大弩塔をブレスで破壊して回った。

 

ミズキ

「射落とせ!皆、射落とすのだ‼︎」

 

シクレセリア

「竜騎士達は皆、出陣し館を守るのじゃ!狙いはマレスの籠手じゃ!」

 

アイリスは喧騒に包まれた屋敷の中を走り抜けて籠手を置いてある塔に辿り着いた。

 

すると話し声が聞こえたのでサッと体を物陰に隠した。

 

「エルフ共ガ争ッテイル間ニコレヲ頂イテ行クゾ!」

 

「エルフ共ガ殺シ合ッテイル内ニオ宝ヲ頂ク、流石ボス!」

 

「ソグバック様ニ献上サエスレバ時代ハワシラノモノ!エイトピークモ、アルトドルフモ、イーティンモ、奪イ、殺シ甲斐ノアルモノバカリダ‼︎」

 

「流石‼︎俺達ゴブリンノ中デ唯一ウォー・ボスニナッタゴブリンノ中ノゴブリン、スカルニク様‼︎」

 

アイリス

「籠手が盗られちゃう…僕は皆みたく強くないけど…あの人達みたいに自分の事しか考えてない人達とは違う…!戦おう!!ビルボおじいちゃんが託してくれたんだから‼︎」

 

雪兎は入り口に立ち塞がった。

 

ゴブリン

「ン?ナンダ?人間ノ女ノメスカ?小サイナ。」

 

ゴブリン

「バカ!ハーフフッドノメスダ。ココジャア珍シイナ…ソノ肉ハ柔ラカソウデ美味ソウダ!」

 

ゴブリン

「イヤ、食ベル前ニ攫ッテ(さらって)一発楽シンデカラダ‼︎ココ十年人間ノ女スラ犯シテネェ!スカルニク様良イデショウ!」

 

スカルニク

「好キニシロ、ワシハ、籠手ヲ手ニ入レル。」

 

アイリス

「なんて下品…絶対負けたくない…。」

 

クロやミズキからオークやゴブリンがどう言うものかは聞いてはいたが、更に上をゆく嫌悪感を感じ、寒気すら覚え、同時に容赦という心を捨て去った。

 

ゴブリン

「ギャハハ‼︎先ズハソノ身包ミヲ剥イデヤル!」

 

アイリスは斧を構え、目を瞑る、騎士や斧使いや弓使いから旅の道中で学んだ事を思い出した。

 

リオ

(ゴブリンは基本的に集団で戦う。一体一体は大したことは無い。動きをよく見れば簡単に避けられる。)

 

アイリスはゴブリンの突き出してきた槍を避けた。

 

ミズキ

(複数体ゴブリンが居るなら、二撃目は必ず別の個体が仕掛けてくる。集団戦基本の奴らが基本的に一個体で連撃を加えてくることは単体でも無い限り、無いと言っても良い、避ける時は必ず回り込まれないように最小の動きでかつ背中を取られないよう2歩目、3歩目と動けるようにするんだ。)

 

もう一体のゴブリンが背中に回り込んで槍を突き入れてきたがこれも雪兎は躱す。

 

クロ

(だが避けてばかりじゃキリが無い。避けたらその勢いのままゴブリンに一撃を加えるんだ。アイツらは数の優位が無くなれば無くなる分弱くなるからな。)

 

アイリス

「今っ‼︎ヤァァァァ‼︎」

 

アイリスの斧が一閃、ゴブリンの首を刎ね飛ばす。

 

相方のゴブリンが呆気に取られている内にその胴に横から木を切り倒すかの如くこの哀れな相方を斧で切り裂いた。(この時ゴブリン役は断末魔を入れる)

 

アイリス

「次はお前だよ!」

 

スカルニク

「調子ニ乗ルナヨ、ハーフフッドガァ!」

 

その時弓箭隊の指揮を取っていた弓使いが塔の上で戦っている雪兎を見つけた。

 

ミズキ

「アイリス!?先生!アイリスが何かと戦っています‼︎」

 

シクレセリア

「何じゃと‼︎隠れていろと言ったのに!一刻も助けに行かねば、リオ、クロ‼︎塔へ行け!此処(ここ)はワシらで保たせる!」

 

リオ

「承知‼︎」

 

クロ

「待ってろよ嬢ちゃん‼︎」

 

塔の上ではスカルニクが槍を構えていた。

 

アイリス

(ウォー・ボスって呼ばれてたなコイツ…って事は他のゴブリンより強いって事?でも此処で逃げたら籠手を持っていかれちゃう。)

 

スカルニク

「ワシヲタダノゴブリント思ウナヨ…。メス兎。」

 

スカルニクが長い舌を出すと手に魔力を集めた。

 

そしてそれを雪兎に向けて吹き掛けるとそれは霧散(むさん)して黄色い煙と化した。

 

アイリス

「ウッ!臭い‼︎何この匂い…!?体が…痺れて…!」

 

その瞬間スカルニクの槍が雪兎の身体に突き刺さる。

 

アイリスは意識を失い、その場に倒れた。

 

スカルニク

「?妙ナ手応エダッタガ、マァ良イ。死ンダ事ニハ変ワリアルマイ。」

 

スカルニクは箱を開けると思わず感嘆の声を漏らした。

 

スカルニク

「コレガカノ魔王ノ籠手カ…持ッテイルダケデ凄マジイ力ヲ感ジル!」

 

スカルニクは死んだ部下の亡骸を見て薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

スカルニク

「黒エルフ共ニ土産ヲ持タセテヤロウ。」

 

スカルニクは殺された手下のゴブリンの首と胴体を箱の中に入れた。

 

スカルニク

「精々吠エ面ヲ描くガ良イ!ギャハハハハハ‼︎」

 

スカルニクは事前に垂らしておいたのか縄を使って塔から去っていったそれに前後して騎士と斧使いがエルフの兵士数人を伴って塔の頂上に辿り着いた。

 

リオ

「アイリス‼︎」

 

クロ

「何てこった!?やられちまったのか‼︎」

 

リオ

「いや…待て…出血はしていない…ドワーフの宝石帷子(ほうせきかたびら)が槍を止めてる!怪我は無いが…魔法の毒で侵されてる、痺れ薬のような物を受けたな、直ぐに治療しないと体の自由が効かなくなってしまう!」

 

クロ

「直ぐに下に運ぼうぜ!」

 

アイリスは朧げな意識でリオの手を掴んだ。

 

アイリス

「追って…籠手が奪われた…ゴブリンに…スカルニク…。」

 

と言ってアイリスは気を失った。

 

クロ

「スカルニクだと!?ソグバックの懐刀じゃねぇか!?」

 

リオ

「直ぐに追わねば…騎馬の用意を‼︎」

 

一同は塔を後にした。

 

残されたのはゴブリンの死骸が入った箱だけだった。

 

そこにダークエルフの竜騎士が降り立った。

 

ダークエルフ騎士

「コレだな、我が王の籠手は!ラカールス様に献上せねば!」

 

ダークエルフ騎士は箱を抱えると愛竜に跨ると空に飛び立ち角笛を鳴らした。

 

ラカールス

「終わったか、貴様との決着はまたいつか着けてやる!」

 

イムリック

「待て‼︎何処へ行く‼︎」

 

エルフ騎士

「御館様‼︎直ぐにお戻り下さい!マレスの籠手を奪われました‼︎」

 

イムリック

「何だと!?ラカールスめ、だから引き上げたのか、直ぐに追うぞ‼︎」

 

エルフ騎士

「いえ、お待ち下さい!奪ったのはダークエルフ共ではありません‼︎ゴブリンとの事!スカルニクの一団が現れたと報告が‼︎」

 

イムリック

「スカルニク!?奸智(かんち)のスカルニクか‼︎ソグバックの懐刀(ふところがたな)か‼︎」

 

エルフ騎士

「今、リオ卿が騎馬を率いて追っております!」

 

イムリック

「我らも行くぞ‼︎」

 

エルフ騎士

「ハハッ‼︎」

 

だが結局、陸と空からスカルニクを追ったが…見つける事は出来なかった。

 

ドワーフの他に地下道を掘る事で知られているゴブリンはエルフの森の中に密かに洞窟を掘っていたのだ。

 

スカルニクはその洞窟から黄金館に近づき、そして離れていった。

 

洞窟は夜が明けた時に発見されたが…既に入り口は崩落させられていた…。

 

イムリックを始め、各種族の代表者は青い顔で揃った。

 

自分達が揉めている間に籠手が奪われてしまったのだ…。彼らは国元に戻った時それぞれの主人に何と説明すれば良いのかと迷った。

同時にこの事態になって彼らは認識を変えたが、国元は更に自国の利益や防衛を優先するかもしれないという恐怖に襲われた。

 

代表者達は口々に謝罪したが時は既に遅い。

 

イムリックもその謝罪は戦場で示してほしいと言って皆の顔を上げさせたが、内心自分の不手際の所為だと自責に駆られていた。

 

シクレセリア

「何としても追わねばなりませぬ!ゴブリンの洞窟をこじ開けるのです!」

 

白の魔法使いがこの空気を破るべく現れた。

 

イムリック

「だが、洞窟は閉ざされてしまった。エルフの鉱夫では手に負えぬし、ドワーフの鉱夫もアレを開けるには時間が掛かると言っている。その間に逃げられてしまうのがオチだ。いや、もはやこの時点で何処に向かったのか…どの方向に向かっているのかが分からぬ。」

 

シクレセリア

「向かう先は一つ、東の荒地グンバト山(ざん)。東方面に斥候(せっこう)を放てば必ず見つけられます!」

 

イムリック

「グンバト山迄どれほど距離があると思っているのだ、その間にトンネルから抜け出しているとも限らぬし、スカルニクの事だきっと何度も方角を変えて我らの追跡を逃れようとする筈」

 

そう言い終わるか言い終わらないかの刹那、辺り一面が神々しい光に包まれ、花の良い香りが当たりを充満した。

 

その瑞気を感じ取ったエルフ達は一斉に跪いた。

 

そして現れたのは美しい金髪の長髪を靡かせながら歩く一人の極めて美しいエルフの女性であった。

 

シクレセリア

「ガドリエル王妃…。」

 

白の魔法使いも三角帽子を脱いで首(こうべ)を垂れる。

 

人間とドワーフの代表者達も慌てて恭しく頭を下げた。

 

先代女王アリエルの娘、現王フィヌバールの妃ガドリエルが現れたのだ。

 

ガドリエル

「報告は聞きましたよイムリック・オルランドゥ将軍。」

 

イムリック

「ハッ、全ては爺(じい)の不手際によるものでございます!この上は我が首をカインの聖なる炎に捧げ、オルランドゥ家の不名誉を濯(そそ)ぎたく存じます!」

 

ガドリエルはイムリックの前に膝を降り、その肩に触れ、首を横に振った。

 

ガドリエル

「いいえ、イムリック。貴方はまだ自分の勤めを果たしていません。エルフの護国の盾にして最も優れた騎士として貴方は我が軍の先駆けになって貰わねば困る存在。母の事を話してくれた事は今でも覚えていますよ。私にとって貴方はもう一人の父親同然。どうかそんな悲しいことは言わないで…。」

 

イムリック

「姫様…クッ…‼︎」

 

ガドリエルは人間とドワーフの代表者達の方を向いた。

 

ガドリエル

「皆さん。ソグバックの脅威は紛れもなく今この瞬間にも近づいています。恐らく数日後には皆様の国本の国境に軍勢の陰が見えるでしょう。今はあなた方の国を守る事に専念して下さい。我らは我らで何とか生き残る方法を探します。」

 

次にエルフの代表者達の方を向いた。

 

ガドリエル

「諸王が何を思っていようと、其方らとウルサーンは一蓮托生!それが分からぬと申すなら妾自らが話をつける!その旨とくと知らせよ!」

 

エルフの代表者達は床に額を付けんとばかりに頭を下げるしかなかった。

 

シクレセリア

「ガドリエル様…。」

 

ガドリエル

「私の魔法使い…久し振りですね。スカルニクを追いたいが難儀している…そうですね?」

 

シクレセリア

「はい。」

 

ガドリエル

「貴方の旅の仲間に奴の毒を受けた者が居ますね。その者の毒を祓い、その毒に纏わりつく魔力から奴が何処に向かったか私が示しましょう。」

 

シクレセリア

「真(まこと)ですか!?」

 

ガドリエル

「えぇ、行きましょう。」

 

白の魔法使いとガドリエルはアイリスが眠る部屋に向かった。

 

部屋にはミズキとクロ、そしてリオが待機していた。

 

ミズキ

「王妃様!」

 

ミズキが跪き、クロはワナワナと震えながら跪いた。

 

クロ

「し、信じられん!女神と謳われるガドリエル王妃が目の前に座すとは、ドワーフの神々よ感謝致します!」

 

リオは無言で跪いた。

 

ガドリエル

「この子ですね…ハーフフッドの少女…ああ…まるでフロドが少女になって転生してきた様…。」

 

ガドリエルは愛おしそうにアイリスの額にキスをすると顔の前に手を翳し、息を吹きかけながらその手をゆっくり払った。

 

するとアイリスの顔色はみるみる良くなり、荒かった息は大人しく健やかなものになった。

 

そしてガドリエル本人の手にはスカルニクの魔力が浮かんでいた。

 

ガドリエル

「悪しき魔力よ、持ち主の元へ帰りなさい…。」

 

その瞬間魔力は霧散した。

 

ガドリエル

「…スカルニクは地上にもう出ています。南東に向かって直走っています。」

 

シクレセリア

「南東…エドラフの国境を掠めてグンバト山へ向かっているのですか?」

 

ガドリエル

「そしてドワーフの山々を横目に荒地に入るでしょう。その前に止めねば。」

 

シクレセリア

「はい…。」

 

すると軽く呻きながらアイリスが目覚めた。

 

アイリス

「ここは…?」

 

シクレセリア

「アイリス目覚めたか。」

 

アイリスはミツキの隣に立つガドリエルを見て言葉を失った。

 

言葉に出来ぬ美しさ、神々しい迄の気品に目を奪われた。

 

アイリス

「神様…?」

 

ガドリエル

「フロドの娘よ、私には見えます。貴女が、貴女の勇気が全ての流れを変えるのが。」

 

アイリス

「へ?」

 

ガドリエルはフフッと微笑むと騎士の方を向いた。

 

ガドリエル

「立ちなさい、人の子よ。あなたの顔をよくお見せ。」

 

リオは立ち上がりガドリエルに顔を見せた。

 

リオの顔を見るとガドリエルは頬に手を当てた。

 

ガドリエル

「あなたはいつか自分の運命と出逢うでしょう。でも恐れないで。あなたは皆の希望になるでしょう。エドラフの騎士よ、エオルの娘、ヘラの娘よ…そして…いいえこの先はあなた自身が確かめて。」

 

リオ

「それはどういう…」

 

ガドリエルはリオの唇に指を当てて、言葉を止めた。

 

アイリスは皆から事の顛末を聞いた。

 

アイリス

「僕の所為だ…。僕が弱かったから籠手を取られちゃったんだ。」

 

シクレセリア

「いいや、アイリスよ。お前は良く戦った。それにスカルニクとなれば、あやつは並のオークよりも遥かに危険な存在じゃ、騎士や斧使いが間に合ったとしても止められていたかは分からぬ。」

 

アイリス

「僕が籠手を取り返しに行きます‼︎」

 

クロ

「まだ寝てろよ!体が保つわけが無い‼︎」

 

アイリス

「でも行かなくちゃ!託されたんだ‼︎…おじいちゃんに…。」

 

シクレセリア

「ああ、アイリスよ。お前は何と、いやハーフフッドの者達はどうして皆立派な勇気を持っておるのじゃ…。勿論行こう、共にな!お主の力は必要じゃ‼︎」

 

ガドリエルは微笑むと白の魔法使いに話しかけた。

 

ガドリエル

「貴方達旅の仲間の使命はまだ終わってはいなかった様ですね。ミツキ、この四人を率いてスカルニクを追いなさい。そして籠手を取り戻し、マレスの復活を阻止するのです。」

 

シクレセリア

「畏まりました。」

 

その瞬間シクレセリアの頭の中にガドリエルの声が響いた。

 

ガドリエル

「世は移ろうもの。もし道中で何か起きたり大きな脅威に遭遇したらその脅威を優先しなさい。人も、ドワーフも、エルフも滅んではなりません。」

 

シクレセリア

「この身に変えて、承知致しました。」

 

この二人のやり取りが行われている間、周りの仲間達には沈黙が流れている様にしか感じなかったが、エルフの王妃と魔法使いの間には確かなやり取りがあった。

 

翌日、旅の仲間は出発した。

 

旅の役に立つだろうとアイリスとリオとミズキと斧使いはガドリエルから贈り物が贈られた。

 

アイリスにはイーティンの聖水が封じられた魔法の瓶が贈られた。

 

その瓶に入った聖水は尽きる事なく持ち主の渇きを癒し、そして暗闇に入ったり、危機が迫れば強く光輝く灯りの代わりになると云う物だ。

 

リオにはウルサーン島の宝石で作られたエルフの宝飾品が贈られた。

 

これには魔除け、矢避けの魔法が掛けられており、リオを魔弾や弓から守る御守りになる物だ

 

ミズキには伝説のエルフの戦士の弓が贈られた。

 

その弓は数多のダークエルフを屠った戦士の弓であり静かなる心で放てば如何に距離が離れていようと矢が標的に辿り着くと云う魔弓である

 

クロへの贈り物はこの中で1番細やかだったが1番幸運だったかも知れない。

 

クロはガドリエルの髪の毛を一本所望したのだ。

 

ドワーフらしくエルフ嫌いの斧使いですらその美しさと気品に敬意を払わずにはいられず斧使い自身が望んだのだ。

 

ガドリエルは微笑み、短刀で髪の毛を一房切り落とし、それを斧使いの斧の房飾りに変えた。

 

ミズキ

「とても名誉な事だぞ斧使い。」

 

クロ

「この旅が終わったら、このお髪(おぐし)は必ずお返し致す!」

 

そして一行は再び旅に出た。

 

光と闇、それぞれの思惑が交差する一つの世界は一歩一歩確実に戦乱の世に突入せんとしていた。

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